【089】天空城の戦い(4)
戦仕をウザ界に残し、空間の穴に飛び込んだ盗子達。
どこに飛び出すか心配だったが、見渡すとそこは、ひょうたんに飲み込まれた時と同じ部屋のように見えた。
「あっ、やった戻ったー!意外にも無事に戻って来れたよー!」
「な…にぃ…!?な、なんでテメェらが…!?確かに…我輩のひょうたんに…!」
「ふーんだ!楽勝で戻って来ちゃったもんねー…って、あれれ??」
やはり同じ部屋だったようで、そこには盗子らをひょうたんに封じた金隠の姿があった。
だがなぜかボロボロに傷つき、縄でグルグルに巻かれている。
「へ…?アンタそんなカッコで何してるのさ?新手のプレイかさ?」
「ラーメンに合いそうだね。」
「えっ、チャーシュー的な!?いや、食べちゃ駄目だからね姫!?」
「あ゛ぁ?テメェらのお仲間の趣味だろが!あの剛三とかいう男…許せん!」
「はぁ?ゴウゾウ…って、誰?」
どうやら金隠は、後から現れた帝都守護隊の剛三に倒された模様。
さすがは帝都を守る隊の隊長なだけあって、その実力は確からしい。
「よくわからないけど謎の味方がいるっぽい感じさ。まぁとりあえず、金隠がこうなってる以上ここに残る意味は…ハッ!」
暗殺美はとっさに身をかわした。
暗殺美の頬が軽く切れた。
「ご、ゴメンなさい…。あまりに隙だらけだったものだから、つい…」
先ほど気絶させた銀隠が目を覚ました。
「おぉ、起きたか銀隠!そうか、寝てたおかげで奴らにやられずに済んグェッ!」
「いいから寝てろさ。アンタにまで復活されたら色々と面倒で困るのさ。」
今度は金隠が気絶した。
「よくも兄を…!アナタなんかこの『風神の靴』で踏んで蹴ってゴメンなさい…」
「やる前から謝るなよ!そこはもっと強気でいいとこだよ!?」
「そういやアンタには借りがあったの忘れてたさ。その靴…風神の靴は、私がもらうさ。」
「ダサい靴だね暗殺美ちゃん。」
「と…盗子がもらうさ。」
「なんで!?」
「兄のカタキ討ちがあるので遊んでられませんゴメンなさい。一瞬でキメます。」
「フン、アンタごときに神器が使いこなせるとは思えないさ。調子乗んなさ。」
「フフッ…じゃあ、死んでもゴメンなさいっ!」
銀隠は足を振り抜いた。
なんと床がザックリ裂けた。
「うわっ!風圧だけで床が裂けた!?ヤバいよヤバいよこの風はヤバいよ!」
「安静にしてなきゃね。」
「そっちの風邪じゃないよ!安静にしてたらそのまま永眠させられちゃうよ!」
「持つだけで、ある程度強くなれるのが神の武器。弱い使い手がいるとでも?」
「くっ…!」
ゴップリンに謝れ。
「だ、大丈夫暗殺美?勝算はありそう?アタシも手伝おっかイヤだけど…?」
「ふ、フン!どんな攻撃だろうと食らわなければ負けは無いのさ、見とけさ!」
「フフ…この靴が攻撃のみとでも?もちろん素早さも一級品で、ゴメンなさい!」
「だーかーらー調子乗んなって言ってるさ!秘奥義『風林火山』…『風の舞』!」
二人の姿が消えた。
なにやら戦ってそうな音だけが聞こえる。
だが、やはり暗殺美の方が分が悪いようだ。
「うぐっ…!こ、これが風神の…!」
「やっぱり武器の差が…!待ってて暗殺美、やっぱアタシも加勢…」
「いいからアンタらは先に行けさ!足手まといにも程があるのさ!」
「で、でも敵は神の武器持ってるし一人じゃ…」
「トドメで、ゴメンなさい!!」
ドガッ!!
銀隠の攻撃。
だが謎の影が攻撃を防いだ。
「ならば私が手を貸そう。やはり戻ってきて正解だったな。」
「えっ、誰なのアンタ!?」
現れたのは、帝都守護隊の昭二だった。
「剛三はイカつい見た目の割に人が良すぎる。誰かが汚れ役を買って出ねば、こういった事態に陥るというのなら…私がやるしかあるまい。」
「よくわかんないけど助かったさオッサン。名乗ることを許すさ。」
「私か?私は『帝都守護隊』二番隊隊長、昭二。気軽に“パパ”と呼んでくれたまえよ。」
「ジョークなのか変態なのか判断に迷うけど気にするのはやめるさ。帝都守護隊…つまり帝都から援軍が…?」
「そう、我ら守護隊はあの『帝都護衛軍』から更に選り抜かれし最強の部隊…」
「さっき言ってた剛三とやらも同じかさ?結局のところ味方なのかさ?」
「我らも暗黒神に仇なす者ゆえ、味方と言えるだろう。パパは味方だよ昭子。」
「だから勝手にパパんなんなや!それに誰が昭子さ!」
「見てるかい天国の母さん…洋子は反抗期だ。」
「昭子はどこいったさ!」
暗殺美は集中できない。
助っ人として現れた帝都のオッサンは若干不安なキャラではあったが、疑う時間も惜しかった盗子は、姫と二人で上の階を目指した。
もうじき最上階に着きそうな感じでドッキドキだ(盗子だけが)。
「なんか段々変な冷気が漂ってきてない…?それともアンタと二人ってのが不安だからかなぁ…?」
「安心してよ盗子ちゃん。今回も私は頑張るよ。」
「いや、“も”って時点で期待できないんだけどね…」
「ところで勇者君はどこ?かくれんぼの鬼にしては頑張りすぎだよ。」
「そりゃ当然かくれんぼじゃないからね!そもそも隠れるのは鬼じゃないし!」
「勇者君…会いたいなぁ…」
「あ、アタシだって…!言っとくけどアタシの方が好きなんだかんね!?」
「オヤツ…」
「えっ、そういう存在!?アンタにとっての勇者ってオヤツくれるだけの人!?」
「そんなことないよ、他にもイッパイくれるよ。」
「ゆ、勇者…」
報われる恋は無いのか。
「…とか言ってる間に、多分もうじき頂上だよ姫。暗黒神がいるよ?心の準備はいい?」
「走ったらちょっと暑いよね。どっかで涼んでいこうよ。」
「ってだからなんでそんな終始お気楽ムード!?それにどっかってどこだよ!」
「あ、見て盗子ちゃん。なんか涼しいのが出てる部屋があるよ。」
「くっ、なんで都合よくそんな部屋が…!って、開けないでよね怖いから!?」
「おっけ~。」
ガチャ
「って聞けぇーー!!」
姫は勝手に扉を開けた。
その中を見て、盗子は凍りついた。
「え…えっ、えっ…!?ちょっ、えっ、な、何コレ…?ど、どーゆー…こと…?」
「氷の柱…?これカキ氷何杯分かなぁ…?」
「こ、氷の中…?ウソ…ゆ、勇者ぁーーーーー!!」
勇者はもっと凍っていた。
「ゆ、勇者…!?ななななんで勇者が氷の中に!?い、生きて…るの…?」
姫が勝手に入った部屋の中には、なんと氷柱に封じられた勇者がいた。
以前に太郎達がこの城で発見した魔王と同じ、黒く巨大な氷の柱だ。
「待っててね勇者君!すぐ食べるよ!」
「普通に溶かせよ!なんでわざわざ自分に素敵な方に持ってくんだよ!?どう見ても誰かに封じられてるじゃん!」
「じゃあ、私がなんとかするしかないね。」
「え!アンタ何か手ぇあるの!?」
「火の魔法なら…一つ、知ってるよ。」
だが加減は知らない。
「アンタ『療法士』なのに、相変わらず使える幅広いよね…。どこで覚えたの?」
「前にご本で見たの。でも使っちゃうのは初めてだよ。」
「へぇ~。で、ちなみにどんな魔法?どんくらいの威力があんの?」
「たまにかき混ぜないと焦げるって。」
「“とろ火”かよ!!昨日のカレーを温める的な魔法じゃん!却下却下ー!」
「盗子ちゃんは何も無いの?」
「う゛っ…あ、アタシはいいの!無知で無垢な感じを売りにしてくの!」
「なんもないの?」
「なんもないのっ!」
「ハイ、『アンモナイト』。」
「ッ!!?」
姫は『ダイナマイト』を取り出した。
勇者は一瞬ピクッとなった。
「あ!それ前にも使ったダイナマイト…って死んじゃうよ!勇者砕けちゃう!」
「大丈夫、こう見えてプラモは好きだよ。」
「くっつかない!くっつかないよ!ボンド的な物でなんとかなりはしないよ!?」
「いつもパーツが余るよ。」
「しかも得意じゃないじゃん!」
「気にしないでドカーンていこうよ。」
「ッ!!!」
「ちょ、ヤメ…って、今勇者ピクッとしなかった!?もしかして意識あるの!?」
「そういえばずっとこっち見てるよ。」
「そういえばずっとこっち見てないよ!何度か立ち位置変わってるのに!」
どうやら勇者は元気だ。
ふ…ふむ…なるほど。状況はよくわからんが、恐らく姫ちゃんの声が聞こえたことで意識を取り戻せたっぽい俺。
だが仮死状態から覚めてしまったので、このままじゃヤバい。もはや凍死寸前だ。
「よ、良かったぁ~…とりあえず生きてる…!良かったよぉ~!」
「勇者く~ん、出てきていいよ~。」
「いや、そんな簡単にいくなら今こうなってないから!なんとかしないと…!」
「体温上げれば溶かせるねきっと。」
「どんな体温だよ!こんなの溶かせる体温なんか出したらその時点で死ぬから!」
「パンチラ。」
ブボッ!!
姫は自分のスカートをめくった。
勇者は例のごとく大量の鼻血を噴いた。
「ちょっ!ななな何してんの!?嫁入り前の女の子がそんなはしたない…!」
「パンツ見たら燃えるって、前に変態さんが言ってたの。」
「それって“萌え”とかじゃない!?てゆーかそんな変態と知り合いなのもどうなの!?」
勇者は痙攣している。
「うわー!勇者が死にそうだよー!って、でも少し氷溶けてる!?マジで!?」
「もう一押しだね。」
「それは死への後押しだよ!?これ以上は死んじゃうってば!」
「でも放っといたらまた冬眠しちゃうよ。チャンスは今だよ。」
「う゛っ、確かに…。じゃ、じゃあ!今度は…今度はアタシがパンツを」
バリィイイイン!!
勇者は“怒り”で燃え上がった。
氷は崩れ落ちた。
盗子も崩れ落ちた。
姫ちゃんだけのおかげで、無事(無事?)氷から抜け出すことができた俺。
なぜ氷が溶けたかは微妙にわからんが、血が溶かしていたような感覚がある。
やはり邪悪な魔法なだけに、俺の聖なる血液とは相性が悪かったようだ。フッ。
「勇者~!無事で良かったよ!まぁ無事に見えないくらい血まみれだけども!」
「おかえり勇者君。」
「ああ、ただいま姫ちゃん。」
「ハァ…今日も気持ちいいくらいスルーだな…」
「ところで今はいつだ?だいぶ眠っちまったようだが…まぁどうであれやることは変わらんか。とにかく行くぞ。奴を…暗黒神を倒さねば話は先に進まない。」
「えっ、でも勝てるの!?コテンパンにやられたから今に至るんでしょ!?」
「な、舐めるな油断しただけだ!どう油断したのか覚えてないほどに…」
「マズいじゃんそれ!記憶もってかれてるじゃん!完全にノックアウトじゃん!」
「まぁ、ぶっちゃけヤバいな。俺も本調子じゃないし他に味方もいない。」
「でも変なお仲間さんがいるんだよね?」
「あ!そうだよいるんだよ!剛三とかいう強い人が先に行ってるみたい!なんかどっかの部隊の隊長だとか…」
「隊長…?あぁ、そりゃ多分帝都のだな。天帝を護る最強部隊だとか。」
「え、なんでそんな人らが…?でもなんにせよ心強いよね!勝てるかもっ!」
「フン、まぁいないよりはマシかもな。少しは期待してやってもいいかもな。」
「…と、思ってたんだがなぁ。」
暗黒神が待つ『天王の間』の扉を開けた勇者は、眼前に広がる光景に頭を抱えていた。
「隊長っぽい見るからにイカつい男…コイツが剛三…なんだろうなぁ恐らく。」
戦力として期待していた帝都守護隊の剛三は、既に物言わぬ屍と化していた。
その他にも、辺りには二十名を超える物言わぬ兵士達が転がっている。
ズガァアアアアアアアン!!
剛三の亡骸は激しく蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。
蹴ったのは、それなりに傷は見られるものの、まだまだ余裕のありそうな男。
「よぉ、起きちまったかクソガキ…意外と早起きじゃねぇか。」
『暗黒神:嗟嘆』が現れた。
帝都から来た守護隊とやらの連中は、俺達の到着を待たずして朽ち果てていた。
まったく期待外れな…いや、違うか。期待うんぬんで言うなら、ある程度敵戦力は削いでくれたようだしむしろ十分だと言える。
あとは主人公の…この俺の見せ場だろう。
「ふぅ~…やれやれ、結局は俺の出番てわけか。よぉ暗黒神、借りは返すぜ。」
「いや、俺はそんな血まみれにした覚えはねぇぞ…?無理すんなよな、お前に死なれちゃ困んだよ。『マオ』の本体を…ブッ壊すまではなぁ。」
「マオ…?どうやら訳アリらしいが知ったこっちゃないな。」
「やれやれ…お前にはもっと、きっついお仕置きが必要らしいな。」
「さぁ来い暗黒野郎!この前のことは無かったことにしつつ貴様を倒す!」
「あ~、悪いがめんどくせぇよ。まぁコイツら倒せたら考えてやるわ。」
暗黒神は仲間を呼んだ。
百を超える兵隊が現れた。
「うわーイッパイ出てきたー!コイツら全部が噂の十闘士!?ヤバいじゃん!」
「フン、肩慣らしにはちょうどいい。五百か…やりがいのある数だぜ。」
「そんなにいないよ!?それ目の焦点合ってないんじゃん!大丈夫!?」
「下がってろ盗子、巻き添えを食らわすぞ!下がって姫ちゃんの盾となれ!」
「前半でちょっと喜んだ自分が悲しくてならないよ!まぁ前半もよく聞いたら“食らわす”だったけど!」
「血が欲しいの勇者君?じゃあハイ、ケチャップ。」
「全然別物だよ!?そしてどうせやるならせめてトマトジュースにしたげてよ!」
勇者はイッキでいった。
「でも勇者、実際どうなの?勝算はあるの…?」
「貧血のせいで体調は最悪だな。言いづらいがケチャップにトドメを刺された感もある。」
「じゃあなんで飲み干したの!?もうちょっと後先考えようよ!」
「オイオイ少年、なんだもう満身創痍じゃねーか。もうちょい頑張ってくれなきゃ面白みが…」
「その油断…それがキミの命取りになるんだよ、暗黒神。」
強キャラが使いそうな演出で誰かが現れた。
だが残念ながら太郎だった。
「あー!太郎!そういやスッカリ存在忘れてたよ!今まで何してたのさ!?」
「いや~、ちょっとヤボ用があってね。詳しい話は代々語り継ぐから待ってて。」
「どんだけ待たす気だよ!てゆーかこのままだとアタシらが末代だよ!」
「き、貴様…!あの日はソッコーで逃げやがった分際で今さらノコノコと…!」
「ん~、その件に関しては僕に言われても困るけど…まぁ休んでてよ勇者君。ここは、僕がやる。」
なんと太郎から意外な言葉が出た。
勇者達はもちろんのこと、暗黒神も苛立ちを覚えた。
「…オイオイ、なに調子乗ってやがるよ?二度も逃げ出したヘタレの出る幕じゃねぇだろ。」
「あ~、だよね?僕もぼちぼち限界を感じてるんだよね、このキャラ。アハハ。」
「あん?何をわけわかんねーことを…。だったら死に…ぐわっ!?」
太郎、会心の一撃!
暗黒神のワキ腹を貫いた。
「ぐはっ!?な、なんだ…と…!?」
「ほら、言ったでしょう?その油断が命取りだと。まったく進歩の無い人だ。」
「さっきから知ったような口を…!テメェなんて見たことも…」
「予想通りでしたよ。弱そうに振舞っただけで、簡単に懐に入れた。」
突然、辺りに濃い霧が立ち込めた。
そして太郎が姿を変えていく。
「なっ!このオーラ…お前は、まさか…!」
「ぜ、全然気づかなかった…!ずっとあんなのを…アンタが演じてたっての!?」
「フッ、どうやらなりふり構ってられる状況じゃないらしいな…先公。」
「ええ、今回は私も…必死でしてね。」
死神が降臨した。