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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
92/196

【092】天空城の戦い(6)

登場時のノリがいつになく真剣だっただけに、さぞや善戦しているるものと思いきや、全然そんなこともなかったっぽい先公。まったく情けない奴め。


「なんだよ先公、フラフラじゃないか。期待外れもいいとこだぞ雑魚めが。」

「…フフフ。まぁこの『死神の目』は、命と引き換えに能力を強化するのでね…もう結構、限界なんですよ。」


 弱気なのかまだ余裕があるのかわかりづらい教師。

 だが暗黒神の方が優勢なのは確かなようだ。


「ハハハッ、無茶しすぎだなぁ死神。お前はそもそも、その目を持てる器じゃないだろ?」

「なぁに、目標達成は間近ですからねぇ。その後のことなんて知りませんよ。」

「ほぉ、俺と刺し違える気か?だが残念だな、そんな体じゃそれも叶わん。そもそも貴様は『幻魔導士』…『暗黒魔導士』である俺とは、相性悪すぎなんだよ。」


聞けば暗黒神の奴は『暗黒魔導士』といういかにもな職業で、凄まじい火力を誇る魔導士なのだという。

先日食らわされた氷魔法もかなりのものだったしそこは納得だ。

そうなると確かに、幻魔術で敵を翻弄しながら戦うスタイルの先公では分が悪いのだろう。


「おっと待てよ暗黒野郎。猫ジジイにも逃げられたことだし、俺が相手をしてやってもいいんだぜ?前回は不覚を取りすぎて、実力の一部も見せられてないしな。」

「フン、興味無いな。ガキと遊んでる暇は無いんだ、とっとと消え…」

「彼は凱空さんのご子息ですよ。」

「な、なんだとぉおおおおおおお!?」


 教師はあっさり生徒を売った。


「ん?ああそうだ。俺こそがかつての『勇者』こと凱空の忘れ形見、勇者だ!」

「勝手に親を殺すのはアリなの勇者!?」

「そうとわかりゃあ話は別だ。奴には借りがある、子であるテメェに返すぜ。」

「なにやら因縁があるっぽいな。いいだろう、この俺がブッた斬ってくれる!」

「待ちなさい勇者君。彼は私の敵…それに教え子であるキミを、危険な目には遭わせられない。」

「今さっき敵を煽ったのはどこの誰!?」

「それに私より、もっと助けるべき相手が…いるようですよ?」

「へ…?」


バァン!!


「うわっ!えっ、誰か来たっ!?」


 突然開いた扉に驚き、振り返る盗子。

 すると凄まじい勢いで二つの影が飛び込んできた。


「ちょっ、まっ、待つさ!もう私は満身創痍だから他の誰かに狙いを変えろさ!」

「逃げるな小娘が!この『嗟嘆四天王:華緒』…狙った敵は必ず仕留める!」


 暗殺美を追って現れたのは、黒猫と同じくかつて魔王の四天王として仕えていた華緒。足にはなぜか、銀隠のものだったはずの『風神の靴』が装備されている。


「むっ、暗殺美か?それに後ろの女は…!オイ暗殺美、状況を簡潔に説明しろ!」

「ぎ、銀隠を倒した“2のオッサン”を倒した謎の女が風神の靴で私が倒されそうさ!」

「ふむ、わかるか姫ちゃん?」

「つまり…ドミノ的な?」

「解読どころか暗号化してんじゃないのさ!いいから助けろさ!」


 暗殺美が偉そうな口をきくので勇者は無視しようかとも考えたが、敵の女に見覚えがあることに気付いたため、仕方なく間に入ることにした。


「よぉ、また会ったなぁ眉無しの女。前は魔王の部下じゃなかったか?」

「フン、私は永遠に嗟嘆様の四天王…。主の御令息に侍従して何がおかしい?」

「なっ…!?てことは、魔王と暗黒神は親子だってのか!?言われてみれば確かに似てるが…。なるほど、じゃあ強いわけだぜ…やれやれ。」


 勇者は知りたくなかった事実を知った。

 場の絶望感がさらに高まった。


「貴様こそ何をしている小僧?魔王様にコテンパンにやられた雑魚の分際で、次は嗟嘆様に歯向かおうとでも?」

「フン、何年前の話をしてるんだ?俺は三日どころか三時間会わざれば刮目して見た方がいい男だぞ。」


 ちなみに姫だと三秒だ。


「さて…確かに先公の言う通り、暗黒神だけってわけにもいかないようだな。こっちは俺がやるとしよう。オイ暗殺美、敵の戦力を教えろ。」

「ぎ…銀隠から奪った『風神の靴』を…奪われたさ。後は…勝手にやれ…さ…」


 気が緩んだ暗殺美は力尽きた。


「あ、暗殺美!?うわっ、よく見ると傷だらけじゃん!大丈夫!?」

「私が治すよ!盗子ちゃん、早く『集中しよう室』へ!」

「“治療”しろよ!集中することを目標にしてどーすんだよ!」

「オヤツ食べる?」

「やっぱ集中もして!」


 暗殺美は命が危ない。



「よぉ華緒、遅かったなぁ。お前らがのんびりしてたせいで俺は超多忙だぜ?」

「も、申し訳ありません嗟嘆様。銀隠…部下の尻拭いに若干手間取りまして。」

「じゃあこの後のことは…わかるよなぁ?」

「もちろんです。この小僧めは私にお任せていただいても?」

「ああ任せた。こっちも気は抜けん相手でな。だが、トドメは俺が刺す。」

「承知しました。では四肢を奪う程度に。」


 完全に自分を舐めている会話にイラついて仕方ない勇者だが、敗北を見られている二人だけに何を言っても言い訳くさいと判断し、実力行使に移ることに。


「この俺を舐めたことを地獄で後悔するがいい、女。まぁ安心しろ、寂しくないよう主もすぐに送ってやる!」


 勇者の攻撃。


「ぐっ…!?」


 勇者は200のダメージを受けた。


「えっ!なんで攻撃した勇者の方がダメージを…カウンターってこと!?姫は見えた!?」

「マスター、ロックで。」

「いや、そっちのカウンターじゃないから!」

「とびっきり硬い岩で。」

「そっちのロックでもないし!てゆーかもし出されたら食べる気!?」


 盗子には何が起きたかさっぱりわからないようだが、食らった勇者は既に分析を終えていた。


「…ふぅ。やれやれ、攻撃が巻き起こす風…今のが『風神』の力ってやつか。一応それも計算に入れて動いたつもりだったんだが…どうやら使い手自身、相当な腕らしい。」

「私は華緒、職業は『蹴撃士シュウゲキシ』。我が蹴りに、砕けぬもの無し。」


 相当な脚らしい。


「フッ…いいだろう、本気で相手をしてやる。かかってこい!そして死ね!」

「死ぬのは貴様だ小僧!尊き嗟嘆様に楯突いた罪、万死に値する!」


 華緒は豪快な蹴りを繰り出した。


「くっ!やはり衝撃波が半端じゃない…!オイ盗子、お前風よけになれ!」

「えっ!?や、ヤだよ馬鹿!いくら切羽詰ってるっていってもそりゃ無いよ!」

「ケッ、つまらん。」

「もっとそりゃ無いよ!」

「よそ見をするとは愚かな小僧よ!死ぬがいい!」


「…フッ、貴様がな!!」


 勇者のカウンター攻撃!

 ミス!攻撃は華緒の頬をかすめた。


「チッ、ミスったか…!やれやれ、いい距離だと思ったんだがな。」

「…作戦だったか。抜け目のない奴だ、もはや二度とその距離には入るまい。」

「ん?なんだ貴様、この俺の射程に限界があるとでも思ってるのか?」

「な、なに…?フン、強がるな小僧。もしくはそうやっておびき寄せる腹か?」

「ならば見よ、最大奥義にして最長射程…秘剣『遠殺剣エンサツケン』を!」

「え、遠殺剣…だと…!?」


 勇者の口から飛び出した思わせぶりな技名に、華緒は思わず警戒した。

 そしてその一瞬の緊迫した空気に反応したのか、休息を取っていた商南が目を覚ました。


「え…遠殺剣…ってなんやねん…?盗子、アンタ何か知ってるんか?」

「あっ、起きたの商南?大丈夫?ちょっとアタシにもわかんないけど、あの勇者のことだから…んー、多分ハッタリなんじゃない?もしホントにあるなら黙ってブチかますよね。」


 とても説得力のある推測だった。


「さぁ覚悟しろ女。どれだけ距離を置こうとも、この剣からは逃れられん。」

「フン、どうせハッタリだろ?やれるものならやってみるがいい小僧!」

「やれるもんなら最初からやってる!!」

「ゆ、勇者!?それは“できない”って言っちゃってない!?」

「ハハッ、愚か者め!死ねぇ!!」

「俺に不可能は無い!うぉおおおおお…!伸びろ、魔神剣!!」


 勇者の攻撃。

 なんと!魔剣は本当に伸びた。


「なっ…!?」

「なにぃいいいいいい!?」


 誰よりも勇者が驚いた。


「…フッ!こ、これが遠殺剣だ!」

「いや無理だよ勇者!さすがに無理があるよ!」

「ふむ、そうか…。俺の魔力に呼応して姿を変える剣だったな。そうとわかれば、色々やれそうだ。」


 勇者は魔剣を大きく振りかぶった。


「さぁいくぞ!避けられるものなら避けてみろ!必殺奥義、遠殺剣ーー!!」


 勇者は剣を振り回した。


 ミス!華緒は攻撃を避けた。

 ミス!商南も必死で避けた。

 ミス!盗子は若干食らった。


「チッ、惜しい!」

「ってアホか勇者!はた迷惑な攻撃すなや!バーサーカーかおのれは!?」

「てゆーか今の“惜しい”は誰に対してなの!?やっぱアタシなの!?」


 確認するまでもなかった。


「チッ…小癪な小僧だ。だがいくら伸びようと、そんな大振りが当たるとでも?思慮の浅い奴だ。」

「フッ、お前も大したことないな…斬られた肩口に気づかんとは。」

「な、なにっ…!?」

「嘘だよ隙ありぃーー!!」


 勇者は正攻法が苦手だ。



とまぁそんな感じで、華緒をおちょくること数分。

絶妙な心理作戦も功を奏し、ついに懐に入ることに成功した俺。チャンス到来だ。


「ぐっ!おのれ小僧…舐めた真似ばかり…!」

「どうだ女、この近距離じゃ足も振り切れまい?自慢の風も威力半減だなオイ!」

「フン、それは貴様も同じこと!この間合いではむしろ剣士の方が…」

「剣士?俺は『勇者』だ!食らうがいい、選ばれし者のみ使える究極魔法を!」

「ハッ!しまった、魔法があったか…!チッ!」


 華緒は慌てて『魔防のマント』を被った。


 そこに勇者のミドルキックが炸裂!

 華緒はたまらず膝をついた。


「グハァッ!け、蹴り…だと…!?」

「フッ、面白いように引っ掛かるな。」

「な、なんかさっきから色々と酷すぎない!?ちょっとは手段を選ぼうよ勇者!」

「選んだ結果がコレだ!!」

「うわーん!今日も理不尽にキレられたよー!」


 こんな感じで終始、勇者のペースに乗せられている華緒。『嗟嘆四天王』と呼ばれるにしてはどこか物足りない。

 だがそれには理由があり、勇者はちゃんと気付いているようだ。


「貴様…暗殺美もしくは“2のオッサン”とやらに、それなりの深手を負わされてるだろ?巧みに隠してるようだが、少し動きが不自然だ。」

「なっ!?貴様…気づいて…」

「俺の目は節穴じゃないぜ?俺も万全じゃないとはいえ、手負い相手に遅れは取らん…ぞっと!!」


 勇者のボディブローが炸裂した。

 華緒の体が“くの字”に折れた。


「ぐっ、ぐっはぁああ!!」

「さーて、名残惜しいがトドメといくか。ほーれ風神の使い手よ、風となり空に消えるがいい。」

「ま、待て…やめっ…うわぁあああああ!」


 勇者は華緒を窓から投げた。




ポテンシャルとしては強敵だった華緒だが、騙されやすかったのと元々が手負いだったおかげで意外と簡単に倒すことができた。

普通にやったらどうなっていたか…。残り二人の四天王には、できれば会いたくないものだ。


「ふぅ、なんとか片付いたな…。にしても遠殺剣は魔力消費が激しい…残念だが封印だなぁこりゃ。」

「ってアホ勇者!武器奪ってから放れやもったない!神の装備やで!?絶対高ぅ売れたやん!」

「ところで商南、姫ちゃんと…ついでに暗殺美は無事なのか?」

「あ~まぁ一応な。意外にも姫が真面目に治療してるんやから驚きやで。」

「痛いの痛いの~…」

「…て思うてたウチが間違うてたわ。」

「痛いの…?」

「しかも聞いてるだけかいっ!」


 暗殺美はピクピクしている。


「あぁ、あと先公はどうなっ…」


バリィイイイイイン!!


 突如、全ての窓が砕け散った。

 勇者が窓の方へと向き直ると、そこにはどういうわけか…投げ捨てたはずの華緒の姿があった。


「なっ!?貴様は華緒…!なぜここにいる!?下界まで落としたはずだ!」

「…いいや、こやつはもはや華緒ではない。勝つために、自分の身を売り渡したのだ。」

「身を売り…じゃあ、まさか…!」



「そう、この俺…『風神:ビュンビュン』にのぉ。」



 そんなことより名前がウケる。

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