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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
83/196

【083】帝都武術会決勝(3)

 どういうわけか、マオの半身に体を乗っ取られてしまったらしい勇者。

 敵である鬼神よりも敵っぽい雰囲気を醸し出している。


「な、なんで彼が…!?ヤナグさんの攻撃を受け瀕死のはず…とても立ち上がれる状況じゃなかったはずだ!」

「マオ…勇者が半分飼ってるとは聞いてたけどさ、なんで今になってさ…?」

「ま、マオ!?あの古代神…魔神のマオか!?どういうことぜよ!?」


 困惑する一同。

 冷静なのは後から現れた謎の女だけのようだ。


「それは、勇者からの抵抗がゼロになったからさ。どういうわけか超熟睡してるみたいでねぇ。」

「う゛っ…で、でも眠ったくらいで復活するなんてなんか簡単すぎへんか?」

「もう一つあったのさ、奴を縛る枷はね。それが子供の時から付けていたあの兜…『守護神の兜』なんだよ。」


 なんと、勇者は三つの神の装備を所持していたらしい。


「『魔神』と『破壊神』だけやのうて『守護神』もて…。アイツ神の装備に愛させすぎてへん…?」

「でもなんでアンタそんな詳しいのさ?勇者ファンか何かかさ?」

「アタイかい…?フッ、それは知らない方がアンタらのためだよ。それに今は、それどころじゃないだろ?」


 女が目線を向けた先では、かつてのマオを知るヤナグが勇者を睨みつけていた。


「マ、マオ…ダト!?あの巨大ダッタ魔神ガ、コンナ糞ガキニ…!?馬鹿ナ!」

「ほぉ、誰かと思えばヤナグじゃないか。相変わらずクソみてぇな魔力だ。」

「…殺シテヤル!!」


 鬼神は本気のパンチを繰り出した。

 ミス!勇者は攻撃を片手で止めた。


「ナ…ニ…!?」

「これでわかったか?いい土産になるだろう…“冥土”への、な。」

「マ、待ッ…!」

「俺は待つのと盗子が大嫌いだ。」


「ヤ…ヤメ…グァアアアアアアアアア!!」


 勇者は『魔界の波動』を放った。

 鬼神は跡形も無く消え去った。


 盗子の影響力は健在だった。



「ふぅ…やれやれ、まだ加減がうまくいかん。一発で随分と力を使っちまったようだ。今レベルのやつはもう撃てんか。」


(な、なんちゅーこっちゃ!あのごっつ強かった鬼神が…って、こっち来る!?)


 鬼神を一撃で倒しておきながら不満そうな勇者。

 だがすぐに気持ちを切り替えたようで、今度は商南達の方へと近づいてきた。


「死んだはずのヤナグがいた…てことは霊媒師がいるな?どいつがそうだ?」

「えっ!?う、ウチはちゃうで!?」

「わわ私も違うさ!」

「ぼ、僕も…」

「うわ、汚っ!アンタやん…」

「ふっ、バレちゃ仕方ないね。」

「えっ…!?」

「私が姫だよ。」

「状況考えてモノ言わんかい!いきなり現れた思たら…」

「そうか、お前か。」


 勇者の攻撃。

 苦怨はフッ飛んでいった。


「か、軽く叩いてあの威力…!まぁ敵が減って助かったけどもさ。」

「ってかアンタなんで今のやり取りでアイツてわかってん!?」

「いや、勇者の記憶で。」

「じゃあなんで聞いてん!?」


 気まぐれも勇者譲りだった。


 勇者の軽い一撃で、苦怨もリタイアとなった。

 勇者の暴走はいつまで続くのか。


「残るは勇者のお仲間と…見知らぬ女だけか。さーて、どうしてくれようか。」

「ふ、フン!私らはともかく、アンタは姫には手は出せないはずさ。」

「関係ないね。俺はマオであって勇者じゃない。お前ら少しうるさいな…」

「へ?うわっ、ヤメッ…!」

「待つぜよ勇……ぐっ、ヤベェ…めまいが…!」


 勇者の攻撃。

 ミス!攻撃は謎の女に受け止められた。


「…ほぉ、俺の攻撃を片手で止めるとは、ただの女じゃないな。誰だ貴様は?」

「フッ、相変わらずだねぇアンタ。気が早いのは昔のままだ。」

「なっ、俺を知ってる!?貴様…一体何者なんだ!?」

「今は名乗れない。でも敢えて呼ぼうってんなら、アタイのことはこう呼びな。」


 女は頭から被っていたフード付きマントを脱ぎ捨てた。

 茶色の長い髪に、美しい顔立ち。だがなぜか、目の周辺だけを覆う申し訳程度の仮面で顔を隠している。前にどこかで見たようなやつだ。


「謎のお助け仮面…『母さん』と!!」


 一瞬でネタバレした。



「な、謎のお助け仮面…!?」


 聞き覚えのあるフレーズにより、暗殺美は点と点が繋がった。


「ま、前にソックリなこと言ったオッサンを知ってるさ。アンタ、まさか…!」

「いい女ってのはペラペラ喋らないもんさ。わかったら黙って言うこと聞きな。」

「全身全霊をもってあたらせてもらいますさ!」


 暗殺美はこれまで見せたことのない従順さを見せた。


「ど、どうしてん急に?アンタこのオバはブッ!!」

「空気の読める奴は長生きする。その逆は…アンタわかるかい?」

「ワタクシが間違っておりましたですハイ!お姉様!」


 商南も瞬時に逆らうべきじゃないと悟った。


「いい子だねぇアンタ達。じゃあ二人してさっさと、あの兜を取ってきな。こっそりね。」


 全力疾走で兜のもとへと向かう暗殺美と商南。

 残された戦仕は自分の役目がわからない。


「お、オイラはどうすりゃいいぜよ?まだ何の役にも立ってねぇんだ!」

「お前はアタイと、奴の足止めだよ。半身と言えど大した魔力だ、気を付けな。」

「事情はよく知らねぇが、やるべきことはわかったぜよ。手ぇ貸すぜアネゴ。」


 戦仕はさっきの教訓を踏まえて若い呼び方に変えた。


「その強引な振る舞い…そうか貴様か。かつて随分と世話になったが礼はまだだったなぁ。」

「さぁ目ぇ覚ましな勇者。アタイはそんな寝ぼすけに、アンタを育てた覚えは無いよ?」

「フン、育てられた覚えも無いがな。」


 まったくその通りだった。


「ほら小僧、これ飲んどきな。それなりの魔法薬だ、少しは動けるようになるはずだよ。」

「お、オウ助かるぜよ。でもできればもっと早くに欲しかったが…。あっ、ところでアンタの職は何なんだ?共闘するなら知っときてぇ。」

「アタイかい?アタイはただの『主婦』だよ、ありふれたね。」


「ハハハ!かつての『魔王』も今は主婦か!堕ちたもんだなぁ『オワリ』!」


 勇者の攻撃。

 ミス!むしろ母さんのカウンターが炸裂した。


「ぐふっ…!チッ、腐っても元魔王ってわけか…簡単にはいかなそうだ。」

「舐めてかかると痛い目見るよ。よく言うだろ?“母は強し”ってさ。」

「変わった名前なんだね。ツヨシ?」

「いや、今のはそういう意味じゃないんだよお嬢ちゃん。危ないからちょっと下がってな。」

「ま、魔王ってなんぜよ…?アンタ、ホントに主婦なのか?」

「まったく疑り深い子だねぇ、ホントに主婦だって言ってるだろう?」


「ただの…『戦業主婦』さ。」


 全然“ただの”じゃなかった。




 その後も母さんは大暴れ。そして戦仕も負けじと大暴れ。

 どうにかこうにか時間をかせいでいたが、さすがに母さん少し疲れたらしい。


「お、オーイ小娘達ー!なにチンタラやってんのさ、パッパと見つけてきなー!」

(ったく、どこやねん!?早くせんとあのオバはんにシバかれてまうで暗殺美!)

「そんなこと言っ…あったさ!この見慣れすぎたフォルムは間違いないさ!」


 暗殺美は守護神の兜を発見した。


「見つけたのかいー!?上等だ、早く戻ってきなー!十秒で来なきゃシバくよ!」


 二人は五秒で戻った。


「ほぉ、存外やるじゃないか小僧。その歳で俺と渡り合えるとはなかなかだぞ。」

「ゼェ、ゼェ、悪ぃが今日はいいとこ無しでよぉ。ここでキバらんと立つ瀬が無ぇんぜよ!」

「で、どうすんのさ?どう頑張っても戦闘中に被せるのは厳しいと思うさ。」

「さっき言ったろ?奴を縛る枷は二つあると。勇者を起こせば少なからず動きは鈍る。」

「せ、せやけどアイツもう熟睡してもうてるで!?どないすれば…」

「やれやれ、モノを知らない子達だねぇ。こういう場合…一つしか無いだろう?」


「目覚めの、“チュウ”さ。」


「チュウーーーー!!?」


 ムードもへったくれも無いが。


「どどどどーすんねん!?マセ気味のウチやけどそんなん経験無いで!?」

「わわ私もそうさ!仮にあっても私には心に決めた賢…とにかく駄目なのさ!」

「う、ウチは別に…アイツのこと嫌いっちゅーわけや…ないねんけど…なぁ?」

「今のでアンタに決定したさ。」

「ちょっ、アカン!そそそそーゆーんはお互いの気持ちが大事やろ!な!?」

「オラァー!くるならドンとこいやー!!」

「思っきり誘ってるさ。」

「どうポジティブに考えたらそうなんねん!?今のは戦仕に言うた言葉やし!」

「頑張るさ商南、積極的な奴が勝利を得るのが男女の世界の常なのさ。」

「アンタは今のセリフを盗子に言えるんか…?」


 どう見ても敗者の姿だった。


「ぐふっ…お、オイラもう…ギブアップぜよ…」

「どーなってんだいアンタ達!?母さんそんなヘタレに育てた覚えは無いよ!?」

「なんでみんなのオカン気取りやねん!人の気も知らんと勝手ぬかしよって!」

「ハハハ!何を企んでるかは知らんが、この俺に攻略法なんぞ皆無だー!」

「さぁ早く決めるさ商南!母さん強がってるけど結構限界っぽく見えるさ!」

「や…やっぱ無理や!こんなんでファーストキスなんて耐えられへーん!」


チュィイイイイン!


「しまっ…オタマが…!」


 母さんは武器を失った。


「まぁオタマで今までよくもったと言いたいけどもさ。」

「トドメだ終!死ねぇーーーー!!」

「く…くっそー!もうどーにでもなれやーー!!」


 商南は覚悟を決めた。



ちゅぅううううううううう…!



 豪快な吸引音が周囲に響いた。

 だがそれは、商南の口づけによるものではなかった。


「え…?」

「へ?」

「なっ…!」

「あら…」


 硬直する商南、暗殺美、戦仕、母さん。


「………?」


 そして勇者。



「ちゅう。」



 勇者の唇に吸い付いていたのは、なぜか…姫だった。


「………ッ!!?」


ブバッ!!


 勇者は致死量の鼻血を噴いた。




 その後、出血多量で卒倒した勇者に兜を被せ、なんとか事態は終息した。

 主にヤナグと勇者の大暴れにより闘技場は半壊。優勝者もクソもない状況だ。


「ふぅ~、やっとなんとかなったけど…なんや複雑な気分やわ。なんで姫が?」

「おかしいよ暗殺美ちゃん、全然甘くなかったよ。旬じゃないから?」

「いや、“勇者の口からは樹液が出てる”とさっきちょっと…」

「そのことは勇者には伏せといたろな。知ったらさすがにショックやで。」

「いや、奴にとっては最高の結果に終わったわけだしきっと大丈夫さ。」

「まぁキスした事実は変わらへんわけやしなぁ。死んでも悔いは無い…か。」

「ああ、死んでも…さ。」


 青ざめた勇者はピクリとも動かない。


「先生ぇーー!!この子は助かるのか!?それとも助かるのかー!?」

「いやお母さん、できれば選択肢をもらえると助かるんですが…」

「つーことはなんだテメェ、ウチの子が死ぬってのかいア゛ァン!?」

「いやあのそういうわけじゃ…!あっ、と、とりあえず彼の血液型は…?」

「そんなん知るかーー!!」


 知っとけ母さん。




 重体の勇者が救急隊に運ばれようとしていた頃、帝都のはずれでは―――


「はふぅ~。ここまで来ればもう平気なのだ。苦怨様は体は大丈夫なのか?」

「うぐぅ…だ、大丈夫ですよ忍美。それより例の盾はちゃんと持っていますか?」

「もちろんなのだ!でもなんかプルプル動いてて気持ち悪いのだ!」


 忍美は『破壊神の盾』を持っている。

 乱闘のどさくさに紛れて盗み出したようだ。


「くれぐれも護符は剥がさぬよう。でないと持ち主の元に戻ろうとしますよ。」

「でも良かったのだ。気絶してる間だったからすんなり奪えたのだ、楽勝で!」

「フフフ…まぁ負けたのは計算外でしたが、目的の物は手に入りましたしねぇ。」

「大丈夫、次は負けないのだ!『破壊神』を呼び出してブッ倒すのだー!」

「ええ、それなりの仕返しは…させてもらいますよ、いずれ…ね。」



 こっそり逃走しただけではなく、破壊神の盾まで奪っていた苦怨。

 その姿が見られないことは、闘技場でも話題となっていた。


「あかん…やっぱおらへんわ。死体も見つからへん。絶対逃げてるわアイツ。」

「フン、まぁ鬼神も失ったことだしもう雑魚さ。何をそんなに気にしてるのさ?」

「いやな、な~んか裏がありそな気がすんねん。アイツのあの感じ…」


「彼の目的は一つ…『破壊神の盾』ですよ…」


 音も立てずに霊魅が現れた。


「うわっ、いつの間におってんアンタ!?って、破壊神の…?なんやのそれ?」

「勇者が持ってた呪われた盾さ。鬼神の件から察するに嫌な予感がするさ。」

「うふふ…ご名答~…」

「ご名答~やないわ!知っててんやったらアンタなんで…!」

「だから私が…阻止しに来たのですよ…。でも…」

「でも…?」


「屋台が忙しくて…」


 でもじゃない。




「う…ぐっ…!こ、ここは…?」


目が覚めると、そこは病室のような…というか集中治療室的なゴツい部屋だった。

決勝の記憶は、ヤナグとかいう奴にブン殴られたところで途切れてしまっている。


「おぉ~勇者~!やっと起きたんかこの寝ぼすけめ。もう三日も経ってんで?」

「まったくいつまで寝てんのさ。」


 勇者が目覚めたのとちょうど同じタイミングで、商南と暗殺美が部屋に入ってきた。


「三日も…ハッ、そうだ!オイ!俺は勝ったのか!?それとも…勝ったのか?」

「血の繋がりってのは怖ろしいもんさ。」


 ノリが母さんと同じだ。


「あん?血がどうしたって?いいからとにかく結果を教えやがれ雑魚どもめ!」

「あ~…まぁ詳しい内容は後でな。とりあえずアンタの勝ちや、安心せーや。」

「ああ、知ってた。」

「じゃあなんで聞いてん!?てかなんで知っててん!?」

「徐々に…なんとなく色々と思い出してきたよ。まさかこの兜までもが神の装備だったとはなぁ。」

「ふ~ん。てことは記憶はマオと共有なのかさ?じゃあ昔の大戦の記憶とかも見れるのかさ?」

「いや、それは無理だな。あくまでも俺の目を通した記憶のみ共有っぽい。」

「そか。あっ、でもあんま思い出したらアカンで?でないとアンタまた鼻血…」


ブバッ!!


 勇者の入院は延びた。

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