表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
82/196

【082】帝都武術会決勝(2)

苦怨が呼び出した那金のおかげで、思わぬところで修行の機会を得た俺。おかげで使えそうな技がいくつか増えて大満足だ。

特に最後の技…危険すぎて封印したとか言ってたのが気にはなるが、危険なんて慣れっこだ。いちいち気にはしない。


「さて…次はお前の番だ苦怨。悪いが貴様の切り札は倒した、もう終わりだな。」

「切り札…?フフッ、イヤだなぁ。僕の切り札は彼じゃないですよ。」


 苦怨は黒光りした偽魂を取り出した。

 コンペイトウのような形状をしている。


「あん?なんだその妙なデザインの偽魂は…?なんだかどこかで見たような…まぁいい、じゃあ使ってみろよ。」

「だ、駄目だ勇者ー!それを使わせちゃいかんぜよー!」


 観客席から包帯グルグルの誰かが現れた。

 よく見ると先ほど苦怨にやられた戦仕のようだ。


「なるほど、戦仕はそれにやられたってわけだな?なおさら面白いじゃないか、使えよ。」

「だ、だから聞けってばよ勇者!変な強がりは捨てた方が利口ぜよ!」

「黙れ雑魚が!俺は弱気と盗子が大っ…」

「そうかやっぱオメェも大好きかよ!」

「最後まで聞け!会話の流れを読め!俺の全身の鳥肌をなんとかしてくれ!」

「随分余裕ですね。でも“彼”を見ても、そのままでいられますか…ねぇ?」


 苦怨は偽魂を手に呪文を唱えた。

 ピカッと光ってすんごいのが出てきた。


「なっ、なんだこの巨大な奴は…!?どう見ても人間じゃないだろ!」


 現れたのは、三メートルを超える巨体の化け物。

 赤茶色の肌に青い舌。頭部には左右に角が生えている。

 勇者の言う通り、明らかに人間ではない。


「さぁ『ヤナグ』さん、この彼に力の差というものを見せてあげてくださいな。」

「グルァアアアアア!」

「ヤナグ?その名もどこかで聞いたような…?フン、まぁいい。パワーはありそうだがスピードはカスじゃないか。止まって見えるぜ!」


 ヤナグはパンチを繰り出した。

 勇者は右へ跳んだ。


 なぜかバナナの皮が落ちていた。

 勇者は滑りつつも踏ん張った。

 勇者は眠気でフラついた。

 なぜかまたバナナの皮が落ちていた。

 勇者は左へ跳んだ。


 ヤナグのパンチが直撃した。


「ぐっはぁあああああああ!!」


 勇者は豪快に吹き飛ばされ、地面を派手に転がった。



「フハハハ!どうやら本当に、先程の戦いでツキを使い果たしたようですね!」


 勝ち誇る苦怨。

 勇者はピクリとも動かない。


 大ピンチなのは観客席から見ても明らかだった。


「あ、アカンやん!勇者の奴、完全にノビてもうてるやんか!」

「決勝なのにまだ眠そうにしてるアイツが悪いのさ。今のは死んでてもおかしくない一撃さ。」

「死ってアンタ…いくらなんでも…」

「私らはそういう世界の住人なのさ。舐めてるからこんな目に遭うのさ。」

「あ、あぁ…せやな…」


 商南は少し歯切れが悪そうだ。


「さぁ仕上げですヤナグさん。息の根を止めて、あの盾を奪って来てください。」

「なっ…なんやて…!?」


 距離が遠くて聞こえづらくはあったが、苦怨が発した物騒なセリフが、商南にはかすかに聞こえた。


「グルァアアアアアアアア!」


 ヤナグは渾身の一撃を勇者に放った。

 ミス!間一髪誰かが勇者を抱えて逃げた。


「…どういうつもりですか?彼の仲間ではなかったはずでは…?」

「あ~、やっぱ後ろめたいことあるとなぁ…。さすがに死なれたら後味悪いねん。助太刀、させてもらうわ。」


 謎の助っ人は商南だった。


「は、反則なのだー!助太刀なんて卑怯なのだー!」

「あ?なんでやねん?“なんでもアリ”や言うてたやろ?てか先陣切ったんはお前やないかい!皇女さんも問題無いやろ?」

「オッケーオッケー。みんな好きに出ればいいわ。」


 決勝までの意味は一体。


「まぁ僕としても問題無いですが…アナタに何ができると?」

(ちっ、『瞬速符』もあと二枚…商人は戦闘向きやないっちゅーにまったく…!)

「なるほど、『呪符』を駆使する戦闘スタイルですか。『商人』にしては羽振りがいい。」

「あぁ安心せーや、後でアンタに諸経費全額請求したるさかい覚えときや?」

「やれやれ、商人ごときが一人で勝てると思っているとは笑わせる。」

「フン、一人で無理なら二人でやるまでさ。調子乗んなさボケめ。」


 なぜか暗殺美まで現れた。


「あ、暗殺美!?アンタまでなんで…!?」

「別にアイツのためじゃないさ。奴が死んだら泣く…や、優しい男がいるのさ。」


 生きてる保証は無いが。


「ほな行くで!そないなわけわからんガタイだけの雑魚には負けへんでぇ!」

「彼が雑魚?フッ、彼の名はヤナグ…『鬼神の金棒』より偽魂を練成した十二神の一人…『鬼神』ですが?」


「えぇええっ!?」


 二人は死ぬほど後悔した。




 苦怨が召喚したヤナグは、なんとかつて人類を苦しめた十二神の一人『鬼神』だった。かつてのシジャン城の跡地から『鬼神の金棒』が発見されなかったのは、苦怨が人知れず持ち去ったからのようだ。

 そんな相手に喧嘩を売ってしまった商南と暗殺美…はてさてどうなることやら。


(しゃーない、ウチが陽動するさかいアンタ勇者を叩き起こしたってくれるか?)

(待つさ。スピード勝負の陽動は私の方が向いてるさ。アンタ行ってこいさ。)

「了解、ほな任したわ。行くでっ!」


 二人は左右に散った。


「へぇ、アナタが相手なんですか。まぁ誰がきても結果は変わりませんがね。」

「フン、騙されてんじゃないさ!私はただの陽動役さ!」

「なっ…なんで言うねんアホーー!!」

「あ゛…い、今のは違うさ間違いさ。ちょっとウッカリしちゃっただけなのさ。」

「結局肯定してもうてるやないかいボケー!」

「なるほど、そういうことですか…。ヤナグさん!」


 苦怨の合図でヤナグは商南の方を向いた。


「ガルゥアアアアア!!」

「わっ!ちょっ、待っ…!」


ズゴォオオオオオン!!


 ヤナグは口から閃光を放った。

 客席の四分の一ほどが消し飛んだ。


 パニックになった観客達は一斉に逃げ出した。


「ハハッ…あらら、こりゃあ大惨事だ。お元気ですねぇヤナグさん。」

「な…なんちゅーヤバい技ブッ放しとんねん!殺す気か!?殺す気やろ!」


 幸いにも商南は生きていた。

 勇者も近くに転がっている。


「へぇ、今の攻撃で傷一つ無しですか…。意外に侮れないですねぇ商人さんも。」

「おかげさんで貴重な『魔防符』二枚も消えてもうたがな!大損やわ!」

「まったく困ったもんさ。」

「アンタのおかげでもあんねんけどな!」


 思っていたより抵抗する商南に対し、苦怨は認識を改めたようだ。


「仕方ない…少し霊力が心配ですが、もっと馬力を上げてもらいますか。」

(は、早よ起きんかい勇者!ウチもう限界やで!?実はメッチャ怖いねん!)


 商南は勇者を激しく揺さぶった。

 だが起きる気配は全くない。


「なぁ暗殺美、コイツ…マジでヤバいんとちゃうか…?ちっとも動かへんし…」

「とりあえず息はしてるしこれ以上気にしてる余裕は無いさ。放っておけさ。」

「せ、せやな。懐に魔防符一枚仕込んで隅っこに転がしとくわ。」

「来るさ!構えるさ!!」


 ヤナグの攻撃。

 二人は間一髪で攻撃を避けた。


ズガァアアアアアアアアン!!



 その後もヤナグさんは大暴れ。

 強力な破壊光線により、辺りは地獄絵図と化していた。


「ハァ、ハァ、あかん!もう、逃げられへん!瞬速符も魔防符も品切れや…!」


 商南は体力の限界か、片膝をついて息を切らしている。

 その様子を見て苦怨は機嫌を良くした。


「ハハハ!ついに打ち止めですか、では後は大人しく死んで…」

「…ただし、『波動符』はあるがなっ!」


 商南は波動符を取り出し、苦怨に向けて放った。


「なにっ!?ぐわぁ…!!」


波動符ハドウフ

 使うと衝撃波を巻き起こす攻撃系の呪符。

 強力なものほど高いので、使った方は金銭的な意味で痛い。


「くっ、油断させるための芝居でしたか…!そうくるとは…!」

「アンタ倒せば鬼神は消えるやろ!さぁブッ倒れんかい、波動符二枚目ぇーー!」

「調子ニ乗ルナ、小娘!!」


 なんと!鬼神が割って入った。

 苦怨の命令が無ければ動かないと思っていた商南は、激しく動揺した。


「き、鬼神!?なんで勝手に動い…」


 ヤナグの攻撃。

 商南は魔防符でなんとか防いだ。


「うぐぅううう…!あ、危ないとこやったわ…!」

「魔防符はもう無いと言っといて実はまだ持ってる…やっぱアンタ詐欺師の素質あるさ。」

「で、でもこれでもう品切れやでホンマに…!チッ、まさか鬼神が勝手に動きよるとはなぁ。まぁよくよく考えれば、さっきの爺さんも自由に動いとったしなぁ。」

「普段ハ任セテヤル契約ナンダガ…マァ死ナレチャ困ルンデナ。」

「チッ、厄介やな…。さて、どうしよか。」



 そんなどうしようもない状況の中、商南達から少し離れた場所に、なんとまだ残っている者がいた。


「オイ…さぁオイ、起きな小僧。逃げ遅れて瓦礫の下敷きとは情けないねぇ。」

「う、うぐっ…!だ、誰だアンタ…?」


 瓦礫に潰されかけていた瀕死の戦仕が聞いたのは、大人の女の声。

 陰になっており姿はハッキリとは見えない。


「お、オイラだって怪我さえしてなきゃ…こんな…!」

「怪我さえしてなきゃ…ねぇ。そんな言い訳出るようじゃ、期待はできないか。」

「う゛っ…いや、すまねぇ。弱気になってたよ。大丈夫、まだイケるぜよ!」

「フッ…なら出してやる、行ってやりな。小娘だけには荷が重い相手だよ。」

「助かるぜよ。ところでさ、ホントに誰よオバババババババ!!」


 神速の往復ビンタが炸裂した。



 そして十数分が経過。

 商南達はもう、ぼちぼち年貢を納めようかといった状況になっていた。


「ハァ、ハァ…アンタは逃げろさ商南。さっき陽動失敗した詫びとして、ここは私が引き受けるさ。」

「な、何言うとんねん?逃げ切れるとしたらアンタの方やん。アンタがお逃げ。」

「…いいや、逃げるのは二人ともだ。ここはオイラに任せてもらうぜよ。」


 戦仕が助けに現れた。

 だが立っているだけで精一杯のように見える。


「おやおや、誰かと思えば負け犬君じゃないですか。え?またやられに?」


 苦怨はとっても嫌な感じに嘲笑った。

 コイツ絶対友達いない奴だ。


「フン、さっきは意表を突かれただけぜよ。今度は簡単にはいかせんわ。」


 戦仕は強がっているが、どう見ても瀕死であるためさすがの商南も任せづらい。


(だ、大丈夫なんかアンタ!?見るからに満身創痍やんか…!)

(正直きちぃがヤルしかねぇ。アンタは勇者連れてとっとと逃げな。急ぐぜよ。)

(…行くしかないさ。このままじゃ全員やられて終わりさ。)

「さぁ、行くぜよ!!」


 商南と暗殺美は勇者の方へ向かった。


「まったく懲りない人だ。キミの技が彼に効かなかったのは覚えてますよね?」

「『武神流』には七つの秘拳がある。一つ二つ破ったくらいで調子ん乗んなよ。」

「へぇ…なら見せてほしいものですね。神を討つほどの技があるのなら、ね。」


 苦怨は完全に舐めくさっている。

 だが戦仕は挑発に乗ることなく冷静に、


「いいぜよ、とっておきを見せてやる!『ロクの秘拳』、制約の秘奥義…!」


 戦仕は天を仰ぎながら力を込めた。


「ドコヲ見テイル?オマエノ相手ハ俺様ダロウ?」

「…おいオメェ!“手袋”の反対はーー!?」

「ア゛…?ロ…ロクブテ?」

「うぉおおおおおお!食らえ、『六・武・帝』!!」


 戦仕、必殺の一撃!

 二度と通じない技を繰り出した。


「グ、グァアアアアアアアア!!」


ズッゴォオオオオオオオオオオン!!



 戦仕の秘拳は見事鬼神に炸裂した。

 よっぽどの馬鹿でない限り引っかからないという制約があるため、凄まじい威力を誇る技なのだが、残念ながら致命傷にはならなかったらしい。

 まぁもう死んでるんだけども。


「グハッ…!ウグッ、ゲハァアア!チックショオオオオオ!!」

「チッ、やっぱこの体じゃ…完璧は無理かよ…!仕損じたぜ…!」


 戦仕は万策尽きたと言わんばかりに倒れ込んだ。

 その姿を見てやっと安心したらしく、苦怨はゆっくりと近づいてきた。

 そしてヤナグも起き上がってきた。


「ふ、ふぅ~。少々驚かされましたがその程度ですか。もう終わりでしょう?」

「貴様ァ…!ブッ殺シテヤル!!」


ドカァアアアアアアアアン!!


「うわぁーーー!!」

「な、なんやぁーー!?」


 逆上したヤナグが反撃しようとしたその時、勇者がいるはずの方向で謎の爆発が起きた。

 そして暗殺美と商南がフッ飛んできた。


「ど、どうしたぜよアンタら!?なんであっちから爆発が…!?」

「わ、わからへん!とにかく急に勇者が目覚めた思たら…!」

「そういや勇者の“アレ”が外れた姿は初めて見たさ。頭のあの…」


「あの兜が…!?マズいね、恐れてた状況になっちまったようだよ。」


 その驚きの声は、戦仕を助けた女の声。

 今度は光の下ではあるが、フードを深く被っているためやはり顔は見えない。


「ってアンタ誰やねん!?なに当たり前のように紛れ込んでんの!?」

「こ、この僕に気取られることなく現れるとは…タダ者じゃありませんね。」


 知らない人間がいきなり現れたため、両陣営とも混乱している。

 だが女が見ているのは両者のどちらでもなかった。


「今はアタイなんかに構ってる場合じゃないよアンタ達?気を抜きゃ“奴”に、殺される。」

「や、奴…??」


ゴゴゴゴゴゴゴ…!


「随分と久しぶりに出てきてみれば…なんだ満身創痍じゃないか。やれやれだ。」


 爆発で起きた土煙の中から聞こえてきたのは、確かに勇者の声だった。

 だがその口から語られた名は、勇者のものではなかった。



「我が名は『マオ』、手向かう者は…皆殺しだ。」



 なんと!勇者の中のマオが目覚めた。

 だが違和感は全く無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ