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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
77/196

【077】序章

五錬邪、そして邪神と死闘を繰り広げた夏から、なんだかんだで季節は流れ…秋。

十三歳になって半年が経った俺はシジャン王国を発ち、今は全ての王国を束ねる都『帝都:チュシン』にいた。


黄錬邪の動向も気になるが、今のところ動きは無いようなのでとりあえずは放置。

やはり、いま考えるべきは『魔王』のことだろう。アイツは放っておいたら危険な奴だ。

最近なぜか噂を聞かんが、生きているなら必ず情報はあるはず…


「キャー!魔王よー!魔王が来たぁー!!」

「なっ、魔王だと…!?どこだ!?」


 勇者は指を差された。



ふむ…わかっちゃいたことだが、今の俺の装備は明らかに変わってるらしい。

まぁ『魔神の剣』に『破壊神の盾』…驚異的に呪われた装備が二つもあるんだ、変わってると思われても仕方ない。

面倒ではあるが、地道にやっていくしかないだろう。


全員、ブッた斬る。


 勇者は変わってない。



そんな感じでしばしの間、生意気な民衆どもを蹴散らしていると、音も立てず現れた小奇麗なオッサンに声を掛けられた。


「失礼。もしやアナタは…凱空殿のご子息、勇者殿ではありませんか?」


 声をかけてきた男は、かつて凱空を帝都へと招いた紳士だった。

 だがそうとは知らない勇者にとっては、なぜか父の名と顔を知っている謎深き老人。

 勇者は警戒し睨みつけた。


「…ん?ああ、残念ながらな。」

「やはり…。若き日のお父上に、よく似ていらっしゃる。」

「あん?オイオイ、嫌なこと言うなよ、将来が不安になるぞ。ところでお前は誰で何の用だ?」

「単刀直入に申し上げます。『皇女』様がお待ちです。城の方まで来ていただけますかな?」

「む?『皇女』…確かこの世で最も偉いという『天帝』の子だろ?そんな生意気そうな奴が俺に何の用だ?」

「そうですか、やはり信じておられない…。では言い方を変えましょう。あちらに見えます城…『帝城テイジョウ』にて、『芋子』様がお待ちです。」


 名前を聞いて、勇者はようやく思い出した。

 確かに本人はずっと『皇女』だと言い張っていたが、あまりに身分が高すぎることや本人のキャラから見て、誰もが本気にしていなかったのだ。


「なっ…あの芋っ子がマジで『皇女』だと!?ジョークじゃなかったのか!?」

「ハイ、残念ながら…」

「残念なのか!使者の身分でそのセリフはアリなのか!?」


 芋子の正体に愕然としている勇者を横目に、辺りを見回す紳士。

 さりげなく何かを探しているようだ。


「おや?ところで勇者殿、お連れの方々はどちらへ?」

「みんな帝都は初めてだからな、適当にブラついてるよ。それがどうした?」

「…いえ、何も。では参りましょうか。」


 民衆は泣いて喜んだ。




その後、謎の紳士に連れられ帝城へと案内された俺。

奥の偉そうな部屋まで行くと、そこには本当に芋子の奴がいやがった。生意気にもまるで『皇女』かのように着飾っている。


そして隣には、いつも芋子の周りをうろついていた執事の老婆もいた。

名前は確か『洗馬巣』だったか。芋子が“爺や”と呼ぶことに加え、顔がシワシワすぎてイマイチわかりづらいのだが、確か女だったはずだ。


俺を連れてきたジジイは部屋の前で見張りに立っている。

つまりこれから、それなりに秘密の話を聞かされるってことだろう。


「よぉ芋っ子。相変わらず冴えん顔だが衣装はいっちょまえに豪華だなオイ。」

「勇者先輩…アンタも相変わらず芋、食いたい。」

「やっぱお前の方が相変わらずだぞ。」


 紳士が嘆いた理由が改めてわかった。


「ハイ芋子様、どうぞ。」

「ありがと爺や。モグモグ…でね、早速だけど…モグ…話があるのよ。んぐっ。」

「食いながら喋るな小娘が。食うか喋るかハッキリしやがれ。」

「モグモグ…」

「って、やっぱそっち取んのかよ!人をわざわざ呼んどいてそれか!」


 基本マイペースな勇者が振り回されるほどマイペースな芋子は、まずは芋を優先して食べきった後、やっと本題へと移ったのだった。


「…今日、この帝都で“武術会”があるのアンタ知ってる?」

「武術会…そういや城下でそんな看板を見た気もするが、それが?」

「出てほしいのよね。で、優勝してほしいの。なぜなら…芋、食いたい。」

「だからなんでお前の話は肝心な所で芋にさらわれるんだ!」


 やはりまともに話が続かない芋子。

 見かねた洗馬巣が助け舟を出した。


「優勝者に贈られる賞品…それが問題なのですよ。」


詳しく聞くと、その武術会は皇女の婿を決めるために昔から行われているという。

政略結婚など、王族や貴族にとって伴侶を自由に選べんという話は聞いたことはあるが、武術会で優勝した相手と…というのはいささか乱暴だ。


「結婚か…だがコイツはまだ十一とかだろ?収穫期にしては早すぎるだろ。」

「以前は十五歳の頃に一度きりだったのですが…訳あって余裕をもって早めたのです。五年間毎年実施し、その間に婿殿を決めるのですよ。」

「十五でも十分に早いと思うが…。ちなみにその訳とは何だ?」

「先代のせいよ。叔母さんってば散々ゴネて、結局結婚しなかったのよね。」

「オバさん?お前の母親のことなんじゃないのか?確か長らく病床に伏していると聞いたが…」

「いいえ。芋子様は皇子様の…今は亡き天帝の、姪っ子様なのです。」

「なっ、“今は亡き”…だと…!?」


洗馬巣が言うには、世間的には療養中ということになっている天帝は、なんともう十年以上前に死んでいるのだという。

死んだ天帝には二人の兄がおり、二番目の兄の子が芋子。天帝は女児にしか継げないことから、仕方なく芋子を皇女の座に据えたのだそうだ。

従って実際のところ、今の天帝は空位…ということらしい。


「なるほど、それで“先代”か。」

「なんとか隠し通してきたこの十余年…。ですが、いい加減限界なのですよ。早く新たな天帝に即位していただかねば…」

「そういえば聞いたことがある。天帝には不思議な力がある…そんな噂をな。そしてその脅威が、列国の反乱を防ぐ抑止力になっているとも。」


 勇者の言葉に、洗馬巣は黙ってうなずいた。


「ふむ…つまりはこういうことか。天帝の実子じゃないお前には、その特別な力が無い。結婚した相手によっては他国にそれがバレる恐れがある。だからそうならぬよう、素性の知れた俺に阻止を依頼…ってわけか。」

「…ま、ほぼ正解ってとこね。武術会で優勝…できるわよね?」

「フン、そんなのは造作も無いが…だが今回は俺が勝ったところで、力が無いんならいずれはバレるんじゃないのか?」

「あ~、大丈夫。天帝なら絶対、強力な能力に目覚めるってわけでもないらしいから。爺や、芋を。」

「いや、“説明を”だろ流れ的に。」


 父と同じでシリアスモードが長続きしない芋子。

 邪魔するくらいなら説明は全て洗馬巣に任せてほしいところ。


「天帝の血族は、十五の時に試練に挑み、それを乗り越えたただ一人のみが真の力を獲得します。それらは例外なく、“世界にただ一つの能力”となるのですが…必ずしも、軍事的な意味で強力というわけではないのですよ。」

「ほぉ…例えば?」

「伝承によるとなんともランダムなのですが…。例えば“全てを癒す力”、“護る力”、“財政を潤す力”、“悪を滅する力”…」

「ふむ、なかなか壮大な感じじゃないか。」

「片や残念なものですと、“絶対トーストを焦がさない力”、“絶対ジャンケンに負けない力”…」

「随分と当たり外れの差が大きいな…」

「ただどれも、どの職にも無い特殊な能力であることだけは確かなのです。」

「まぁ人の恐怖を煽るのに、“未知”って要素は確かに有効だしな。」


 勇者は大体の事情を理解した。


「でも結局使えない能力なら勝てないでしょ?だから、それに代わる脅威が必要なわけよ。面倒よね。」

「なるほどな。だから婿には最強の戦士を…って、まさかそれが俺か!?じゃあ俺がお前と結婚を!?」

「なに?ワタイじゃ不満?」

「“不満”以外の言葉をわかりやすく教えてくれ。」

「“芋”…それは全世界の希望。」

「お前ん中はそればっかかよ!つーかお前は俺でいいのか!?」

「別に構わないわ。ワタイは芋さえ食えればそれで良し。」

「俺はそんな結婚生活すこぶる嫌だぞ。」


 勇者は当然の如くお断りモードだが、めげずにグイグイくる芋子。


「わかったんなら話は早いわ。もちろん出てくれるのよね?」

「断る!俺には心に決めた姫ちゃんがいるんだ!」

「じゃあ半歩譲って結婚はいいわ。」

「半歩かよ!結構どうでも良かったんじゃねーか!」

「だけど頼むわ、試合には出て雑魚ども蹴散らして。」

「ふむ…まぁ結婚が無いなら…。ホントにそれだけだぞ?」

「まぁその気になれば、十五になるまでの四年はゴネられるしね。なんとかなるわよ。」

「そうか…ならば任せるがいい。その代わり、報酬は弾めよ?」

「フフ、もちろんよ。とっておきの…」

「芋以外で。」


 芋子は攻撃を封じられた。




 勇者が帝城で話している頃、盗子と暗殺美は城下町の露天市まで買い出しに来ていた。

 姫も帝都には来ているのだが、例の如く別行動のようだ。


「うわ~☆すっごくカッコいい武器!これなんかホラ、特に盗賊っぽいよね!」

「フン、よくいるのさ。何事も形から入ろうとする雑魚がさ。」

「べ、別にいいじゃん!キッカケってのは大事じゃん!」

「そう言う奴に限って“形だけ”で終わるのが雑魚の王道パターンさ。」

「うっさいよ!アタシのお金だもん、何買ったってアタシの勝手じゃん!」


 図星を突かれてキレる盗子。

 するとその大声に反応して、声をかけてきた少女がいた。


「あ~、やめとき。素人が調子こいて買い漁ってもろくなことないで。」

「ムッキィー!ついに見知らぬ人にまで…って、アンタは…!」

「お?なんや偶然やなぁ。確か盗子ゆーたっけ?」


 商南が現れた。

 パンシティに置き去りにして以来の再会だった。


(ヤバッ…ちょっ、暗殺美!なんとか誤魔化して逃げるよっ!前に勇者が品代踏み倒して逃げてて…)

「ん?あぁ逃げんでええよ。あん時の魔防符代はな、後で送ってもろてん。なんやシジャン王から金もろた言うてなぁ。」

「えっ、払ったの!?あの勇者がそんな素直に!?」

「まぁもちろん素直にちゃうけどね。手紙で欲しいモンがある言うてきて、せやったらまず払わんかい…みたいな流れでな。」


 理由がどうであれ金が手に入ったからか、商南はもう以前のことは怒っていない様子。


「おっと、そういや自己紹介がまだやったな。ウチは商南、流しの『商人』や。」

「私は『暗殺者』の暗殺美さ。始末したい奴がいたら安く請け負うさ。」

「よろしゅう。そん時はええ武器仕入れたるでな。」


 十代の少女がする会話じゃなかった。

 だがもっとあり得ない展開になるのは…これからだった。


「あ、ところでアンタら今ヒマか?ここで会うたんも何かの縁やと思わへん?」

「へ?どういう意味?」

「ふっふっふ…おもろい話があんねん。」


 商南のメガネが怪しく光った。




 商南の強引な誘いで、三人はとある建物を目指した。

 厳重な警備をかいくぐり、辿り着いた場所。そこは…思ったよりもヤバい場所だった。


「へぇ~、ここが世界最高の警備って言われる『帝牢テイロウ』か~。やっぱゴツい檻だね~。」

「この厳重な警備はな、囚人以外にも宝を守ってるって噂があるんやで。」

「アンタはそれが目当てなわけね…」


 商南の巧みな口車に乗せられた盗子と暗殺美は、明らかにヤバそうなミッションに挑まされていた。

 ここまでは何事も無く順調に進んでいるため、最初はビビッていた盗子もだいぶ余裕が出てきたようだが、暗殺美は未だ油断はしていないようだ。


「世界最高の警備…?フン、過大評価もいいとこさ。かつて五錬邪はここから脱獄したし、今こうして私らが侵入できてる時点でザルにも程があるのさ。」

「いやいや~♪それはアタシらの能力が優れてるって意味じゃな~い?」


ウォーーン!ウォーーン!


 調子に乗った盗子の鼻をヘシ折るべく、けたたましく鳴り響く警報音。

 直後、それまでの静けさが嘘だったかのように周囲はザワつき始めた。


「チッ、盗子が変なフラグを立てるからさ…!」

「えっ、アタシ!?なんでアタシのせい!?」


(侵入者だ!捕らえてなぶり殺しにしろー!!)


 遠くから兵士のものと思われる声が聞こえてきた。

 このままでは捕まるのも時間の問題だ。


「ま、マズいで!こないなとこで捕まったら無実の罪で即投獄やんか!」

「入った動機が無実じゃないあたり、特にアンタがヤバいさ!」

「で、でも隠れられる場所なんて無いよ!?牢屋はもちろん鍵が掛かってるし…」

カチッ

「開いたで!」

「早っ!てゆーかそんな簡単に開いちゃっていいわけ!?」

「ええからはよ入らんかい!捕まってまうで!?」


 盗子は急いで牢屋に入った。


「ふぅ~、これで一安心…って、なんでアンタら入ってないの!?」

「いや、なんとなく…」

「なんとなくさ。」

「なんとなくて!!」

「オイ、声がしたぞ!こっちだー!衛兵、集えー!!」


ドドドドドド…!


「この足音…かなりの人数さ!とっとと逃げるさ!」

「えっ、やっぱ逃げるの!?じゃあ出るから待っ…」

「ほなな!また会えたら会おな!」

カチッ

「ちょ、待っ…てゆーかなんで今カギ閉めたの!?ねぇ!?ねぇーー!?」


 盗子は置き去りにされた。




 牢獄に取り残された盗子が途方に暮れていた頃、鉄格子の隙間から見える空の彼方…肉眼では確認できない遥か上空では、また別のトラブルが巻き起ころうとしていた。


「ちょ、ちょっ!痛いニャ!足踏まニャいでほしいのニャ太郎!」

「あ、ゴメン。超わざと。」

「ニャんですと!?」


 ライと太郎が歩いているのは、薄暗い謎の城の中。下端と剣次も一緒だ。


「ふぅ~、やっと目が慣れてきたッスね。でもやっぱ明かりが欲しいッス。」

「にしても、“空に浮かぶ城”か~。まさかこんなモンが…世の中広ぇぜ!」

「ま、普通の人じゃ来られないだろうね、こんな空の上。」


 剣次や太郎が言うように、そこはとても常識外れな場所だった。

 空に浮かぶ巨大な城…。本来であれば人の身で立ち入るのは不可能な場所だが、空飛ぶ海賊船を持つ彼らは偶然にも発見し、そして勢いで上陸してしまったのだ。


「無人なんスかね?人の気配は感じられないッスけど、でもなんか…」

「ニャ、ニャにか嫌ニャ予感がするニャ。悪いことが起きそうニャ…ねぇ太郎?」

「いや、僕はキミといる時は常に感じてるけどね、嫌な予感。」


 不幸を呼び寄せる『猫耳族』の変異種であるライは、出会ってからこれまでにも何度かトラブルを引き寄せていた。

 だが今回のものは、それらの比ではないことに…すぐに気付くことになる。


「け、剣次さん見てくださいッス!奥にデッカい氷の柱が…!んで、中に何か…」

「ん?どれどれ…なっ!?あ、アイツは…!!」


 剣次は下端が指差した巨大な黒い氷柱を見た。

 なんと中には『魔王:ユーザック』が閉じ込められていたのだ。


「コイツ…まさか『魔王』かよ!?なんでこんな場所で…こんな姿に…?」

「で、でも確かに魔王ッス!この手配書の顔にそっくりッスよ!」


コツン…


「むっ…!?下がるんだみんな!」


 暗闇から微かに聞こえた足音に、剣次は咄嗟に距離を取った。


「…やれやれ、まさか見つかっちまうとはな。ここなら誰も来ねぇと思ってたんだがなぁ~。」


 ダルそうにあくびをしながら現れたのは、長い黒髪の男。歳は勇者父と同じくらいだろうか。

 男の顔は魔王ととてもよく似ており、頬には魔王と同じような模様のタトゥーが入っている。


「この氷…こりゃあ賢者級の魔法みてぇだが、やったのはアンタかい?」

「ハハッ、これから死ぬ奴に話して何になる?」


 剣次は殺気を込めて威嚇したが、男には意味を成さなかった。

 その逆に、剣次の方が…気付いてしまったようだ。


「みんな、逃げろ…。感じるぜ…俺なんかじゃ到底、コイツには敵わねぇ。」

「えっ!マジッスか剣次さん!?でも…!」

「ほぉ、わかってるじゃないか。殺すには惜しいが…」


キィイイイイン!


 剣次の剣と男の杖が激しく交差した。


「ここは、俺が食い止める!」

「フッ…腕慣らしくらいには、なりそうだな。」


 太郎は言われる前に逃げた。




 帝都の遥か上空で剣次達が大ピンチに見舞われていた頃…その更に上空のとある星では、また別の邪悪な者達が良からぬことを企んでいた。


「…どうやら、この星にもいなかったようですね。」


 黄色マントを翻し、元黄錬邪…春菜は言った。

 その脇にはお供である博打と、完全復活を遂げた邪神バキの姿があった。


「なぁ、ホントなのかいバッキー?マジで『暗黒神』は地球じゃなく…」

「無論じゃ。まぁ先に封印されたゆえ、『魔神』の方は知らんがな。」

「確かに『三大悪神』…その封印の地は、それぞれ陸・海・空と聞きます。」

「わらわは大地、暗黒神は空…つまりは“宇宙”に封印されたそうじゃ。嗟嘆めを封じた棺を抱え、宇宙へと旅立った者がいたと聞いた。」

「でもその一方で、俺が生まれたくらいの頃に地球で目撃証言があったりするんだぜ?」

「ま、いずれわかるでしょう。時は近いですよ、博打。」


 春菜はとても穏やかな、それでいてとても冷たい笑顔を向けた。


「『邪神』に『暗黒神』、そして『魔神』…復活した神々が、地球に終末をもたらすのです。」


 “良からぬこと”どころじゃなかった。




芋子との話が済んだ後、俺は用意された部屋で昼食を食ってしばらくマッタリしていた。

すると老紳士が入ってきて、妙なことを言いやがったのだ。


「勇者殿、少しお時間をよろしいですかな?」

「ん?まぁいいが手短に済ませろよな。食後で少し眠いんだ。」

「先ほど帝牢に侵入した少女二人が、“連れの勇者を連れてこい”と…」

「二人…?その中に、髪の長い美少女は?」

「黒髪を束ねた方ですか?」

「なら人違いだ。首だろうが乳だろうが好きに縛るがいい。」


 姫じゃなければどうでもよかった。


「もしそう答えたら、“例のモンいらんのんかいボケェ!?”と言えと。」

「むっ、その用意周到さ…商南か?仕方ない、ならば釈放してやってくれ。」

「いやしかし、帝牢への侵入は重罪で…」

「フン、責めるなら簡単に侵入を許した自分達の甘さを責めるがいい。」

「いえ、敢えて侵入させて中で捕らえるのが、あそこの基本スタンスでしてね。」


 だから盗子らは簡単に潜入できたのだった。


「ったく、この俺に迷惑かけるとは…って、二人?もう一人ブサイクなのがいなかったか?」

「ブサイク…ですか?そのような記録はありませんが、何か?」

「…いや、なんでもない。とりあえず二人を連れてこ…」


ブォーーン!ブォーーン!


「お、おいジジイ!なんだこの警報音は!?」

「この音は、帝牢の脱獄警報…!まさか先の騒ぎに乗じて…!?」

「なにっ!?誰だ!一体誰が収監され…」

バァンッ!

「た、大変です!皇女が…皇女様が賊にさらわれました!」


 勇者の問いを遮って飛び込んできたのは、更なる悪いニュースだった。

 隠密部隊の者と思われる謎の報告者は、それだけ告げて慌てて去っていった。


「くっ、なんてことだ…そんな…!」

「オイ、ちょっと待てジジイ!皇女…芋子ならあそこにいるだろうが!」


 勇者の目線の先には先ほどまでいた部屋が見えており、そこには確かに芋子の姿が見て取れた。少し離れてはいるが見間違いとは思えない。

 しかし、紳士の表情は相変わらず険しいままだ。


「…今から十三年前、この国が五錬邪の襲撃に遭ったのはご存知ですかな?」

「む?なんだいきなり…?んー、まぁ聞いたことはあるな。それで負けたアイツらは投獄されたんだろ?」

「ハイ、結末はそうですが…実は城は一度、かなりの侵攻を許したのです。」

「ほぉ、何気にかなりピンチだったってことか?」

「ええ。一族の血が絶える…そう危惧した皇子様は、一人の忍び…『美盗ミト』に娘を託し、密かに地下水路から逃がしました。」

「なっ!?てことは本物の…芋子じゃない『皇女』がまだ生きてるってのか!?」

「左様でございます。ですから…」


 老紳士から告げられた驚きの真実。

 だが勇者には、もう一つ引っ掛かったところがあったのだ。


「ちょ、ちょっと待てよ…?みと…みと…どこかで聞い…って、盗子の育ての!?じゃあ、まさか…!」

「ええ。彼女の本当の名は『塔子』様…天帝の嫡女にございます。」

「ッ!!!」




「武ちゃん、ワタイは何すればいい?ワタイにも何かできるはずだわ。」


 芋子がいつになく真面目な口調で語りかけたのは、盗子の兄である武史。

 盗子に起きた非常事態を知り、いても立ってもいられない武史だが、血が出るほど唇を噛み締めながらなんとか耐えていた。


「いや、いい。お前は大人しく芋でも食ってろ。」

「モグモグ…」

「ってホントに食うなよ!緊迫感が薄れるだろが!」

「じゃあどうすればいいのよ?指示してくれなきゃ芋食うわよ?」

「…お前は戻って武術会へ出ろ。民衆に悟られちゃならねぇ。」

「で、でも…」

「俺に任せろ、それが代々皇族男子の役目だ。塔子は俺が助ける!」


 そう言うと武史は立ち上がり、壁に掛けられていたマントを豪快に羽織った。

 そして扉を開けると、ちょうど報告に来ていた兵士と鉢合わせた。


「武史様!追跡部隊の編成が完了いたしました!」

「よし、全力で探し出せ!盗子は…塔子は俺達の、最後の希望だ!」



 そして希望と―――




「さぁもっと速く飛べ飛竜!もっと高くだ!とりあえず追っ手を撒くぜぇ!」

「グォオオオオオオオン!」


 帝都から遠ざかるように空を飛ぶのは、一匹の飛竜。

 その背に乗る大男は、かつてローゲ王国襲撃に失敗し、帝牢に収監されたはずのS級首…『宇宙海賊』のソボーだった。

 そして、そんなソボーの小脇に抱えられているのは…さらわれた盗子。そう、商南のせいでソボーの独房に入れられた盗子は、まんまと敵の手に堕ち、人質として連れ去られてしまったのだ。


「フフッ、さらっただけでこの騒ぎ…。このガキ、使えるニオイがしやがる。」

「は、はーなーせー!もうっ!触んなよぉ!今すぐ放せぇー!!」

「ん?まぁそれも面白ぇかもな…」

「ウギャー!放さないでぇー!やっぱ今だけは絶対ヤメてー!!」

「ギャハハハ!頼まれちゃ仕方ねぇなぁ!まぁ安心しろ、逃がさねぇよ!!」

「いやぁーん!助けて勇者ぁーーん!!」




「…ま、これでしばらくはいいだろう。だがこれ以上酷使すれば…」

「わかってますよ。私も死ぬのは困りますしね~。」


 ギマイ大陸の相原総合病院で診察を受けていたのは、勇者達の担任…通称『死神の凶死』。どうやら目に何かしら異常があるようだ。


「その目は力と引き換えに体を蝕む。幻魔術はもう使わんことだ。」

「まったく、凡人は苦労しますねぇ。凱空さんのような天才が羨ましいですよ。」


 教師はまぶたを押さえながら苦笑いを浮かべた。

 珍しく辛そうな顔をしている。


「ところで本当なのかね凶死君、『暗黒神』が生きているというのは?かつて復活した彼は…敵はキミと凱空君で倒したはずだろう?」


 思わぬビッグネームが飛び出した。

 なんと教師と勇者の父は、五百年前に封印されたはずの暗黒神と戦ったことがあり、しかも勝っているのだという。

 詳しい経緯はまた後日語られることになるだろう。


「…私もそう思っていました。だから魔王ユーザック、彼の手配書を見て驚きましたよ。」

「魔王を見て…ということは、まさか…!」


「生きているかもしれない。私から光を奪った男…『暗黒神:嗟嘆サタン』。」




「…嗟嘆様、先ほどの剣士ですが…いかがいたしましょう?」


 呼ばれて振り返ったのは、天空に浮かぶ城にて剣次達の前に立ちはだかった男。名前からしてこの男が暗黒神に違いない。

 呼んだのは魔王の家臣だった老人、黒猫。かつて『嗟嘆四天王』だったという話なので、嗟嘆の家臣でもあるのだろう。


「ん?捨ておけ。あの傷だ、生きてたところでもう助からんさ。」

「御意。」

「ところで黒猫よ、要塞の起動はもう済んだのか?」

「いえ、ですがじきに。動き次第、大都市に向けて出撃の予定です。」

「やっと傷も癒えた。あとは奴らをおびき出し、討つだけだ。」

「長かったですな。あの瀕死のお姿から、よくぞここまで…」

「ああ。『勇者』と『死神』…奴らには、とびっきりの闇をくれてやる!!」



 様々な陰謀が―――




「ゆ、勇者殿!外へはコチラが近道です!早く皇女様を…!」


 さらわれた盗子を助けに行くよう、勇者に促す老紳士。

 だがもちろん、ここで素直に従う勇者ではなかった。


「…あん?なに言ってんだ、俺には武術会で優勝するって役目があるだろ?」

「えっ!?いや、しかし…!」

「早く案内しろ、会場はどこだ?それが嫌なら俺は帰るぞ。」

「それは…本心ですか?」

「当然だ。」


 勇者は平然とした顔で即答した。


「…コチラです。ご案内します。」

「よし、行くか!!」



 ―――動き出す。




 ~勇者が行く~


 第三部:『第二次人神大戦編』 始動。

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