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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
85/196

【085】外伝

*** 外伝:盗子が行く ***


 帝牢に囚われていたソボーに拉致られてしまった盗子は、飛竜『リュオ』の背に乗せられ猛スピードで帝都から遠ざかった。


「よぉし、呼ぶまで上で待機なリュオ。オラ、とっとと降りろやクソジャリィ!」


 追っ手がいないのを確認し、途中で目に入った『マチカ村』に降り立ったソボーは、盗子の首根っこを掴むと地面に叩き落とした。


「痛っ!もう!ちっとは優しく扱ってよっ!アタシ女の子だよ!?」

「悪ぃなぁクソジャリ、男女差別はしねぇ主義だ。」

「何その“男女差別”に対する都合のいい解釈!?」


 凶悪な脱獄犯から酷い扱いを受ければ、普通の少女なら怯えて何もできなくなりかねないが、耐性がありすぎる盗子は意外と平常運転だった。


「さ~て…まずは武器の仕入れだな。手ブラじゃ使える技が減るしなぁ。」

「武器?でもアンタ、武器もそうだけどお金も無いじゃん。あっ、まさか…!」

「バーカ。俺様は疲れてんだ、んな無駄な力ぁ使うかよ俺様は。俺様は…なぁ?」

「な、何その不自然な“俺様は”!?もしかして…あ、アタシにやれと!?」

「おぉ?なんだよ話が早ぇじゃねぇか。物分りのいい奴ぁ嫌ぇじゃねぇぜぇ?」

「嫌ってもらって結構だから見逃してよ!強盗なんてヤだよ『盗賊』だけども!」

「ブハハハ!ま、冗談だ。安心しろやクソジャリ…嫌ぇだよテメェなんか。」

「ってそっちが冗談かよ!襲うのはガチなのかよ!」



 数分後。結局盗子は武器屋の前にいた。

 もはや武器屋を襲うかソボーにボコられるかの二択しかない。


「や、やっぱヤメようよ~。なんとかお金用意しようよ。ね?」

「金ぇ?なんだよ、この星じゃあ武器屋襲うのに金がいんのかぁ?ハッハ!」

「いや、だからその“襲う”って前提をまず…」

「おぉっと、ちょうどいいところに武器屋があんじゃねぇか。ホレ行ってこい。」

「ちょっ、ちょっとは話を聞い…やっ、押し、込ま、ない、でぇっ…!」

「さぁ黙って行けや。ちなみに手ブラで戻ってきた時がぁ…テメェの死ぬ時だ。」


 盗子は退路を断たれた。


カランコロンカラ~ン


 強盗なんて当然したくはないが、どう考えても前門の武器屋の方が後門のソボーよりはマシであるため、消去法で前者を選ぶしかなかった盗子。

 中に入ると、人の良さそうな恰幅のいい中年男性が立っていた。恐らく店主だ。


「おや?なんだい、また随分と可愛らしい嬢ちゃんじゃないか。いらっしゃい。」

「え、ホント!?アタシってそんなに可愛いかなオジちゃん☆」

「いや、お世辞ですが。」

「言うなよ!仮にお世辞でもそれは墓まで持ってけよ!!」


 盗子は取説でも出回ってるのか。


「やれやれ…で?何の用かね?こう見えて暇じゃないのだよ私も。」

「くっ…!ご…強盗だよっ!もういいよ強盗だよ!武器を出せぇーー!!」


 盗子はヤケになった。


「ほほぉ…まさかこの俺に歯向かおうなんて馬鹿な小娘がいるとはなぁ。」


 “強盗”と聞いた店主は、それまでの穏やかな表情から一転、挑発的な表情で盗子を睨み返してきたのだ。


「えっ!?も、もしかしてアンタって…!?」

「ハッハッハ!ど田舎に住む普通の武器屋の店主とは、この俺のことさっ!」

「いや、見りゃわかるよ!!なんだよ思わずビビッちゃったじゃないさ!」

「フフ…。ある時は武器屋の店主、そしてまたある時は…」

「えっ!?な、なにその“実は凄い奴”みたいな言い回しは!?」

「…武器屋の店主。」

「って結局おんなじなのかよ!」

「しかしてその実体は…!やっぱり…武器屋の店主…」

「そこは嘘でもいいからどうにか強がれよ!」

「そんな俺と知って挑もうというのか?フッ、強気な小娘だぜ!」

「弱気になれる要素が見つからないよ!」

「さぁ来るなら来い強盗娘!俺の目が黒いうちは、商品はあんまり盗ません!」

「ちょっとならいいのかよ!!」


 盗子は何個か盗んで逃げた。



「た、ただいまー。いくつか盗ってきたよ~。武具玉でいいんだよね?」

「ん?むぐっ。おぉ、そこに置いとけやぁ。んぐ。プハァ~!」


 どこで手に入れたのか、どういうわけかソボーは食事中だった。


「って、アンタ何食べてんのさ…?そんなでっかい肉どうしたの?」

「肉屋を襲った。」

「だったら武器屋もアンタが襲えよ!」

「ギャーギャー騒ぐなうるせぇなぁ。メシがマズくなる。」

「はぁ~…。で?アタシの分は?朝から何も食べてないから腹ペコだよ~。」

「ウゼェ。テメェはその辺で草でも食ってろ。」

「な、なんでだよ!お願い聞いてあげたんだしアタシだって…痛ぁっ!!」


 ソボーのビンタが炸裂した。

 盗子は100のダメージを受けた。


「わーん!ぶたれたよー!生まれて初めてビンタで浮いたよー!」

「オイ、間違えんなよクソジャリィ?俺様は“お願い”したんじゃねぇ、“命令”したんだ。」

「くっ…!こんな…こんな屈辱って…!」


結構慣れてる…。


 盗子は泣きながら草を食べた。




 夜。ソボーは追われる身であるため、宿ではなく森で野宿することにした二人。

 盗子はなんとか逃げ出そうと色々考えたが、逃げたら容赦なく殺されそうなので諦めた。


「さてとぉ、じゃあ寝るかなぁ…。んじゃまぁ、火の番はしっかりやれやぁ。」

「えぇっ!?アンタもしやアタシに寝るなって言ってんの!?ヤだよ寝たいよ!」

「寝たらそのまま火にくべる。」

「さ、さーて!薪でも拾ってこよっかな~っとぉ!」


「んだよ…わざわざメンバー総出で来てみれば、野郎一人とガキだけかよ?」


「えっ、な、なんの声!?」


 盗子が振り返ると、木の陰から数人の男達が現れた。

 見るからに柄が悪い奴らだ。


「あ、アンタら…誰?警察なら助けてほしいとこだけど、違うよね…?」

「肉屋に雇われた傭兵さ。ムカつく強盗野郎をブッ殺してくれって頼まれてね。」


 聞けば、男達は肉屋側の人間らしい。

 味方かどうかはわからないが、ソボーの敵であるのは確かのようだ。


「あ゛?はぁ~やれやれ、ケツの穴の小せぇオヤジだなぁオイ…」

「なぁ嬢ちゃん。俺らが用があんのはそいつだけだ、キミは下がってな。」

「えっ、ホント!?見逃してもらえるの!?じゃあアタシは…いや、でも…」


 盗子にチャンスが訪れた。

 だがそう簡単な話でもない。


「よぉ~く考えろなクソジャリ、返答次第じゃ…もう甘くしてやれねぇぜ?」

「あれで甘かったつもりなの!?」

「さぁどきな小娘。とっととそいつから離れねぇと、お前も殺っちまうぜ?」

「あ、あの…でも…」


 選択を迫られる盗子。

 状況的には渡りに船といった感じではあるが、本来の強さと性格を考えたら敵に回して怖いのは断然ソボーの方。そこらの傭兵が勝てるとは到底思えない。

 そのため、とりあえずはソボーの味方として乗り切った方が良さそうだと判断した盗子は、小声でソボーを説得しようと試みた。


(に、逃げよ!逃げようよソボー!いくらなんでもこの人数は…)

「あ゛?ざけんな、めんどくせぇ。こんな雑魚どもテメェが片付けろやぁ。」

(そ、そんなっ!無理だよアタシは戦闘要員じゃないもん!)

「はぁ?なんだぁオメェ…まさか今までずっとそうしてきたのかぁ?」

「えっ…?」

「そりゃ随分と“お荷物”だったろうなぁ。テメェの仲間に同情すんぜぇ。」

「ッ!!!」


 盗子は痛い所を突かれた。


「そんなんじゃあ放っといてもいずれ死ぬわ。なら今ぁ死んでも大差ねぇだろ?」


 ゴミでも見るような目で盗子を罵倒するソボー。

 盗子が言い返せないでいると、そんな様子に傭兵達は痺れを切らせたようだ。


「おいテメェら、何をさっきからコソコソと…!」

「あ、アタシが…」

「あん?なんだ小娘、まだいたのか?逃げないってんなんら…」

「アタシが相手だよ!!アンタら全員、アタシがブッ倒しちゃうんだからっ!」


 盗子はソボーの挑発に屈した。

 もちろん勝てる自信は無い。


「んじゃまぁ、のんびりやれやぁ。俺様は寝るとするわ。」


 ソボーは露骨にくつろぎ始めた。


「や、野郎…!魔法壁なんか張りやがって!オイお前達、ブッ壊すぞ!」

「オイ、駄目だやめとけ!それ迂闊に触るとこっちが危ねぇぞ気を付けろ!」

「馬鹿な!知ってるぞ、それ呪縛錠だろ!?そいつは大半の力を奪うはず…!」


 人数にしても呪縛錠の件にしても、自分達が有利に見えるにも関わらず、全く意に介す様子のないソボーの姿に、傭兵達は動揺を隠せない。


「テメェらの力を1とすりゃあ、俺様の元の力は1億だ。意味わかるかぁ?」


 攻撃を通さない魔法壁の中で、ソボーは鼻で笑った。

 荒唐無稽な数値化ではあったが、なぜだか間違いとも言い切れないと思わされる威圧感があった。


「チッ…しゃーねぇ、とりあえず小娘を始末するぞ。野郎の方はその後だ。」

「子供…しかも女に手を上げるなど気が引けるが、逆らうならば仕方なし。」

「行くぞぉ!!」

(来るっ…!!)


 盗子は慎重に身構えた。


ドガバキドゴバキバキドゴン!!!


 そして華麗に全部食らった。



「きゅぅ~~…」

「な、なんだこのガキは?避けるどころか自分から全部食らいにくるとは…」

「ある意味全部避けるより難しい気もするな…」

「まぁいいじゃねーか。とっととトドメ刺しちまおうぜ。」


 傭兵達が盗子に近づいた、その時―――


「チッ!!」


 おっかない顔でソボーが立ち上がった。


「な、なんだよテメェ?なんだかんだ言ってガキがやられたら怒んのか?」

「…囲まれたか。呪縛錠ってのはぁ勘まで鈍りやがるのかよ?ったく…」

「ん…?へぇ、よく気づいたな。そうさ、もうこの森は俺らの仲間が完全に…」



(ぎゃぁああああああああ!)



 少し遠くの方から複数の絶叫が聞こえてきた。

 その声に覚えのあった傭兵達は一気に青ざめた。


「なっ!今のは俺らの味方の…!?どういうことだ!一体何が…!?」


(た、助け…うわぁああああ!!)


「このひでぇニオイ…まさか“奴ら”がこの星に…?チッ、起きろクソジャリ!」

「うぐ…えっ、なに…?」


 叩き起こされた盗子が慌てて辺りを見渡すと、ヤバそうな連中が迫ってくるのが見えた。

 腰に布を巻いただけの半裸の男達…。凄まじく太った十人近い魔人が、返り血を見に纏いつつ笑顔で現れるという異様な光景は、寝起きの盗子にはとてもキツかった。


「グヘヘ…グヘヘへ…」

「わ、わー!なんかキモいの出て来ちゃったー!難は去らずにまた一難だよー!」

「な、何モンだテメェら!?その返り血…俺らの仲間を殺しやがったな!?」

「マズソウ オマエラ。デモ タベル。」

「よ…よし、いくぞお前達!仲間のカタキ、討ってやろうじゃねーか!」


 傭兵達は一斉に飛び掛った。


「ね、ねぇソボー?何か知ってるっぽいけど、アイツら何なのさ?」

「あ?奴らは『首無し族』…流浪の殺戮人種だ。今の状況で絡まれりゃまぁ…厄介だわなぁ。」


 首無し族…それはかつて、ウシロシ村の奮虎に頼まれて勇者が討伐しに向かい、見事に遭遇し損ねた敵の名前だった。


「首無し…?でも普通に頭あるように見えるけど…?」

「首は無ぇよ、デブだから。」

「そういう意味!?」


 悪質なイジメのような名前だった。



「な、なにぃ!?や、やめろぉおおおおお!!」

「ちょっ、なんかアイツら…皮膚から傭兵達を取り込んでない!?」


 抵抗むなしく首無し族に捕捉され、一人また一人と倒されていく傭兵達。

 しかもそのやられ方は、接触部位から全身を取り込まれるという悲惨なものだった。


「ああ、奴らは触れたものはそこから食いやがる。まぁ、腰布を巻けてるのを見るに、服は食わねぇようだがなぁ。」

「な、なぜだぁ!?なんで斬れね…うわぁああああああ!!」

「おまけに贅肉と脂のせいで、基本的に斬撃が効かねぇ。魔法防御力も高ぇ。」

「やややヤバいじゃんそれ!かなりヤバい状況なんじゃない!?」

「そして何より…」

「えっ!まだ何かあんの!?」

「クセェ。デブだけにな。」


 辺り一面なんだか酸っぱい。


「と、ところでさソボー?まさかコイツらまでアタシにやれ…とか?」

「あ?…いーや、いくらなんでも分が悪ぃ。テメェは、逃げろや。」

「え…?」

「アイツら連れて。」

「オトリになれと!?」

「とりあえずテメェは奴らぁかく乱して俺様の負担減らせ!いいな!?」

「…わ、わかったよ!こうなったらもう覚悟決めるよ!なんでも来いだよ!」

「できなきゃ殺す!」

「任せて!」

「できても殺す!!」

「なんでっ!?」

「敵は七…いや八匹か…。よぉし、とりあえず五匹は引き付けろやクソジャリ!」

「お、オッケー!いくらアタシでもこんなデブちん達には捕まらないよ!」

「そのセリフ、回れ右して言ってみなぁ?」


 盗子が振り返ると、すぐそこにデブの顔があった。


「メシィイイイイイイイ!!」

「わきゃーーー!!」


 デブAの攻撃。

 ミス!盗子は攻撃をかわした。

 辺りの木々が何本かフッ飛んだ。


「コウゲキ ハラヘル。ハヤク メシ。」

「うぎゃー!パンチ一発でこんなんってどーゆーこと!?死ぬ!やっぱ無理!」

「うるせぇ黙れクソジャリ!ギャーギャー騒い…あ゛。」

「イタダキマス。」


 デブBの攻撃。

 なんと!ソボーは左腕を食われた。


「そ、ソボーーーーー!?」

「騒ぐな“義手”だ!ったくテメェのせいで…!後で覚えてろぉクソジャリィ!」

「えっ!アタシのせい!?アンタが勝手に油断したんじゃん!」


 油断なのか呪縛錠のせいか、それとも敵の実力のせいなのか…。とにかく左腕を失ってしまったソボーは、ようやく自ら戦う気になったようだ。

 しかし、首無し族は分厚い贅肉覆われているため防御力が凄まじいようで、先ほどの傭兵達の攻撃も一切効いていなかった。その特性を以前から知っていたらしいソボーいわく、彼らに対する効果的な手はほぼ無いのだという。


「えっ!じゃ、じゃあヤバいじゃん!イヤだよ死にたくないよ!アンタも無事じゃ済まないんだから気張ってよー!」

「チッ、しゃーねー…ダメ元でやってみっかぁ『一刀五連撃』!!」


 ソボーの連続攻撃。

 デブAに0のダメージ。

 デブBに0のダメージ。

 デブCに0のダメージ。

 デブDに0のダメージ。

 盗子に100のダメージ。




その後、何度かソボーの技を食らいつつも、なんとか逃げ回ること数十分。

でも、もう無理!攻撃したら武器食べられちゃうし、そもそも当たっても全然効かないし…限界だよ!


「ハァ、ハァ、もう…ダメ!限界!疲れたよぉー!もう打つ手無しなの!?」

「まだ右手はある、打ってほしけりゃ頬を出せや。」

「そういう意味じゃなくて!」

「ハラ ヘッターーーー!!」


 代わる代わる襲い掛かってくるデブ達の攻撃を、なんとか紙一重でかわしてきた盗子だったが、体力の限界はとうに超えていた。


「ひ、ひぃーー!も、もうホントに無理!ねぇ起死回生に一撃とか無いわけ!?」

「あ?あー…まぁ無ぇわけじゃねぇが…気が乗らねぇなぁ、ったく…」

「なんだよあるのかよ!あるならやろうよ!もったいぶってる場合!?」


 ピンチにあっても終始余裕そうだったソボーだが、一瞬表情が曇った。

 気乗りうんぬんじゃ済まない事情がありそうだ。


「神速の居合い抜き…何でもブッた斬る技は知っちゃいるが、『呪剣』でなぁ。」

「じゅ、呪剣って…呪いと引き換えに威力が凄いっていう噂の…!?」

「奇しくも、かつてそれ使った奴ぁコイツらの星を滅ぼしたと聞く。威力は折り紙付きだぜ?」

「ッ!!?」


 ソボーの言葉に、それまで食以外に興味を示さなかった首無し族が、初めて別の反応を見せた。


「で、でもその呪いって…?」

「…よぉく見てろよクソジャリ。一度しか見せねぇぞ、しっかり“盗め”。」

「えっ…?」

「オマエ!オレタチ ナカマ キッタカァーーー!!」

「コロォーーースッ!!」


 デブA~Eがソボーに襲い掛かった。

 ソボーは剣を一旦鞘に納めて目を閉じ、そして再び見開いた。


「いくぜぇ!切り裂け真空の刃!『渾身抜刀流』、闇奥義…!!」


 ソボー、必殺の攻撃!


「『カル死ウム不足』!!」


 確かによくキレそうだ。



名前は変だったけど、すんごい威力だったソボーの必殺技。ホント凄いよ!

全然攻撃効かなかったアイツらが、一気に五人も真っ二つ!なんか勝てるかも!


「チッ、今のパワーじゃやっぱ狩り残したか…!ぐふっ!!」

「えっ!だ、大丈夫!?まさかさっきの技の呪いってのが…!?」

「おいクソジャリ、胃薬買って来い。」

「ってただの食い過ぎかよ!どんだけ食ったんだよ、そりゃ肉屋もキレるよ!」


「ア…ナ、ナカマ…」


 一撃で仲間を両断され、さすがに戸惑いを見せた首無し族。

 だがそれも長くは続かなかった。


「ヨクモ! ヨクモ ワタシノ ナカマヲ!!」

「わっ、残りが来たよ!早くもう一発やっちゃってよ!」

「ざけんな、ありゃもう打ち止めだよ。もう二度と使わねぇ。」

「な、なんで!?胃がもたれてるからとか言わないでよ!?」

「俺様は今ので二度目でなぁ。あの技は、三度使ったら…“死ぬ”んだよ。」


 思ったよりエグい代償だった。


「死!?そんなおっかない技だったの!?じゃあ残りは…どうしよぉ!?」

「ま、三匹ぐれぇならテメェでも狩れんだろ。ホレ、使ってみろや今の。」

「アタシ!?いや使えるかよ無理に決まってんじゃんアンタじゃあるまいし!」


 ソボーからの無茶振りを、盗子は当然のように拒否った。

 だが、返ってきたのは意外な答えだった。


「あ゛?知らねぇのかよテメェ?『盗賊』の最上級職…それが『技盗士』だ。」


「えぇっ!そうなの!?で、でもできないよ!アタシは盗賊としてもまだ…」

「できるできねぇじゃねぇ。やらなきゃ死ぬ、それだけだ。」

「そ、そんなぁ…!」


 決断を迫られる盗子。

 そんな盗子を尻目に、なんと仲間の死骸食べ始めた首無し族達。異常な光景だった。


「いいからやれ!それともテメェ、お荷物のまま死にてぇのか?カスが!」

「でも…!せ、せめてコツとか教えてよ!簡単にでいいから!」

「パッと盗んでサッとやれ。」

「簡単にも程があるよ!」

「センスが無きゃあ何億年教えたってできねぇよ。技盗士は努力職じゃねぇ。」

「け、けどさ!さっきはそのつもりで見てなかったよ?もう手後れなんじゃ…?」

「ちゃんと見てりゃあ希望はある。手後れなのはテメェの顔だけだ。」

「ムーリーだーよー!だって最上級職だよ!?しかもそんな適当な説明で…って誰がブサイクだよ!」

「諦めろ、うだうだ言ってる間に…奴らの準備も済んじまったみてぇだぜぇ?」


 ソボーの言う通り、首無し族はすぐ近くまで来ていた。

 生き残った者同士でも食べ合ったようで、残りは一体のみ。

 先ほどまでの狂気に満ちた様子とは異なり、理性的な気配が感じられた。


「…汝は我らを怒らせた。その深き罪、死をもって償うがいい!!」

「流暢になってるぅー!言葉が不自然に流暢になってるよー!」

「やれぇクソジャリィ!!イタチだって最期にゃ屁ぐらいかますぜぇ!?」

「も、もぉー!こうなりゃヤケだぁーーー!!」


 盗子の運命やいかに。

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