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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
79/196

【079】帝都武術会本戦

重い体を引きずり、なんとか試合会場までは到着できた俺。

だが既に体調は限界に近い。


本戦出場者は16名…つまり四回勝てば優勝できる計算だ。

そのぐらいならなんとかもつ…か?


そんな不安な状況の中、ふと対戦表を見ると、メンバーの中に見知った名前を発見したのだ。


「む?戦仕だと…?もしかしてあの、『学院塾』の戦仕…か?」

「あ~、多分そうさ。賞金稼ぎの世界じゃコイツ結構有名人だったさ。」


 一時期同じ世界にいたという暗殺美の話によると、学院塾を出た後の戦仕は賞金稼ぎとしてそれなりの成果を上げていたのだという。


「ほぉ…。奴はなかなかの腕だった、こりゃ本戦は思ったより楽しめそうだな。」

「ホレ勇者、噂をすれば影さ。」

「よぉ、オメェも出てたとはなぁ勇者。あん時の屈辱はまだ忘れてねぇぜよ。」


 戦仕が現れた。

 前に戦った時よりもたくましい体つきになっている。


「偶然だな戦仕よ。俺も貴様とはもう一度戦いたいと思っていたんだ…が、ブロックが違うな。決勝で会おう。」

「ああ、やろうぜ。“最強”の称号と盗…」

「言っとくが盗子は懸けんぞ?もし今度そのノリできたらお前のこと『盗子割り魔人』って呼ぶからな。いや、まぁ割るなら止めんが。」

「それに盗子は悪党にさらわれたさ。もう死んでるかもさ。」

「なっ…!?じゃあオメェら、こんな所で何してるぜよ!?助けに行けよ!」


 当然のように盗子を見捨てている勇者と暗殺美に納得がいかず、食って掛かる戦仕。


「はぁ?なんで俺があんな奴を?話にならん、じゃあな。」

「ちょっ、待ちやがれ勇者!まだ話は…」

「今すぐその手を放せ。でないと貴様…大変な目に遭うぞ?」

「へぇ…面白ぇ!やってみるぜよ!!」

「いや、ガチで離した方がいいさ。多分大変なことになるのはアンタでも勇者でもなく“この一帯”さ。」


 勇者はトイレに行きたい。




その後、トイレに立てこもること数十分。

未だヤバい状況だってのに、無情にも出番がやってきてしまった。

下手に攻撃を食らうことは死を意味する。生命的にではなく、社会的な死だ。


いざとなったら、会場の全員を…始末するしかない。


「おーい、大丈夫か勇者ぁー?生きとるかぁー?」


 観客席から商南の声が聞こえた。


「で、デカい声を出すな商南。今の俺はそんな些細な振動にすら敏感だぞ。」

「いつになく追い込まれた顔したアンタを見るのは、とてもいい気分さ。」

「フッ、昔の奴はいいこと言ったもんだぜ。“真の敵は己の内にいる”…とな。」

「いや、それはそんな“排泄物的なもの”に向けた言葉じゃないさ。」


 勇者の苦しむ姿見たさで暗殺美も冷やかしに来たようだ。

 姫の姿は見えない。



「それでは本戦一回戦を始めます。よぉーーーい、始めぇええええええぃ!!」


 レフェリーの合図で、一回戦が始まった。


「一応情けでアンタに賭けてんねんからなー!負けたらシバくでー!?」

「そいつは腹を壊してるさー!ボディーを狙うがいいのさー!」


「なんだアンタ、モテモテ君か?なぁんか嫌味な野郎だぜ見せつけやがって。」


 一回戦の相手は、獣の毛皮を全身に纏った少年。歳は勇者より少し上だろうか。

 女子二人と勇者のやりとりを見て、明らかに機嫌が悪そうな顔をしている。


「あん?お前の耳はどうなってるんだ、半分はヤジだったじゃないか。もう一方もただの守銭奴だし。」

「俺っちは『獣化戦士』の『兄丸アニマル』。一回戦の相手が俺っちとか運が無ぇなぁアンタ。」

「悪いが行く所(便所)があってな、貴様と遊んでる暇は無いんだ。来い。」

「へぇ、俺っちに先攻取らせてくれるって?馬鹿がっ、泣いて後悔しやがれ!見せてやるよ『獣化:獅子王』!」


 兄丸は力を込めた。

 なんと!兄丸はライオンに変化した。


「ほぉ…動物に変身できるとは珍しいな。サーカスにでも売りさばくか。」

「人間ごときが“百獣の王”に勝てるわけねーだろ?片腹痛ぇよ。」

「あん!?テメェこそ舐めてんじゃねーよ!」

「な、なんだとぉ…!?」

「腹の痛さで今の俺に勝てるわけねーだろ!!」


 そういう意味じゃなかった。


「ただのライオンと一緒にすんなよ?獣化戦士の真髄、とくと見やがれ!食らえよ『ライオン・クロー』!」


 兄丸の攻撃。

 ミス!勇者は紙一重で避けた。

 地面に深い爪痕が刻まれた。


「ほぉ…なかなかの威力じゃないか、食らったら痛そうだ。だが遅いな…昼飯時の出前くらい遅い。そんなんじゃ俺には当たらんぞ?」

「最小限の動きで避けるたぁやるじゃねーの!だったら次は…『ライオン・タックル』だ!」


 ミス!勇者はまた紙一重で避けた。


「まだ遅い。そうだなぁ…んー、おはよう…あれ?アケミの奴、こんな朝っぱらから一体どこに…ん?なんだこれ、手紙…?勇者へ。アナタがこの手紙を読んでる頃には、私はもう船の上だと思います。アナタと過ごした三年間…とっても幸せでした。でも、それも終わり。やっぱりアナタは…戦っている姿が一番素敵で、私はきっと…アナタの足枷になってしまうから。でも、サヨナラは言わないよ。いつの日かまた笑顔で、再会できる日を祈っています。だから、行って勇者。そして…世界を救ってください。私は遠い空の下で、アナタの活躍を祈っています。サヨナラ、大好きな勇者。し、知らなかった…アイツにそんな思いをさせてたなんて…。なんてことだ…失って初めて、何が一番大切だったか気づくなんて…!今さら…今さら気づいたってもう…遅いのに……ってくらい遅いな。」

「って長ぇよ!!例えに使う尺じゃなくね!?しかも戦闘中に!あと結局サヨナラ言ってるし…!」


 兄丸は結構真面目に聞いてた。


「つーかよぉ、なんでアンタ反撃してこねぇよ?俺っちごときにゃ力ぁ出すまでもねぇと?」

「まぁ悪く思うな、下手に動くと力どころじゃない何かが出そうなんだよ。ブリブリと。」

「ウンコじゃねーか!その擬音はどう考えてもウンコじゃねーかよ!」

「もとい、ビチビチと。」

「マジで腹痛ぇのかよ!?そんなんで試合出てくるなんて舐め…うがぁっ!?」


 勇者の攻撃。

 右拳が兄丸の脇腹にメリ込んだ。


「て、テメェ…!そんなんアリ…かよ…!」

「お前、なに被害者ヅラしてんだよ?『作用反作用の法則』って知ってるか?お前を殴るってことは、その反動で俺は漏れそうになってんだぞ!?」

「完全に自業自得じゃねーか!アンタこそなんで被害者ヅラできんだよ!?」

「…ま、そう騒ぐな兄丸。俺としてももう限界だ、そろそろ終わりにしよう。」

「もう謝っても許してやらねぇぜ!?噛みちぎってやる!」

「それはこっちのセリフだ。死にたくなくばワンと鳴け。」


 ライオンはネコ科だ。


「ケッ、いつまでも舐めやがって!これ以上アンタのペースでやらせはしねぇ…!攻めまくってやるぜ!死ねやぁ!ガルルルル!」

「チッ…!」

「ガルァアアアアー!」

「ぐっ!」

「グルァアア!」

「フンッ!」

「おわっ!?」

「ぁ…」

「え゛!」

「と見せかけ…ぁ…」

「どっちだよ!騙す気なのかマジなのかどっちなんだ!?」


 全力で攻め込んでくる兄丸を、最小限の動きでなんとかやり過ごそうと頑張った勇者だったが、次第に劣勢の色が濃くなっていった。このままでは色々とヤバい。


「くっ、貴様の読み通り、どうやらもう限界のようだ。だから一撃…一撃だけ全力を込め、貴様を倒す。」

「へぇ、一発勝負か…いいねぇ。俺っちもそういうわかりやすいのが好きだぜ。」

「さらばだ兄丸。この俺を本気にさせたこと…後悔しながら地獄で腹が痛い。」

「最後まで気を抜くなよ!折角の決め台詞が腹痛に食われ…なっ!?」


「…悪いな獣野郎、今の俺に手加減はできそうに、ないぞ。」


 勇者は魔力を解放した。

 魔剣から毒々しいオーラが噴き出した。


 兄丸はワンと鳴いた。




思いのほかヤバいオーラがほとばしったせいで、兄丸は腰を抜かして降参。

おかげで俺はかろうじて便所に間に合い、なんとか事なきを得たのだった。


だがこの状況はマズい。

初戦でこんな感じでは、とても決勝まで残れそうにない。


「というわけで、だ。一瞬でこの腹痛を止める都合のいい薬を出してくれ商南。」

「ん~。まぁあるにはあんねんけど…ごっつ高いでぇ?」


 高額をふっかけられるのはわかっていたが、背に腹はかえられない勇者は仕方なく商南に助けを求めた。

 実際は助っ人どころか本件の仕掛人である商南は、笑みがこぼれそうになるのを必死に堪えながら普段通りを演じていた。


「チッ…ホラよ、昔々ある所で略奪した『金の剣』だ。俺には魔神の剣があるからコイツはお前にくれてやるよ。」

「金ゆーたかて不用品やろ?そないなもんと換えたるほど安ないなぁ~。」

「そしてこれが我が家に代々伝わる『銀の剣』だ。とても大事だがこれもやる。」

「いやいや、どう見てもセットやんけ!…ま、ええわ。しゃーないからそいつで手ぇ打ったる。ホレ。」


 勇者は『必殺下痢止め薬』を手に入れた。


「なぁオイ、下痢止めなのに“必殺”とあるのが凄まじく気になるんだが…?」

「まぁ軽く呪われとるしな。」

「サラッととんでもないこと言うなよ。いい加減呪いは食らい飽きたぞ俺は。」

「飲むも飲まんもアンタの自由。ウチの仕事は売るだけや。ほな頑張り~。」

「…やれやれ、仕方ない。腹をくくるしかないか…」


 勇者は薬を飲んだ。




一時間後。商南から買った薬のおかげで、嘘のように腹痛が止まった。

奴め…だったら最初から寄越せってんだ…!


「それでは二回戦を始めます。選手の方は勝手に始めてください。」


 レフェリーに促され、再び闘技場に舞い戻った勇者は、一回戦とは打って変わって活き活きとしていた。


「勇者だ。腹痛が治まった今、誰であろうと俺の敵ではない。去るなら今だぞ。」

「俺は『剣武士ケンブシ』の「女闘メトウ』。イキがんのも程ほどにしな。」


 次の勇者の相手は、勇者と同年代に見える気の強そうな少女。肩下5cmほどの若干ボサついた髪と、見るからにオラついた態度を見る限り、かなり男勝りなタイプのようだ。


「ん?“俺”だと…?お前は女だろ?女なら女らしくしたらどうだ。」

「『勇者』らしくねー勇者に言われたかねーよ。さっきの邪悪っぷり見てたぜ?」

「フッ、安心しろ。女相手に本気は出さん。峰打ちで頭蓋を砕いてくれる!」

「普通に死ぬじゃねーか!ま、手加減なんかいらねーからいいけどな。」

「そうか、ならば手加減はしまい。峰討ちで頭蓋を砕いてくれる!」

「結局同じなのかよ!!」


言動が男のような女、女闘。なんとなく大人っぽく見えるが、確か事前資料によると俺と同い年らしい。

『剣武士』ってのは聞いたことない職種だが、まぁ字面から大体の意味はわかる。


「ようするにお前は、“剣が使える武闘家”…って感じなんだろ?」

「まぁそんなとこだな。けど、1+1は単純に2ってわけじゃねーぜ?」

「フッ、俺も“魔剣が使える勇者”だ。その意味はよくわかるさ。」

「いや、テメェの場合は“引き算”なんじゃねーか…?」

「言うじゃないか。ならば体で理解するがいい!来い、オトコ女!!」

「誰がオトコ女だ!死にやがれぇーーー!!」


 女闘は両手に剣を握った。


「ほぉ、二刀流か。だがカルロスに比べりゃ…ぬぐっ!?」


 女闘の攻撃。

 強烈なミドルキックが炸裂した。


「ぐはっ…!チッ、そういや『剣武士』とか言ってたな…そういうスタイルか。」

「ハハッ!なんだよその顔は!?ビビりやがって情けない野郎だ!」

「ああ…今のが一回戦だったら確実にバーストしてたぜ。」


 さすがの勇者も冷や汗が止まらない。


「立て続けにいくぜぇーー!食らいやが…あっ!」


 女闘の手から剣がこぼれ落ちた。


「フッ、調子に乗るからミスるんだ雑魚め!」

「…なーんてな!!」

「なっ…!?」


 女闘は落ちる剣の柄を狙って蹴り上げた。

 回転する剣の切っ先が勇者の頬をかすめた。


「くっ、そんなパターンもありか…!こざかしい奴め!」

「こんなフェイントなんざ挨拶代わりさ。剣術と武術の華麗なる融合…とくと味わうがいい!」

「ほぉ、言うじゃないか。ならば教えてやろう、格の違いってや…つを…な…?ガフッ!!」


 女闘のハイキックが側頭部に直撃した。

 勇者は激しくフラついた。


「格がなんだってぇ!?思い知るのはテメェだよ!!」

(な、なんだ急にめまいが…!?この眠気はどういう…ハッ、まさかこれは…!)


 突如、謎の眠気に襲われ大ピンチの勇者。

 そんな勇者を眺めながら、観客席の商南はまた悪い笑みを浮かべていた。


「フフッ、ついに始まったようやな。」

「ん、どういう意味さ?何か知ってるのかさ?」

「あ~さっき勇者に売った薬な、下痢治す代わりに…『睡魔』に憑かれんねん。」




 商南の新たな嫌がらせのせいで、今度は強烈な眠気に悩まされることになった勇者。

 というか既にほとんど眠っていたのだが、器用にも目を見開いて立っているため女闘は気づいていないという異様な状況だった。


(な、なんだコイツ?急に黙って動かなく…隙だらけだ。いや、そう見せかける作戦か…?)


 女闘は疑心暗鬼に陥っている。


「チッ、もういい!罠だろうが知ったことか!いったろーじゃねーかオラァ!!」

「ぶばふっ!!」

「…あれ?」


 女闘のパンチはクリーンヒットした。

 勇者は目を覚ました。


「ぐっ、お゛っ…!き、貴様…人の寝込みを襲うとはいい度胸だ!」

「って寝てたのか!?テメェこそ戦闘中に寝るなんていい度胸すぎるぞゴラァ!」

「やれやれ、腹痛の次は眠気かよ…。とっとと済まして昼寝しなきゃだな。」

「くっ…!あーそうかよ!だったら俺が今すぐ眠らせてやる!食らいなっ!」


 女闘の攻撃。

 ミス!勇者は攻撃をかわした。


「フッ、遅いな。あまりの遅さにアクビが出ふぁあ~ぅお。」

「ホントに出すなよムカつく奴め!」

「ヒツジが一匹…!ヒツジが二匹…!」

「それは寝たい時のだ!!」

「さぁもう遊びの時間は終わりだ。もうこれ以上…もう…食べられないぞ…」

「それよくあるベタなやつ!まさか実際聞く日がくるとは思ってなかったよ!」


 女闘は完全に弄ばれている。


「ふぅ、やれやれ仕方ない…。あまりに危険ゆえ封印していた技だが、特別に見せてやろう。」


 勇者は何か策がありそうな雰囲気を醸し出した。


「封印してた技だぁ?フン、どーでもいーね。とっととかかってこいよ!」

「謎の秘奥義、『睡剣スイケン』…寝れば寝るほどムニャムニャム…」

「言い切れよ!!どーでもいいっつったけどやっぱ気になるじゃねーか!」


「……スピー…」


「ってマジで寝て…いや、違う!この殺気は…ヤバい!!」


 勇者の攻撃。

 ミス!女闘は間一髪で攻撃を避けた。

 当たっていたら頭が吹き飛んでいそうな威力だった。


「な、なんだ今の攻撃は…!?寝てる奴に可能な動きか!?」

「そんなこと聞かれても熟睡中の俺には答えられない。」

「ハッキリ答えてんじゃねーか!“睡眠”の概念を覆すんじゃねーよテメェ!」

「そして恥ずかしながら、俺は寝相があまり良くない。」


 勇者の攻撃。

 ミス!女闘は再びかろうじて避けた。


「うわっ!それ寝相ってレベルか!?な、なんなんだよテメェは!?」


 かつて父は何度か死にかけた。



「なぁ?アイツ起きてる時より動きいいんちゃう?ほんまに寝とるんか?」


 観客席からは表情まではハッキリ見えないため、商南は勇者が眠っているようには見えなかった。


「そういえば前に一度…奴は授業中に大暴れしたことがあったさ。」

「そ、それがあの技やゆーんか?」

「いや、その時は起きてたさ。」

「関係ある話せんかい!」

「聞いた話じゃ、アイツ今まで数える程しか“熟睡”したことは無いそうさ。」

「熟睡…せんて?んなアホな、普通そんなんありえへんで?」

「戦士たるもの熟睡はするなっていうのが親のしつけだったと聞いたさ。」

「ほほぉ~。意外やなぁ、アイツも一応しつけとかされてんねや?」

「禁を破ったらボコボコにされたそうさ。」

「うへぇ~!子も子なら親も親やねんな~!」


「父親が。」


 父は何度も死にかけた。



「わっ!ちょ、待て!起きろ!とにかくまずは起きやがれー!キャッ!もう…ちょっと…うわーー!」


 そして十数分が経過。

 眠っているとは思えない身のこなしを見せる勇者に、女闘は心が折れそうなレベルで追い込まれていた。


「寝てる奴にやられるなんて、あの子も立ち直れないだろうさ。」

「むー、ウチもちょい責任感じてまうわ。悪いけど暗殺美、起こしたってくれる?アンタ声帯模写得意や言うとったやろ?」

「声帯模写…そういうことかさ。ま、貸しにしとくさ。」

「おおきに。助かるわ。」


 暗殺美は大きく息を吸って、そして叫んだ。


「勇者くーん!おっはよーーー!」

「おっはよー!!」


 暗殺美は姫の声色を真似て叫んだ。

 勇者は簡単に目を覚ました。


「ゼェ、ゼェ、やっと、起きやがったか!フザ、フザけやがって…!」

「む?なんだお前、何もしてないのに随分とボロボロじゃないか。」

「なっ!?クソッ、こうなったら…これでも食らえよ!『武技:岩盤波状拳』!」


 女闘は地面を激しく殴った。

 砕けた破片が勇者を襲う。


 ミス!勇者は『不思議な踊り』で全て避けた。


「眠すぎてフラフラする。」

「そ、そんなんで避けられただなんて…!」

「退け女闘。さもなくば、永遠に目覚めん眠りにつくことになるぞ?」


お前か、俺が。


 勇者も相当ヤバい。




ダメ元で降参しろと言ったら女闘はホントに降参したため、俺は辛くも勝ち上がることができた。

ぶっちゃけ後半の記憶はまったく無いので勝った実感も無いが、まぁ気にすまい。


「お~い、お疲れやったな~。どやねん体の調子は?」

「チッ、商南…!貴様のせいで散々な目に遭ったぞ。まぁ腹痛よりはマシだから責めるに責められんが。」

「ま、ええやん。とりあえずランチでもどうや?三回戦は午後からやろ?」

「うーむ、どうせなら少しでも寝たいところだが…食ってからの方が気持ちよく眠れるか。いいだろう。」


 勇者はこの後、スープで溺れた。

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