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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
72/196

【072】シジャン城の戦い(5)

パーティーから離れ半年…。

姿と名を偽り、敵の本拠地に潜入するというかなり面倒なミッションだったが、その甲斐もあって無事に都市爆破を阻止することができた俺。さすが俺だ。


信管の外し方はわからんから完全に無効化できたわけじゃないが、一帯の兵士は片付けたので当面の危機は去ったと考えていいだろう。さすが俺だ。


「えっ?えっ?なに?なんで!?なんで勇者がそっちにもいんの!?」

「わめくな盗子、息がニオう。」

「無線だよ!どう頑張っても電波には乗らな…てゆーかクサくないよっ!」


 半年振りに浴びせられる辛辣な言葉。

 まだ事情はわかっていない盗子だが、こちらが本物の勇者なんだろうことは大体察した。


「で、どうしやす?行くんなら門を開きやすが…?」

「面倒だし帰りたいのは山々だが…密偵からの報告じゃ姫ちゃんもいると聞いたしそうもいかん。だが今回も門はやめとこう。失敗すると逆に時間食うしな。」

「でやんすね。距離はチョイとありやすが、まぁ走りゃなんとかなるっしょ。」


 一仕事終えた勇者と門太だが、そうのんびりもしていられない状況。

 仕方なく二人は急いでシジャン城へと向かうことに。



 その頃、シジャン城では麗華と赤錬邪の戦いが再開され…気づけば“拷問”と化していたのだった。


「ぐぼっ…ばばぼぶ…ぶはっ!た、助けっ…!ごぼぼぼっ…!」

「おや?“鉄壁の防御”が噴水ごときに負けるとは初耳だなぁ?」


 水に赤錬邪の顔を漬け込みながら、悪い笑みを浮かべる麗華の姿に、盗子達は震えが止まらない。


「た、確かに物理攻撃は効かなくても溺死ならさせられるかもだけど…それってアリなの…?」

「あの勇者が師匠と呼ぶ理由がわかった気がするさ…」

「子供の私が言うのもなんだけど…子供には見せたくない光景だよな…」


 その光景は、うっかり赤錬邪に同情しかねないほどに凄惨なものだった。


「ぶはっ!ハァ、ハァ…!き、貴様…殺びべぶぶぶ!」


 凄まじく苦しそうな赤錬邪。

 息も絶え絶えでもはや何を言っているのか聞き取れない。


「ほぉ、さすがにタフな奴だな。この状況でもまだ命を諦めんとは。」

「ごぼじでぐべべべべ…!!」

「ねぇちょっと待って!これ“殺してくれ”って言ってない!?もう決着ついてない!?」


 盗子は心の叫びが聞こえた。



「ぐぼっ…ごばっ……」

「さぁどうする?このままじゃ本当に死んでしまうぞ?いいのか貴様?」


 何かを促すように尋ねる麗華。

 するとそれに応えるように、突如赤錬邪から強大なオーラが放出され、噴水は跡形も無く消し飛んだ。


ドガァアアアアアアアアン!!


「ゲハッ!グハァ!ゼェ、ゼェ…やれやれ、まさか俺までが、“リミッター解除”することになるとはなぁ…ブハッ!!」


 赤錬邪は大量の血を吐いた。それはこれまでの五錬邪戦でも見た光景だった。

 他の五錬邪同じくリミッターを解除したという赤錬邪は、立っているのも辛そうではあるものの、自信は取り戻したようだ。


「ふむ…やっとか。凶死殿から聞いていた通りだ。にわかには信じられなんだが、目の当たりにしてしまってはどうしようもない。」


 麗華もリミッターの件は聞いてはいたようで、その真偽を確かめるためにわざと窮地に追い込んだようだ。


「そ、そういえば巫菜子、アンタも外せたんだよねリミッターっての?でも前に先生が、自力じゃ絶対に無理とか…」

「それが…正直、リミッターについては覚えてねぇんだ。五錬邪に入ってから、なぜか時々記憶が飛ぶ時が…ぐはぁ!?」


 赤錬邪の攻撃。

 巫菜子は100のダメージを受けた。


「貴様は知る必要は無いのだよ黄緑錬邪!家族の死の真相すらも知らなかったお前だ、何も知らないのは慣れっこだろう?ハッハッハー!」

「うぐっ、て…テメェ…!」

「巫菜子…!よ、良かった意識がある!じゃあ姫…」

「任せてよ盗子ちゃん!私にかかればチョチョイのボンッ!だよ!」

「ねぇ今なんで爆発したの!?何その場違いな擬音!?」

「わ、私は大丈夫…大丈夫だから…!」


 巫菜子は姫から距離を取った。


「チッ、参ったさ。防御力だけでも厄介だったのに、攻撃力まで増えるとかさ…。こうなったら一斉に…!」

「まぁ下がっていなさい。残念だが今の彼奴は…そして“あの武器”は、お前達の手には余る。」


 無理矢理攻め込もうとする暗殺美を制止し、麗華が指差した赤錬邪の武器は、先ほどまでとは形状が異なっていた。

 黒々と光る金棒の全面から、鋭い棘が突き出ている。


「ほぉ、知っているのか女。リミッター解除の件といい、なかなかに博識じゃないか。」

「その姿…溢れ出す邪悪なオーラ…『鬼神の金棒』とみてまず間違いない。邪神の近くに納められたと聞いていたゆえ、嫌な予感はしていたが…やはり貴様らの手にあったか。」


<鬼神の金棒>

 十二神の一人『鬼神:ヤナグ』の骨から練成された漆黒の金棒。

 トゲトゲなので、殴られたらとにかく痛い。泣くほど痛い。


「ほ、ホントに神の武器だったんだ…!ヤバくない!?余裕だったはずが知らぬ間にまたピンチじゃない!?」

「問題ない。先ほどまではリミッターの件を探るべく手加減をしていたが…もういい。お遊びはここまでだ。」


 敵の武器が本物の神の装備と知り盗子は大騒ぎ。

 だが、麗華は冷静だった。


「ねぇ暗殺美、ホントだと思う…?いくら強いからって、神の武器相手に…」

「そんなの私にもわからないさ。ただ一つだけ言えるのは、人の顔を噴水に漬け込むなんていう悪魔の所業を“お遊び”呼ばわりできる鬼だってことだけさ。」


 ある意味どっちも鬼神だった。




俺達が爆弾のあったカイア塔を発ち、猛ダッシュすること十数分。

やっと城が見えてきた。


まぁあの鬼の麗華がいるんだ、行ったところで赤錬邪はもう人の形はしてはいまいが…。


「ハァ、ハァ…さ、先に行ってほしいでやんす兄貴…アッシはもう限界で…」

「あん?泣き言を言うな!走れ門太!ほら、もうすぐそこに見え…むっ!?」


 最後の角を曲がり、あとは城まで一直線…といったところだが、なにやら少し様子がおかしい。

 遠目ではわからない異常が発生しているように感じられた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「な、なんか少し…揺れていやせん?それにこの音…一体何が…?」

「盗子…そうか、昼食を抜いたのか。」

「腹の音!?盗子って人…兄貴から噂だけは聞いちゃいやしたが、ホントに化け物なんでやんすね…!」


 盗子は訴えれば勝てる。


「ああ、奴は化け物だ。クシャミひとつでこんな城など吹き飛ぶぞ。」


ズゴ…スゴゴ…


「えっ!?いやいや、いくらなんでもそんな…」


ズゴォオオオオオオオオオオン!!


「えぇーーーっ!!?」


 凄まじい轟音と共に、城の上部が崩れ落ちた。

 さすがの勇者も驚いた。


「あ…あああ兄貴が噂なんかするからっ…!」

(れ、麗華…やりすぎだぞ!?)



 その頃、崩れ落ちた城の地下では―――


「ゲホッ、ゲホッ!いったーい!もう死ぬかと思ったよぉー!あっ、巫菜子達も無事!?」

「ああ、一応…な。ここは…地下か?最上階から一気に地下まで落ちるとか…なんてモロい造りなんだよ。」


 瓦礫の中からなんとか這い出した盗子達。

 崩落によりかなりの高さから落ちたにも関わらず、奇跡的に全員無事のようだ。


「…いや、そうじゃねぇか。ヤベェのはアイツの…床をブチ抜くほどの、とんでもねぇ攻撃力…!」

「でもやっぱ変さ、あの高さから落ちて無事とか…ハッ!」


 暗殺美は瓦礫の下に何かを見つけた。

 暗殺美達の下敷きになるように、猿のような魔獣がぐったりしている。


「うわっ、なんだよコイツ…!?地下で飼われてたペットか何かか…!?」

「五錬邪だったアンタも知らないのかさ巫菜子?」

「ああ、知らねぇ。この魔獣もそうだが…こんな地下階層があったなんてことも…知らされちゃいねぇよ。」

「とりあえず状況から見て、コレがクッションになって助かったって考える方が自然さ。偶然なら運の無い猿さ。」


 息はあるものの瀕死の様子の魔獣だが、暗殺美にはどうしようもない。

 だがその時、どうにかできそうでできそうもない姫がひょっこり現れた。


「お怪我してるね…。でも大丈夫、私が治すよ!」

「あっ、姫も無事だったんだね良かった…!でもアンタって魔獣の怪我なんて治せんの?」

「大丈夫だよ盗子ちゃん。たぶん背中にチャックが…」

「いや、無いから!こんな精巧な着ぐるみとかあり得ないから!」

「いるよ。」

「チャックが!?チャックって誰なの!?」


 例の如く無駄に場を乱す姫。

 だがおかげで逆に冷静になれたからか、盗子はその魔獣の姿に見覚えがあることに気付いたのだった。


「あ、あれ…?コイツって良く見たら、群青錬邪戦で勇者が…」

「勇者が…?どういう意味さ盗子?詳しく話せさ。」

「あぁ、うん。前に謎のヤブ医者からもらった怪しい丸薬飲んだ勇者が、ピカッと光ってこんな猿の姿に…」

「まさか詳しく聞いて余計にわからなくなるとは思わなかったさ。」


 盗子が話をまとめられないでいると、どこからかしゃがれた老人のような声がした。


「…そ、それは、俺から話そう。まぁ詳しく話す時間は…無いだろうがなぁ。」


 知らぬ間に息を吹き返していた老猿の声だった。


「わっ、起きた!ってことは…もしかして怪我は姫が?」

「思わぬ結果だったよ。」

「治した後にそのセリフってどうなの!?」

「時間が無い、単刀直入に言おう。我が名は『猿魔』…今の世に残る、最後の『写念獣』だ。」



 その後、手短に事情を説明した猿魔。

 普通ならすぐには受け入れがたい話だが、群青錬邪が連れた写念獣を既に見ていたこと、ここ半年の勇者が勇者にしては人間的すぎたことから容易に信じることができた。


「そっか。じゃあアンタがこの半年一緒にいた勇者なんだね。でもって、アンタがアタシらを助けて大怪我を…」

「フフッ、どうせもう寿命が近い…先の無い命だ、気にするな。それに記憶障害があったからとはいえ、お前には随分と嫌な思いをさせたからな…マルコ。」

「そう思うなら今こそ覚えてよ盗子だってば!」

(しっ!静かにするさアホどもが!奴に気づかれるさ!)


 猿魔の話に集中しすぎて声が大きくなってきた盗子を慌てていさめる暗殺美。

 だが幸いにも赤錬邪はこちらには気付いておらず、少し離れた場所で麗華を探していた。


「さぁ出て来い女。このぐらいではまだ、死んではおらんだろう?」

「くっ…!」


 そしてその付近の瓦礫の陰には、麗華が苦しそうに隠れていた。

 一体何があったのか、一方的な展開になっているようだ。


「この城の地下にこんな大聖堂があったとは俺も知らなかったが…そんなこと今はどうでもいい。ゴルァ!出てこいと言っとるだろうが貴様らぁ!ぬぉおおおおおおお!!」


ドガァーン!ボッゴォーーーン!!


 余裕の笑みは徐々に怒りへと変わり、瓦礫を手荒に弾き飛ばしながら赤錬邪は暴れ狂った。

 このままでは見つかるのも時間の問題だ。


(チッ、仕方ない…。俺が麗華の姿で時間を稼ぐ、その隙に逃げろ。)

(無茶言うなよエテ公、オメェもうフラフラじゃねーか!)


 巫菜子の言う通り、姫が少し回復させたとはいえ猿魔は未だ重傷だった。


(残された最後の同胞は、悪の道へと向かってしまった。それを食い止めることは叶わなかったが…せめて最後に過ごしたお前達の未来を繋ごう。)

(駄目さアンタが出しゃばったら盗子の見せ場が無くなるさ。派手に死ぬ役が。)

「いや、何もやんないよアタシ!?アタシだって死にたく…あ゛。」

「そこかぁーーー!!」


 バイバイ盗子。


「うわぁーん!助けて勇者ー!!」

「イヤだよめんどくさい。」

「イヤってなんだよ!それが『勇者』の言うこと…って、勇者!?」

「なっ!?」


 勇者が現れた。

 赤錬邪は慌てて距離を取った。


「フッ、助けに来たぞ。」

「勇者…☆」

「姫ちゃんを。」

「あっそう!!」


 万事休すな状況にも関わらず、盗子いじりは忘れない勇者。

 一見隙だらけではあるが、慎重すぎる赤錬邪は迂闊に踏み込めないでいた。


「き、貴様…いつの間に!?」

「フン、そんなことは地獄で考えるんだな。ここは危ない、下がってろ盗子。」

「勇者…☆」

「地平の果てまで。」

「そんなに!?」


 やっぱりバイバイ盗子。



「にしても、そのオーラ…そうか、貴様もリミッターとやらを外したのか赤錬邪。まったく愚かな奴らだな。」


 最後に見た時よりも桁違いに強くなった赤錬邪を目の当たりにしても、勇者の不遜な態度は覆らない。安定の平常運転だった。


「愚かだと?愚かなのは貴様だ!まさか裏切り者だったとはなぁ覇者…いや、勇者よ!貴様はこの俺様が、血の一滴も残らんほどにブッ殺」

「ところで姫ちゃんはどこだ?」

「って聞けよ!決戦前の緊迫感は大事に扱うがいい!」

「チッ、面倒な奴め…。だがまぁいいだろう。最後のセリフだ、ド派手にキメるがいいさ。」

「フン、生意気な小僧だ。だが強がっていられるのも今のうちよ!すぐにこの俺様が血の」

「そういや麗華も見えんが?」

「だから聞けって!!」

「そ、それが変なんだよ勇者!あのおネェさん、なんか急に目を擦りながらフラフラしだして…」


 麗華の異変について盗子が伝えると、すぐに状況を察した様子の門太。

 それは勇者も同様だった。


「ウゲッ!兄貴、それってもしや…!」

「ああ、状況から察するに間違いない…」



「スゥー…。スゥー…」



そうか、“お昼寝の時間”か…。


 麗華には意外な習性があった。

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