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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ナナシの短編集

自殺裁判 ~それでも僕はやってない~ 【開廷編】

 没ネタ供養も兼ねて。


※不定期更新です。次回の更新は不定。

※作者の裁判知識は逆転〇判由来です。ゆる~く適当にお楽しみください。

 死後の世界って、本当に存在したんだなあ。

 真っ白で左右が逆転した和服――死装束を身に(まと)った七誌(ナナシ)(ジュン)は、呑気にそんなことを考えていた。


 とは言っても、その光景は現世と大差ない。むしろファンタジーな世界を舞台としたゲームやアニメのほうが、よっぽど現実離れしている。


 天気は晴れておらず、しかし暗くもなく。

 河原のような石が敷き詰められた道が続き、少し道を離れたところには花畑が――だが、花畑には他に生き物の気配は無く、ひたすらに寂しい雰囲気だ。


 他には、和風というか中華風にも見える大きい建物が遠くにあるだけ。

 ()いて言えば、その建物に向かって自分と同じような服装の者たちが延々に列を作っている……それだけが、ただただ異様だった。


 まあ、彼らが並んでいる理由には心当たりがある。

 日本の民間信仰では、死者は地獄で閻魔大王の裁判を受けるらしい。確か、十王裁判とか言っていたかな(アニメで見た)。

 きっと彼らは、その裁判を受けるために並んでいるのだ。


 日本の地獄は自慢の地獄。罪に合わせておもてなし……まあ、自分は大した罰を受けないだろうと、ジュンは高を(くく)った。


 で、その後は六道輪廻するんだっけ?

 地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上……あれ? 地獄道があるじゃん。じゃあ、地獄に行かず速攻転生コースかな。なんか、月曜日が来るみたいな憂鬱な気分だ……なんてことを考えていると、横から声をかけてくる者がいた。


「おい、お前」


 ジュンが振り返ると、鬼が居た。

 ただし、昔話で登場するような筋骨隆々でトラのパンツをはいた鬼ではなく、和服を着た優男だ。頭部から二本の(ツノ)が生えていなければ、ジュンは彼を鬼だとは思わなかっただろう。


「あっ、はい。自分も並びますね……」

「いや、違う。お前はこっちだ」


 自分も列に並ぼうとするジュンを引き留める鬼の男。


「え? ああ、はい……?」


 よく解らないが、地獄で働いている者がそう言うのなら、自分はついていくべきだろう。

 ジュンは素直に彼の後について行った。




 * * *




 ジュンが連れていかれたのは、(おごそ)かな雰囲気の法廷だった。

 全体的に朱染めで、篝火(かがりび)が禍々しく燃えている。まさに地獄の裁判といった雰囲気だ。地上に伝わっている地獄絵図は(おおむ)ね正しかったと言えるだろう。


 並んでいる人は沢山いたのに、まさかの特別扱いである。ジュンは内心、おっかなびっくりだった。


「あ、あなたが、閻魔(えんま)……大王さま?」


 ジュンは裁判官が座るべき椅子に鎮座する人物に(たず)ねた。


「いいえ、大王ではありません。最近の亡者は知っている方が多いのですが、現代の地獄において“閻魔(えんま)”とは、役職名にすぎないのです」


 小柄な彼女(たぶん女性だ)はそう答えた。


 そう言えば、聞いたことあるなあ。どこぞの弾幕ゲームの二次創作で……。


「もしかして……映〇様?」

「いいえ、違います」


 あっさりと否定された。


 なお、小説家になろうにおいて、「東方プロジェクト」の二次創作は許可されている。

 つまり、彼女が本当に四季〇姫・ヤマザ〇ドゥだったとしても、実は何も問題ないのである(管理キーワード「F0004-4」を忘れずに)。


 閑話休題。

 さて、いよいよ始まる地獄裁判。


「では、これより、亡者ナナシ・ジュンの裁判を開廷します」


 その宣言を皮切りに、周囲の空気が一気にピリピリと重くなる。

 まるで、ジュンが極悪犯罪者であるかのように、周囲を警備する鬼たち――おそらく獄卒たちが、その気を張り詰める。


(な、なんだろ? 僕、そんな悪いことをした記憶ないんだけど……?)


「獄卒側。準備できています」


 現世の裁判なら検察席に該当する場所に、さっきの優男とは違う毅然(きぜん)とした態度の鬼が座っていた。


(あっ、コレ! 逆〇裁判でやったところだ! あれ……?)


 どこぞの進研〇ミ漫画の主人公みたいなことを思うジュン。そして、そのおかげで本来あるべきものがないことに気付くことができた。


「あの~……」


 ジュンが閻魔――裁判長に向かって、おずおずと手を上げる。

 正直すっごく怖かったが、これがないと自分がかなり不利になる。なので、どうしても言っておく必要があると思ったのだ。


「亡者ナナシ・ジュン。発言を許可します」


 裁判長の少女閻魔が機械的に言った。


「はい、あの、その、えっと……弁護士の方は、いらっしゃらないのですか?」

「フッ。愚かな質問だな、罪人」


 検察側の鬼が、キザったらしく笑った。


「そもそも、地獄の裁判は本来、浄玻璃(じょうはり)の鏡で罪を確認するだけの()()だ。当然、弁護人なる者は存在しない」

「は、はあ……?」


 浄玻璃(じょうはり)の鏡とは、閻魔が亡者を裁くとき、善悪の見きわめに使用する道具である。

 その鏡には亡者の生前の一挙手一投足が映し出されるため、いかなる隠し事もできない。そして(おも)に、亡者が生前に犯した罪の様子がはっきりと映し出されるらしい(wiki調べ)。


 じゃあ、この茶番(さいばん)自体が要らないのでは……ジュンは(いぶか)しんだ。


「しかし、浄玻璃(じょうはり)の鏡にも欠点がある。それは、心の内までは見ることができないのだ」

「こ、心の内……?」


 心の中が見えないことに、はたして問題はあるのだろうか?

 だって、実際に悪事を行動に起こしたのなら鏡に映るわけだし、仮に心の中で思うだけでも罪というなら、全人類をまとめて地獄送りにするべきだろう。


 そう考えると、地獄の裁判においてその欠点は、欠点にならないような気がする。


「しらばっくれても無駄だ、罪人。君は知っているはずだぞ? 一見すると過失でも、実際は故意に犯すことができる罪があることを……」

「え!? 待ってください! たとえ過失でも、僕はこんな大掛かりな裁判をされるような犯罪は……たぶん、犯したこと……ないです…………」


 本当にないよね? 少し不安になるジュン。

 そりゃ、何度かは人を殺したいほど憎んだこともあるが、結局実行したことは一度もない。また、誰かを事故死させたことも、たぶん無い。


「第一、過失でも他人を傷つけたら、ちゃんと鏡に映るでしょう?」

「ああ、確かに。君は地獄の沙汰になるほど、他人をひどく傷つけた経験は無い――そう、()()はね」


 検察席の鬼は不敵に笑った。


閻魔(えんま)様。我々獄卒側は、亡者『七誌(ナナシ)(ジュン)』を、自殺の罪で起訴します!」

「じ、じさつ!?」


 七誌(ナナシ)(ジュン)は自身が問われている罪に、その場で飛び上がるほど驚いた。


 ジュンが覚えている限り、自分の死因は崖から転落した事故死だ。

 だが、心の中が見えなければ、投身自殺にも見えるのだろうか……?


「はい、受理しました」


 裁判長の閻魔は静かに(うなず)く。


「しかし、困ったものです。自殺は最も重い罪の一つであるのに、こういったケースの死因は、浄玻璃(じょうはり)の鏡だけで断定することは難しいですからね」

「まったく、君も首吊りとか、もっと分かりやすい死に方をしてくれれば、我々も楽だったのだが」


 割と(ひど)いことを言う検察側の獄卒。閻魔は彼を厳しい態度でたしなめる。


(カルマ)獄卒。無用に相手を侮辱・挑発するような発言は控えるように」

「おっと、失礼しました。閻魔(えんま)様」


 どうやら検察側の鬼はカルマという名前らしい。

 現世ならひどいキラキラネームだが、地獄ならむしろありふれた名前なのだろうか?

 カルマ獄卒は悪びれる様子もなく謝った。しかも閻魔様に。本来謝るべきジュンには一瞥(いちべつ)すらしない。


「では早速、亡者の死の状況について、詳しく報告いたしましょう」


 あっ、結局弁護人なしで進むんだ。

 今更そんなことを考えた。


「彼が死んだのは、令和〇〇年××月△△日、場所は〇〇県××町の沿岸部。時刻は午後十六時を回った頃でした。死因は崖から()()した結果、頭部を強打。そのまま海の中で気絶した結果、亡者は溺死しました」

「なるほど。それで、()()ではなく()()とする根拠はあるのですか?」


 裁判長に(たず)ねられると、検察席のカルマ獄卒は「もちろん」と自信満々に言った。


「い、意義あり!!」


 事故であることを主張しようと、大声で異議を唱えるジュン。

 しかし、その訴えは却下される。


「異議を唱えるのは、獄卒側の主張を全て聞いた後でお願いします。それで、カルマ獄卒。まずはその根拠を示してもらいたいのですが……」

「では、証人を呼びましょう――倶生神(くしょうじん)を証言台へ」


 その号令とともに、二人の男女が証言台に立った。


 倶生神(くしょうじん)……人が生まれると同時に生まれ、常にその人の両肩に乗って全ての行為を記録する男女二柱(ふたはしら)一組の天部神。


 右肩に乗る女神を同生、左肩に乗る男神を同名といい、同生が悪行を、同名が善行を記録する。

 そうして、乗っている人が命を失って亡者になれば、その亡者の死後の処遇を定めてもらうべく、審理と裁判を行う閻魔大王に全てを報告するのだ(wiki調べ)。


 つまり、この状況はやや変則的ながらも、現世に伝わっている伝説通りだと言えるだろう。


「あの……異議ではなくて、質問はよろしいですか?」


 ジュンがおずおずと手を上げた。


「許可します」

「では、その……もし仮に自殺だと判決が下った場合は、僕はどんな罰を受けるのでしょうか……?」


 彼女は自殺を『最も重い罪の一つ』と称した。


 しかし、ジュンが知る限り、自殺を善悪で論じるのはもともとキリスト教の考え方だ。

 キリスト教では、「命は神から与えられたもの」という考え方が根底にある。つまり、神から与えられた命を自ら断ち切るのは神に対する反逆――ゆえに、キリスト教では自殺は悪とされるのだ。


 ただ、仏教においては、そんな話があった記憶はない(ジュンが知らないだけかもしれないが)。

 単に自殺しても、次はもっと辛い世界に転生する可能性のほうが大きいから、急いで死ぬ必要はないとかなんとか……そんな感じだった気がする。

 ちなみに、日本の法律でも、自殺は犯罪扱されていない。


 要するに、自殺そのものが理由で地獄に行くという話は、まず有り得ないと思っていた。


 いや、でも食べるために生き物を殺す行為も殺生扱いで、子供を作るためにエッチするのも邪淫扱いで、人間は漏れなく地獄行きって説もあるからな……あれ? じゃあ、裁判なくったって、結局みんな地獄行きなんじゃないか? ジュンは(いぶか)しんだ。


「阿鼻地獄ですね」


 そんなことを考えていたジュンに、閻魔(えんま)は無慈悲な態度で答えた。


「え……?」

「阿鼻地獄です」


 またの名を、無間地獄である。


「えっと、それは具体的に、どのぐらいの罪人が落ちる地獄なのですか?」

「最下層です」


 なお、崖から投身自殺した者は黒縄地獄の等喚受苦処(とうかんじゅくしょ)に落とされると現世には伝わっているが……阿鼻地獄は最下層なだけあって、当然それよりもはるかに苦しい地獄であった。


「いや、重すぎません?」

「それだけ、自殺は重い罪だということですよ」


 マジか。なら、絶対無罪を証明しなければ。ジュンは覚悟を決めた。


「では、改めて自己紹介を」


 証言台に立った二人組のうち、男のほうが口を開いた。


「私たちは、亡者『ナナシ ジュン』の生涯に渡って善行と悪行を記録した倶生神(くしょうじん)です」


 今度は女のほうが自己紹介をする。


 倶生神(くしょうじん)は男女一組の神様だ。

 神様なだけあって、美男美女なのはデフォルトなのだろう。和服に身を包んだ二人は、十代の少年少女のように見えた。


「私たちは、亡者が生まれた時からずっと見ていました」

「私たちは、全ての善行と悪行を記録し続けていました」

「それだけに、残念です。貴方があんな最後を選ぶなんて」

「本当に、残念です。自ら命を絶つなんて」


 証言を(うなが)された彼らは、双子のように息ぴったりで、交互に口を開く。


「では、証言を開始してもらいましょう。証人、よろしくお願いします」


 こうして、倶生神(くしょうじん)による証言が開始された。




【証言開始 ~七誌(ナナシ)ジュンの自殺について~】


「亡者ジュンの死因が自殺だった可能性は、極めて高いと思います」

「死亡当時、彼は職を追われ無職でした」


「ふむ、職を追われ……?」


 少女閻魔(えんま)が口を(はさ)む。


「特に落ち度があったわけではありません。ただただ、不幸でした」

「運も悪いし、時代も悪かったかもしれませんね。まあ、それを差し引いても、必要ない人材だったと判断された結果ですが」


 うっせいやい。辛辣な言葉に、ジュンは心の中で思った。


「職を失ってからというもの、彼は自分の人生を振り返っていたようです」


「容姿には優れず、能力も人並み以下」


「家族とは疎遠で、恋人もおらず、当然童貞。おまけに無職。はたして生きている意味はあるのでしょうか……暗い部屋の中でぶつぶつと、自問自答しておりました」


「目が完全にイっちゃってました。はっきり言って、怖かったです」


 いやあああああっ! 見られてたあああああっ!

 ジュンが赤面するなか、証言は続く。


「仕事を失って数日間落ち込んでいたあと、彼は“自分探し”の旅に出ました」


「どちらかといえばインドア派だった彼には珍しいなと思いながらも、私たちはついて行きました」


「そして行き着いた先は、例の海岸でした」


「そこまで特に寄り道する様子はなく、真っ直ぐと向かいました」


「その海岸は、絶景で有名でしたが、自殺の名所としても有名でした」


「さらに言えば、その日の天候は荒れていて、決して観光を楽しめるような状態ではありませんでした」


「にもかかわらず、彼は危険と書かれた柵を乗り越え、崖の先端へ向かい――足を滑らせたのです」


「仮に足を滑らせたこと自体は、不幸な事故だったとしても……自殺の意志は、かなり強かったと思われます」




「異議あり!!」




 最後まで我慢できず、ジュンは無意識に腹の底から大声で叫んだ。

 気付けば某逆転〇判の主人公のように、証人たちに向かって指を突きつけていた。


「そんな適当な理由で僕は自殺を疑われているんですか!? 要は無職の人間が事故死したら、自殺を疑うってことですよね!? それで阿鼻地獄行きって、ちょっと杜撰(ずさん)すぎませんか!?」

「亡者ナナシ・ジュン。まだ貴方の発言は許可してません」


 少女閻魔(えんま)(にら)まれて、ジュンは(ひる)んだ。


「なるほど、浄玻璃(じょうはり)の鏡でも、亡者の独り言は確認できます。かなり精神的に追い込まれていたようですね」

「決まりだな。亡者ナナシ・ジュン。お前の死因は自殺だ。それ以外に考えられない」


 検察席のカルマ獄卒はドヤ顔で言った。


「いや、決まってないよ!? 決めないでよ!!」

「ならば、この場であなたは証明できるのですか? 自分の死因が自殺でないということを!」


 もちろん、できる保証なんてない。しかし、やらなければ阿鼻地獄行きだ。

 ジュンは腹をくくった。


「もちろん、尋問させていただきます。それは弁護側が有する当然の権利だ!」


 なお、彼が弁護士じゃないことに、つっこみは入らない。


「認めましょう。亡者ナナシ・ジュン。では、尋問を開始してください」


 許可を得たジュンは、倶生神(くしょうじん)の証言に対する審議を始めた。




 この後、異世界女神に魂を横流し(転生)する地獄の犯罪組織の陰謀が明らかに!

 これが、異世界転生の真実だ……的な展開を考えていたのですが、収拾がつかなくなったので没。


 気が向いたら続きを書くかも。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 月150時間くらい残業があって帰り道の運転中に呪詛を吐きながら帰宅している自分が事故を起こして逝ったら自殺判定になりそう… [一言] 死後の世界特有のガバガバ裁判かな?免罪符はいくらでしょ…
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