【085】外伝
*** 外伝:盗子が行く ***
帝牢に囚われていたソボーに拉致られてしまった盗子は、飛竜『リュオ』の背に乗せられ猛スピードで帝都から遠ざかった。
「よぉし、呼ぶまで上で待機なリュオ。オラ、とっとと降りろやクソジャリィ!」
追っ手がいないのを確認し、途中で目に入った『マチカ村』に降り立ったソボーは、盗子の首根っこを掴むと地面に叩き落とした。
「痛っ!もう!ちっとは優しく扱ってよっ!アタシ女の子だよ!?」
「悪ぃなぁクソジャリ、男女差別はしねぇ主義だ。」
「何その“男女差別”に対する都合のいい解釈!?」
凶悪な脱獄犯から酷い扱いを受ければ、普通の少女なら怯えて何もできなくなりかねないが、耐性がありすぎる盗子は意外と平常運転だった。
「さ~て…まずは武器の仕入れだな。手ブラじゃ使える技が減るしなぁ。」
「武器?でもアンタ、武器もそうだけどお金も無いじゃん。あっ、まさか…!」
「バーカ。俺様は疲れてんだ、んな無駄な力ぁ使うかよ俺様は。俺様は…なぁ?」
「な、何その不自然な“俺様は”!?もしかして…あ、アタシにやれと!?」
「おぉ?なんだよ話が早ぇじゃねぇか。物分りのいい奴ぁ嫌ぇじゃねぇぜぇ?」
「嫌ってもらって結構だから見逃してよ!強盗なんてヤだよ『盗賊』だけども!」
「ブハハハ!ま、冗談だ。安心しろやクソジャリ…嫌ぇだよテメェなんか。」
「ってそっちが冗談かよ!襲うのはガチなのかよ!」
数分後。結局盗子は武器屋の前にいた。
もはや武器屋を襲うかソボーにボコられるかの二択しかない。
「や、やっぱヤメようよ~。なんとかお金用意しようよ。ね?」
「金ぇ?なんだよ、この星じゃあ武器屋襲うのに金がいんのかぁ?ハッハ!」
「いや、だからその“襲う”って前提をまず…」
「おぉっと、ちょうどいいところに武器屋があんじゃねぇか。ホレ行ってこい。」
「ちょっ、ちょっとは話を聞い…やっ、押し、込ま、ない、でぇっ…!」
「さぁ黙って行けや。ちなみに手ブラで戻ってきた時がぁ…テメェの死ぬ時だ。」
盗子は退路を断たれた。
カランコロンカラ~ン
強盗なんて当然したくはないが、どう考えても前門の武器屋の方が後門のソボーよりはマシであるため、消去法で前者を選ぶしかなかった盗子。
中に入ると、人の良さそうな恰幅のいい中年男性が立っていた。恐らく店主だ。
「おや?なんだい、また随分と可愛らしい嬢ちゃんじゃないか。いらっしゃい。」
「え、ホント!?アタシってそんなに可愛いかなオジちゃん☆」
「いや、お世辞ですが。」
「言うなよ!仮にお世辞でもそれは墓まで持ってけよ!!」
盗子は取説でも出回ってるのか。
「やれやれ…で?何の用かね?こう見えて暇じゃないのだよ私も。」
「くっ…!ご…強盗だよっ!もういいよ強盗だよ!武器を出せぇーー!!」
盗子はヤケになった。
「ほほぉ…まさかこの俺に歯向かおうなんて馬鹿な小娘がいるとはなぁ。」
“強盗”と聞いた店主は、それまでの穏やかな表情から一転、挑発的な表情で盗子を睨み返してきたのだ。
「えっ!?も、もしかしてアンタって…!?」
「ハッハッハ!ど田舎に住む普通の武器屋の店主とは、この俺のことさっ!」
「いや、見りゃわかるよ!!なんだよ思わずビビッちゃったじゃないさ!」
「フフ…。ある時は武器屋の店主、そしてまたある時は…」
「えっ!?な、なにその“実は凄い奴”みたいな言い回しは!?」
「…武器屋の店主。」
「って結局おんなじなのかよ!」
「しかしてその実体は…!やっぱり…武器屋の店主…」
「そこは嘘でもいいからどうにか強がれよ!」
「そんな俺と知って挑もうというのか?フッ、強気な小娘だぜ!」
「弱気になれる要素が見つからないよ!」
「さぁ来るなら来い強盗娘!俺の目が黒いうちは、商品はあんまり盗ません!」
「ちょっとならいいのかよ!!」
盗子は何個か盗んで逃げた。
「た、ただいまー。いくつか盗ってきたよ~。武具玉でいいんだよね?」
「ん?むぐっ。おぉ、そこに置いとけやぁ。んぐ。プハァ~!」
どこで手に入れたのか、どういうわけかソボーは食事中だった。
「って、アンタ何食べてんのさ…?そんなでっかい肉どうしたの?」
「肉屋を襲った。」
「だったら武器屋もアンタが襲えよ!」
「ギャーギャー騒ぐなうるせぇなぁ。メシがマズくなる。」
「はぁ~…。で?アタシの分は?朝から何も食べてないから腹ペコだよ~。」
「ウゼェ。テメェはその辺で草でも食ってろ。」
「な、なんでだよ!お願い聞いてあげたんだしアタシだって…痛ぁっ!!」
ソボーのビンタが炸裂した。
盗子は100のダメージを受けた。
「わーん!ぶたれたよー!生まれて初めてビンタで浮いたよー!」
「オイ、間違えんなよクソジャリィ?俺様は“お願い”したんじゃねぇ、“命令”したんだ。」
「くっ…!こんな…こんな屈辱って…!」
結構慣れてる…。
盗子は泣きながら草を食べた。
夜。ソボーは追われる身であるため、宿ではなく森で野宿することにした二人。
盗子はなんとか逃げ出そうと色々考えたが、逃げたら容赦なく殺されそうなので諦めた。
「さてとぉ、じゃあ寝るかなぁ…。んじゃまぁ、火の番はしっかりやれやぁ。」
「えぇっ!?アンタもしやアタシに寝るなって言ってんの!?ヤだよ寝たいよ!」
「寝たらそのまま火にくべる。」
「さ、さーて!薪でも拾ってこよっかな~っとぉ!」
「んだよ…わざわざメンバー総出で来てみれば、野郎一人とガキだけかよ?」
「えっ、な、なんの声!?」
盗子が振り返ると、木の陰から数人の男達が現れた。
見るからに柄が悪い奴らだ。
「あ、アンタら…誰?警察なら助けてほしいとこだけど、違うよね…?」
「肉屋に雇われた傭兵さ。ムカつく強盗野郎をブッ殺してくれって頼まれてね。」
聞けば、男達は肉屋側の人間らしい。
味方かどうかはわからないが、敵の敵であるのは確かのようだ。
「あ゛?はぁ~やれやれ、ケツの穴の小せぇオヤジだなぁオイ…」
「なぁ嬢ちゃん。俺らが用があんのはそいつだけだ、キミは下がってな。」
「えっ、ホント!?見逃してもらえるの!?じゃあアタシは…いや、でも…」
盗子にチャンスが訪れた。
だがそう簡単な話でもない。
「よぉ~く考えろなクソジャリ、返答次第じゃ…もう甘くしてやれねぇぜ?」
「あれで甘かったつもりなの!?」
「さぁどきな小娘。とっととそいつから離れねぇと、お前も殺っちまうぜ?」
「あ、あの…でも…」
選択を迫られる盗子。
状況的には渡りに船といった感じではあるが、本来の強さと性格を考えたら敵に回して怖いのは断然ソボーの方。そこらの傭兵が勝てるとは到底思えない。
そのため、とりあえずはソボーの味方として乗り切った方が良さそうだと判断した盗子は、小声でソボーを説得しようと試みた。
(に、逃げよ!逃げようよソボー!いくらなんでもこの人数は…)
「あ゛?ざけんな、めんどくせぇ。こんな雑魚どもテメェが片付けろやぁ。」
(そ、そんなっ!無理だよアタシは戦闘要員じゃないもん!)
「はぁ?なんだぁオメェ…まさか今までずっとそうしてきたのかぁ?」
「えっ…?」
「そりゃ随分と“お荷物”だったろうなぁ。テメェの仲間に同情すんぜぇ。」
「ッ!!!」
盗子は痛い所を突かれた。
「そんなんじゃあ放っといてもいずれ死ぬわ。なら今ぁ死んでも大差ねぇだろ?」
ゴミでも見るような目で盗子を罵倒するソボー。
盗子が言い返せないでいると、そんな様子に傭兵達は痺れを切らせたようだ。
「おいテメェら、何をさっきからコソコソと…!」
「あ、アタシが…」
「あん?なんだ小娘、まだいたのか?逃げないってんなんら…」
「アタシが相手だよ!!アンタら全員、アタシがブッ倒しちゃうんだからっ!」
盗子はソボーの挑発に屈した。
もちろん勝てる自信は無い。
「んじゃまぁ、のんびりやれやぁ。俺様は寝るとするわ。」
ソボーは露骨にくつろぎ始めた。
「や、野郎…!魔法壁なんか張りやがって!オイお前達、ブッ壊すぞ!」
「オイ、駄目だやめとけ!それ迂闊に触るとこっちが危ねぇぞ気を付けろ!」
「馬鹿な!知ってるぞ、それ呪縛錠だろ!?そいつは大半の力を奪うはず…!」
人数にしても呪縛錠の件にしても、自分達が有利に見えるにも関わらず、全く意に介す様子のないソボーの姿に、傭兵達は動揺を隠せない。
「テメェらの力を1とすりゃあ、俺様の元の力は1億だ。意味わかるかぁ?」
攻撃を通さない魔法壁の中で、ソボーは鼻で笑った。
荒唐無稽な数値化ではあったが、なぜだか間違いとも言い切れないと思わされる威圧感があった。
「チッ…しゃーねぇ、とりあえず小娘を始末するぞ。野郎の方はその後だ。」
「子供…しかも女に手を上げるなど気が引けるが、逆らうならば仕方なし。」
「行くぞぉ!!」
(来るっ…!!)
盗子は慎重に身構えた。
ドガバキドゴバキバキドゴン!!!
そして華麗に全部食らった。
「きゅぅ~~…」
「な、なんだこのガキは?避けるどころか自分から全部食らいにくるとは…」
「ある意味全部避けるより難しい気もするな…」
「まぁいいじゃねーか。とっととトドメ刺しちまおうぜ。」
傭兵達が盗子に近づいた、その時―――
「チッ!!」
おっかない顔でソボーが立ち上がった。
「な、なんだよテメェ?なんだかんだ言ってガキがやられたら怒んのか?」
「…囲まれたか。呪縛錠ってのはぁ勘まで鈍りやがるのかよ?ったく…」
「ん…?へぇ、よく気づいたな。そうさ、もうこの森は俺らの仲間が完全に…」
(ぎゃぁああああああああ!)
少し遠くの方から複数の絶叫が聞こえてきた。
その声に覚えのあった傭兵達は一気に青ざめた。
「なっ!今のは俺らの味方の…!?どういうことだ!一体何が…!?」
(た、助け…うわぁああああ!!)
「このひでぇニオイ…まさか“奴ら”がこの星に…?チッ、起きろクソジャリ!」
「うぐ…えっ、なに…?」
叩き起こされた盗子が慌てて辺りを見渡すと、ヤバそうな連中が迫ってくるのが見えた。
腰に布を巻いただけの半裸の男達…。凄まじく太った十人近い魔人が、返り血を見に纏いつつ笑顔で現れるという異様な光景は、寝起きの盗子にはとてもキツかった。
「グヘヘ…グヘヘへ…」
「わ、わー!なんかキモいの出て来ちゃったー!難は去らずにまた一難だよー!」
「な、何モンだテメェら!?その返り血…俺らの仲間を殺しやがったな!?」
「マズソウ オマエラ。デモ タベル。」
「よ…よし、いくぞお前達!仲間のカタキ、討ってやろうじゃねーか!」
傭兵達は一斉に飛び掛った。
「ね、ねぇソボー?何か知ってるっぽいけど、アイツら何なのさ?」
「あ?奴らは『首無し族』…流浪の殺戮人種だ。今の状況で絡まれりゃまぁ…厄介だわなぁ。」
首無し族…それはかつて、ウシロシ村の奮虎に頼まれて勇者が討伐しに向かい、見事に遭遇し損ねた敵の名前だった。
「首無し…?でも普通に頭あるように見えるけど…?」
「首は無ぇよ、デブだから。」
「そういう意味!?」
悪質なイジメのような名前だった。
「な、なにぃ!?や、やめろぉおおおおお!!」
「ちょっ、なんかアイツら…皮膚から傭兵達を取り込んでない!?」
抵抗むなしく首無し族に捕捉され、一人また一人と倒されていく傭兵達。
しかもそのやられ方は、接触部位から全身を取り込まれるという悲惨なものだった。
「ああ、奴らは触れたものはそこから食いやがる。まぁ、腰布を巻けてるのを見るに、服は食わねぇようだがなぁ。」
「な、なぜだぁ!?なんで斬れね…うわぁああああああ!!」
「おまけに贅肉と脂のせいで、基本的に斬撃が効かねぇ。魔法防御力も高ぇ。」
「やややヤバいじゃんそれ!かなりヤバい状況なんじゃない!?」
「そして何より…」
「えっ!まだ何かあんの!?」
「クセェ。デブだけにな。」
辺り一面なんだか酸っぱい。
「と、ところでさソボー?まさかコイツらまでアタシにやれ…とか?」
「あ?…いーや、いくらなんでも分が悪ぃ。テメェは、逃げろや。」
「え…?」
「アイツら連れて。」
「オトリになれと!?」
「とりあえずテメェは奴らぁかく乱して俺様の負担減らせ!いいな!?」
「…わ、わかったよ!こうなったらもう覚悟決めるよ!なんでも来いだよ!」
「できなきゃ殺す!」
「任せて!」
「できても殺す!!」
「なんでっ!?」
「敵は七…いや八匹か…。よぉし、とりあえず五匹は引き付けろやクソジャリ!」
「お、オッケー!いくらアタシでもこんなデブちん達には捕まらないよ!」
「そのセリフ、回れ右して言ってみなぁ?」
盗子が振り返ると、すぐそこにデブの顔があった。
「メシィイイイイイイイ!!」
「わきゃーーー!!」
デブAの攻撃。
ミス!盗子は攻撃をかわした。
辺りの木々が何本かフッ飛んだ。
「コウゲキ ハラヘル。ハヤク メシ。」
「うぎゃー!パンチ一発でこんなんってどーゆーこと!?死ぬ!やっぱ無理!」
「うるせぇ黙れクソジャリ!ギャーギャー騒い…あ゛。」
「イタダキマス。」
デブBの攻撃。
なんと!ソボーは左腕を食われた。
「そ、ソボーーーーー!?」
「騒ぐな“義手”だ!ったくテメェのせいで…!後で覚えてろぉクソジャリィ!」
「えっ!アタシのせい!?アンタが勝手に油断したんじゃん!」
油断なのか呪縛錠のせいか、それとも敵の実力のせいなのか…。とにかく左腕を失ってしまったソボーは、ようやく自ら戦う気になったようだ。
しかし、首無し族は分厚い贅肉覆われているため防御力が凄まじいようで、先ほどの傭兵達の攻撃も一切効いていなかった。その特性を以前から知っていたらしいソボーいわく、彼らに対する効果的な手はほぼ無いのだという。
「えっ!じゃ、じゃあヤバいじゃん!イヤだよ死にたくないよ!アンタも無事じゃ済まないんだから気張ってよー!」
「チッ、しゃーねー…ダメ元でやってみっかぁ『一刀五連撃』!!」
ソボーの連続攻撃。
デブAに0のダメージ。
デブBに0のダメージ。
デブCに0のダメージ。
デブDに0のダメージ。
盗子に100のダメージ。
その後、何度かソボーの技を食らいつつも、なんとか逃げ回ること数十分。
でも、もう無理!攻撃したら武器食べられちゃうし、そもそも当たっても全然効かないし…限界だよ!
「ハァ、ハァ、もう…ダメ!限界!疲れたよぉー!もう打つ手無しなの!?」
「まだ右手はある、打ってほしけりゃ頬を出せや。」
「そういう意味じゃなくて!」
「ハラ ヘッターーーー!!」
代わる代わる襲い掛かってくるデブ達の攻撃を、なんとか紙一重でかわしてきた盗子だったが、体力の限界はとうに超えていた。
「ひ、ひぃーー!も、もうホントに無理!ねぇ起死回生に一撃とか無いわけ!?」
「あ?あー…まぁ無ぇわけじゃねぇが…気が乗らねぇなぁ、ったく…」
「なんだよあるのかよ!あるならやろうよ!もったいぶってる場合!?」
ピンチにあっても終始余裕そうだったソボーだが、一瞬表情が曇った。
気乗りうんぬんじゃ済まない事情がありそうだ。
「神速の居合い抜き…何でもブッた斬る技は知っちゃいるが、『呪剣』でなぁ。」
「じゅ、呪剣って…呪いと引き換えに威力が凄いっていう噂の…!?」
「奇しくも、かつてそれ使った奴ぁコイツらの星を滅ぼしたと聞く。威力は折り紙付きだぜ?」
「ッ!!?」
ソボーの言葉に、それまで食以外に興味を示さなかった首無し族が、初めて別の反応を見せた。
「で、でもその呪いって…?」
「…よぉく見てろよクソジャリ。一度しか見せねぇぞ、しっかり“盗め”。」
「えっ…?」
「オマエ!オレタチ ナカマ キッタカァーーー!!」
「コロォーーースッ!!」
デブA~Eがソボーに襲い掛かった。
ソボーは剣を一旦鞘に納めて目を閉じ、そして再び見開いた。
「いくぜぇ!切り裂け真空の刃!『渾身抜刀流』、闇奥義…!!」
ソボー、必殺の攻撃!
「『カル死ウム不足』!!」
確かによくキレそうだ。
名前は変だったけど、すんごい威力だったソボーの必殺技。ホント凄いよ!
全然攻撃効かなかったアイツらが、一気に五人も真っ二つ!なんか勝てるかも!
「チッ、今のパワーじゃやっぱ狩り残したか…!ぐふっ!!」
「えっ!だ、大丈夫!?まさかさっきの技の呪いってのが…!?」
「おいクソジャリ、胃薬買って来い。」
「ってただの食い過ぎかよ!どんだけ食ったんだよ、そりゃ肉屋もキレるよ!」
「ア…ナ、ナカマ…」
一撃で仲間を両断され、さすがに戸惑いを見せた首無し族。
だがそれも長くは続かなかった。
「ヨクモ! ヨクモ ワタシノ ナカマヲ!!」
「わっ、残りが来たよ!早くもう一発やっちゃってよ!」
「ざけんな、ありゃもう打ち止めだよ。もう二度と使わねぇ。」
「な、なんで!?胃がもたれてるからとか言わないでよ!?」
「俺様は今ので二度目でなぁ。あの技は、三度使ったら…“死ぬ”んだよ。」
思ったよりエグい代償だった。
「死!?そんなおっかない技だったの!?じゃあ残りは…どうしよぉ!?」
「ま、三匹ぐれぇならテメェでも狩れんだろ。ホレ、使ってみろや今の。」
「アタシ!?いや使えるかよ無理に決まってんじゃんアンタじゃあるまいし!」
ソボーからの無茶振りを、盗子は当然のように拒否った。
だが、返ってきたのは意外な答えだった。
「あ゛?知らねぇのかよテメェ?『盗賊』の最上級職…それが『技盗士』だ。」
「えぇっ!そうなの!?で、でもできないよ!アタシは盗賊としてもまだ…」
「できるできねぇじゃねぇ。やらなきゃ死ぬ、それだけだ。」
「そ、そんなぁ…!」
決断を迫られる盗子。
そんな盗子を尻目に、なんと仲間の死骸食べ始めた首無し族達。異常な光景だった。
「いいからやれ!それともテメェ、お荷物のまま死にてぇのか?カスが!」
「でも…!せ、せめてコツとか教えてよ!簡単にでいいから!」
「パッと盗んでサッとやれ。」
「簡単にも程があるよ!」
「センスが無きゃあ何億年教えたってできねぇよ。技盗士は努力職じゃねぇ。」
「け、けどさ!さっきはそのつもりで見てなかったよ?もう手後れなんじゃ…?」
「ちゃんと見てりゃあ希望はある。手後れなのはテメェの顔だけだ。」
「ムーリーだーよー!だって最上級職だよ!?しかもそんな適当な説明で…って誰がブサイクだよ!」
「諦めろ、うだうだ言ってる間に…奴らの準備も済んじまったみてぇだぜぇ?」
ソボーの言う通り、首無し族はすぐ近くまで来ていた。
生き残った者同士でも食べ合ったようで、残りは一体のみ。
先ほどまでの狂気に満ちた様子とは異なり、理性的な気配が感じられた。
「…汝は我らを怒らせた。その深き罪、死をもって償うがいい!!」
「流暢になってるぅー!言葉が不自然に流暢になってるよー!」
「やれぇクソジャリィ!!イタチだって最期にゃ屁ぐらいかますぜぇ!?」
「も、もぉー!こうなりゃヤケだぁーーー!!」
盗子の運命やいかに。