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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
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【091】天空城の戦い(5)

太郎が意外にもなくヤル気を出したかと思いきや、もっと意外な奴が化けていてビックリ。

容姿は幻術で変えてたにしても、あのキャラを演じきれるとは…思いのほか芸の幅の広い奴め。


「黒猫の中間報告で、知らぬ間に死んでる奴が一人いて少し気にはなったが…そうか貴様だったか、死神。」

「ええ。これだけの広さの割に警備が薄い…つまり全体を俯瞰で見られる能力者がいると思いましてね。少し細工を。」

「ったく、お前もしつこいなぁ死神よ。二度あることは三度…ってやつか?」

「え、先生ってば暗黒神と知り合いだったの!?世にも邪悪なコンビすぎるよ!」

「コンビだなんてとんでもない。彼は人生で唯一…私が殺意を抱いた男ですよ、盗子さん。」

「じゃあこれまでの他の犠牲者達はなんで!?」


 多分ただの趣味だ。


「フッ、思い出すなぁあの日をよ。テメェと『勇者』にやられたあの日の痛み…俺は忘れちゃいねぇぜ?」

「あの傷で生きていたとは驚きですよ。今度こそ、完全にトドメを刺します。」

「ハハッ!そりゃこっちのセリフだがなぁ!この数相手にどう足掻く?」


 百を超える兵隊が教師を取り囲んだ。

 だがその程度のことで教師が臆するわけがなかった。


「フフフ…皆殺しですよ。」


 “皆”の範囲がどこまでかは怪しい。


「ふむ…この俺を差し置いて話が進んでくのは若干気に食わんが…まぁいい。ここは任せてやるよ先公。俺はしばし休憩しててやる。」

「勇者君、お茶飲む?」

「ああ、じゃあ一杯もらおうか。」

「樽で?」

「今日はカップで頼む。」


 復活直後で未だ本調子ではない勇者は、しばらくは静観の構えを見せた。

 どう見ても大ピンチな状況にも関わらず、一切動じる気配の無い勇者らに対し、いきり立つ兵士達。


「あん?なんだクソガキ偉そうに!こんなヒョロい野郎に何ができるよ?」

「オイ!やっちまおうぜみんなー!」

「オォオオオオオオオオオ!!」


 兵士達は一斉に教師に襲い掛かった。

 だがやはり教師は動じない。


「フフ、やれやれ困った子達ですねぇ…。ハ~イ皆さん、注目~。」

「あ゛ぁ!?なん…」



「うっぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」



 勇者達に背を向けた教師がフードをめくりあげると、それを見た兵士達は悲鳴を上げて倒れ、狂ったように転げ回った。

 これには盗子をはじめ、暗黒神さえも驚きを隠せない様子。


「えぇっ!なんでいきなり全滅!?何したの先生!?」

「い、今のはまさか…『念瞳殺』か!?『死神:チャティ』の秘技を…ったく、そうかよ今やそこまで使いこなす程かよオイ…!」


念瞳殺ネンドウサツ

 その瞳を見た弱者を、例外なく死に至らしめるという極悪な瞳術ドウジュツ

 とりあえず正義の味方側が使うべき技じゃない。


「うっ、目にゴミが…!盗子さん、見てもらえます?」

「殺す気かっ!!」

「チッ、相変わらず規格外な奴め…。だがまぁとりあえず、これで形勢は逆転だよなぁ暗黒神。」


 まだ何もしていないのに、さも自分の手柄かのように勝ち誇る勇者。

 だが暗黒神にもまだまだ余裕があるようだ。


「フン、調子に乗るのが早いな小僧。調子ブッこいてると…死ぬぜ?」

「あん?貴様何を…ハッ!!」


 背後から不意打ちの一撃。

 勇者は間一髪で攻撃を避けた。


「なっ、馬鹿な!気配なんぞまったく…って、誰だ貴様!?」


 なんと、攻撃の主は先ほど教師に倒された戦士のうちの一人だった。


「えっ、なんで!?全員さっき先生にやられたはず…」

「んー、おかしいですねぇ。確実に屠ったはずなんですが。」

「じゃあやっぱ殺意向けてんじゃん普通に!」


ゴギュルッ!!


 兵士の首が180度回転した。


「うっぎゃーーー!な、なんてことすんだよ勇者!トラウマになるよ!」

「ふむ…やはりそうか。やっぱコイツら、もう死んでるぞ。」

「いや、そんなわけ無いじゃん!だって動いてんだよ!?」

「だがこの先公が仕留め損なうとも考えられん。となると答えは一つ…死してなお動いてるってことになるな、コイツらは。」

「えっ、コイツ“ら”…?うっわホントだ!今度は別の奴が動き出してる!なんかユラユラと…」

「この動き…私は前に見たことがあるよ盗子ちゃん。お好み焼き屋さんで。」

「何をどう間違えたらこんな窮地でカツオ節のモノマネに走るの!?違うから!」


 違わない方がむしろ怖い。


「んー、一体何があったんですかねぇ勇者君?」

「フン、俺が気付いて貴様が気付かんわけないだろ?索敵スキルはまだ貴様が上なのはわかっている。」

「おや、だいぶ成長しましたねぇ。では答え合わせといきましょうか。」


 相変わらずの子ども扱いに納得がいかない勇者だったが、歯向かうだけ時間の無駄なので話を先に進めることにした。


「オイ、そこのジジイ!お前だよお前!」


 そう言って勇者が睨みつけると、少しだけ時間を置いて、死体の山の中から一人の老師が立ち上がった。


「…小僧、なぜわかった?」

「さっき目が合った。それ以上の理由は必要ないだろ。」

「ほほぉ…意外と抜け目ない小僧のだようだ。」

「名乗れよジジイ。覚えてやる気はさらさら無いがな。」

「よかろう。我が名は『黒猫』、『嗟嘆四天王』が一人。職は…『死体使い』。」


<死体使い>

 死体の持つ情報から死者を再構築し、そして操ることができる職業。

 『霊媒師』のように魂を呼び寄せるわけではないため、死体に人格は無い。

 肉体に残る記憶を元に、死体使いが俳優顔負けの演技力で操るのだ。


「フン、知らん職業だな。まぁ名前から想像はつくが。」

「今や『死体使い』は“禁職”、知る者は少ない。それに知ったところですぐに死ぬ身…意味は無かろう。」

「すぐにでも死にそうな歳の分際で言うじゃないかジジイ。仕方ないな…こっちは俺が引き受ける、貴様は暗黒神をやるがいい先公。」

「おや、いいのですか?アナタも一度やられたクチでしょうに。」

「どうせ譲る気も無いんだろ?それに俺には…」


ガッキィイイン!!


 背後からの一撃を、勇者はなんとか防いだ。

 そして相手の姿を確認すると、悔しそうに睨みつけた。


「俺には…俺が倒すべき相手が、いるようだしなぁ…カルロス!!」

「ハハッ、やろうぜ…勇者!」


 行方不明になっていた剣次が現れた。


「えっ、その人って太郎達と一緒で賢二の仲間だった人じゃない…!?なんで敵側に…」

「馬鹿盗子め。さっきまでの話から考えりゃ…大体わかるだろうが。」

「えっ、じゃあその人ってもう…」

「フォフォフォ。彼はよくやったよ、嗟嘆様に手傷を負わせた者は何年ぶりか。」


 なんと、剣次は既に死んでいるらしい。

 勇者はなんとも言えない複雑な顔をしている。


「…一つだけ聞く。カルロスは…お前を殺せば開放されるのか?」

「私が死んでも朽ちるまで動き回るさ。解き放つ手はまぁあるが…貴様にはできまい。」

「舐めるなよクソジジイ、この俺に不可能などありえないし盗子もありえない!」

「この緊迫した空気でもそうくるの!?」

「ならば教えてやろう。死体とて人間だ、命令は脳を介す。首でもハネれば死体に戻(ジャキン!)


 剣次の頭部が宙を舞った。


「別れは済んだ、次は貴様だ。」


 勇者は久々にキメた。



「くっ、私としたことが…油断を…!」

「カルロスほどの強者…まともに相手をしたら骨が折れる。だが職業の性質上、貴様の判断が入るのは明らか…その隙を突けばいけると思ったぜ。まぁ油断してなきゃわからんかったがな。」

「やれやれ…してやられたわ。それにしても、何のためらいもなく仲間を…。貴様本当に正義の味方か?」

「正義の味方だぁ?フン、違うな。俺が…俺の存在こそが“正義”!俺の歩んだその道を、人が称えて使う言葉…それが、“正義”なのだ!」

「アンタそんな勝手な解釈で今まで生きてきたの!?」

「フォフォッ。実に面白い小僧だ、敵として葬るのは惜しいな、我が手駒となるがいい。」


 黒猫は両手を掲げた。

 教師に倒された兵が全て蘇った。


「うっぎゃー!本気出せば同時に複数人もいけるってこと!?一瞬でまた形勢逆転だよー!どどどどーすんの勇者ぁ!?」

「ならば再度逆転すればいいだけのこと!こんな雑魚が何人いようと…う゛っ!」


 勇者は激しい目まいに襲われた。


「勇者君、なかなかのステップだね…2点。」

「いや、多分アンタのせいで起きた貧血だから!てゆーかそれ何点満点の話!?」

「どうした小僧、そんな千鳥足で勝てるとでも…」


 片膝をつき、動けない勇者に黒猫が近づこうとした、その時―――


「勇者ー!コレ飲みぃー!頼まれとった例のモンやでー!」


 商南が現れ、勇者に向かって何かを放り投げた。

 勇者は『輸血球』を手に入れた。


 <輸血球ユケツキュウ

 噛むと口の中に謎の液体が湧き出し、飲むことで失われた血液を補充できる球。

 不味い方が効きそうというだけの理由で凄まじく不味い。


「えっ、商南!?あの冥符ってウザい奴はどうしたの!?」

「強力睡眠薬飲まして放っぽってきたわ。ごっつ苦労したでホンマ…。置き去りにされた恨みはいつか晴らすで盗子?とりあえず今は少し…休憩さしてもらうわ…」


 商南は気絶するように眠りに落ちた。


「(ゴク、ゴク…)プハァ~!くっそ不味い!だがグッドタイミングだぜ商南、貧血さえ治りゃこんな奴ら…ただの木偶にすぎん!」


 そしてもう大変なことに。




武術会の時の反省から、鼻血対策として商南に頼んでおいた薬のおかげで、やっとこさ復活できた俺。

ゾンビどもの中には一ヶ月前に共に来た兄丸や女闘らも含まれていたが、助けようもないので気にせずブッた斬った。運の無い奴らめ。


「ハァ、ハァ…雑魚とはいえさすがに手間だったが、なんとかなったな。」

「うわーん!目の前が大変なことになってるよー!血の海だよー!」

「海開きだね。」

「って違うから姫!まぁ違った意味で何かが開かれてるけどね!アジみたくね!」


 まさに地獄絵図だった。


「ば、馬鹿な…!あの者達から読み取った記憶では、武術会では彼らに苦戦していたはず…!」

「フッ、あの日は体調不良でな。今の俺は、眠くもなければどこも痛くない。」

「心は痛まないの!?まぁ答えはわかってて聞いてるけども!」

「それに、他の者達も嗟嘆十闘士と呼ばれた者達…それをいとも容易く…!なんて小僧だ!」

「貴様こそなかなかだぞジジイ。みんなとても操られてるとは思えん。人形術師でも食ってけたんじゃないか?」


 そして勇者は、たっぷりと殺意を込めた目を黒猫へと向けた。


「さぁ、これで残るは貴様だけだ。大好きな死体に自らがなれるんだ、喜べ。」


 勇者は剣を振り上げた。

 死の恐怖の前に黒猫は腰を抜かした。


「…ひ、ひぃいいい!こ、降参だ!もう私に戦う術は無い!見逃してくれぇー!」

「そう言われて見逃す馬鹿がいると思うのか?」

「アンタのポジションはそうあっていいとも思うけどね!?」


「死ね。」


ドゴォオオオオオオオン!!


 突如、謎の轟音が鳴り響いた。


「な、なんだ今の音は!?ハッ、あれは…!」


 砕け散った壁…その瓦礫の上に転がっているのは、重傷を負った教師。

 その様を、暗黒神が余裕の表情で見下ろしている。


「ぐっ…はぁっ…!!」

「フッ、オイオイどーした死神?こんな時間に眠いとは、随分いい子だなぁ。」


 まれに見る展開だった。

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