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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
84/196

【084】天からの宣戦布告

結局、計十日ほど寝込み、なんとか帝都病院から退院できた俺。まだ少しダルい。

だがまぁ約束通り武術会でも優勝したわけだし、もうこれでこの帝都にも用は無いだろう。


…いや、違う。そういえばここには、ユーザックの情報を仕入れに来たんだった。


「というわけで芋っ子、ユーザック…『魔王』について何か知ってることがあったら話せ。」

「あ~、そういえばここ最近聞かない名ね。でも悪いけど知らないわダーリン。」

「ちょっと待て何がダーリンだ!お前にそんな名で呼ばれる筋合いは無い!」

「照れないでいいわ。ワタイを巡って争ったくせに。」

「そこは大前提として断っただろうが!」

「まったく、もったいないわねぇ。芋食べ放題なのに…。ま、いいけどね。」

「じゃあやはり、もうこの街に用は無いな。明日一番で発つから足を用意するがいい。特に当ては無いんだが。」

「だったら『ローゲ王都』にでも行くといいわ。この時期はちょうど祭りの時期なのよ。」

「ローゲか…俺に化けてた猿魔らは行ったらしいが、俺は素通りしたしなぁ。たまには気晴らしも…」



ズッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!



 突如として、大陸全土に聞こえるほどの轟音が響き渡った。

 激しい衝撃波が窓を揺らす。


「なっ、何の音だ!?」

「芋減ったわね…」

「腹の音!?って冗談言ってる場合じゃないだろ今の音は!」

「た、大変です芋子様!ローゲの…ローゲの方角をご覧ください!」


 慌てて部屋に飛び込んできた洗馬巣が指差す先には、この世のものとは思えない光景が広がっていた。


「なっ、なんだあの巨大な火柱は…!?」


 天を貫くように立ち上る、炎の柱。

 遥か遠くの国の最期が肉眼で見えるという異様な事態に、さすがの勇者も驚愕した。


「そ、そうか…!あれが…!」


あれが…『ローゲ祭り』…!


 そんな楽し気な話じゃなかった。



バンッ!


「ちょっ、ななななんなん今の音!?何がどうしてどうなってん!?」


 異変に気付いた商南がやってきた。

 暗殺美も一緒だ。


「あっちの空に火柱が見えたさ。あれは火事とかそんなレベルじゃないやつさ。」

「ふむ…どうやらローゲ王都で何かあったらしい。火山でも噴火したと見るのが妥当か?」

「いえ、確かにギマイの外れに火山はありますが、あの位置は都心の…。恐らく被害は甚大でしょう。それにあの火柱…過去にどこかで…」


 洗馬巣が何かを言いかけた、その時―――



「…あー、あー。本日は晴天だー晴天だー。」



 どこからか、知らない大人の男の声が聞こえた。

 だがこの場には子供と婆さんしかいない。


「むっ、なんだ今の声は?一体どこから…」

「見たか地球人ども?ローゲをやったのは、この俺だ。」


 なんと、謎の声によると先ほどの光景は人為的に生み出されたものらしい。

 にわかには信じがたい話だ。


「なっ、ローゲをやった…だとぉ!?人の攻撃であんなになるわけが…」

「勇者、上を見るさ!変な立体映像で妙な男が偉そうにしてるさ!」

「これは魔法…〔生中継〕ですね。ローゲからとなると大した魔法力…なっ!?」


〔生中継〕

 魔法士:LEVEL50の魔法(消費MP60~∞(※消費MPにより中継範囲が変わる))

 広範囲に立体映像を放映する魔法。最近はコンプライアンスとか結構厳しい。


「ば、馬鹿な!あの男は死んだはず…!!」

「む?なんだババア、知った顔か?なんか見た感じユーザック…魔王に似た顔立ちだが…」


 立体映像の男は、確かに黒髪長髪の魔王といった出で立ちで、頬にタトゥーが入っているところも似ていた。


「俺の名は『嗟嘆サタン』。テメェらが言うところの『暗黒神』ってやつだ。」


 とんでもない大物だった。


「なっ、暗黒神…だとぉ…!?伝説の三悪神の一人…既に復活してたってのか…?いや待て、さっき“死んだはず”とか言ってたな洗馬巣?」

「え、ええ。復活したのはもっと前…。ですが、さるお方によって倒され…命を落としたはず…」


 どうやら洗馬巣は色々と知っているようだ。

 だが今は、過去を振り返っている場合ではなかった。


「さっきのは挨拶代わりだ。次はそうだなぁ、『シジャン王国』でも落とすか。今から向かえば…この要塞の速度なら十日でシジャンに着くぜ、覚悟しとけ。」


 追撃の手を緩める気配の無い敵サイド。

 展開が早すぎてついていくのも大変だ。


「と、十日!?移動時間考えたら全然準備してる暇無いやんか!ヤバいやん!」

「ローゲに続いてシジャンまでやられたら、世界経済的にもヤバいさ。でも私らが何かできるかって言われると微妙さ。」

「………チッ、古代神相手に無策…確かに勝算は無いが、ジッとしてるわけにもいかんだろ。行くしかないな。」


 仕方なく覚悟を決めた勇者。

 早急に動く必要があるように思われたが、幸いにも敵側に誤算があることが発覚したようだ。


「お言葉ですが嗟嘆様、先の砲撃でエネルギーがもう…。無理は危険かと。」


 暗黒神に進言したのは、黒いローブに身を包んだ老人『黒猫』。

 魔王の四天王だった一人だ。


「あ゛ぁ!?水を差すな黒猫!墜落するわけでもあるまいしよぉ!」

「あります。」

「だろ?だか…あるのっ!?」

「『暗黒波動砲』には膨大な魔力を要します。今は浮力の維持で手一杯です。」

「う、うるさい黙れ!男に二言は無ぇ、行くと言ったら行くぞ…一ヶ月後にな!」


 なんだか勝てる気がしてきた。




映像越しでも伝わる圧倒的な威圧感の割に、意外と隙がありそうな暗黒神。

おかげで時間に余裕ができたので、とりあえず作戦を立てることにした。


「じゃあ作戦を発表するぞ。ダダッと乗り込みズバッと斬る!以上だ。」

「それ作戦ちゃう!ただの意気込みにしても適当すぎるわ!」


「ちょいと待ちなよ。アタイに考えがあるんだ、聞いてきな。」


「ッ!!貴様は…!」


 謎のお助け仮面『母さん』が現れた。


「あれ以来見ぃひん思ててんけど、まだおったんやな…謎のなんとか母さん。」

「フン、悪いけどアタイはアンタを生んだ覚えはないよ。」

「この前はみんなのオカン気取りやったやんか!勝手やなほんま!」

「実の親子の感動の対面さ。涙腺から噴水のように涙流して泣くがいいさ。」


 勇者が目を覚ました時にはなぜか母さんはいなかったため、これが素の勇者としては初対面だった。

 だが勇者は複雑な顔をしている。


「…俺は変人の父と、正体不明のカマハハに育てられた。母は死んだと聞く。」

「はぁ!?せっかく会うたっちゅーになに意固地になってんねん!?アホか!」

「…いいんだよ嬢ちゃん。」

「せやかて…!」

「照れてるんだよ。」

「なんて前向きな…。やっぱ血筋やな…」

「で?貴様の考えってのは何なんだ?仕方ないから聞いてやる、言うがいい。」


「ああ。『神器ジンギ』…神より創られし装備を、探すんだ。」


 神器―――

 神の装備などと言われたら普通なら途方に暮れるのだろうが、今やみんな慣れたものだった。


「確か神は十二…『魔神』『破壊神』『鬼神』『守護神』の存在は知ってるさ。」

「『邪神』と『暗黒神』は生きとるわけやから自分で持ってるか、存在しないかやろなぁ。」

「俺がいない間に賢二らは『貧乏神』ってのに会ったらしいが、さすがにそんな色物は対象外と考えていいだろう。」

「あぁ、『死神』の持ち主はアタイが知ってるよ。奴にも縁深き敵だ、きっと駆けつけるだろうさ。」

「なら残るは五つか…。だが戦力になるのか?鬼神なんか雑魚扱いだったろ。」


 確かに鬼神は、マオが目覚めた勇者の一撃により消し飛んだ。

 他の神も同等の力しか無いのでは…と思ってしまっても無理はない。


「いや、あれはどっちかっちゅーとアンタの…魔神の攻撃力が半端無かったからやと思うで?」

「それに、装備した人間の力も加わるしね。舐めてたら痛い目見るよ?」

「ふーむ…まぁあって損するもんでもないか…。そこまで言うんだ、当然アテはあるんだよなぁ女?」

「フフッ、もちろんさ。西と東…とりあえず二つの情報は持ってるよ。どっちがいい?」

「左だね。」

「おっと姫ちゃんいつの間に!?だがわかった、よーし左だー!左に行くぞー!」

「ってだから結局どっちやねん!?どこ基準の左やねん!」

「西へはもう武闘家の小僧を派遣しといたよ。」

「戦仕を…?じゃあ東は私が行くさ。神器ってのには少し興味があるさ。」

「ほなウチも東かな~、西は戦仕で足りるやろし。アンタはどないすんの勇者?」


 商南の問いに、勇者は少し考えてから答えた。


「ふむ…神の装備なら俺はもう二つも持ってるしなぁ。できれば敵が油断してるだろう今のうちに、こっちから攻め入りたいってのが本音だ。」

「ウチらを東西に派遣する意味をバッサリ否定する意見だけど無くはない案さ。」

「でも“浮力”とか言うてたやろ?もし空に浮いてるんやったら行く手段無いんと違う?」


「おぉっとー!そーゆーことニャら問題ニャいニャー!」


皇女の部屋だってのに堂々と乗り込んで来たのは、賢二の愉快な仲間達。

太郎に下端、そしてライ…そういや前に、ウチにしばらく泊めてやったことがあったっけ。


「何しに来たんだよ雑魚ども?邪魔しに来たってんならブッた斬るぞ?」

「ふっふっふー!聞きたい?知りたい?じゃあ聞いて驚くのニャ!アタチらの船…『蒼茫号』ニャら、要塞どころか宇宙まで行けるのニャ!」

「というか実は自分ら、この前偶然行っちゃったんスよ…あの“空飛ぶ城”に。」

「なっ、空飛ぶ城だとぉ!?そんなのが実在するってのか…!?」


 宇宙船でも現実離れしているこの星において、城が空を飛ぶなんてとても考えられない話だった。


「だがまぁ、神だなんだの話の後だしな…今更か。ところでお前ら、今日は三人なのか?メンバーが足りんじゃないか。」

「ッ!!!」


 いつもは無駄に騒がしいだけの三人が、急に押し黙った。


「む?どうしたお前ら…?オイなんとか言えよ下端?」

「…け、剣次さんは…剣次さんは、暗黒神にやられて…う゛ぅっ…!」

「えぇっ!?けけけけけ賢二きゅんがっ!!?」

「あ、あのカルロスがやられた…?そうか、やはり一筋縄にはいかんようだな。」


 暗黒神が剣次を倒すほどの腕前だと知り、勇者の顔から余裕が消えた。


「じゃあ改めて確認するぞ。俺は現地、西は戦仕、東は暗殺美と商南…」

「ちょいと待つのニャ!アタチら三人も頭数に入れるニャ!剣次のカタキを討つのニャ!」

「そうッスよ!ねぇ太郎さん?」

「えーーー。」

「出発は…そうだなぁ、準備もあるし明日にするか。失敗は許されんしな。」

「OKや任しとき。ま、ウチが取ったらごっつ高う売りつけるけどなアンタに。」

「賢二君のカタキ賢二君のカタキ賢二君のカタキィイイイ…!」

「若干一名勘違いしてるようだが…まぁいいか。」


 姫は左に行く気だ。



 その頃、天空城では―――


「嗟嘆様、『雷神』『風神』の在り処がわかりました。いかがいたしましょう?」

「そうか…よし黒猫、『金隠キンカク』と『銀隠ギンカク』を呼べ。いや…呼ぶまでもないか。」


 暗黒神が入口の方へ目を向けると、そこには十六~八歳くらいと思われる気の弱そうな少女と、逆に気の強そうな少年が立っていた。あまり似てはいないが、伸ばしっぱなしのボサボサの長髪は同じ色をしている。双子だろうか。

 少女の被っている兜には“銀”、少年の方には“金”と書かれていることから、少女が銀隠で少年が金隠だとわかる。


「呼ばれる前からいました…ゴメンなさい。生まれてゴメンなさい…」

「我輩らの力が必要なんじゃろ?ケッケッケ!しゃーねー行ったるかーオイ!」

「ああ、行ってこい二人とも。そして持ってくるんだ…二つの神器をなぁ。」


 敵勢力も動き出していた。




翌日。暗殺美と商南は既に旅立ち、姫ちゃんは来ない…というわけで、仕方なく俺もそろそろ出発かという時に、思いがけないメンツから声を掛けられた。


「よぉ勇者、俺っちも混ぜろよ。敵が神さんなら何人いても損はねーだろよ。」

「む?お前は…兄丸じゃないか。それにお前ら…」

「ユー達だけじゃ心もとないデース。ミーが力を貸してあげマース。」

「へんてこ野郎…」

「あのキン太って筋肉バカは、戦仕ってのについてったみたいだよ。」

「剣武士の女まで…」

「ワルツと!」

「ポルカも♪」

「(ピーーー)と(バキューン)も…!」

「違いますーーー!!」


 現れたのは、兄丸、ジョニー、女闘、そしてワルツ&ポルカ。武術会で戦った面々だった。

 勇者が暗黒神討伐へ向かうと聞きつけ、自分達も何かできないかと駆け付けたのだそうだ。


「頼むぜ勇者、みんな力になりてーんだ。あんなのに好き勝手させられねぇ。」

「お前との戦い…負けて恥をかかされたままだ。これ以上恥をかかせるな。」

「兄丸…女闘…。お前ら、あんな戦闘の後で…」

「戦って目覚める友情デースね。ウルッとキマース。」

「ああ。とても戦力外だとは言えない。」

「えっ!!?」


 みんな後悔した。



予定外だったが、兄丸ら武術会敗者組も仕方なく仲間に加えてやることにした俺。

雑魚どもではあるが、まぁ弾除けくらいにはなるだろう。


あとはちょっとしたヤボ用を済ませたら、俺達特攻隊も旅立つつもりだ。


「というわけで俺はもう行くぞ。まぁ縁があったらまた会うこともあるだろう。」


 勇者が声をかけに戻ったのは、まだ帝都に留まっていた霊魅。


「え…いいの勇者君…?最後にお母さんに甘えなくても…」

「フン、大きなお世話だ。言ったろ?俺に母はいない。」

「人生の最期に…」

「って俺のかよオイ!今後の予定を考えたら普通は言えん冗談だぞ。」

「冗談じゃないもの…」

「なお悪いわ!!」

「でも…本当にいいの…?ママさんの胸にスカイダイブ…」

「しつこいなお前も…。仮に母だったとしても、生後以来会ってなきゃもう他人だろ?特に無ぇよ。」

「照れ屋さんなのね…ふふふ…」

「怒ると知ってて煽るあたり、お前もいい根性してるよな相変わらず。」

「怖がり屋さんじゃ…霊媒師は務まりませんもの…」

「…フン。人おちょくってる暇があったら戻って寝るがいい。疲れてるだろ?」

「え…?」

「俺を舐めるな。じゃあ…まぁ、またな。」


 そして勇者は旅立った。



「ふふふ…勘のいい子ね…。どっちの遺伝子かしら…?」


 霊魅が振り返ると、そこには母さんの姿があった。

 謎のお助け仮面の部分は外し、真の姿になっている。


「まったく、素直じゃないのも誰に似たやら…」

「“またな”って…」

「…ああ、また頼むよ。」


 母さんは消え、そして偽魂だけが残された。




別れを済ませ、帝都を発って小一時間。

初めての空の旅は、なんとなく順調にスタートしたかに見えた…が、正直かなり不安だ。

暗黒神どうこうではなく、乗り物がという意味でだ。


「オイ太郎、今さらだが大丈夫なんだろうなぁこの船?俺は乗り物にはとことん相性が悪いんだが。」

「さあ?今のところは特に事故も無くきてるけどね。結構性能いいみたいよ。」

「あれ?そういえば太郎さん、運転は…?」

「得意だよ。」

「いや、そういう意味じゃないッス!なんで運転手がここにいるんスか!?」

「んー?まぁ空には障害物も無いしさ、ちょっとくらい目を離しても何も」


ドゴォオオオオオン!


「な、なんだ今の爆発音は!?」

(キャー!キャー!やってしまいましたー!)

(キャー!またやってしまいましたー!)

「むっ、今の声は双子…!?奴らは昼食の準備中のはずだが…」


ボガァアアアアアン!


「わー!マヨネーズがーー!!」


 一体どんな儀式が。



そしてそのまま飛ぶこと数日。

なんとも不気味なことに、特に何も起こらないままローゲ王国まで来てしまった。

いつもがいつもなだけに、逆に何か悪いことが起きる前兆に思えてならない。


「ふむ…なんだか拍子抜けだな。まさかこんなにアッサリ到着できるとは…。まぁいいや、とりあえず何か食おうぜ。ロクに食えてないから腹が減ったぞ。」

「わ、ワルツ達に罪は無いんですー!マヨネーズがー!」

「マヨネーズがー!」

「どう頑張ったらマヨネーズが爆発するのかをまず科学的に説明しやがれ。」


 双子が謎の儀式でキッチンを破壊したせいで、勇者達はまともな食事をとれていなかった。


「じゃあとりあえず食事ってことでいいのかな?適当な街にでも墜落しようか?」

「“着陸”と言ってくれ。いちいち墜落してたら命が足りな…つーか貴様運転はどうした?また勝手に持ち場を…」

「ニャー!み、見るニャ!あっちの空に巨大ニャ雲の塊が…!アレは…!」


 勇者が太郎を責めようとしたその時、ライが外を指差して大声を上げた。

 慌てて窓際へと駆け寄る太郎。


「ッ!!『竜の●』だぁ…!」

「ちょっと待て!なぜかは知らんがそのネーミングはマズいと第六感が…!」

「ま、間違い無いッス!アレが…あの中に暗黒神がいる、空の城があるッスよ!」


 下端が言うには、あの巨大な積乱雲の中に目指す天空城があるのだという。

 どこかで聞いたような話だが勇者は深くは気にしないことにした。


「なっ!?ちょ、ちょっと待てよ!そのまま行くのか!?まだ心の準備が…!」

「お、俺っちも…」

「腹が減っては戦はできまセーン。とりあえず降りてディナーを希望しマース。」


 急な展開に女闘と兄丸は動揺を隠せない様子。ジョニーは相変わらずのようだ。

 だが残念ながら、太郎の話によると既に後戻りできる状況ではないらしい。


「あー無理無理。なんか引き寄せられてるよ。そういえば前もそうだったっけ。」

「チッ、そういうことか…。まぁいい、準備しようがしまいが雑魚は死ぬ。自信が無い奴は部屋で遺書でも書いてこいよ。」

「じゃあ、このまま突っ込むってことでいいんスね?」

「ああ。主砲があるならとりあえずブチ込め太郎!それが開戦ののろしだ!」

「オッケ~!」


ズガァアアアアン!


「わー!マヨネーズがー!!」


 お前らジッとしてろ。




結局…空腹を解消することもできぬまま、妙な引力に引き寄せられるまま、俺達は暗黒神の天空城に辿り着いてしまった。


「す、すげーや…。船が空飛ぶだけでも驚きだったがよぉ、やっぱ城ってなると迫力が違うぜ…!」


 兄丸は感動してしまっている。

 他の面々もその常識外れの光景に目を奪われているようだが、常識の通じない島で生まれ育ったせいか、勇者は意外と冷静だった。


「ここからは敵のテリトリー…いつ何があってもいいよう、気をつけろ雑魚ども。双子、お前らは特にな。」

「だ、大丈夫です勇者様!」

「いざとなったらマヨネーズが!」

「持ってくるな!そんなもんで世界を救ってもどうにも誇れないだろうが!」

「あー…ところで勇者、勢いで乗り込んじまったが何か作戦はあるのか?」


 周りの景色にも慣れ、やっと先のことを考える余裕が出てきた女闘は勇者に尋ねた。


「無い。視界に入った奴を片っ端から斬る…俺はいつもそうしてきた。」

「にしても、こんなデケェ船が着いたってのに誰も来ねぇな。どーなってる?」


 兄丸の言う通り、確かに妙な話だった。


「きっと歓迎セレモニーの準備デース。」

「フッ、あながち間違いでもないぞジョニー。まぁ祭りは祭りでも…“血祭り”だがなぁ!」



「…嗟嘆様。侵入者は雲を抜け、無事に上陸したようです。」


 落ち着いた様子で暗黒神に伝える黒猫。

 やはり気づいていないわけではなく、知っていて敢えて迎え入れたようだ。


「前に来たやつと同じ船なんだろ?また面白ぇ奴が乗ってりゃいいんだが…。動くに動けず暇だしなぁ。」

「では、いかがいたしましょう?」

「あ~、まぁ丁重にもてなしてやれよ。人生最後の…空の旅なんだからなぁ。」


 天空の血祭りが始まる。

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