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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
90/196

【090】外伝

*** 外伝:凶死が行く ***


 ある日のこと。氷の大陸『ナシ大陸』…その地を治める『魔国マコク』の王城にて、待望の王子が誕生した。


「オギャー!オギャー!」

「おめでとうございます国王様。元気な女の子ですよ。」


 助産師が王に差し出したのは、生まれたばかりの女児。

 王は慎重に抱きかかえながら頬ずりし、歓喜に震えた。


「うぉー!なんて可愛い子なんだ!女じゃ世継ぎにはなれんが、元気なら良し!前から決めていたんだ、子が女だったら『凶優キョウユ』、男だったら…」

「違うわアナタ。もう一人、双子の男の子が…でも全然泣いてくれなくて…」


 王妃が心配そうに見つめる先には、寝台に寝かされているもう一人の赤子の姿があった。

 確かに泣いてはいないが、よくある生命活動の危機とかそういう感じではなく、なぜか生後間もないとは思えないほどに平然としている。


「なんてこった!あっ、こういう場合は確か尻を叩くんだったよな!?ワシに任せろ!」


パン!パンッ!


「……オ…オギャ…」

「お?おぉ、そうだ!いいぞ泣け!泣くんだ!ホラ!ホラホラ!」


パンパンパンッ!


「オ…ギャ……」

「そうだ!そうだ頑張れ!」


「オ…オギャレス!!」

「グァオオオオオオオオオ!!」


 魔獣『オギャレス』が現れた。


「なにぃーー!?」

「ぎゃー!王子が魔獣を召喚したー!!」

「ばいばい。」

「おぉ!?しゃ、喋ったぞ!なんて賢い子なんギャーー!!」

「あ、アナターー!!」


 悪魔が誕生した。




私の名前は『凶死』。妹の『凶優』と共に魔国に生まれ落ち、二年が経ちました。

争いが嫌いな私は、人を傷つけない『幻魔導士』を職業に選んだのですが…どうやら父上は、それがお気に召さないようです。


「なぜだ凶死!?次期魔国王たるものが、なぜ幻魔導士なんぞ…!フザけるな!」

「父上こそフザけないでください。自分の人生くらい自分で決めますよ。」


 まだ二歳児にも関わらず、国王に平然と食って掛かる凶死。

 藍色のローブのフードを目深に被るスタイルはこの頃から変わっていなかった。


「ならんならん!王家の者がそんな職に就くなんて前代未聞だ!許さ…むっ?」


 激高する父の袖を掴んだのは、凶死の双子の妹である凶優。動物の着ぐるみのようなピンク色の耳付きフードを被っている。

 凶死は目元が見えないため似ているのかはわからないが、凶死と同じ銀髪に、とても愛らしい瞳が特徴的だ。


「お、おとぅさん…」

「凶優は黙っていろ!これは女にはわからん、男の世界の話だ!」

「お、おにぃちゃん…」

「凶優は下に降りていなさい。わからず屋には、こっぴどい教育が必要です。」

「うぅ…わかったの…」

「ほぉ…父であり王であるこのワシに、教育だと?分不相応も甚だしいぞ凶死!」

「争いは嫌いですが…私の前に立ちはだかる者は、徹底的に排除しますよ。」

「フッ、さすがは我が子だ。それでこそ『悪魔王』の名を継ぐにふさわしい!」

「私はそんな禍々しい称号は要りません。父上の代で勝手に滅んでください。」

「やれやれ…どうやらワシは、少々お前を甘やかし過ぎたようだ。改めようか!食らえぇえええええい!!」


ドガァアアアアアン!!



「あらあら、何かしらこの音?またお父さんが暴れてるのかしらねぇ、凶死?」

「…さぁ?自分の尾でも追い回しているのでは?フフフ…」


 ミス!攻撃はとっくにかわされてた。




そして一年が経過し、私は三歳になりました。

嫌だと言っているのに、父上は王を継げと相変わらずしつこいです。

でもまともに戦うにはさすがにキツい相手なので、こっそり国を出てやることにします。


「ねぇ、ホントに行っちゃうのお兄ちゃん…?イヤだよ行かないでよ。」

「さよならです凶優。縛られた人生はごめんです、私は私の道を行きます。」

「行っちゃうなら殺します…」

「久々に血の繋がりを感じました。きっと一人でもたくましく生き…なっ!?」


 凶優は鎖を放った。

 凶死は一瞬で縛られてしまった。


「ふぅ、さすがは我が妹…『鎖使い』としての実力は、早くも一流ですねぇ。」

「かんきんするの。」

「妙な考えはヤメなさい凶優。この程度の力で私を監禁なんて…」

「200銅(約200円)…」

「か、“換金”…!?」


 しかも格安だった。



「…で、ここはどこです凶優?城の地下にこんな洞窟があったとは私も知りませんでしたよ。」


家を出ようとしたところ不覚にも妹に捕まり、私は謎の地下洞窟に囚われてしまいました。

父上のような直情型は扱いが簡単なのですが、凶優は言動が普通じゃないため、たまに読み切れない時があります。


「にしても、この部屋にある物は…なにかと興味深いですね。」


見渡すと、辺りには所狭しと拷問器具の数々が並べられています。

また、その隙間を縫うように、見たことも無い鉱石なども置かれていました。

そしてなにより、部屋全体に立ち込める強烈な威圧感…。この地下室には、何かとんでもないものが隠されている気がしてなりません。


そういえば、かつてこの辺りは『星降る大地』と呼ばれ、隕石の欠片など様々なものが宇宙から飛来したと聞いたことがあります。

もしかしたら、面白い魔法薬の素材になるものが見つかるかもしれません。


「ここは私の秘密基地なの。この場所は私しか知りません。今は、もう…」

「かつて知っていた人をどうしたのか教えてください。まぁ想像はつきますが。」

「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんです。行っちゃイヤなの。ダメダメなの。」

「…はぁ、わかりましたよ。逃げないので鎖をほどいてください。」

「え、ホント…?ホントに逃げない?絶対絶対逃げない?」

「私は安い嘘はつかない主義ですよ。」

「嘘じゃないよね?嘘ついても針千本飲ませますよ?」

「つかなくても飲ませる気ですか。いいから早くほどきなさい、怒りますよ?」


 凶優は鎖をほどいた。


「…やれやれ、酷い目に遭いました。さて、では行くとしますか。」

「え…?ひ、酷い!話が違いますよお兄ちゃん!嘘つきー!」

「嘘?違いますね。逃げはしない…お前を倒し、私は堂々と出て行くのです。」


 凶死は拳をポキポキ鳴らした。


「どうやら私はお前を可愛がりすぎたようです。教育が、必要ですね。」

「行っちゃえ『縛鎖竜バクサリュウ』!本物は…あの柱の陰に!」

「な、なにっ…!?」


 凶優の攻撃。

 凶死は間一髪で攻撃を避けた。


「まさか私の幻術が見破られるとは…。二卵性とはいえ双子だからですかね。」

「お兄ちゃんのニオイがしたの。」

「お前は獣か何かですか。ブラコンなのも大概にしてください。」

「私に効かないの。幻術じゃ私には勝てませんですよ。」

「やれやれ…私も舐められたものですね。いいでしょう、本気でいきましょう。」


 凶死は覚悟を決めた。



 それからしばらく、凶死と凶優による“兄妹喧嘩”の一言では済まないガチバトルが展開された。

 実力でいえば凶死が断然上なのだが、凶優はこの日のために入念な準備を進めていたようで、数々の隠し罠や暗器が凶死を襲った。


「…ふぅ、やれやれです。なかなか厄介なものが隠されてますねぇこの部屋。厳重に施錠されてたわけです。でもそれも…『鎖使い』の前には無力でしたか。」

「うん。細い鎖を操れば、鍵開けなんてチョチョイなんだよ。」

「仮にも王女なんですから、盗っ人のような真似はヤメなさい。酷い目に遭わせますよ?」


 だから盗子は酷い目に遭うのか。


「大人しくしてねお兄ちゃん。地の利は我にありだよ。」

「ハァ…私も甘く見られたものですねぇ。その程度の備えで私に勝てるなど…」


 凶優は怪しげなスイッチを押した。

 部屋中に仕掛けられた二十の砲門が凶死へ向けられた。


「ちょっ、限度が…」


ズガガガン!

ズドドドン!

チュドォーーーーーン!!


 引き止めたい人間の攻撃じゃない。




「…ブハッ!ハァ、ハァ…危ない危ない。さすがの私も…ピンチですかね…」


 凶優の激しい攻撃をかろうじて凌ぎ、ヨロヨロと瓦礫の中から這い出た凶死。

 その言葉通り、かなりのダメージを負ってしまったようだ。


「壁の中にこんな隠し部屋があったとは知らなかったの。そして、これ…」


 そう言って凶優が手を置いたのは、古びた銀色の棺。後に勇者達がシジャン城の地下で目にすることとなる、『邪神』を封じていた棺と同じ模様が刻まれている。よく見ると鍵穴も三つあった。

 何か凄まじい衝撃でも受けたのか全体的に傷だらけだが、魔法陣で補強されているところを見ると未だ何かしらを封印しているようだ。


「この箱は初めて見るの。きっと中には強い武器が…」

「ま、待ちなさい凶優!この銀の棺は…以前伝承で見た、かの大戦の頃に生み出されたという『神封じの棺』に似ている。とても…嫌な予感がします。」

「つまり…開けない方が良かったと?」

「なんですかその事後感…なっ、凶優!?」

「え…?キャッ!!」


 なんと!棺の中から男の手が伸びてきた。

 凶優は棺の中に引きずり込まれた。


「お、お兄ちゃ…あ゛っ!あっ…あっ…ガッ……ハッ……」

「凶優ッ!!!」


 凶死は咄嗟に駆け寄ろうとしたが、棺から噴き出すあまりにも凶悪なオーラに、不覚にも足がすくんでしまっていた。

 そしてその間に凶優の声は次第に小さくなり、ついには息遣いすら聞こえなくなった頃…棺を開けて現れたのは―――


「…さっきまで大暴れしてたのはテメェらか?とんだ目覚ましだ、寝ぼけた頭にゃキツい騒がしさだったぜ。」


 再び棺から出てきた屈強な男の右腕。

 我に返った凶死は慌てて身構えた。


「だ、誰ですかアナタは!?いや、それより凶優は…!」

「どうやらここに封じられてたようだが、おかげで出てこられたよ。俺の名は…嗟嘆だ。」


 『暗黒神:嗟嘆』が現れた。

 口元からは血が滴っている。


「さ、嗟嘆…?まさか伝説の暗黒神!?でも確か五百年前の大戦で宇宙に封じられたと聞きましたが…ハッ、凶優!凶優は…!?」

「きょうゆ…もしかしてあの小娘のことか?美味だったぜぇ、目覚めの血は。」

「き、貴様…凶優を…私の妹をよくも…!」

「おっ、いいねぇその表情!もっと“光”を失え、そして堕ちろよ“暗黒”に!」



 その頃…魔国城から少し離れた場所には、後の凶死と同じく『死神』の名を冠する男…相原の姿があった。


「あら、どうしました相原先生?右目を押さえて…痛むのですか?」

「うむ…だが心配無用だ冴子君、少し疼いただけだよ。」


 相原と共にいるのは、凶死と同じか少し上くらいに見える少女。

 名前からしてカクリ島の女医の幼少期の姿のようだ。


「大丈夫です、心配はしてないので。」

「いや、それは少々悲しいのだが。」

「その『死神の目』が疼く…どうにも不吉ですねぇ、さすがは凶国『魔国』。」

「城の方で何かが起きている気がする…急ぐぞ冴子君、胸騒ぎがするのだ。」

「切開しますか?」

「いや、胸騒ぎは手術じゃ治らないんだ。キミも医師を目指すなら…」

「いえ、切りたいだけなので。」

「冴子君…」


 どっちが『死神』なのか。




「ぐっ、うぅ…カハッ!こ、ここまで…ですかね…」


 復活した暗黒神を相手に、三歳児とは思えぬ見事な抵抗を見せた凶死だったが、さすがに伝説相手には勝ち目は無いようで既に瀕死の状態となっていた。


「ったく末怖ろしいガキだぜ…。この歳で大した実力だ、消すなら今だなぁ。」


 苦しそうに横たわる凶死にトドメを刺すべく、右腕を振り上げる暗黒神。

 だがそうはさせまいと、飛び込んでくる者があった。


「おっと、殺させはせんぞ!その子は我が国の希望だ、殺させてたまるかー!」


 間一髪で魔国王が間に合った。


「ち、父上…ですか…?」


 疑問形で尋ねる凶死。

 なぜなら凶死の両目は、暗黒神により潰されていたのだ。


「凶死、お前その目…!この父の姿が見えんのか…!」

「ええ、眼中に無いです。」

「む、息子よ…!」


 そんな二人のやりとりを、なぜか黙って見ていた暗黒神。

 なにやら助けに現れた魔国王の姿に見覚えがあるようだ。


「貴様…俺を封じた一味の末裔だな?よく似た顔の奴がいたよ。」

「…祖先が天に封じたはずの棺がこの地に降り注いだ時、いつかはこんな日が来る気がしていた。だがまさか、我が子らが犠牲になろうとは…。こうなる前に滅ぼせなかったことが悔やまれる。」


 かつての大戦で宇宙に封じられたという暗黒神だったが、時を経て地球に舞い戻っていたのだという。

 だが倒せるだけの戦力が無かったため、魔法陣で封印を強化して時間を稼いでいたようだ。


「逃げろ凶死、お前は逃げて…生き延びるんだ。ここはワシに任せなさい。」

「実力不足です。」

「息子よ…!」

「泣かせる譲り合いだが安心しろ、まとめて殺してやるからよぉ!!」

「くっ!もはや猶予は無い…うぉおおおー!行けぃ凶死、さらばだーー!!」

「なっ…!?」


 王は息子を力一杯放り投げた。

 着地をミスったら死ぬ。




「う゛ぅ…こ、ここは…?」


 事件から三日が経った頃、凶死はようやく目を覚ました。

 そこは船室のようで、傍らには相原と冴子の姿があった。どうやらこの二人が凶死を助けたらしい。


「おぉ、意識が戻ったようだな少年。死んでもおかしくない大怪我だったんだが…大した生命力だ。」

「特に全身の打撲が酷かったわ。かなりの高所から叩きつけられたようね。」

「それは父から受けた虐待です。」


 やっぱり着地に難があった。


「キミのその首飾り…魔国の王族と見るが、城で何があったのかね?あの爆発…」

「ここはどこですか?魔国は…私の祖国はどうなったんでしょうか?」

「アナタを拾ってすぐ逃げたから、よくは知らないわ。今は海上だから安心よ。」

「…私は、また戦えるようになりますか?可能な限り、早いうちに…!」

「ふむ…体の方はなんとかなるが、目は両目とも失明…厳しいやもしれん。」

「見えないことはさして問題ではありません。全人類を消し去るまでですから。」


 考え方の方が問題だった。


「そ、その邪悪な思想…キミならばあるいは、“あの目”の力に耐えうるやも…」

「せ、先生何を言ってるんですか!?馬鹿は休んでてください!」

「いや、それを言うなら“馬鹿も休み休み言え”だと…」

「わかってて言ってますから。」

「冴子君…」

「あの目…とは?」


 相原の意味深な表現が気になった凶死に、相原は少し悩んで…そして答えた。


「宿主の命を食らい、その力を飛躍的に増大させる魔の瞳…『死神の目』だよ。」


 こうして『死神の凶死』が誕生した。




 それから一年の月日が流れ―――


「やはり行くのかね凶死君?まだあまりムリはさせられん状態なんだが。」

「まぁ移植の後遺症にも慣れましたしね、これ以上のんびりはできませんよ。」


 旅立ちの準備を済ませた凶死は、相原達に別れを告げようとしていた。

 いつものようにフードを目深に被っているため目元は見えないが、口ぶりからすると手術は無事成功したようだ。


「でもどこへ行く気なの?暗黒神の噂なんて不気味なくらい全く聞かないけど?」

「とりあえず帝都へ向かおうかと。ここからならそう遠くはないですしね。」

「なるほど、いい案だな。人が多ければそれだけ情報も入りやすい。」

「悪は血のニオイには敏感なものです。」

「一体何をする気かね…?」


 帝都の民に危険が迫る。


「あ~ところで凶死君、手術代はどうする?まぁ高額だし、現金が無理なら物や行為で返してくれても構わないがね。」

「では゛仇”で返します。」

「こ、今回は無料としようか。」


 相原は助けたことを後悔した。


「ま、気をつけることね。世の中、アナタより強い人なんて山ほどいるわ。」

「フフフ…楽しみですね。そういう輩に絶望を与えるのは…ね。」


 こうして凶死は帝都へと旅立ち、そして凱空と出会うことになる。

 その後、なんだかんだで暗黒神を一度は倒すことになるのだが…


 それは、また少し先の話。

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