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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
9/196

【009】二号生:ゴップリン討伐(3)

 勇者が大変な目に遭った後、さらに大変な目に遭いそうになっていた頃、賢二らもまた大変な目に遭っていた。

 賢二の防御魔法〔絶壁〕によりなんとか攻撃を防いではいたが、それももう限界のようだった。


「ひぃぃいい!も、もうダメだよ盗子さん、もうMPが…!」

「そ、そんなこと言わずに頑張って賢二!出るよ!振り絞ればもう少し何か出るって!」

「出ちゃう出ちゃうよ!魂出ちゃうよぉーー!」


 そしてついに魔法が消え去った。それを見たゴップリンはゆっくりと近づいてくる。


「フン、ちょこざいな小僧よ。後頭部への攻撃といい今の防御といい…見た目によらず侮れん小僧だ。しかし…」


 限界を過ぎて若干魂が出かけている賢二を見下ろしつつ、ゴップリンは右腕を振り上げた。

 賢二はもう疲れて動けない。


「い、い…いやぁあああああ!お助けぇええええええ!!」

「賢二!気合いで右へ飛べ!!」


 突如、背後から聞こえてきた声。

 賢二は力を振り絞って右後方へと飛びのいた。


「フン!逃がすかぁああああああああああ!!」


カチッ


「ぬっ!?」


 賢二を追って動いたゴップリンは、地面に埋まっていた何かをうっかり踏んだ。

 鋭い閃光と爆音が辺りに轟く。


ズガァアアアアアアアアン!!


「ぎゃぁあああああああああ!!」


 ゴップリンの足元を起点として、突如巻き起こった謎の大爆発。

 強烈な爆風に紛れて何かの破片が宿敵の頬を掠めた。

 その破片の色合いは、つい先ほど見た“アレ”の色に似ていた。


「い、今のはもしや…さっき親父さんが持ってきた、勇者君の“地雷”の…!?」

「フッ…その…まさかだ。」


 苦しそうだが偉そうなその声の主は、まだ顔色は若干青ざめてはいるものの、なんとか立ち上がってきた勇者だった。

 慌てて駆け寄り肩を貸す盗子。


「ゆ、勇者!気が付いたの!?」

「ああ、死ぬかと思ったがな。」

「てゆーか姫がなんとかできたの!?」

「ああ…死ぬかと思ったがな…」


 なんとなく後者の方がヤバかったようにも聞こえた。


「でもさ勇者、地雷なんて一体いつの間に…?」

「ん?あぁ、さっき煙幕を張ったときに…ちょっとな。」


 最初の一撃を入れる前、四方に動き回っていたのはこの地雷のためだったことが発覚。

 仲間達も危険なはずなのに、一切知らせないあたりが実に勇者らしい。


「ぐっ、そうか…攻撃前のあの動きは、ただのかく乱のためではなかったのか…おのれ…!」


 消えかけた爆煙の中から、フラフラと立ち上がってきた傷だらけのゴップリン。

 自身も手負いではあるものの、この勝機を見逃す勇者ではない。


「フッ、調子に乗りすぎたな馬鹿めが!この俺を甘く見たのが運の尽き!」


 勇者はバズーカを取り出した。


「後悔を胸に、死ねぇえええええええええ!!」


 勇者はバズーカをブッ放した。

 砲弾はゴップリンの鳩尾にめり込んだ。


「ぐはぁああああああああああ!!」


 『勇者』らしさは皆無だが勇者は気にしない。



「ふぅ…終わった…」


 天を仰ぎつつ目を閉じ、静かに拳を握り締める勇者。

 勝敗は決したかと思われた。しかし―――


「わっ!や、やめてよ触んなこの変態!」

「ギャハハハハ!形勢逆転だなぁクソガキィ!」

「なっ、盗子!?」


 なんと、しぶとくも立ち上がってきたゴップリン。

 しかも盗子を左腕で抱え人質に取っている。


「おっと、動くなよ?一歩でも動いたらこのガキの命は」

「構わん!死ねぇええええええええええ!!」

「なにぃいいいいいいい!?」


 まさかの即答に驚くゴップリンと盗子。

 勇者は振りかぶった剣を、一切のためらいもなく振り切った。


ザシュッ!


「ぐぁあああああああああああ!!」


 会心の一撃!

 ゴップリンの左腕を斬り落とした。


「チッ、浅いか!」

「いや、浅くないよ!?もしその剣が折れてなかったらアタシ死ん…えっ、そういう意味!?」

「うぐ…お、俺の…俺の腕が…おおお俺の…俺の…」


 苦しそうに悶えながら、地に落ちた左腕を見つめ放心状態のゴップリン。

 そして一転、火の付いたように激怒し怒号を発した。


「この俺様の腕を…許さんぞぉおおおおおおおおお!!」


 パワーアップフラグが立った。


ドッゴォオオオオオオオオン!!


 気が付くと目の前にあったゴップリンの姿が消え、勇者の背後で何かが岩壁に叩きつけられたような音が聞こえた。


「なっ…け、賢二!?」


 ゴップリンの右腕は壁に深く押し込まれており、その手には賢二の顔面が握られていた。

 効果音で表すなら“ぐしゃっ”って感じだ。


「いやあああああ!賢二ぃいいいいいい!?」

「くっ…落ち着けクソ盗子!集中してないと次はこっちが狩られる!」


 身構える勇者の方へと、ゆっくりと向き直るゴップリン。

 その表情は、先ほどの激高など無かったかのように落ち着いたものだった。


「やれやれ…これが奴の真の実力なんだろう。ここからが本番のようだな。」


 その明らかな状況の変化に、勇者はゴクリと唾を飲んだ。

 どう考えても風向きは良くない。だが、悪い話ばかりでもなかった。


「よ、良かった勇者!まだ息があるっぽいよ賢二!」

「なっ!?そうか、魔法力を頭部に集中して守ったか…!ったく防御だけ得意とは使いづらい奴め!」

「回復は私が頑張るよ!」

「オーケー任せたぜ姫ちゃん!だが『接着剤』は無茶だ!」



 一応賢二は生きてはいたものの、勇者は怪我人、その他は戦力外。万事休すといった状況。

 だがそんな中、ようやく本日の役立たずの筆頭である宿敵が立ち上がった。


「ならば、今度は僕がいこう。こんなに見せ場が無いままじゃ…キミのライバルとして立つ瀬が無いしね。」

「お前この体たらくでまだそんな口がきけるのか。無駄にポジティブにも程があるぞオイ。」

「ち、違う僕だってできるんだ!僕だって、キミみたいにこういうちゃんとした武器さえあれば…」


ガッシャアアアアン!


 武器はゴップリンに破壊された。


「フッ…や、やっぱり今回はキミに譲ろうぐぇええっ!!」


 顔面に勇者の拳がめり込んだ。

 宿敵は気を失った。


「チッ、まずいな…。敵はパワー全開、手負いの俺に残った武器は折れた剣のみ…こりゃあ詰んだかもしれん。」

「ゆ、勇者…」


 いつになく弱気な勇者を心配そうに見つめる盗子。

 その空気は当然ゴップリンにも伝わっていた。


「フフッ、やっと諦めたか小僧。ならば最後は、この“魔剣”にてトドメを刺してくれよう。」

「うわっ!な…なんて剣なんだ!」


 ゴップリンの右手には、漆黒の鞘に漆黒の刃…明らかに邪悪な雰囲気を纏った、勇者の身の丈ほどもある巨大な魔剣が握られている。

 その姿を見て驚く勇者にゴップリンは気を良くした。


「ハッハッハ!ビビッたか小僧!?」

「なんて趣味の悪いデザインなんだ!」

「そこにかよ!! …あっ!」


 なんと!盗子が魔剣を盗んだ。


「アタシだってやるときはやるんだよ!受け取って勇者ーー!!」

「フッ、でかした!盗子のくせに生意気な!」

「チッ、小癪な…!」


 魔剣が奪われ一瞬狼狽したものの、まだ鞘に納まった状態の魔剣を見てすぐに持ち直すゴップリン。


「ハッハッハ!だが残念だったなぁ!その剣は邪悪な者にしか抜けな…」

「ふむ、なかなかの剣だな。」

「抜いとるぅーーーーー!!」


 勇者はまた一歩『魔王』に近づいた。

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