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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
81/196

【081】帝都武術会決勝

準決勝終了後…一時間の休憩をはさみ、ついに決勝の時が訪れた。

さすがに最後の試合だけあって会場も盛り上がっている。


また若干眠くなってきたのが心配ではあるが、もう踏ん張るしかない。


「よく勝ち残ったわね二人とも。この決勝戦も正々堂々…芋、食いたい。」

「食えよ勝手に!今までも堂々と食ってたじゃねーか好き勝手に!」


一応は婿候補が決まる決勝なだけあって、主催者代表として挨拶しに訪れた芋っ子だったが、相変わらずやる気は無さそうだ。

まぁ確かに、今回の大会はレベルが低すぎだしな。婿だなんだという目線で見ている奴は恐らくいないだろう。


「初めまして皇女様。ところで決勝のルールについては、いかがお考えで?」


 どう見ても何も考えていそうにない芋子に、何かしら企みがありそうな苦怨が尋ねた。


「んー、じゃあ“なんでもアリ”で。もう色々となんでもアリでいいわ。好きにやればいいと思う。」


 究極の免罪符が発行された。


「いや、適当過ぎるだろお前!まぁ俺的には好都合だが、そっちのボンボンが…なぁ?」

「フフ…僕もそれでいいですよ。後で泣くのは、キミの方になるでしょう。」

「ほぉ、言うじゃないか。ここまで勝ち上がってきたのもダテじゃないってか?ならば早速やろうじゃないか。悪いが遊んでやれる余裕は無くてな。」

「おやおや、それは残念ですねぇ。僕はたくさん遊んであげるつもりだったんですが、ね。」


 苦怨は『霊樹の杖』を取り出した。


<霊樹の杖>

 その名の通り霊樹から切り出した杖。

 周辺に漂う浮遊霊を取り込み強度に変えることができる。


「フン、そんな枯れ木のような細腕で打撃戦を挑むとは笑止!実力の違いを思い知るがいい!」


 勇者の攻撃。

 苦怨は攻撃を受け流した。


「チッ、思ったよりいい武器じゃないか。俺の攻撃でも砕けんとはな。」

「フフ、さすがは帝都ですねぇ。人が多いだけあって浮遊霊も多いらしい。」

「調子に乗るんじゃないぞ?逃げ回るだけじゃ勝てんのだからなぁ。」


 それから数分間、苦怨が攻撃を受け続ける時間が続いた。

 だが、『勇者』と『霊媒師』の打撃戦がそれほど長く続くわけがなかった。


「オラオラオラー!まだ防戦一方か!?舐めてんのか貴様ぁーー!?」

「うっ…ぐ…!!」


キン!ギンッ!キィイイイン!!


 勇者の連続攻撃。

 苦怨はなんとか受け切っていたが、だいぶ限界が近づいていた。


「ぐっ!な、なんて攻撃力…!さすがにもう…」

「当然だ。不完全体だったとはいえ、かの『邪神』を葬ったほどのこの俺が…貴様のようなモブにやられるわけがないだろう?」

「あぁ、邪神ですか。そういえば前に面白い話を聞いたことが…」

「残念だが時間稼ぎに乗ってやる気はない。死ね。」


 勇者は剣を振り上げた。

 苦怨は膝をついて動けない。


「ぬぁっ!?」


 だがなぜか、勇者が20のダメージを受けた。


「いててっ!な、なんだぁ!?なんで場外から攻撃が…!?」

「やめるのだバカ勇者ー!苦怨様を攻撃するなんて許せないのだー!」


 勇者の尻には忍美が投げた手裏剣が刺さっている。


「ちょっ、待てコラ!神聖な決勝戦に助っ人とは何事だよ!?失格だ失格ー!」

「ルールは“なんでもアリ”って言ってたのだ!だからなんでもアリなのだっ!」

「なんでもアリにも程があるだろ!なぁ芋子!?」

「セーフ。」


 思ったよりなんでもアリだった。


「…ハァ、やれやれ。茶番もここまでくると笑えてくるぜ。」

「ふぅ、僕も参りましたよ。まさかこれ程までに力の差があるとは。」


 苦怨の表情には笑みが戻っている。

 忍美が時間を稼いだおかげで多少は回復したようだ。


「だったら本気を出させてやるよ。防御しながら密かに力を練ってたのには気づいてるぞ。」

「へぇ…いいんですか?後悔しますよ?」

「フン、こうなったら全力の貴様を圧倒的な力で捻じ伏せんと気が晴れん。いいからとっとと『偽魂』とやらを出すがいい。」


 勇者の言葉に苦怨の表情が変わった。


「ど、どこで僕の情報を…?」

「やはりそうか。額のバンダナの紋章が、知った霊媒師のと同じだったんでな。」

「…なるほど、『霊魅様』とねぇ。凡ミスだなぁ…お恥ずかしい。」

「“様”…?なにやら訳アリっぽいが、また少し眠気が出てきたんでな。これが本格化する前に…ブッた斬る!」

「キミの流派は『刀神流』でしたよね。ならば、“彼”しかいないでしょう。」


 苦怨は偽魂を手に呪文を唱えた。

 ピカッと光って謎の爺さんがこんにちは。


「…やれやれ、霊媒師か。面倒だからもう呼ぶなと言ったはずだが…?」


 苦怨を見て面倒臭そうに溜め息を漏らす小柄な老人。頭頂部からはなぜか葉っぱの付いたヘタのようなものが生えている。髪や髭がオレンジ色であるため、パッと見ミカンのようだ。


「なんだこの爺さんは?こんなのが俺と何の関係があるんだ?」

「大アリですよ。彼こそが刀神流の始祖たる人物…『剣聖:那金ナキム』、その人なんですから。」

「なっ、こんなしょぼくれたジジイが俺の流派の開祖だってのか!?」

「なぬ?ほぉ、そういうことか…面白い。」


 勇者の一言で状況を理解したらしい老人。


「ならば貴様のミカン…我がミカンが砕いてくれる!」

「伝統なのかそれ!?」


 伝統は麗華が止めた。



「さぁ来いミカン!見せてみろ、拙者の弟子どもより受け継ぎしそのミカンを!」


 最初は面倒臭そうにしていたが、勇者が同門と知るや急にヤル気を見せ始めた老人。

 苦怨は召喚中は派手には動けないのか、静かに座禅を組み瞑想している。


「チッ、俺もまだ免許皆伝ってわけじゃないしなぁ…。もし本物だとしたら、技の勝負じゃキツそうだぜ。」

「なにぃ?ということは貴様、半端も…半端ミカンかぁ?」

「言い直すなよ。なんなんだその一夜漬けみたいなキャラ設定は。」

「ぶっちゃけ弟子に仕込んですぐに飽きたもんでなぁ。」

「お前のその気まぐれに、今なお振り回されてる痛い奴を俺は知ってるぞ。いつか土下座してやれよな。」


 謝って許されるレベルじゃないが。


「まぁええわい、とっととかかってこんかい。チョイと手ほどきしてやろう。」

「フン。気に食わんな、その上から目線。」

「ハハッ!だったら這いつくばらせてみぃ!」


 勇者は小銭をバラ撒いた。

 爺さんは這いつくばった。


「老人介護は面倒だ、とっとと黄泉の国へ帰るがいい糞ジジイ!百の秘剣…!」


「百刀霧散剣!!」


ガキィイン!


 勇者に合わせて那金も同じ技を繰り出した。

 二人の技は相殺された。


「ほほぉ、その年で百の秘剣まで…。興味深い小僧だわい。」

「今のをそっくりそのまま返すとはな。どうやら刀神流ってのはマジらしい。」

「フハハ!だが臆したわけじゃあるまい?」

「無論だ。なおさらブッた斬ってやりたくなったわ。いくぞジジイ!!」


 勇者の連続攻撃。

 だがやはりすべて相殺された。


「くそっ!まだまだぁーーー!!」




かつて『剣聖』と呼ばれたらしいジジイとの戦闘は、一発もまともに当てられないまま三十分ほど続いた。さっきの俺と苦怨の逆バージョンのようだ。

俺だって雑魚じゃない。これだけ受け切られてる時点で、実力が互角じゃないってことはわかる。要は遊ばれてるんだ。

そんな真似をする目的はわからんが、どうであれこの俺を舐めてくれた礼は…全力でブチかましてやる。


「ハァ、ハァ…チッ、死にかけのジジイの分際でやるじゃないか!」

「ところがどっこい、とっくに死んどるわい!ハッハー!」

「いや、得意げになられてもリアクションに困るんだが。」

「ふ~む、一刀十刀百刀…大技はまあまあだが技数は圧倒的に少ないのぉ。」

「フッ、そうでもないぜ?随分見せてもらったしな、今日だけでかなり覚えた。」

「ほぉ、それは頼もしい。じゃあ拙者をブッ倒す手立てはもう見つかったか?」

「苦怨をブッた斬る。」

「お前に剣士のプライドは無いのか。」

「冗談だよ。そんな勝ち方で気が済むんなら最初から貴様を呼ばせてはいない。」


 勇者は那金に向かって真っすぐ切っ先を向けた。


「偽魂は体の中心にあると聞く。ならば使うは“突きの秘剣”…それしかないだろうな。」

「な、なぬ!?あまりに危険ゆえ封印したあの技を、なぜお前が…!?」

「フッ…まさかホントにあったとは。よし、是非とも教えるがいい!」

「うむ!…って、なんだと!?お前知っとったんじゃないのか!?」

「カマ掛けは得意でな。口を滑らせた貴様の負けだ、素直に教えやがれ。」


 勇者にまんまとしてやられた爺さん。

 思わず吹き出してしまった。


「ふっ…フハハハ!いいぞ覚えろ!これを教えるのは貴様が初めてだ!」

「言っとくが俺は天才だ、無駄に長い講釈は必要ないぞ?コツだけ教えろ。」

「ならば構えろ!切っ先に全ての運を…“ツキ”を詰め込むイメージで!」

「なるほど、全てのツキを…って、まさか…!」

「フッ、そうだ。勘はなかなか鋭いようだな。」


 勇者は爺さんの思惑に気づいた。


「ダジャレか!」

「ダジャレだ!ナイスなセンスだろう?」

「受け継がせないで正解だったと思うぞ、その技。」

「名に騙されるな?運を使い切り、その日一日散々な目に遭う『呪剣』だぞ。」

「呪剣…『呪技』の一種か。まさか目にする日が来るとはな…面白い!」


呪技ジュギ

 呪いを受けるのと引き換えに、驚異的な威力を発揮する呪われた秘技。

 だがその危険性ゆえに多くは封印され、現世に伝わるものはほとんど無い。


「そうか恐れぬか!ならば構えぃ!!」


 那金は突きの構えをとった。

 勇者もそれを真似て構えた。


「では“せーの”でいくぞ小僧!技の名は『運の突き』だ!せーー…」


「運の突きぃーー!!」


 勇者、会心の一撃!

 爺さんの偽魂をブチ抜いた。



「…ハァ…やれやれ、よもや今の流れで先手を打ってくるとはなぁ。」


 予想外の展開に、那金は呆然としている。

 貫かれた胸からは、煙のようなものが立ちのぼりはじめた。


「偽魂は砕いた、最期に何かあるか?不意打ちだから負けたとか言うなよ?」

(フン、雑魚の不意打ちにやられるほど老いとらんわい…)

「ん?なんだって?」

「…短い間だったが、随分と生意気な弟子だったわい。続きはあの世で、な。」

「じゃあしばらく先だな。俺には世界征服という野望がある。」

「しもうた…教えちゃならん奴に…技を……」


 那金は後悔しながら消えた。

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