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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
88/196

【088】天空城の戦い(3)

 順調に銀隠を倒したかと思いきや、驚くほどあっさり金隠に敗北した盗子と暗殺美。

 その情報は、『天王の間』で待つ暗黒神にも伝わっていた。


「状況はどうだ黒猫?お前の能力なら敵の生存状況の把握もチョチョイだろ?」

「金隠が二人消したようですな。一人は外の宇宙船…城内の敵生体反応は残り…三つ。」


 金隠が倒したのは盗子と暗殺美、船にいるのが案奈と考えると、残るは余一、弓絵、商南、太郎の四人のはずだが計算が合わない。既に消された者がいるようだ。


「三匹か…意外と粘るじゃないか。詳しい状況をわかる範囲で報告しろ。」

「二人は交戦中。うち一人は問題無いですな。この反応…もはや虫の息。」


 多分だが余一のことだ。


「残り一人は…むっ!?た、大変です嗟嘆様!なんと下界から人の反応が…!」

「あ゛ぁ?下からだぁ!?この星にはこんな高度まで来られる船はそんなに…」

「ですが事実です。いかがいたしますか?これ以上の余興は不要かと。」

「そうだなぁ…よし、じゃあ撃ち落とせ。」



「た、大変です!砲門の照準が全てコチラ側に…!」

「エネルギー反応を感知!迎撃されます!」


 暗黒神が撃墜しろと命じた飛行物体の中では、天空城が迎撃態勢に入ったことを受け船員達に動揺が広がっていた。ローゲ王都を破壊したあの一撃が、全員の頭をよぎったのだ。


「こここの船の防御は弱い!飛ぶだけで精一杯イッパイいっぱいイッパイ!」


 中でも一番動転している感じの爺さんは、実はこれが普段の口調。そう、かつてモレンシティで自らが作ったロボに反乱を起こされた『機関技師』…栗子の祖父である『ドクター栗尾根』だった。


「た、隊長…『昭二ショウジ』隊長!いかがいたしましょう!?」

「チッ、所詮は急造の船…やはり無理があったか。いくら最強の守備を誇る『帝都守護隊』とはいえ、上陸できなくては話にならん。どうすれば…」


 “隊長”と呼ばれたその男は、“2”と書かれた額当てを付け、口髭を生やしたオールバックの男。見た目からしてこの中で最も権限のある者のようだが、残念ながら打つ手は無いらしい。

 もはや手詰まりといった状況の中、奥の部屋から現れたのは―――


「仕方ない、じゃあ僕がなんとかしよう。“砲撃”と一戦交えるのは初めてだが…まぁなんとかなるさ。」

「む?キミか…。確かに乗船前に実力は見せてもらったが、しかし…」

「僕は負けない。なぜなら僕は、みんなの…宿敵ライバルなのだから。」


 だが勝てない男が現れた。




「す、素晴らしい…!感謝するぞ、宿敵殿。」


 かなり久々に、忘れた頃に現れた宿敵。勇者を魔王から助けて以来の登場だったが、成果としては今回も大活躍。生意気にも砲撃を全て受けきり、見事船を上陸させたのだった。

 急造船だったことと、何発か砲弾を受けていたこともあり帰りの飛行は難しそうだが、墜ちずに済んだだけまだマシだったと言えよう。


「あ~、うん。先生…なんというか神より怖い人から連絡を受けてね。このくらいやらなきゃ殺されるよ。」

「まぁなんにせよ大したもんだ。俺は三番隊隊長の『剛三ゴウゾウ』だ、改めてよろしくな小僧。」


 悪手を求めてきたのは、“3”と書かれた額当てを付けたゴツいオッサン。どう見てもパワー型だ。


「よろしく。僕の仲間も多分来てるが、戦力は多い方がいい。乗ってる全員が戦えるんだよね隊長さん?」

「もちろんだ。我が二番隊と剛三率いる三番隊、約五十名…精鋭揃いと自負している。」

「ふーん。でも二番隊とか聞くと、もう1ランク上がいそうに聞こえるけど?」

「あー…まぁ察しの通りだが、『総長』はなんというか…色々とアレだから置いてきた。」

「色々とアレなんだ…。具体的にはわからないけど、まぁ聞かないでおくよ。それにしても驚いたね、まさかあの盗子君が…彼女が真の『皇女』だったとはさぁ。全然似合わないし。」

「機密ゆえ内密に頼む。彼女をお守りするのが、我々の使命なんでな。」

「守る…ねぇ。あんな島に送っておいて…?」


 ちっとも説得力が無かった。




 盗子を救うべく、帝都からやってきたという帝都守護隊。

 だが当の盗子は、金隠のひょうたんに吸い込まれ、既に亡き者となっていた…かと思われたが、実はひょうたんの中でまだ生きていた。


「ん~、それにしてもビックリだよね。ひょうたんの中に街があるなんてさぁ。」

「ヘラヘラしてんじゃないさ。未だピンチなのは変わりないってのにさ。」

「でもさ、街もあるってことは実はどこかに飛ばされただけなんじゃ…」

「上を見るさおバカ。空の色がなんか変さ。亜空間…もしくは他の星さ。」


 見上げると、確かに空は緑色をしている。

 明らかに地球の空の色ではなかった。


「う゛…じゃあさ、とりあえず人を探そうよ。街があるんだから誰かいるよね?」

「探すならやっぱり戦仕さ。戦力が無いと外出たところでまた負けるだけさ。」

「戦仕君か…いい人なんだけど、な~んかちょっとだけウザいんだよね…」

「“ウザ界の巨匠”が言うんだからよっぽどのようさ。」

「どこだよウザ界て!そんな世界に関わったことなんて無いよ!」


「…ほほぉ~、また降ってきよったんか。なんじゃ最近多いのぉ新参者が。」


 話しかけてきたのは、頭に手ぬぐいを巻いた眉の無い老人。

 目元や口元にはかなり深いシワ刻まれているため、歳は相当いっていそうだ。


「あっ、先住民の人!?ちょうど良かった、ここがどこか知ってたら教えて?」

「ようこそ『ウザ界』へ。」

「ここが!?」


 ウザ界は実在した。



「で?結局ここは何なのさ?外に出られる方法をメインに教えろさジジイ。」

「ん~、教えてやっても構わんがタダではのぉ。まぁとりあえずオッパイを揉ませてもらおうか。」


 爺さんはまるでビールでも頼むかのようなノリでサラリと言い切った。


「はぁっ!?ふ、フザけんなよ!なんで見ず知らずの人に乳揉ませなきゃ…」

「拙者は人呼んで『オッパイ仙人』。よろしく頼む。」

「あ、うん…いや、揉ませないよ!?お知り合いになっても揉ませないよ!?」

「思わず一瞬『オッパイ仙人』をスルーしちゃったくらい見事なテンポさ。この変態ジジイめ。」

「頼む!後生だから!後生だから!いや、もうホントに…あ、片乳だけでも…?」

「ウザッ!超ウザッ!何コレ国民性!?だから『ウザ界』なの!?」

「じゃあ一揉み…これ以上はまからん!それでも無理ならば拙者を倒じばぶっ!」


 爺さんはボコボコにされた。



「ふぅ、やれやれ…拙者も衰えたものよ。かつては神とも戦ったほどの拙者が…」


 先ほどの情けないくだりは無かったかのように、とんでもなく大物っぽいことを言い始めた爺さん。

 凄まじく嘘くさい話だが、二人にひとしきり殴られた割にそれほど効いてない様子を見ると、もしかしたら本当に実力者なのかもしれない。


「えっ、神!?またもや“歴史上の偉人が変態”ってゆー由々しき事態が!?」

「フッ、こう見えても齢五百をゆうに超える身でのぉ。あの頃は色々と無茶したもんよ。」

「予想以上にジジイでビックリさ。で、そんなジジイは何したのさ昔?」

「邪神の乳を揉もうと…」

「ってやっぱそっち系かよ!邪神相手にその勇気は買うけども!」

「私らは今、暗黒神と交戦中なのさ。急いでんだから邪魔すんじゃないさ。」

「なぬっ!?ほぉ、嗟嘆か…懐かしい名じゃ。奴を封じるのは手間だったのぉ。」

「と、当事者!?まさか暗黒神の弱点とか知ってたりすんの!?教えてっ!」

「フッ、悪いがそれ以上は片乳バブシュ!」

「こっちは戦仕も探さなきゃなんないのさ!寝言に付き合ってる暇無いのさ!」

「戦仕…?もしや少し前に『王女』に拉致された…おっとっと、それ以上は揉ばゴフッ!」


 爺さんの限界は近い。




 その後も殴り続けること数十発…爺さんはピクリとも動かなくなった。

 仕方ないので二人は、とりあえず酒場で情報を集めた後、勢いで王宮らしき建物に潜入したのだった。


タッタッタッ…


「ハァ、ハァ、け、結構広いねこの『ウザ城』…。まぁ噂の王女ってのは上だろうから会うことは無いだろうけど。」

「でも戦仕を拉致ったほどの奴がいるかもさ。油断するんじゃないのさ。」

「う、うんわかってる。さっき聞いた話じゃ、牢屋があるのは最下層…戦仕君、無事ならいいけど…」

「にしても、結構入り組んでるさ。一つでも分岐を間違えたら逆戻りに…」


ゴゴ…ズゴゴゴゴ…!


 突如、激しい揺れが地下通路を襲った。

 なにやら歯車のような音も聞こえるため、地震ではなさそうだ。


「えっ!ちょっ、なにこの揺れ!?もしかして…トラップとか!?」

「チッ、誘いこんで中で仕留める…帝牢と同じコンセプトかさ!さすがはウザ界…ウザすぎさ!うわっ!?」


 下手すると崩れそうなレベルで揺れ始めた。


「や、ヤバいじゃんこの感じ!もう詰んだんじゃない…!?」

「拉致ったってことは戦仕には生かす価値があるはずさ!だったら戦仕の所まで辿り着ければ多分セーフさ!」

「でもどーしよ!?もう絶対間違えらんないじゃん!って早速分岐あるし!」

「右さ!薄っすら残る足跡が多い道がよく使われてると思うのが妥当さ!」

「ホントにぃ!?じゃ、じゃあ次は!?」

「右!」

「次は!?」

「う~ん…右さ!」

「じゃあこの扉は!?」

「左!!」


ガチャ!


「…ほぇ?」


「なんで姫がぁーーーーーっ!?」


 姫は左にいた。



 帝都を離れた日…あの日の出発前の宣言通り、本当に左にいた姫。

 何を基準に左なのかは未だにわからないし多分今後もわからない。気にしたら負けなので二人は気にするのはやめた。


「な、なんで…とかアンタに聞いても無駄だから聞かないよ!今は超急ぐし!」

「実はね盗子ちゃん、私はある島の洞窟で…」

「ってなんでこんな時に限ってそれっぽい話を語りだすの!?何の嫌がらせ!?」

「今は戦仕を探してるのさ。そしてすぐ逃げないとみんな危険なのさ。」

「ん~、もうちょっとヒントが欲しいよ。」

「ヒントもなにも問題出した覚えが無いさ!いいから黙ってわかれさ!」

「んー、よくわからないけど変な部屋なら見たよ。」

「いや、今は無駄な寄り道してる場合じゃ…って、えぇっ!?」


 姫が指差した先には、ポップなロゴで“戦仕様のお部屋☆”と書かれたド派手な扉があった。

 罠の可能性も高いが、罠じゃなくても開けたくないほどイカれた装飾だった。


「にしても、戦仕…様?なんだか妙な話になってそうな気配さ。」

「ねぇ戦仕くーん!オーイいるのー!?いるなら返事してよー早くぅ!」


 盗子はダメ元で呼び掛けてみた。

 するとなんと、本当に返事が返ってきた。


「そ、その声は盗子サン!?まさかアンタまであのひょうたんに…!?なんてことぜよ!」

「ホントにいたー!ま、待っててね戦仕君、なんとか今から扉を開け…」


 その時だった。

 突如として揺れがおさまり、天井に丸く穴が開いて誰かが下りてきた。

 いかにも王女といった豪華なフリフリの衣装に身を包んでいる。


「私はウザ界『ウザ国』の王女、『鰤子ブリコ』ちゃんだニャ~ン♪ニャハ☆」


 凄まじくウザいキャラ。さすがは『ウザ界』といったところだが、最も大きな特徴というのはキャラとかそういう曖昧なものではなかった。


「ハァ~、やれやれさ。さっきの揺れといい、つまり私らの潜入は最初からバレ…って酷い顔さ!ブサッ!!」

「ちょっ、暗殺美!そんな煽りはいいから!それにいくら敵だからって女子に今のは…ってブサッ!!」


 そう、現れた王女の最も大きな特徴というのは…顔。イジメに繋がりかねないので具体的な表現は避けるが、例えるなら気を使って容姿に触れない方がかえって失礼なんじゃないかと思えるほどに不細工だった。


「い、今までいろんな変態に会ったけど、ここまで視覚的にキツいのは初さ。もはやテロと言ってもいいさ。」

「ちょっとぉ~、さっきからなんでガン見してくるのぉ?あっ、もしかして私がきゃわゆすぎて憧れちゃってたとか?なんちゃってミャハッ☆」

「しかも性格まで痛そうだから救いが無いさ。勘違いしてるようだから言っとくけどアンタに“ぶりっこ”は荷が重過ぎるさ。」

「う、ウザいよね…。しかもあの顔で言われると余計に…」

「いつもならここで“お前の方が”と突っ込む私がためらうほどにウザいさ。」

「いや、いい勝負みたく言われる方がガチっぽくて逆に傷つくんだけど…?」


「ところで何の用だニャン?ウチは王様いないから私が一番偉いにょだー☆」

「あ、そだった!アンタ戦仕君拉致ったでしょ!返してよ仲間なんだから!」


 登場から余裕の笑顔を見せていた鰤子だったが、盗子の口から戦仕の名が飛び出すや、表情が一変した。


「はぁ?アナタ戦仕様の何なのぉ?戦仕様は私のモ・ノ・な・の!プンプン!」


 なにやら鰤子は戦仕に気があるらしく、盗子が知り合いらしいことを知るや全力で妬き始めた。

 だがそんな鰤子よりも、鰤子のキャラのウザさに限界を迎えつつある暗殺美の方が先にキレた。


「斬る!もう斬るさ!さすがの私も我慢の臨界点を突破したさ!始末するさ!」

「斬るぅ?わぁ怖~い!で・も、負っけな~いぞブバッ!!」


 暗殺美は一撃でのした。



「ふぅ~…やっと少しスッキリしたさ。」


 顔面がゴツいので強いのかと思いきや、予想に反し鰤子はあっさり暗殺美に倒された。

 というわけで、とりあえずロープでグルグル巻きにしてから話を聞くことに。


「うぅ~…ひ、ひっどーい乙女相手に!あぁ、こんなに頬骨が腫れちゃって…」

「どう頑張ってもボディで頬骨は出ないって現実を素直に受け入れろさ。」

「さぁ鍵はどこ!?戦仕君出してよ!急いでんだから早くしてよね!」

「…出さない。出さない出さない出さなーい!彼は絶対渡さないもんもん!」

「ハァ…なんでアイツにそんなに執着してんのさ?理由を話せや潰れゴリラ。」

「一目惚れだったの!好きなの愛してるの愛し合ってるの!邪魔しないでぇ!」

「ふ~ん。で?その愛し合ってるはずのダーリンをなんで牢獄なんかに閉じ込めてんのさ?冗談は顔だけに…その顔は冗談じゃ済まないのさ!」

「だ…だーってだってだってぇー!離れたくないんだもんーー!!う゛ぉお゛お゛お゛お゛お゛ん゛!!」


 “涙は女の武器”とはよく言うが、鰤子の場合はまた違った意味で破壊力抜群だった。


「うぅ…ど、どうしよ暗殺美?話し合いじゃ済まない感じだよね…?」

「仕方ないさ。こうなったら扉に爆薬でも仕掛けて…」


「いいや、その必要は無ぇぜよ。」


 なんと、戦仕は普通に出てきた。


「あ、戦仕さまぁ…☆」

「って、えっ!自分で出られるの!?じゃあなんで今まで捕まってたの!?」

「最初逃げようとしたら、この王女ってのに泣かれちまってさぁ…。オイラ女の涙にゃとことん弱ぇぜよ。」

「これを“女”と認識できるなんてやっぱアンタの目は豪快に腐ってるさ。」

「さっ、戦仕様♪お部屋に戻りましょ?私以外の女子と話しちゃイヤだZo☆」

「…すまねぇ。オイラには、心に決めた人がいるぜよ。」

「えっ…照れるぅ~☆」

「ちょっとは文脈を読む努力をしろさ。」

「それに、今のオイラにゃ果たさなきゃならねぇ使命もあるしな。こんな所でのんびりしてはいられねぇんぜよ。」

「そ、そんなぁ…行っちゃうの戦仕様ぁ…?」

「ああ、悪ぃな。」

「酷い…ひどいよぉ…び…びぇえええええええええん!!」


ドッガァアアアアアアアン!!


 鰤子の号泣に合わせるように、上の方から爆発音が聞こえた。

 そして先ほどよりもヤバい感じに揺れ始めたのだ。


 ズゴゴゴゴゴゴオオオォォ…!


「ま、また揺れが…!アンタ何かやったんじゃ…」

「う゛ぉお゛お゛お゛お゛ん゛!う゛ぉお゛お゛お゛お゛お゛ん゛!!」

「ちょっと泣き止んでよ!このままじゃアンタも死んじゃうんだよ!?」

「チッ、なんか起爆装置みたいなのが落ちてるさ…!恐らくこれさ!」

「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、私が押しといたよ。」

「って姫かよ!アンタのせいでこんなことがあろうとしてるのわかってる!?」


 困ったことに、姫のせいで今にも崩れそうな状況に。

 それなりに時間をかかて降りてきたことを考えると、走って戻るのは難しいだろう。


「こ、これはもう…詰んだっぽいのさ。死ぬしかないかもさ。」

「ちょっ、諦めないでよ暗殺美!なんとかあがこうよ!ねぇ姫!?」

「穴とか開けて逃げようよ。この辺に、こう!」

「空間に!?ってそんなのできこっこないから!簡単そうに無茶言うなよ!」

「…いいや、そうとは言い切れんぜよ。むしろイイ線いってるかもしんねぇ。」

「えっ、戦仕君…!?」

「前に鰤子に聞いた話じゃここは亜空間…壁一枚向こうに、元の世界があるらしいぜよ。」

「ほ、ホントに!?」

「フン、でもその壁はきっと薄くはないはずさ。斬ったり殴ったりでどうにかなりはしないのさ。」

「ああ、普通は…な。けど、この『雷神の篭手コテ』なら可能かもしれんぜよ。オイラがこの手で空間を…ブチ破る!」


 戦仕の右腕には怪しげな篭手が装備されている。


「そ、それが雷神の装備…!でもアンタにそれ程の芸当ができるのかさ?」

「獄中で特訓して、少しなら扱えるようになったぜよ。運が良きゃ、どうにかできるかもしれねぇ。」

「う、運が悪いと…?」

「まぁどうにかなるぜよ!いくぜ!うぉおおおおおお…!唸れ雷神、オイラに力を貸しやがれ!!」


 戦仕は力を込めた。

 雷神の篭手から凄まじい電撃がほとばしる。


「うわっ、電気出てきた!これが…雷神の迫力…!」

「急いで盗子ちゃん!隠さないと出ベソが大変だよ!」

「んな迷信…って誰が出ベソさ!乙女としては出ベソな時点でもう大変だよ!」

「うぉおおおおおおおおお!!ひぃーらぁーけぇーーーー!!」


 戦仕は全力を振り絞った。

 なんと!本当に空間に穴が開いた。


「あ、開いた!開いたよ開いたー!これならアタシらくらいなら通れそうだよ!」


 戦仕の頑張りで無理矢理こじ開けた空間の穴。

 繋がる先は不明だが、今にも閉じそうなので気にしている余裕は無かった。


「さぁ戦仕!後はアンタだけさ、早くこっちに飛び込むさ!」

「わかったぜよ。今…うぐっ、ヤベェぜよ足が…」

「行かないで戦仕様ぁー!鰤子を置いてっちゃイヤイヤ~んプー!」


 雷神の力を使った反動が足にきた戦仕。

 その隙を突いて鰤子が戦仕にまとわりついた。


「なっ…!?は、離すぜよ!女が気安く男に抱きつくもんじゃねぇぜよ!」

「はーなーさーなーい゛ぃー!二人は運命の赤い糸で結ばれてるんだもんっ!」

「もぉー!最後までウザい奴ー!戦仕君、もーいいからブン殴っちゃいなよ!」

「くっ…!無理ぜよオイラにゃ女は殴れねぇ…!」

「アホかさ!勇者ならソッコーで殴るし今回ばかりはそれが正解さ!むしろある程度殴った方がマシになる可能性すらあるさ!」

「アンタさっきから酷ぇこと言いすぎだ!人間は顔じゃねぇぜよ!」

「アンタこと気づけさ!それは人間の顔じゃないのさ!」

「とにかく急いで戦仕君!もう閉じちゃう…!」


 盗子は手を差し伸べた。

 戦仕は一瞬手を伸ばしかけたが、途中で思いとどまった。


「…すまねぇ盗子サン、先に行っててくれ。必ず…必ず後で駆けつけるぜよ!」

「せ、戦仕くーーーん!!」


 戦仕を残して穴は閉じた。

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