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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
74/196

【074】シジャン城の戦い(7)

赤錬邪のフェイントを見事に食らっちまった俺は、太ももに重傷を負ってしまい逃げるに逃げられん状況に。


そして気が付けば、眼前に奴が振るう金棒が迫っていた。


「終わりだぁあああああああ!!」


 赤錬邪、必殺の攻撃!


「あ、兄貴!早くこっちへ!!」



 万事休すかと思われたその時、突如勇者のすぐそばに門が開き、出てきた門太が勇者を中へと引きずり込んだ。

 そして同時に姫らの所に別の門が開き、中から門太と勇者が現れたのだった。


「なっ…なんだ今の門は…!?一体…」


 『門番』という職を知らない赤錬邪は、当然何が起きたのかわからない。


「ふぅ~、うまくいって良かったでやんす。近距離移動なら、成功率はある程度ありやすからね。」

「で、でかした門太…。後で褒美に…パンの耳くらいくれてやる。」

「いや、なんで褒美が“餌”レベルなんすか。今の活躍でパンってのも微妙なのに耳て…って、兄貴?ちょっ、兄貴!?」

「ゆ、勇者!?なんか目線が全然定まって…勇者ぁーーー!?」

「…チッ、出血が激しいさ。見たところ動脈をやってるさ。このままじゃヤバいやつさ。」


 暗殺美は慌てて傷口を押さえたが、既に血が流れすぎており勇者の意識は朦朧としている。


「ひ、姫ちゃん…すまんが…頼めるか…?」

「うん、任せてよ勇者君!ご注文は何?」

「え…じゃ、じゃあ…チャーハンかけ…ご飯で…」

「何その斬新な新メニュー!?ちょっ、勇者!勇者ってばぁーー!!」


 盗子の悲痛な叫びも、もはや勇者には届いていない様子。


「ここに少しだけど『回復符』…回復系の呪符があるさ。気休め程度かもだけど無いよりかはマシさ。」


 暗殺美の取り出したアイテムにより、一時的に出血は止まったようだが、未だ予断は許さない状況。

 だがそれ以上に危険なのは、赤錬邪の動向…。

 今はまだ鍵穴を探している段階のようだが、このままだと邪神が解き放たれるのも時間の問題だ。


「や、ヤバいぜオイ…!確か封印を解く鍵は三本とも手に入っていたはず…!このままじゃ…」


 焦る巫菜子の目線の先では、先ほどまで鍵穴を探していた赤錬邪が、今度は自身の体を必死にまさぐっていた。


「なぁっ!?な、無い!なぜだ!?なぜ一本足りない!?」


 思わず大声で叫ぶ赤錬邪。

 状況から察するに、鍵が一本見当たらないようだ。


「…フ、フフ…ざまぁねぇな…雑魚め。」


 蚊の鳴くような声で、赤錬邪をあざ笑ったのは死にかけの勇者だった。

 よく見ると右手に鍵のようなものを握っている。


「えっ!?勇者それって…ハッ!まさかさっきアイツにしがみついた時に…!?」


「声がデケェよ盗子…奴にバレるだろうが…。ところで巫菜子よ、お前…何か『電気の精霊』みたいなのは…呼べないのか…?」

「あ?まぁ上が半壊してるおかげで空が少し見えてるし…『雷の精霊』なら多分呼べるが、赤錬邪には魔法じゃなきゃ効かねぇぜ?」

「構わん…やってくれ。なるべく…広範囲に頼む…」


 相変わらず朦朧とした様子の勇者だが、何か考えがあるらしい。

 巫菜子は訳もわからぬまま、『雷の精霊』を呼び出した。


「うぉおおおお!いでよ雷の精霊!そして一面に降らせたまえ、雷の雨を!!」


ビビッ…ズガガガァーーーン!!


 現れた雷獣は、巫菜子達の周りを除いた一面をジグザグに駆け抜けた。

 だが予想通り、赤錬邪には効果が無かった。


「む…?なんだ黄緑錬邪、まだ無駄なことを…。そんなに死にたいのか貴様?」


 鍵が見当たらず苛立ちが募っていた赤錬邪は、うっぷんの捌け口を見つけたとばかりに近寄ってきた。


「お、オイ勇者テメェ…!余計に状況が悪くなったじゃねぇか…!?」

「フッ、予想通りだ…でかした…巫菜子…」


 迫り来る赤錬邪の姿に怯える巫菜子だが、対照的に勇者は安心したような笑みを浮かべている。

 するとその時、一陣の風が駆け抜けた。


パァアアアアア…!


 そして次の瞬間、勇者の体は回復魔法の光に包まれたのだ。


「…術は発動させた。維持するだけならお前にもできるだろう?頑張れココ姫。」


 姫に魔法を引き継いだその人物は、倒れた勇者を見下ろしながら呆れたように溜め息をついた。


「まったく…手荒な起こし方をしおって。普通の者なら下手したら死んでるぞ?」

「フン…元はと言えば貴様の不始末だろう…?散々待たせやがって…この貸しは…高くつくぞ…」

「ふむ…少々待たせた。」


 麗華が眠りから覚めた。



「なっ!?深緑…!そうか、先ほどの電撃は…奴を叩き起こすために…!」


 動揺しながらも、瞬時に状況を理解した察しのいい赤錬邪。

 一歩一歩後ずさりする彼の元に、麗華もまた一歩一歩近づいていった。


「お前も待たせたな。さぁ、先ほどまでの…続きといこうか。」

「…フッ、フハハハ!続きだとぉ!?舐めるな女ぁ!『鬼神の金棒』を手に入れ、もはや形勢は逆転したのだ!貴様ごときの攻撃なんぞ…」

ザシュッ!

「まったく効か…ぎっ…ぎゃあああああああああ!!」


 一瞬で間合いを詰めた麗華が放った一撃は、赤錬邪の胸に鮮やかな炎の道筋を刻んでいた。

 そしてなぜか、攻撃か効かないはずの赤錬邪が地面をのた打ち回っている。


「がぁあああっ!ぐっ!そ、そんな…なぜだっ!?この『魔欠戦士』である俺に、剣の攻撃が効くわけが…」

「ただの斬撃ではない。炎を纏った真紅の秘剣…その名も『魔法剣:紅蓮桜』。」


 まるで生き物のように刀身に巻きついたその炎は、確かに天然のものとは思わない。

 だがそれでも赤錬邪は信じられなかった。


「ま、魔法剣…だと!?馬鹿な!それは本来、『剣士』と『魔法士』が二人揃ってやっと扱える協力技で…」

「生まれは魔道の家系でな。どうだ器用なもんだろう?」

「なっ…そ、そうか!だから素手にも微量の魔法力が…!しかし、ならばなぜ今まで使わなかったのだ…!?」

「幼い頃に無理に転職した反動か、魔法力を練るには一定の睡眠が必要となるのだよ。しかも制御が下手な分、生きてるだけで無駄に魔法力を消費してなぁ…時として突発的な眠気に襲われる。まったく難儀な体だ。」


 まだ少し眠たいのか、軽く目をこすりながら切っ先を赤錬邪へと向ける麗華。


「生家のことは思い出したくもない…。これまでも極力使わずにやってきた魔法をワシに使わせたこと…万死に値する。」


 名前の恨みは深かった。


「あ、ありえん…!この俺が…この『途冥人トメイト』様が、こんな所で死ぬ…だとぉ…!?」

「赤の戦士よ…せめて最期は、貴様の色で見送ろう。」

「お、おのれぇえええええええええ!!」


ザシュッ!


ババババシュッ!


ズゴォオオオオオオオオオ!!


 赤錬邪は真紅の炎に包まれた。




激しく燃える炎の中で、赤錬邪の影が動かなくなった頃、俺は目を覚ました。


麗華の回復魔法を姫ちゃんが頑張って維持してくれたおかげで、死にかけの状態からなんとか上体を起こせる程度には回復できた。

危ないところだった。


「ふぅ~…。自信満々で挑んだ割に、終わってみれば満身創痍…。お前もまだまだだな勇者。」


 勇者に歩み寄りながら、師匠らしくダメ出しする麗華。

 だが今回は状況的に勇者も黙ってはいられない。


「ケッ、それはのんびり寝てたテメェに言えた義理じゃねーだろっつーツッコミ待ちか?」

「フフッ、まったくだな。いささか実戦を離れ過ぎたようだ。どうにも勘が鈍っ…む?どうした勇者…?」


 勇者の目線は麗華を捕らえてはいなかった。

 その肩越しに見える“何か”に目を奪われていたのだ。


「お、オイ待て麗華…。貴様…鈍るにも程があるだろ…!後ろだぁーーーー!!」

「なっ…!?」


 勇者の声に麗華が慌てて振り返ると、邪神が封じられた棺の上に、なんと死んだはずの赤錬邪が立っていた。


「…ゴフッ!ア…ガ……カッ…ブバフッ!!」


 全身から血を撒き散らし、今にも倒れそうではあるが、まだ生きているのは確かなようだ。


「ば、馬鹿な…!魔法耐性の無い『魔欠戦士』が、我が魔法剣を食らって立つ…だと…!?」

「チッ、これがリミッターを外した人間の…底力か…!化け物め…!!」


 想像を絶する赤錬邪のしぶとさに、さすがの勇者達も絶句。

 だがこれ以上戦えないことは、誰よりも赤錬邪が一番よくわかっていた。


「フ…フフ…。今の俺は…確かに化け物じみては…いるが、さすがに真に化け物ではない。致命傷だよ…じきに死ぬだろう。」


 穏やかな口調で自身の死を語る赤錬邪。


「やれやれ…結局こうか…。人類滅亡の夢が叶わぬどころか…邪神の復活も…『魔王』となることも…全てが叶わなかった。あんまりじゃ…ないか…」


 実現できなかった野望を回顧し、悲嘆に暮れる赤錬邪。


「あと一歩なんだ…あと鍵一本…もう封印は…あと一歩で解けるところまで…きてるんだ…あと…一歩…」


 そしてついには、消え入りそうな声で後悔を繰り返すのみとなった―――



 ―――かに見えた。


「ところで勇者よ…貴様にわかるか…?」

「…む?な…なんだ貴様、何かしら途中で言いかけて死んで、俺にモヤモヤさせようって魂胆か?」


 朦朧としていたかと思えば、急に真っ直ぐに語りかけてきた赤錬邪に驚き、勇者は身構えた。


「この左腕から放たれ…貴様の足をブチ抜いたのは…鉛の砲弾ではない…。なんだと思う…?」

「貴様…一体何を…?」


 意図がわからず戸惑う勇者。

 だがその答えは、すぐ後に知ることとなる。



「これまで貴様らが俺に与えた攻撃…その膨大なエネルギーは一体…どこに消えたと思う?」



「…チッ!お前達、逃げろぉおおおおおおおおおお!!」


 麗華は〔鉄壁〕を唱えた。


「クソッ、間に合わん…!門太ぁああああああああ!!」


 勇者は門太に合図を送った。



「ハハッ…アハハハ…!死ねェえええええええええええええええ!!」



 赤錬邪は両手を大きく広げ、そして弾け飛んだ。

 強烈な爆風がほとばしる。



ズグォオオオオオオオオオオオオオオン!!




 シジャン城の地下から立ちのぼった爆炎が消え、立ち込めた煙が未だ色濃く残る中、空間に門が出現した。

 門太の能力だ。


「ゼェ、ゼェ、なんとか…なったでやんすね…!」

「ふむ…今回ばかりは肝を冷やしたぜ。でかした門太、褒めてやる。」


 どうやら門太の大活躍により、九死に一生を得たらしい勇者一行。

 緊張の糸が切れたのか、門太はその場にへたり込んでしまった。


「う、うへぇー…。地下だってのに、だいぶ見晴らし良くなっちゃったねぇ~…」


 天を見上げた盗子の言うように、半壊していた城の上部は先ほどの爆発で完全に吹き飛ばされ、空が丸見えの状態となっていた。


「まったく、あんな隠し玉があったとは驚いたさ。生き残れたのは奇跡さ。」

「なぁ暗殺美、やはり俺が懸念した通りだったろ?変に物理ダメージを与えずにさっさと魔法で殺せ…か。まさか溜め込んだダメージを、攻撃力に変換して放出できるとはなぁ。」


 煙が少し晴れてきたところで、勇者は辺りを見渡しながら、生き残りの人数を数えた。

 勇者、門太、盗子、暗殺美だけでなく、姫、巫菜子、そして猿魔らも無事のようだ。


「そうかみんな無事か。いや…“無事”とは言い難い奴が、一人だけいるか。」

「す、すいやせんアネさん。助けるにはチョイと距離が…」


 フラつきながらも門太が駆け寄った先では、瀕死の麗華が転がっていた。

 一見ボロ雑巾のようだが息はあるようだ。


「く…は…カハッ!い…いいや、いい判断だ…。よくやった…門太…」


 そう…爆発の際、他の皆と少し離れた場所にいた麗華は、門太の門に飛び込めてはいなかったのだ。


「ったく、あれ程の爆発に巻き込まれて生きてやがるとは…つくづく化け物だな貴様。」

「フフ…。昔取った杵柄で…なんとか身を守ってはみたが…この有様だ。死んでやる気は無いが…今日のところは…もう……」


 もはや強がる余裕すらなく、力尽き、眠りに落ちる麗華。

 積年の恨みを晴らす絶好の機会ではあるが、さすがの勇者も今がその時でないことはわかっていた。


「…そうか、ならば大人しく寝ていろ雑魚め。ここから先は…俺が、任された。」


 そしてついに、煙は綺麗に晴れ―――



「貴様かの…?わらわを眠りより、覚ます者は。」



 邪神が復活してしまった。

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