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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
86/196

【086】天空城の戦い

 暗黒神がローゲ王都を攻撃してから、一ヶ月が過ぎた。

 それは天空城…空に浮かぶ要塞が、再び動き出すことを意味していた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


「た、大変です新王…新シジャン王様!ついに…ついに暗黒神の移動城が国内にウギャッ!」

「わめくなウルセェ、わかってらぁ。ったく面倒な時期に乗っ取っちまったぜ。」


 大騒ぎする兵士の顔面に一撃ブチ込んだのは、盗子を人質に帝牢から脱獄した悪党ソボーだった。

 逃れ者の身から一転、シジャン王国を襲撃して新たな王となっていたソボー。だがその面倒臭がりな性質は統治者にはまったく向いておらず、ただでさえ五錬邪のせいで崩壊しかけていた王国は、再び危険な状況に陥っていた。

 そこにきて、今度は暗黒神が襲来…。もう呪われてるとしか言いようがない。


「ど、どうしましょう!?国民に避難勧告を出すならもう遅いくらいでギャッ!」

「し、新王様!落ち着いてくだされ!これ以上兵を虐殺されては…」

「逃げるだぁ?この俺様がぁ?ざっけんなコラァ開戦だ!全面戦争だぁ!」


「は、はーなーせー!ちょっ、首根っこ掴むなー!んでもって手錠取れー!」


 ブチ切れるソボーのもとに連れてこられたのは、首輪を付けられた盗子。

 扱いは相変わらず悪いが、今こうして生きているということは、首無し族との戦闘では死ななかったということ…。運だけはいいと言えるのかもしれない。


「新王様、ポチを連れて参りました。」

「だから誰がポチだよ!なんでこんなに扱い違うの!?アタシの立場は何!?」

「待て!!」

「ワン!ってフザけんなよ!」

「よぉクソジャリ、ちょうどいいとこに来たなぁ。ちょっと出掛けてこいやぁ。」

「えっ、いいの!?外に出してもらえるの!?ぃやっほーい!」

「ちょっとしたお使いだ。もしうまくいきゃあ…そうだなぁ、王女扱いに格上げしてやらぁ。」

「マジでぇ!?やるやる!やっちゃう!で、何を盗ってくればいいのさ?」

「神の首。」

「無理だからっ!!てかアンタも無理とわかってながら…ってイタタタ!痛いよなんなの!?」


 ソボーは盗子の首根っこを掴んで窓際まで引きずった。


「少し前だ、その昔に盗まれたコイツがローゲ城下で発見されたのは。修復にゃ手間掛かったぜぇ…。結局盗んだ野郎はわかっちゃねぇがなぁ。」


 窓から見える広場にはなぜか、一ヶ月前に勇者らを乗せて天空城へ向かったはずの宇宙船…『蒼茫号』が停泊していた。


(こ、これって前に賢二の連れが盗んだってゆー宇宙船…なんでこれが…!?)

「この船なら宇宙まで行けらぁ。安心して天に召されろやクソジャリ。」

「勢い余って昇天しちゃってどうすんだよ!まぁ確かに余裕で死にそうな任務だけども!」

「俺様は慈悲深ぇからなぁ…テメェに選ばせてやるよ。上に行って死ぬか今ここで死ぬか、好きな方選べや。」

「ハァ…わかったよもー。行くよ諦めるよ!で、でもアンタも頑張ってよね…?」

「あ゛?誰が行くっつったよ、俺様は国王様だぜぇ?戦は雑兵の仕事だろうが。」

「えぇっ!?ちょ、アタシだけで行くの!?どう考えても死んじゃうじゃーん!」

「だから死ぬっつってんだろーがぁ!!」

「逆ギレ!?この状況で逆ギレ!?キレたいのはこっちの方だよっ!」

「わかってるな?砲撃でもさせようもんならテメェ、ブッ殺すからな?」

「フンだ!そんときゃどうせアタシもう死んでるもんね!バカー!」

「まぁ安心しろや。テメェごときじゃ糞の役にも立たねぇのはわかってる。腕に覚えのあるっつー連中を何人か乗船させといた。」

「ホントにぃ!?良かったぁ~!ほんの少しだけど希望出てきたよ~!」


 盗子は良くないフラグを立てた。



「えっと、お邪魔しま…って、なんで全員そんな格好なの…?変態…集団?」


 しばらくぶりに首輪を解かれ、野に放たれた盗子。

 そんな盗子が恐る恐る宇宙船に乗り込むと、そこには怪しい覆面で顔を隠した、謎の四人組の姿があった。

 謎の集団が醸し出す異様な空気に、不安と期待が入り混じる。


「登場シーンをもったいつけるのは当然なのさ。謎が謎を呼んで視聴率UPさ。」

「ウチはむっちゃ面倒やってんけどな。一応こうしよって話に決まってん。」

「え、前世での結婚相手ですかぁー?もちろん勇者先輩でーす☆」

「名前は言えない。でも強いて言うなら…今では『肝臓ガン』とも闘っている。」


 ちっとも謎じゃなかった。



「ハァ~、頼れる仲間どころかアンタらなんて…。でもなんで知り合いばっか?しかも…ハァ~…」


 勝手に期待して勝手に裏切られたくせに、生意気にも溜め息が止まらない盗子。

 そんな盗子の問いに、相変わらずなぜ生きてるのかわからない見た目の余一が答えた。


「謎の知らせが届いたんだ。この地へ集えと…『死神』の描かれたカードが。」

「し、死神…商南以外はカクリ島メンバー…ももももしかしてその差出人て…!」


 盗子の脳裏をよぎる“ある人物”の顔。

 別人であってほしい気もしたが、そんな奴が二人もいると考えたくもなかった。


「まぁウチらはどのみち行くつもりやってんけどな。勇者と…約束しててん…」


 商南はなぜか目を伏せた。


「え、何その感じ…?何その…しんみりとした感じ…」

「一ヶ月前のことさ、奴がこの船に乗ってローゲに向かったのは。そして、この船が今ここにあるってことは…そういうことさ。」

「そ、そんな…!」

「そんなの嘘ですぅー!先輩はオーブンでこんがり焼いても死にませーん!」

「いや、それやったら死んでてもらわんと怖いがな!どんな化けモンやねん!」

「でも確かに、人間ってのは意外にしぶとゴフッ!簡単に諦めちゃゲハァ!!」

「アンタは素直に病院に帰れさ。」


 やっぱり不安なメンバーだった。

 だが盗子にはもう一つ不安材料があった。


「ところでさ、操縦は誰がすんの?どう考えてもウチら全員素人だよね?」

「…その件だったら問題無いよ、僕が操縦する。」


 奥の船室から現れたのは、勇者らと共に旅立ったはずの太郎だった。

 ライや下端の姿は見えない。


「えっ、なんでアンタがおるん!?アンタも一ヶ月前に行ったはずやんか!」

「逃げ延びて一ヶ月、地下の隠し倉庫で食いつないでた。キミらを待ってたよ。」


 要は一人で逃げたっぽい。




 運転手として操縦経験のある太郎を加え、宇宙船は出発した。

 天空城は既に国内に入っているため、到着までそれほど時間はかからなそうだ。


「で、結局何があったのさ?アンタは勇者達を見殺しにしたのかさ?」


 勇者がどうなろうと知ったこっちゃない暗殺美だが、明日は我が身といった状況だけに、彼らに何が起きたのかは無視できない話だった。


「見殺し?フッ、この僕を甘く見ないでほしいね。そんな瞬間までいたと思う?」


 見てもいなかった。


「なんで自慢げなんだよこの臆病者!勇者を返せー!うわーん!!」

「まぁ落ち着きや盗子。こんなんおっても状況は変わらへんかったはずやし。」

「勇者先輩は死にませーん!レンジでボンッしてもヘッチャラなんですぅー!」

「いや、死んでるがな!擬音からしてめっちゃ破裂しとるやないか!」

「破裂か…あの動脈瘤が破裂した時は僕も…」

「いいからアンタは病院帰れさ。」


 まったく話が進まなかった。


「ま、とにかく頑張ってよ。僕には応援くらいしかできないけど。」

「ハァ!?何言ってんのさ!アンタ今の状況わかってんの!?」

「じゃあしないよ、応援…」

「そーゆー意味ちゃうねん!今回こそは命掛けろやっちゅー意味やボケェ!」

「あ、皆様ァ~。」

「うわっ、ビックリした!え、なんでアンタまで乗ってんの!?いつの間に!?」


 驚く盗子の背後に知らぬ間に立っていたのは、なんとガイドの案奈だった。

 呼んでもないし、ガイドを呼ぶような楽しげな旅でもない。


「ま、また来たのかさ『黄泉への使者』…。今回も嫌な予感がしまくりさ…」

「本日はァ~、『天国に一番近い島ツアー』に~、ご参加いただきまして~…」

「そんなツアーじゃないから!まぁある意味そうだけど今回のは“悪い意味”でだから!」

「というか“ツアー”ってノリじゃないさ。」

「皆様ァ、アチラに見えますのがァ~、暗黒神が待つ天空城~『ラピュ(バキューン)』でェ~…」

「ちょっと待って!え、ヤメない!?そーゆーのホントちょっとヤメない!?」

「かつて~、かつて『人神大戦』で活躍したとかしないとか噂のある~、伝説の巨城~でございまァす。」

「へぇ~、結構年代モンやってんな~。そんなんがまだ存在しとったとはなぁ。」



 その頃…話題の天空城では、またもや現れた蒼茫号に気づいた黒猫が、暗黒神に報告しようとしているところだった。


「嗟嘆様、なにやらまたあの船がこちらに向かって参りますが…」

「あ?まただぁ?何度目だよしつけぇ奴もいたもんだなぁ…。で、何人だよ?」

「生体反応は…七つ。いかがいたしましょう?撃ち落としますか?」

「あ~…いや、招待してやれ。シジャン城の破壊…どデカいショーの前に、前座はつきもんだしな。」

「ですが、侮りは禁物かと…」

「別に侮っちゃいねぇさ。だがアイツより強ぇ奴ってのも…そうはいねぇだろ?」


 暗黒神が目を向けたのは、柱の陰に立つ一人の剣士。


「………」


 剣士は答えず、奥の部屋へと消えていった。

 その姿は紛れもなく、死んだはずの剣次のものだった。




 天空城でそんな想定外の事態が待っているとは知らない盗子ら一行は、厚い雲を抜け今まさに上陸しようとしていた。


「うっわ、もう目の前じゃん!もう着いちゃったじゃん!うっわー!」

「盗子先輩うるさいですぅー!口はいいから瞳孔を開いてくださーい!」

「アンタこそうっさいよ!喧嘩売ってる暇あったら勇者の無事とか祈ってろよ!」

「でもこれだけ近づいて何のリアクションも無いってのはなんか不気味さ。」

「まぁバレてへんっちゅーこた無いやろな。舐められてんねやきっと。」

「そう、バレた日のことを考えたらやっぱり患者には告知を…」

「アンタはもう手遅れさ。諦めて黙ってろさ。」


 そしてついに、船は着陸態勢に入った。

 船内の緊張がより一層高まる。


「それではァ~、そろそろ到着ですのでェ~、お荷も…あ、遺品等を~…」

「遺品言うなよ!どんだけ死なせたいの!?お荷物のままでいいじゃん!」

「黙って準備するさお荷物。」

「アタシのことじゃないから!アタシはお荷物じゃないもん!もう違うもんっ!」

「強がりは醜いですよお荷物先輩~。」

「だから違うって言ってんのにぃー!」

「やかましいねんお荷物。」

「ほぼ初対面なのにぃー!」


 盗子に挽回の機会はあるのか。




「こ、ここが天空城…。結構広そうだけど、どこへ向かえばいいの?」


 外から見ても大きかったが、間近で見るとさらに大きく見えた天空城。

 闇雲に進むのは危険と判断した盗子は太郎に尋ねた。


「いや、僕を見られても困るけどね?」

「えっ、こっからわかんないの!?どんだけ早く逃げたんだよアンタ!」

「まぁとりあえず入るしかないやろ。行く先は棒でも放って決めよか?」

「ッ!!待つさみんな、上を見るさ!また奴の…暗黒神の〔生中継〕が…!」


 暗殺美の声に、一同は上空を見上げた。

 暗黒神の立体映像が現れた。


「フッ、よく来たなぁ下界の雑魚ども。ま、せいぜい無駄にあがくがいいぜ。」

「さ、嗟嘆…!!」


 先ほどまでボーッとしていた太郎が、急に怖い顔で暗黒神を睨みつけた。


「おぉなんだ、あん時逃げたヘタレもいるじゃないか。他の二匹はどうした?」

「暗黒神…お前だけは許さない…!お前は絶対、今度こそ滅ぼしてやる!」


 いつものキャラとは一転、暗黒神への殺意を剥き出しにする太郎。

 今回は活躍が期待できそうだ。


「…彼女らが。」

「おまっ…!!」


 やっぱり気のせいだった。


「な、なんで無駄に煽るんだよ!いきなり本気で来られたらどーすんのさ!?」

「あ~、今までああいうセリフに縁が無かったからさ、一度言ってみたくて。」

「ブッ殺すよアンタ!?」

「ほぉ、いい度胸じゃねぇか小娘。」

「アンタに言ったんじゃないよ!?いや、確かにその目的で来てはいるけど!」

「俺は城の最上階…『天王の間』で待つ。何人来られるか…楽しみだな。」


 誤解が解けぬまま映像は消滅した。


「やっぱしバレとったな。この先も筒抜けや思てええやろ…難儀なこっちゃで。」

「まぁとりあえず目的地がわかっただけ前進さ。今さらビビるのは無しさ。」

「きっと勇者先輩はどっかに隠れてるんですぅ!弓絵、絶対見つけますねー!」

「注意深く探そう。見えない所にこそ隠れてる…そう、ガン細胞のように…」

「なんかもう、ちょっと感心してきたさ。こうなったら死ぬまで言ってろさ。」


 意外とすぐっぽいが。



 数分後。城内へと潜入した一行に襲い掛かってくる敵はまだいなかった。

 だが到着はバレているので時間の問題と思われた。


「な、なんか薄暗いね…。やっぱ怖いな~行きたくないな~。」

「勇者センパーイ!どこですかー?弓絵の胸に飛び込んできてくださーい!」

「ちょっ、そんな大声で叫ぶなよ!敵が集まってきたらどーすんのさ!」


「フッフッフ…」


 暗殺美の懸念通り現れたのは、切れ長の目を三角形のサングラスで隠し、長髪をオールバックにまとめた青年。

 チンピラ感のある見た目ながら、なぜか術衣のようなものを身に纏っている。


「ホラ出てきたじゃーん!どー見ても敵さんじゃーん!もぉー!」

「俺は『針灸師ハリキュウシ』の『ハリー』。嗟嘆様をお守りする『嗟嘆十闘士』、十二番目の戦士…!」

「ってちょっと待てよ!えっ、全部で何人いるうちの十二番!?」

「それに職業もなんだか妙に健康に良さそうさ。きっと老人にモテモテさ。」

「俺は繰り上げで入ったのさ。十闘士は先の侵入者に、二十人ほど倒され…」

「だから何人いたんだよ!その名前の“十”の意味は何!?」

「先の侵入者…勇者達やな。なんや一応は善戦したっぽいやんか。」


「さぁ覚悟しろよ貴様ら、この俺が自慢の針灸で…すこぶる健康にしてやる!」


 なんだか怖くない。



「さーて、じゃあさっさと片付けるかね。嗟嘆様へのいいアピールになる。」

「ここはアタシがいくよ!お荷物じゃないってのを証明したげるんだから!」


 先ほどのお荷物扱いが余程嫌だったのか、珍しく自ら戦闘を買って出た盗子。

 だが、残念ながらそう甘くはなかった。


「フハハッ、攻撃は既に始まっている。いや、“もう終わった”…と言ってもいいかな。」

「えっ…?」


 ハリーの攻撃。

 見えない針が盗子を襲う。


「あ、危な…ぐはぁっ!!」

「よ、余一!?アタシをかばって…!」

「いや、今のは持病の『すい臓ガン』が…」

「紛らわしいよ!そんな体調で避けきったアンタには敬意を払いたいけども!」

「健康職、針灸師か…どうやら彼の相手は僕が相応しいようだ。皆は行って。」

「えっ、せやけど…!」

「へぇ、この俺を一人で相手にすると?面白いじゃないかこの半死人がぁ!」


「フッ…見せてあげるよ。健康と不健康…どちらが勝っているのかを。」


 そりゃ健康だろ。

この頃実施された『第三回キャラクター人気投票』の結果はこちら。

https://yusha.pupu.jp/yusha/souko/03ninnki.htm

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