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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
94/196

【094】天空城の戦い(8)

実は少し前から起きていたのだが、宿敵の能力は知っていたので黙って見てた俺。だがその結果、宿敵は現在グロッキー状態に…。これで使える奴がいなくなっちまったわけだ。やれやれ…。


「あ、足が…!死体ゆえ痛みは無いが、これではまともに動けん…!」

「大人しくしてろよジジイ、じきにもっといい家を作ってやる。“神”の家ってやつをな。」

「なんだと貴様ぁ…!って、オイ!何をして…やめっ…!」

「下手に粉々にしちまうと他の死体に移りそうだしなぁ。程よく刻んでおこう。」

「ちょ待っ…ぬぐぉおおおお…!」


 黒猫は無力化された。



「んで?ウチにとっておき出させて回復したんや、当然何か策はあるんやろなぁ勇者?」

「ん?ああ、なんとかなりそうだ。どデカい一撃を食らわせてやるぜ。覚悟しやがれ、そよ風野郎。」

「フン、大人しく寝ていれば良かったものを。たかが数分で何が変わる?」

「ならば盗子を見ていろ。数分後には凄いものに変わるぞ。」

「アタシ何されちゃうの!?ねぇちょっと!?」


 寝起きとは思えない相変わらずの態度で風神に喧嘩を売る勇者。

 そしてあっさり買ってしまう煽り耐性の足りない風神。


「上等だ!ならば先ほどと同じく…我が奥義を見舞ってくれよう!」

「いいだろう…と言いたいところだが、ちょっと待て風神。少し落ち着け。」

「む?なんだ小僧、時間稼ぎか?」

「まぁぶっちゃけそうなんだが、時間が必要なのは貴様もだろう?」

「…何が言いたい?」

「元々その眉無しの女が敗れたのは、既に深手を負っていたからだ。いくら神の力が注入されたとはいえ、そう簡単に復調するとは思えん。違うか?」

「ほぉ…思いのほか頭の回る小僧のようだ。では俺を待たせて貴様は何をする?」

「ん?少し気掛かりな点があってな。それ片付けたらまた遊んでやるから、その辺で大人しくしてるがいい。」

「チッ、生意気な…だがいいだろう。全快した後に、地獄を見せてくれる。」


 風神は眠りについた。


「ほ、ホントに眠っちゃった…。今なら倒せるんじゃない?」

「そう思うならやってみろよ盗子。応援してやる。」

「絶対嘘じゃん…。もしくは風神の応援じゃん絶対。」

「フッ…ときに暗殺美よ、今さらだがお前らはこれで全員か?他のメンバーは?」

「ん?あ~、弓絵と余一は下に残してきたさ。尊い犠牲だったさ。」

「いや、勝手に殺すのはどうやろ…?」

「それだけか?帝都の奴らは既に全滅っぽいし…となるとやはり、敵かっ!!」


 勇者はナイフを投げた。

 盗子の頬をかすめて柱に命中した。


「イッッターー!!な、なんでそう投げて隣にいるアタシに当たるわけ!?」

「当たったんじゃない!当てたんだ!!」

「なお悪いよー!うわーん痛いよぉー!」

「…ふ、ふぅ~…危ない危ない、殺されるかと思っちゃったよ。やるねぇキミ。」


 柱の陰から冥符が現れた。


「うわわっ、もう起きよった!あのほぼ致死量の睡眠薬で…なんでや!?」

「誰だ貴様は?こんな遅れて堂々と登場とは、会社の重役もビックリだぞ。」

「あ、俺?俺は冥符。愛より生まれし愛の狩人さ。ねぇ、ハニー?」

「せやからハニーちゃうて…って、それは…!」


 商南は壁際に何かを見つけた。

 弓絵と余一が脇に転がっていた。


「その二人…もしかしてアンタが拾ってきてくれたんか?」

「あ~、まぁポイント稼ぎになるかと思ってね。ただ彼女は単に気絶だけど、彼の方はもう…臓器が破壊されてる。」

「問題あらへん、そういう仕様やねん。ところで…わざわざ何しに来てん?結局アンタは味方なんか?やっぱ敵なんか?」

「え?イヤだなも~、決まってるじゃんか。もちろんキミの味方さマイハニー!」

「だから誰がおのれのハニーや言うてんねん!今度は一生眠らしたろか!?」

「えっ、毎晩子守唄を!?ウワォそんなプロポーズが飛び出すとは驚きだよ!」

「ウチの方が驚いたっちゅーねん!なんでそう無駄にポジティブやねん!?」

「ふむ…まぁよくわからんが敵じゃないようだな。ならば俺は今のうちに、暗黒神の野郎にトドメでも…むっ!?」


 冥符の攻撃。

 勇者は咄嗟に攻撃を避けた。


「オイ貴様…どういうつもりだ…!?」

「あ~、勘違いしないでほしいな。俺はハニーの味方だって言っただけだぜ?」

「…チッ!つまりコイツは敵で、やっぱり貴様らが優勢ってことかよ…!なぁ、暗黒神!?」


「ああ。お前らの健闘も、もはやこれまでってやつだな。」


 なんと、暗黒神が元気そうに現れた。


「えぇっ!な、なんでアンタ起きてんの!?あっ、なにそれ回復符…!?」

「あ、もう起きれるんだ。やっぱタフだね~大将。」

「じょ、冗談やないで…それだけの呪符を、一度に扱える奴がおるなんて…!」


「随分と遅かったじゃないか『符術士』…いや、我が『四天王:冥符』よ。」


 事態はまた悪い方に。




ふむ…やれやれ。第一印象からいけ好かん奴だとは感じていたが、まさか敵の幹部とまでは思わなかった。

それにしても『符術士』か…分が悪いな。商南の戦闘スタイルが近いんだろうが、金に物を言わせて呪符を仕入れてる商南とは違い、符術士は自分で呪符を作ることができると聞いたことがある。

どうやら回復もできるようだし、長期戦になればなるほど不利になるだろう。


「この状況…暗殺美、貴様はどう見る?」

「状況を整理すると、敵は暗黒神と四天王の冥符、起きたら驚異な風神と、動けないものの死体があれば操れる黒猫…。ざっくり戦力を数値化するなら3.5人って感じかさ?」

「ま、妥当な線だな。片やこちらは、唯一の戦力である俺、あとは手負いの暗殺美と商南、あっちでくたばってる先公、それを棒でつついてる姫ちゃん、寝てる弓絵と余一、以下略…。同様に例えるなら1.5ってところか?戦力差は歴然だな。」

「なんか…一応いるって思われてるだけまだマシなのかな…」


 盗子は前向きに考えるしかなかった。


「ん~惜しかったなぁ凱空の息子。せめてあともう一人でもいりゃあな~。」

「あと…一人…」

「そうだよ。あと一人でもまともなのがいりゃ、もう少しなんとかなったかも…」

「…フ…フフフ…フハハハハハハ!そうだな、確かにそうかもしれん!」

「ん?なんだ小僧、気でもふれたか?意外と気の小さい…」


 突然笑い出した勇者に憐みの目を向ける暗黒神。

 だた勇者は、至って冷静だった。


「いつだか戯れでな…仲間の装備に『盗聴蟲トウチョウコ』を仕掛けたことがあったんだ。」

「えっ!なにその衝撃の暴露!?もしかしてアタシにもそう!?」

「結構いい品だったんだが、さすがに感度にも限界があってなぁ。」

「何をいきなり…一体何が言いたい?時間稼ぎのつもりか?」


 急に訳のわからないことを言い始めた勇者に苛立つ暗黒神。

 その時、慌てた声で黒猫が割り込んできた。


「さ、嗟嘆様!少々お耳に入れたいことが…!」

「うるさいぞ黒猫!今いい所なんだ、水を差すんじゃねぇよ。」

「お聞きください!新たな生体反応が、猛スピードで接近中なのです!」

「あん?そんなはずあるかよ。ここまで上がれる船がそういくつもあるはず…」

「違うのです!下からではなく…“上”から」


ズッガァアアアアアアアアアアアアアアン!!


 なんと!凄まじい轟音と共に、天井に風穴が開いた。

 落ちてきた物体…乗り物のような家のようなその何かは、風神がいたはずの場所に直撃していた。


「ハハッ!ドンピシャじゃねーかオイ!さすがは俺だ!」

「えっ、知っててやったの勇者!?」

「盗聴蟲には発信機もついててな。少し前からわかってたよ、“奴”が…この場所に向かってきてるってことは。」

「へ?“奴”…?」


 勇者が何を言っているのか誰もがわからない中…落下物の下から、なんと死んだと思われた風神が這い出てきた。


「お、おのれ小僧…まさか、これも貴様の…計算のうちか…?」

「ほぉ、今ので生きてるとは…さすがは神と言われただけある。いいだろう、貴様のおかげで思いついた技があるんだ。黄泉への手土産に…食らわせてやるよ。」

「なっ…そ、その力は…!?」


 勇者は邪悪なオーラに包まれた。


「ちょっ、勇者!?何そのどう見ても正義側じゃない感じの光景!?」

「さぁ、うなれ魔界の波動!思いつき我流必殺奥義、『魔神一刀両断剣』!!」


「ば、馬鹿な…!この俺が…この風神が…!う…うがぁあああああああああ!!」


 会心の一撃!

 勇者は風神を撃破した。



「ふむ…なるほど、こうなるか。まぁ想定内だな。」


 一撃のもとに風神を倒した勇者。

 だがその事実よりも、この偶然のような展開が作戦通りだったと聞かされたことに、暗黒神は動揺していた。


「オイ小僧、さっきテメェ…狙ってやったようなこと言わなかったか…?」

「ん?まぁ思ったより直撃で笑っちまったがな。これでそっちは2.5人…やれそうな数字になってきたと思わんか?」

「…ケッ、調子に乗るなよクソガキ。それでもまだ足りんだろう?さっき自分で戦力は1.5だと…」

「それが、増えるとしたら?」

「あ゛ぁ?」


ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 崩れる瓦礫、立ち込める土煙…そしてその中に、一つの人影が見えた。


「だ、誰かいるよ勇者!てゆーかこの登場パターンって…昔『六つ子洞窟』で群青錬邪と戦ってた時の…!」

「フッ…やっと来やがったか、雑魚めが。」



「…へ?」



 現れたのは、かつて姫が遭遇した変態『Y窃』だった。


「誰だっ!!?」


 その場の全員が突っ込んだ。




土煙の中から現れたのは、女物のパンツを被った半裸のオッサン。予想を裏切るにも程がある展開だ。

じゃあなぜ俺の盗聴蟲の反応が…?いや、確かに何かしら盗聴してそうなキャラではあるが。


「だ、誰だ貴様は!?なぜ空から…というかなんだその格好は!?」

「ムシャクシャしてやった。今は反省している。」

「駄目だよ勇者!コイツ取り調べ慣れしてるよ!かなりの常習犯だよ何かの!」


 Y窃は堂々としている。


「ハハッ!なんだよただの変態か…脅かしやがって。やっちまえよ冥符!」

「いや大将、アレは“ただの変態”で済ませていい変態じゃないと思うが…」

「お待ちください嗟嘆様、この黒猫めに今一度チャンスを!立てしもべども!」


 黒猫は指令を出した。

 転がっていた死者達が再び立ち上がった。


「チッ、修復しやがったのか…!?こんなことならもっと粉微塵にしておくんだったぜ!」

「こうなってくると2.5とか言ってる場合じゃないさ!絶望的戦力差さ!」

「ひぃいいい!なんかさっきよりグロさ倍増で怖いんだけど!どどどーしよ!?」

「仕方ない…無駄な力は使いたくないが、今度こそ完全に粉砕してくれる!」

「無理すんなや勇者!アンタには暗黒神を…一番厄介な敵を倒す使命があんねんから!」

「フォフォフォ!安心するがいい、どう足掻いても死…」


 万事休すと思われた、その時―――


 「…の大地も、母なる海も…」


「ッ!!?」

「むっ、呪文詠唱だと…!?誰だ、この期に及んで無駄な足掻きを…」


 どこからか聞こえてきた呪文の詠唱に、勇者も黒猫も、その他の者達も耳を澄ませた。


 「…なる果て無き白銀の中で、全ての時よ止まれ…〔銀世界〕!!」


〔銀世界〕

 魔法士:LEVEL60の魔法(消費MP80)

 周囲を白銀の冷気で包み込む氷雪系上位魔法。スベッたギャグよりもっと寒い。


シャキィイイイィィィィィイン!!


「な、な……に……ぃ…!?」


 身も凍る吹雪が吹き荒れた。

 黒猫を含む全てのゾンビが凍りついた。


 そして…崩れ落ちる氷塊の合間から現れたその姿に、勇者はニヤリと微笑んだ。


「チッ、やっぱ来てやがったんじゃねぇかテメェ…グズグズしやがって…!」


「ふぅ~、間一髪だね…。どうやら間に合っ…」



「ちゃった…」



 賢二が帰ってきちゃった。

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