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ウイルスファイター  作者: 菊野耳
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 キーンコーンカーンコーン――


 教室にチャイムが響き本日最後の授業が終わると、がやがやとみな一斉に帰る準備を始めた。

 おれもかばんを机の上に置いて、荷物をまとめていたそのとき……。


「堅位目くん、ちょっといい?」

 授業と終えた数学の先生と入れ替わるように入ってきた、担任の新田先生に声をかけられた。

 かばんに教科書を詰め込んでいた手を止めて、先生を見上げる。

 髪を頭の後ろでおだんごにまとめた新田先生は、まじめすぎるのが玉にキズだが、一生懸命で男子生徒だけでなく女子生徒にも人気がある。

 だがなぜかおれに対してはときどき目の敵にしているんじゃ、と思うことがある。


「ちょっと、進路指導室まで来てもらえる?」


「なんですか?」


「警察の人が堅位目くんのことを訪ねてきて……ついに警察も見過ごせなくなったのね」


「は? 何言ってるんですか。生まれてこのかた、法に触れるようなことをした覚えはないですよ」


「まだ堅位目くんは罪の意識がないのね……。先生の指導力不足だわ」


「ちょ、やめてください、おれが人倫にもとる存在みたいな言い方」


「早く自覚を促したいところだけど……今はとりあえず警察の方のところへ行きましょう」

 警察に呼ばれる覚えはこれっぽっちもないし、先生の言い分にも納得しかねぬところだが、いたずらに反抗するほど不良をきどってもいないので、不承不承先生についていった。

 進路指導室に入ると中にはボブカットの優しそうな、とても刑事さんには見えないかわいらしい女性と、いかつい男の人がいた。


「お待たせしました。彼が堅位目くんです。あの、本当に出来心だと思うんです。あ、いえ、出来心というよりも生まれ持った性癖というか、私もどうにか矯正しようと試みたのですが……」


「さっきから何言ってるんですか、先生。人を犯罪者みたいに……」

 おれは慌てて口をはさんだ。


「堅位目くん、あなた本当に気づいてないのね……自分の反社会的な資質というものに」


「先生、落ち着いてください。わたしたちは堅位目くんを捕まえに来たんじゃないんです。逆に彼の協力をもとめて来たんです」

 女の人が先生をなだめるように言うと、目元をやわらげておれのほうを見た。


「堅位目くん、突然、おしかけてごめんなさい。先生に誤解されちゃったのもそのせいね」


「いったいなんの用ですか。これから教室の掃除当番でゴミ捨てするんで早く終わらせてください」

「堅位目くん! あなたまた罪を重ねるつもり!?」


「先生、落ち着いてください」

 女の人はおれに椅子に座るように指示すると、自己紹介をした。

「はじめまして、警視庁の井伊といいます。堅位目くんに会いに来たのは、殺人事件の捜査に協力してもらいたいからなの」


「殺人事件!?」

 隣に座った新田先生が驚きの声をあげた。


「捜査に協力って、高校生のおれにできることなんてないですよ」


「いえ、堅位目くん、あなたにしかできないことなの。あなたのその特異な能力を頼りたいのよ」

 井伊刑事がおれの目をじっと見て、強調するように言葉をかけた。


「いったいどういうことですか?」

 新田先生がおれの代わりに質問してくれた。


「堅位目くん、あなた、人がかけていたマスクから様々な情報を読み取れるそうね」


「刑事さん! いったいどこからそんな話を?」

 新田先生が震えた声をあげた。


「これです」

 そう言って井伊刑事がスマホを取り出し、画面をこちらに見せる。

 先生と一緒にスマホに顔を寄せて覗きこんだ。

「二カ月前、とある女子高生がつぶやいてバズったツイートよ」



「『まじキモイ。友達が捨てたマスクを拾ってる男子生徒がいる』『問い詰めたら、その子の冤罪を晴らしたかった、と謎の供述をしており』『マスクのにおいかいで生理の日程がわかるとか、頭おかしい』」

 新田先生が声に出して読んだ。


「ああ、これはあれですね。その子、体育の授業でズル休みを疑われて責められたって話を聞いて、見かねて助けてあげたんです。たしかに相田さんは生理3日目だよ、嘘じゃないって」

「彼女のマスクをつけて?」

 井伊刑事が小首をかしげて尋ねた。 


「ええ、たまたま相田さんのマスクが手元にあったので、つけてみて確認したんです。そうしたら相田さんの話が本当だってわかったので」


「じゃあ人のつけたマスクでその人のことがわかる、というのは本当なのね?」

 じっとおれの目を見ている井伊刑事に、うなずいてみせた。


「マスクからわかるのは、生理だけ? ほかのツイートで、以前インフルエンザが集団発症したとき、クラスで最初に罹患した人を当てたって話も見たけど?」


「そんなこともありましたね。あの時は他の階のクラスで流行っていて、みんなマスクをしてたんですよ。でもやっぱりうちの教室にも一斉にインフルで休む人が出てしまって……。

 たまたまみんなのマスクがおれのところにあったので、ちょっと確認したら、吉沢さんじゃんってわかって」


「その『たまたま』についていろいろ聞かせてもらいたいけど、今はスルーしておくわ」

 職業柄か笑顔なのに目が笑っていない井伊刑事の言葉を聞いて、新田先生がほっと胸を撫で下ろしたのが横目で見えた。


「つまり堅位目くんは、マスクについているウイルスさえも検知できる、ということね」

「ええ、そうなりますね」

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