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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
95/196

【095】外伝

*** 外伝:賢二が行くⅣ ***


僕は賢二。生まれも育ちも地球ですが、宇宙に来てからもう一年近く経ちます。

群青錬邪を倒しに行って、途中で移食獣に食べられて宇宙に来ちゃった僕…。

あの後、結局みんなどうなったのかとても気になってますが…人のことを心配してる余裕は無い毎日です。


「はぁ~~~~…」

「ん、どーしたよ賢坊?なんかいつも通り…もとい、いつも以上に泣きそうな顔じゃねぇの。」


 深い溜め息をつく賢二を心配するのは、『賢者:無印』の契約獣である亀吉。

 この約一年、賢二の良き相談相手となっていたのはこの亀だった。


「あ、ホラこの前…地球では古代神が復活間近って噂聞いたでしょ?それで…」

「あー…そうだよな、生まれ育った星だもんな。やっぱ仲間のこととか心配か?」

「うん…僕は全く心配されてないのは、わかってるんだけどね…」

「お前、もっと人生に希望持てよな。」


 賢二は相変わらずのようだ。

 しかしそんな賢二は今、“相変わらず”ではない新たな災難に見舞われていた。


「やっぱりみんなのことは心配だよ。でもね亀吉さん、今の僕にはもっと…心配なことがあるんだ。」


 怯える賢二の視線の先には…真っ赤なネグリジェ姿で駆け寄ってくる、無印の姿があった。


「けぇ~~ん☆ぼぉ~~~ぅ☆」


 自分のことで精一杯だった。




半ば強制的に弟子入りさせられてから、無印様からのアタックはそれはもう凄まじいもので…。ほとほと困り果てています。

弟子というか恋人候補と見ているようで、毎日が貞操のピンチです。

僕としてもなるべく女性とは戦いたくないのですが、さすがにこればっかりは絶対に譲れません。


「さぁ賢坊、一年おあずけの初キッス…今日こそは奪ってみせようぞ!覚悟!」

「そ、それは死んでもゴメンなさいと言ったはずですよお師匠様!〔煙幕〕!」

「む?おっと、そんな手が何度も通じると思ってかい?晴れよ煙、〔爆風〕!」

「うわっ、見つかっ…」

「捕らえた!永き時の果てに、届けこの想い!必殺『濃厚キッス』!!」


 無印の危険な攻撃!

 ミス!賢二は幻のように消えた。


「なっ、〔残像〕ぢゃと!?しまった、このワシとしたことが…!」

「…変幻自在のその重さ、時に巨象の如く、時に愛人の如く!〔超重力〕!」


ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


「ぐっ、ぬぐぅううう!み、見事ぢゃダーリン、褒美に熱いキッスを…!」

「三段詠唱、略してうなれ!略式〔雷撃〕!」


ズゴォオオオオオオン!


「か、仮にも女相手にお前…。相当必死なんだな賢坊…」


 亀吉はドン引きしている。


「ふぉおおお!し、シビれるのぉ…!これが…これが、恋!?」

「じゃあもっとシビれてください!〔雷迅〕!!」


ズビビビビビビビビビッ!!


 賢二はこうして強くなった。




「…ハッ!こ、ここは!?というか僕の青春はどうなっちゃった!?まさか…」


ふと目が覚めると、見知らぬベッドで寝ていた僕。

ここは一体どこなんでしょうか?もしかしてもう、お師匠様の餌食に…?


「あ~安心しな今回も無事だ。ムーちゃんああ見えてムードにゃこだわるしな。」

「ホントに亀吉さん!?よ、良かった…死ぬほど良かったよぉ…」

「だがよぉ、これに懲りたら『禁詠呪法』は程々にしとけよな。ありゃ諸刃の剣だぜ?」


禁詠呪法キンエイジュホウ

 呪文の詠唱により、自レベルより遥か上位の魔法も扱えるようになる裏技。

 ただし、最後まで詠みきれなかった場合、その魔法の効力は自分に返る。

 クサすぎて真顔では言いづらい呪文や、早口言葉が多い。


「う、うん…。わかってはいるんだけど、でもそうでもしないと対抗できないし…って、ところでここはどこなの?」


 よく見ると見知らぬ部屋であることに気付いた賢二。


「あ~、修行中に倒れたお前がなかなか起きなくてよぉ。困ってたら気のいい奴が通りかかってな。」

「そうだったんだ…。なんか世の中捨てたものじゃないと思えて嬉し…」


「あぁ、起きたんだねキミ。良かったよ、寒くない?」


「…あ、家主さんですか?大丈夫です、おかげ様で暖かく…」


 家主と思われる声に賢二が入口の方へと目を向けると、そこには初見の破壊力が抜群の男…『変態:Y窃』が立っていた。


「そうかい、それは良かった。」


 賢二は震えが止まらない。



僕を助けてくれた人は、心優しいとかどうとかの前に見るからに変態な方でした。

人を見かけで判断するのは良くないですが、頭にパンツはその時点でありえない。


「とりあえず自己紹介しようか。俺はY窃、職業は『変態』だよ。キミは?」

「あ、賢二です…って、聞き流しちゃいけないレベルの発言を聞いた気が…!」

「名前のこと?でもそれはキミもじゃん。お互い名前負けしないように頑張りたいね、賢者君。」

「いや、僕は賢者じゃ…というかアナタにとっての“名前負け”の定義は…?そして職業が『変態』って!?」


 見た目も職業も全てが異様なY窃だが、なんと無印はその職に聞き覚えがあるようで、部屋に入ってくるなり思わぬセリフを口にした。


「なんと『変態』とは…まさか今の世にもまだ、受け継がれておったとはのぉ。」

「えっ、知ってるんですかお師匠様…というか受け継ぐとか受け継がないとかそういう職業ですか!?」

「俺はこの職を広げるため、世界中を飛び回っているんだよ。」

「えっと、すみませんが是非とも滅んでください。」

「実は会いたい子がいてね、次は地球に行こうと思ってるんだ。知ってる地球?」

「えっ、地球!?変態さんこそ地球を知ってるんですか!?」

「ああ、もちろんだよ。キミも知ってるかなぁ?」


 そう言うとY窃は、とっても気持ち悪い笑顔を浮かべ、自信ありげに続けた。


「地球の子はね…ガードが、甘いんだ。」


 姫のせいで地球がヤバい。



「なんだか全力で阻止しなきゃって気がしますが…。ところで宇宙船ってどこかにあるんですか?」

「ん?どこかにもなにも、今いるのが我が船…『移動邸:変態ハウス』だけど?」

「い、家が!?家ごと動くんですか!?そんな技術聞いたことも…」

「その気になれば星をも越えるよ。変態の執念を舐めないでほしいな。」

「いや大丈夫です。そう簡単に舐めてかかれる容姿じゃないですよアナタ…?」


 懐かしの地球の話。普通なら一緒に行きたいと考えるところだが、Y窃の動向が心配すぎてそれもためらわれた。

 しかし、他のメンバーは違った。


「実はよぉ変態、コイツその地球の出身なんよ。どうよ、連れてく気は無ぇか?」

「えっ、亀吉さん…!?で、でも…!」

「いいぢゃないか地球。ワシも久々に、凱空らに会いたいと思うとったのよ。」

「お師匠様まで…!でもそれは…!」

「なぁに、どうせついでだし遠慮することはないよ。みんなで行こうか。」

「いや、遠慮というか…」

「どうしたの賢者君、何か心配事でもあるのかな?大丈夫だよ、俺も行くし。」

「いや、それが一番の…」


「むっ!!?こ、これは…!」


 ほのぼのした空気から一転…突然、無印が怖い顔で立ち上がった。


「えっ、ど、どうしたんですかお師匠様…?」

「…ふむ。ま、逃げられんかのぉ。ダーリンの大事な船が壊されても困る…表に出ようか。」

「あ、あの…一体何が…?」


 無印は変態ハウスの外に出た。

 賢二は訳がわからなかったが、表に出てようやく異変に気付いた。


ゴゴ…ゴゴゴゴ…


「な、なんですかこの大気を揺るがす波動…!?これってまさか…誰かの…!?」

「やれやれ、よもや生きているうちに…再び相まみえる機会があろうとはのぉ。」


 無印が語り掛けたのは、扉の前に立っていたとても小柄な少女。

 だが無印と亀吉は、彼女がタダ者ではないことを知っていた。


「久しいのぉ…『邪神:バキ』。」

「えっ!邪神って…あの伝説の…!?って、お知り合いだったんですか!?」

「ふむ。忘れようにも忘れられぬ顔よ。」


「…誰じゃ貴様?」


 残念ながら温度差があった。


「まぁ…だいぶ老けたしなムーちゃん。それにあの時は…」

「そういえば五百年とか前の話ですよね?お師匠様って一体、何歳に…」

「レディーに無粋なこと聞くでないよ賢坊?さて…どうしたもんかのぉ。」

「ま、アイツの目的次第じゃねぇか?賢坊はどう見るよ?俺にゃわからんわ。」

「ん~、僕は悪い方にしか考えられないんでなんとも…。変態さんはどうです?」

「ハァ、ハァ、ロリっ子…!ロリっ子…!」

「ちょっとは空気を読んでもらえると助かるんですが…」

「いや、それができんならパンツとか被ってねぇだろ。」


 Y窃のせいで緊迫感が削がれつつあるが、邪神からほとばしる邪悪なオーラは凄まじく、どう考えても勝ち目が見えないといった状況。

 だがしかし、絶望するのはまだ早い。邪神の目的次第では、戦わずにやり過ごせる可能性もゼロではないのだ。


「あ、あの~…邪神さんは、一体ここへ何をしに…?」

「誰かはわからんが、わらわを知るなら話は早い。無駄な殺生は面倒だ、下手な抵抗はせず…その船を渡すがいい。」


 邪神の狙いは宇宙船の奪取のようだ。

 うまくやれば戦闘は回避可能かもしれない。


「船を?この星へ来た時の船があるぢゃろうに。」

「共に来た者達とは…はぐれてな。まぁわらわはわらわの目的のため、どのみち一人動くつもりじゃったがな。」

「も、目的…ですか?」

「浅からぬ縁の者どもが、蘇ろうとしている。行って倒すがわらわの宿命。」

「え゛!そ、それってまさか他の“神”…じゃあ目的地って…!?」


「地球へ、行くのじゃ。」


 やっぱり地球がヤバい。



「ったく、最悪の状況になってきやがったぜ。もはや取るべき手段は一つ…だなぁ賢坊?」

「わかってる。地球にさえ逃げなきゃ…」

「お前それでも『勇者』の仲間かよ?悪を挫く前に自分が挫けるなよ。」

「ちょっと待っててね。今…暖房を上げてくる!」

「変態お前、さては邪神と行く気だな…?しかもさりげなく薄着にさせようとしてねーか…?」


 危険なのは邪神だけじゃなかった。


「ど、どうしよう…勝てっこないけど、放っておいたら地球が…でも…」

「残念ぢゃが邪神よ、行かせちゃるわけにはいかんのぅ。ここで死んどくれ。」


 あまりの急展開に頭の整理がつかない賢二。

 そんな賢二を守るように、無印が立ちはだかった。


「そうか…退いてはくれぬか。ならば仕方ない、力ずくで奪うとしよう。」

「えっ、戦う気ですか!?いくらお師匠様が強いっていっても相手が神じゃ…!それに心臓の調子も良くないのに…」

「案ずるでないよ。どのみち恋する乙女のハートは年中ドッキドキぢゃわい。」

「いや、その件では僕の方が負担が…」

「さぁ食らうがいい邪神!燃え盛る炎の中で後悔せい!三連獄炎殺!!」


 無印は〔獄炎殺〕を連続で唱えた。

 だが炎は吹雪にかき消された。


「えぇっ!?お師匠様お得意の火炎魔法があっさりと…!?」

「ふむ、なかなかの火力じゃが…地獄の風雪を操るわらわとは相性が悪いな。」

「やれやれ、未だ全盛期ぢゃないか厄介な。それに引き換えワシは…」

「えっと亀吉さん…これを。」

「なんか、日に日に早くなってくよな…遺書書くスピード。」

「みんなちょっと待ってて、もっと…温度上げてくる!」


 無駄に前向きなのが一人。




邪神さんの強さはそれはもう尋常じゃなく、明らかに旗色悪い感じでもう大変。

しばらく頑張ったお師匠様でしたが、さすがにもう限界っぽいので…なんとか隙を突いて逃げないとです。


「ゼェ、ゼェ、情けないもんぢゃ…もう息が続かんとはのぉ…」

「そうか…思い出したぞ。貴様、兄者を…『風神』を倒したあの『錬金術師』と一緒にいた女だな?これほどの魔法を使える者、そうはおるまい。確か『紅蓮の大賢者』…そう呼ばれておったか。」

「ほぉ、思い出してもらえたとは光栄ぢゃわい。まぁお前さんのことは倒せず逃げた身としては、恥ずかしい過去でもあるがのぉ。」

「フン、恥じることはない。相性の悪さを知りつつも突き進むは愚策…。結果的には勝ったのだ、貴様らの作戦勝ちじゃよ。」


 最初は侮っていた邪神だったが、無印の思わぬ善戦に認識を改めていた。


「さぁ次はわらわの番じゃ。今度は貴様らの…命の炎も消してくれよう。」


 邪神の攻撃。

 これまで以上の暴風が無印を襲う。


「ぬぁあああああああああっ!!」

「お師匠様ぁー!に、逃げましょうお師匠様、このままじゃ死んじゃいますよ!」

「ハァ、ハァ…ならん!今ここで逃がしたら、今度こそ地球は滅びかねん!」

「で、でもそれじゃあ…!」

「フン、読めているぞ老賢者よ。仲間を逃がし、わらわを足止めする気じゃな?」

「えっ!?まさかお師匠様…」

「フッ、愛する者のために死すもまた一興…女冥利に尽きるわぃ。」

「つーわけでよ、悪ぃが変態、賢坊を頼んでいいか?二人で…逃げてくれや。」


 無印と亀吉は、死を覚悟した目で賢二を見ている。


「で、できませんよそんなこと!終始逃げ腰な身としては言いにくいけども!」


 賢二は抵抗したが、変態がそれを遮った。


「…OKわかった、任されよう。さぁ行くよ賢者君!共に地球を蹂躙しにっ!」

「いや、そう言われると尚のこと行きづらいんですけど…!」

「さぁ行けぃ賢二!行っていつの日か、立派な…真の『賢者』になるんぢゃぞ!」

「お師匠様…!ちょっ、変態さん放し…」


 Y窃は賢二を無理矢理宇宙船へと引きずり込んだ。

 傍から見ると何かしらの事案発生!といった光景だ。



「さて…では参ろうかのぉ。どうであれ、次が最後の一撃となるぢゃろう。」

「惜しいな旧世代の賢者よ。残念じゃがおぬしは、少し老いすぎた。」

「わかってないのぉ小娘。熟すほどに…味わいを増す果実もあると知れぃ!」


 そして二人の、全力が交差する。


「荒れ狂え凍てつく波動!必殺、『大豪雪縛葬』!!」

「燃え上がれ愛の炎!究極火炎魔法、〔火炎地獄〕!!」


ズゴォオオオオオオオオオオオオ!!

ブォオオオオオオオオオオオオオ!!


ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!



「お師匠様ぁーーーーー!!」



 こうして賢二は、地球に向けて飛び立った。

 窓から見えた紅蓮の炎は、大きなハートを形取っていたという。

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