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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
75/196

【075】シジャン城の戦い(8)

赤錬邪の自爆により封印が解かれ、邪神が復活してしまった。

非常に面倒だが仕方ない…いや、ある意味好都合だとも言えるか。


“五錬邪討伐”などと息巻いておきながら、聞けば群青錬邪は自滅、桃錬邪は宇宙海賊とやらに討たれ、黄緑錬邪だった巫菜子はリタイア、黒錬邪は自首したようなもんだし、結局赤錬邪は自爆…。

そう、俺は何もしていないのだ。


これじゃあ歴史に名を残しようもない。

しかしここで“神殺し”を成せば、そんな問題も万事解決と考えていいだろう。


「だがちょっと待て、本当にコイツが『邪神』だってのか…?どう見ても俺らよりも小さいガキじゃねーか。しかも女だ。」


 勇者が言った通り、目の前に立つのはとても小柄な少女。

 肌が異様に青白く、少し尖った耳の形は人間とは異なるものの、一見ただの無愛想な少女にしか見えない。

 全身和装で、頭には烏帽子と小さな角が二本。

 総合的に見て、一同が想像していた邪神像とはかけ離れてた。


「いいや、あの姿…かつて『三大悪神』の一人として、『魔神:マオ』に次ぐ実力と称された、『邪神:バキ』で間違いない。」


 皆が疑いの眼差しを向ける中、猿魔は唯一確信に満ちた目を向けていた。


「む?なんだ貴様、まるで見てきたように言うじゃないか。」

「フッ、察しの通りだよ勇者。これでも八百年ほど生きる身でな…。老いさらばえた今とは違い…五百年前の、かの大戦では少しは活躍したものだよ。」

「チッ、相変わらず使えるじゃないか老いぼれ。そうか…コイツが、“神”か。」

「うわーん!結局最悪な状況になっちゃったよー!」


 確かにこれで邪神じゃなかったらその方が不自然な状況ではあるが、それでもやはり盗子は信じたくなかった。

 だが当の邪神は、眠りが長すぎたせいでまだ本調子ではないのか、襲い掛かってくる様子もなくただ勇者達の方を眺めている。


「ねぇ巫菜子、なんであの子ってば動かないのかな…?もしかしてさっきの爆発でダメージ食らってたとか…?」

「それか、無理矢理に封印解かれたのが原因で何か異常が起きてるのかもな…。暗殺美はどう思う?」

「寝ぼけてるって線もあるさ。」


 動かぬ邪神の真意は誰にもわからない状況だが、何をすべきかは勇者の中では既に決まっていた。


「ま、どうであれ今がチャンスってのは確かだろう。下がっていろお前達、そして姫ちゃんを守れ。」


 勇者の回復で疲れたのか、姫は先ほどから深い眠りについていた。

 変な邪魔が入らないという意味では、より一層今がチャンスだと言える。


「ところで勇者、アンタにアレがどうにかできるのかさ?聞いてた話が本当なら、人間の勝てる相手じゃないさ。」

「む?なんだ臆したのか暗殺美…?まぁ案ずるな。かつて世界を滅ぼしかけたとはいえ、結局は人類が勝ったんだ。だから人類最強であるこの俺が勝っても全然不思議じゃないだろ。」

「うわっ、出たさ根拠の無い自信過剰!誰が人類最強さそんなのは先生に勝ってから言えさ!それに…もう五百年も前の話さ。今の人類にそんな力があるとは…」

「あるさ。赤錬邪の左腕を見たろう?」

「左腕…?あぁ、あの大砲みたいになってたやつかさ。あれが何だってのさ?」

「腕と武器の接合面…見るからにスパッと斬られた感じだった。つまり、あの尋常じゃなく堅かった『魔欠戦士』の腕を…かつてブッた斬った化け物がいるってことになる。いつの世にもそういう人智を超えた奴がいるってことだ。」


 そう言って、邪神に向かって剣を構える勇者。


「俺もいつかは“そちら側”への境界を越えねばならん。それが少し後か…今かってだけの違いだ。」


 聞いている分には心強いセリフばかりが飛び出すものの、先ほどまで命の危険すらあっただけに、盗子は勇者が心配だった。


「でもホントに大丈夫?なんか心なしかまだフラフラしてない…?」

「姫ちゃんのおかけで脚の傷はだいぶ癒えたが、如何せん血を流しすぎた。ま、やるなら短期決戦だな。これはあくまで俺の勘だが、今の奴は絶対に弱っている…叩くなら、今だ。」

「ちょ、勘て!そんな不確かな理由で…」

「…いや、その通りかもしれん。奴が“完全体”となる前ならば、あるいは…」


 盗子のツッコミを遮るように、猿魔は意味深な単語を口にした。


「完全体…?つまり、封印解いた直後はまだ不完全体だってことか。やはり俺の勘は捨てたもんじゃないらしい。」

「十中八九間違いは無いだろう。当時の封印術の多くは、完全復活には血が必要なのだ。穢れ無き…“生娘の血”がな。」


 猿魔の言葉に、盗子をはじめとしてその場の女子全員の背筋を冷や汗が伝った。


「や、ヤバいじゃん!アタシらみんなターゲットじゃん!穢れ無き乙女達だし!」

「黙れ汚物。誰が貴様なんぞの血をすするか。」

「アンタこそ黙れよバカ勇者ー!アタシだって蚊にぐらい刺されるもん!」

「蚊…。あまりの次元の低さに不覚にも泣けてきたさ。強く生きろさ。」

「やれやれ、まぁ仕方ない…。念のため、まず女達を逃がすぞ!門を開け門太!」


 万一のことを考え、門太に指示を出した勇者。

 だが―――


「あ、ヘイ!ただいま……えっ………?」


 突如、邪神の扇が激しく光った。

 一陣の風が、門太がいた場所を消し飛ばした。


「なっ…?も、門太!?門太ぁーーー!!」


 砂埃の晴れた後には、門太のチリ一つも残っていなかった。


「『門番』は邪魔じゃ。弱き者どもに、無駄な機会を与えよる。」


 門太への攻撃をきっかけに、ついに邪神が動き出した。

 どうやらただボーッとしていたわけではなく、慎重に状況をうかがっていたようだ。


「き、貴様…よくも門太を!よくもあんな便利な能力を!」

「そっちを嘆くの!?もうちょっと命を大事に考えようよ!」


 盗子はもっともなことを言ったが勇者はもちろん無視した。


「やれやれ、随分と物分りの悪い小僧じゃな。もう一度見せねばわからんか?」

「フン、望むところだ!」

「なんでアタシを指差すの!?」


 次は盗子の番かもしれない。



「チッ…ここは危ない!下がってろ姫ちゃん、暗殺美、巫菜子、猿魔、あと姫ちゃん!」

「アタシは!?姫を二度言う余裕があるならアタシにも…」

「娘どもはわらわの生け贄じゃ。じゃがその前に、邪魔な貴様を消し去ろうぞ。」


 邪神の攻撃。

 勇者は『破壊神の盾』で攻撃を防いだ。


「おっと、この盾にはそんな半端な攻撃は通じないぜ?」

「その力…なるほど、『破壊神:レーン』の力を宿す盾じゃな?こざかしい。」

「俺に上から物言うんじゃねぇよクソチビがぁ!食らいやがれ!刀神流操剣術…」

「フ…そんな攻撃、我が『邪流演舞』の前には無力ぞ。そびえよ『扇風壁』!」


 邪神は扇を振るった。

 邪神の前に風の防壁が現れた。


「なっ、風の壁だと…!?」

「フフッ。この風は地獄の風、中は魔の領域。邪悪な者しか入ることはでき…」

「ふむ。なかなか心地よい風だな。」

「入っとるぅーーーーー!!」


 勇者は本領を発揮した。



「き、貴様何者なのじゃ!?その盾や剣といい、どう考えても魔の…」

「俺の名は勇者。世界で一番、好き勝手が許される男だ。」

「そんな解釈で今まで生きてきたの!?」


 盗子は一応疑問系で聞いたが本当はわかっていた。

 そして邪神は邪神で、勇者が一筋縄ではいかない相手だとわかったようだ。


「勇者か…覚えておこう。いずれ貴様はわらわが滅してくれるわ。」

「貴様に“いずれ”なんぞ無い!刀神流操剣術、十の秘剣『十刀粉砕剣』!!」


 勇者の攻撃。

 邪神は扇で防御した。


 だが防ぎきれなかった。


「ぐはぁっ!チッ、やはりまだ、力が足りなすぎる…!」

「ぃやっほー!やっちゃえ勇者ー!」


 勇者の攻撃を受け、片膝をつく邪神。どうやら本当にまだ本調子ではない様子。

 そしてこのままでは不利と見るや、すぐに作戦を切り替えたようだ。


「…しばし休戦じゃ。やはりわらわは食事を摂ることにしよう。」

「あ?食事…?ハッ、ヤバい!逃げろ女ども!!」

「逃がすかぁーー!!」


 邪神は反転し、姫らの方へと襲い掛かった。

 勇者は間に合わない。


ボフゥ~~~ン


 だがその時、濃い煙が周囲一帯を包み込んだ。


「なっ!?煙幕じゃとぉ…!?」

「フン、『暗殺者』をナメんじゃないさ。こういう芸当はお手のモンなのさ。」


 暗殺美による足止めだった。


「おぉ、でかしたぞ暗殺美!俺を残して、みんなを連れて逃げろ!」

「残念ながらそれは無理さ。なぜならなんにも見えないからさ。」


 足止めにも程があった。


「いや、そこは対策練っとけよあらかじめ…って、むっ!?」


 勇者は何かに気付いた。


「全員、伏せろぉーーー!!」

ズォオオオオオオオ!!


 勇者が叫んだ直後、強力な風が煙を吹き飛ばした。

 咄嗟に伏せたためなんとか全員無事だった。


「ほぉ、今のにも対応するか…。意外とやるようじゃな。」


「クソッ、そうか風使いだったな。ならば煙幕は無意味…いや、さっきの攻撃を防げただけでも意味はあったか。」

「さてと…魔の素養と回避力は垣間見た。次は、攻撃力かのぉ?」

「フッ、安心しろ。俺はその手の期待を裏切るのが…大嫌いだ!」

「ほぉ、面白い。ならば見せてみよ!」


 そして二人の姿は、霞んで消えた。



ガキン!ガガキン!チュィン!


「す、スゲェ戦いだ…!勇者の奴、あのスピードについていくとは…!」

「でも邪神もさすがさ。あれで不完全体ってのが信じられないさ。」

「えっ、巫菜子も暗殺美もアレ見えてんの!?アタシにはもう何がなんだか…」

「いや、見えてねぇが。」

「見えてないけどさ。」

「見えてないの!?じゃあ今さっきの“見えてる感”はなに!?」


ガィン!チュィン!ズバシュ!!


「くぅ…!」


 しばし撃ち合った後、膝をついたのは今度は勇者の方だった。

 先ほどの怪我の影響か、息も絶え絶えで全般的に精彩に欠ける印象。

 邪神も本調子でない様子は変わらないが、それでも勇者の分が悪いのは明らかだった。


「ゼェ、ゼェ…!や、やはり…限界か…おのれぇ…!」

「フフッ。どうやら終わりが近いようじゃのぉ。ならば最後は…わらわのとっておきを見せてくれようぞ。地獄で餓鬼にでも自慢するがいい。」


 邪神は扇を広げ、その場で鮮やかな舞いを見せた。

 凍てつくような吹雪が周囲を包み込む。


「地獄の風雪を操るわらわの真骨頂…しかとその目に焼き付けるがいいわ!」


 これを最後の一撃とすべく、全力を注ぎ込む邪神。

 どんどん激しさを増していく吹雪を前に、勇者は力なく膝をついた。


「えっ…ど、どーゆーこと諦めちゃったわけ!?立ってよ勇…ちょっ、放してよ巫菜子ぉーー!」

「動くな死にてぇのかよ!?行ったところで無駄死にだろうが!」


 盗子は無駄に駆け寄ろうとしたが巫菜子に止められた。


「ふぅ、やれやれ…どうやら俺はここまでのようだ…。後は任せたぞ…」


 勇者は焦点の定まらない目で虚空を見つめながら、そう静かにつぶやいた。

 もはや完全に諦めてしまったようだ。


「さぁ食らうがいい!邪流演舞…奥義、『大旋風葬』!!」


 無抵抗の勇者に対し、邪神は容赦なく扇を振るった。

 猛烈な吹雪が勇者を襲う。


「ぬぐっ…ぐぁあああああああああああああああああああああっ!!」


ズゴォオオオオオオオン!!


 痛恨の一撃!

 勇者は激しく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「ゆ、勇者ぁーーーー!!うわぁーーーん!!」


 盗子の叫び声が虚しくこだました。


「アッハッハ!さらばじゃ勇者よ!これで終わ―――」



「…ああ、任されてやるよ。だから貴様はゆっくり休むがいい…猿魔。」



 思い通りに技が決まり、つい気を抜いてしまった邪神の背後から聞こえたのは、倒したはずの勇者の声だった。


「なっ!?なぜ貴様が…後ろに…!?」

「フッ、さあな。地獄で餓鬼にでも聞くがいい…!食らえ我が渾身の一撃!百の秘剣、『百刀霧散剣』!!」


ズバババババババシュッ!!


「うっ、うわぁああああああああああ!!」


 勇者、会心の一撃!

 邪神を撃破した。

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