プロローグ
青年の名は竹山 聡。
半年ほど前に中途採用で四葉建設株式会社に就職したが、ミスばかりで仕事ができず、本日を持って解雇され、途方に暮れながら死に場所を求めて歩いていた。
そんな彼が通りかかったのは、いかにも怪しげなお店だ。
毒でも売ってるか、そう思った聡は、その怪しげな雰囲気の店に入った。
「いらっしゃいませ」
と、カウンター越しに店員が挨拶をする。
「あの、ここは一体なんの店なんですか?」
「ボディショップです」
と、横のショーウィンドウを示す店員。
聡がショーウィンドウを見やると、その中には複数の老若男女が並んでいた。
「あの、これは?」
「そちらは本物と同等の機能を持った肉体を取り扱っております。お好きなものを選んでいただき、特殊な技術でその体と入れ替わることができるようになっています」
「そんなバカな。入れ替わるなんて、漫画じゃあるまいし」
「試してみますか?」
(そうか。きっと俺は夢を見てるんだ。だったら遊んでみるのも手だな)
「なんでもいいんですよね?」
「ええ。カタログもありますよ」
店員がカタログを出し、聡に渡した。
聡はカタログに目を向ける。
(ん?)
端正な顔立ちをしたある女性の写真に目が止まった。
(坂上 京子、警察官か。俺、警官になりたかったんだよなあ。それに、可愛い)
「これにします」
「かしこまりました」
店員が聡を店の奥へと通す。
案内されたのは、何かの研究施設のような部屋だった。
「あちらの機械であなたの魂をボディから取り出し、お選びになった肉体へと入れます。痛くないのでご安心下さい」
「死ぬ可能性は?」
「ご安心下さい。あなたの魂は安全に移動させてもらいます」
「はあ……」
「では、始めます。ご準備下さい」
聡は、専用のベッドに横たわった。
「入魂先の体を用意しますので、五分ほどお待ち下さい」
店員がどこからか肉体を持ち出してきて、聡のと対になるベッドへ寝かせる。
「では、始めますね」
店員がパネルを操作する。
すると、聡の意識が先ほど選んだ女性、坂上 京子の体に一瞬で転移する。それは彼の視界にある光景で理解できた。
「動けますか?」
京子は両手を眼前に動かし、握ったり開いたりを繰り返す。
「作業は終わりました」
京子は体を起こした。
「声は出ますか?」
「出せると思いますよ」
京子の口から女性の高い声が聞こえてくる。
「それではですね、料金がこちらになります」
店員が計算機で計算して京子に見せる。
「カードで大丈夫ですか?」
「もちろんです」
「じゃあ……」
京子は聡のポケットから財布を取り出す。
「この体はどうなるんですか?」
「いらなければ再利用という形にはなりますが、オプションで自由に入れ替われる端末をおつけすることもできますよ」
「じゃあ、そのオプションで」
「かしこまりました。オプションはサービスです。初めてのお客様ですから」
「え?」
「あ……いえ、なんでもありません」
店員が用意したベルトを操作すると、その中に聡の体が吸い込まれる。
「……!」
驚く京子。
「こちらのベルトに元の体を収納しておきましたので、これを装着して操作することによって、自由に体を入れ替えられますよ」
「ありがとうございます」
京子はベルトを装着する。
「ちょっと試してみましょうか。右のバックルを叩いてもらえますか?」
京子が右のバックルを叩くと、その体が光に包まれ、聡の体へと入れ替わる。
「女性になる時は?」
「左ですね」
聡が左のバックルを叩く。
光に包まれて京子の姿になった。
「これは面白い!」
京子は聡名義のクレカを取り出した。
「お預かりします」
店員が端末にカードを挿して処理を行って京子に返した。
京子はカードをしまうと、店員と共に部屋を出る。
「あの、このモデルはカタログには警察官って書かれてましたが?」
「警察庁と共同で開発したお体ですからね。警察官として必要な技術、例えば逮捕術などは備わっていますね。あとは法律の知識も、記憶媒体に保存してありますので、ご心配なく」
「そうなんですね」
「ご利用、ありがとうございました」
頭を下げる店員。
京子は店を後にした。