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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
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【007】二号生:ゴップリン討伐

春。五歳になった俺は、今日から二号生として学校に通うことになる。

新しい生活の始まりだ。何かが変わることへの期待で胸が高鳴る始業式。


「進級おめでとう。早速みなさんには殺し合いをしてもらいます。」


 不安が高まる始業式。



例の如くのっけから不安は半端無いものの、とりあえず新学年に上がれた俺達は、A~Cの三組のうちのA組に今年も振り分けられた。

残りの二組には大量の転入生…どうやら毎年こうやって人数を確保していくシステムのようだ。


人数が減っては転入生を募り、それを繰り返す…なんとも恐ろしい学校だ。

果たして俺達のうち何人が無事卒業できるのだろうか。

よくよく考えると、昨年度はマジで卒業式が無かった気がするが…気にしたら負けなんだろう。今からそんな先の心配をしても仕方ない。


今は春だ、つまり早速“あの行事”の…そう、春の遠足の季節なのだ。

転入生らは去年を知らんので、どうやら楽しみにしている様子。

まったく雑魚どもめが。


その点、一年目を経験している“オリジナル”の連中は違う。

賢二、盗子をはじめとして、皆がプルプル震えている。

下手すると震源地にでもなりかねん勢いだ。


そんな遠足の行き先は、やはり特に変更もなく『ゴップリン島』。

去年は参加すらできなかったが、今年は果たしてどうなることやら…。



そしてついに、運命の一日が幕を開けた。

大型船で港を出て東へ小一時間…とりあえず今のところ航路は順調のようだ。


「む?あれか…あれがゴップリン島…」


 勇者の呟きに、一度そこで軽く地獄を見た盗子は不安そうな顔で黙ってうなずいた。

 だがネガティブっぷりでは賢二も負けてはいない。


「あれが…この先、僕が眠る島か…」

「賢二…アンタって人生諦めるの早いよね、清々しいほどに。」

「だってさ盗子さん…。僕、あの『秘密の部屋』に監禁されること数週間で…色々と考えたんだよ。そしてわかったんだ、人生諦めが肝心だと。」


 早くも泣きそうな賢二だが、それは他の生徒達も同じのようで、甲板は早くも重苦しい空気に包まれていた。

 どうやらオリジナルの中で元気なのは勇者のような一握りの者だけのようだ。


「やぁ勇者君、今年は参加できたようでなによりだね。ま、ゴップリンを倒すのはこの僕だけどね。」


 そんな空気の中、どことなく気取った口調で勇者に話しかけてきたのは、同じく気取った風貌の少年。

 オレンジがかった髪にそばかすが特徴的な彼は、一号生の終わり頃にあった二度目のクラス統合により勇者と同じクラスになっていた。


「あー、そうかそりゃ良かったな。ところでお前誰だっけ?」


 勇者は特に興味が無かった。

 だが少年もめげない。


「フッ、相変わらず辛辣だな…だがそれでこそ、僕がライバルと認めた男!」


 しかも結構ウザい。


「いや、お前…名前が『宿敵ライバル』なだけじゃねーか。誰でもいいんだからそこら辺の石コロとでも張り合ってろよ。」


そう、コイツの名は“宿敵”と書いて“ライバル”と読む。

つまり俺と同じく親から命名面で虐待されてるかわいそうな野郎だ。

同類ってことで親近感は無いでもないが、コイツも姫ちゃん狙いと発覚したので今や邪魔でしかない。


しかもこの野郎、結構グイグイいきやがる。


「やぁ姫くん元気かい?今日は不安だろうが大丈夫、この僕が護ってあげるよ。」

「あー…うん、よろしくねベンガル君?」


 だが道のりは険しかった(勇者もだが)。



「ねぇ勇者ぁ、余裕ぶってるけどホントに平気なの?確かに去年の春よりはみんな強くはなったけど…」


 迫り来るゴップリン島を静かに見つめる勇者に、盗子は不安そうに尋ねた。


「フン、むしろ腕が鳴るぜ。俺にとっては今回がデビュー戦…。我が野望、“世界征服”への第一歩となるのだ。」

「え、何…?島民から見たらただの“政権交代”なの…?」


さすがの俺でも、一抹の不安も無いと言えば嘘になる。

だがしかし、それよりもヤル気の方がみなぎっているのだ。


よーし!今年こそはゴップリンを倒し、この俺こそが真の『勇者』だという証を示してやるぜ!

危険?いや大丈夫。この通り武器ならリュックの中にたんまりと…


たんまりと…オヤツが…。


 親父が要らぬ気を使っていた。




そうこうしているうちに、船はゴップリン島に到着。

親父のせいで武器は背負ってきた剣一本しか無いため、できれば敵陣に乗り込む前にいくつか仕入れたいところだ。


「ハーイみなさん、ここが市場ですよー。前回はここには寄ってないですし、お土産とか買っちゃいますか?」


 まるでガイドか何かのように街を案内し始めた教師。

 その余裕な態度に盗子はイラついてたまらない。


「いや、お土産とか要らないし!生きて帰れる保障すら無いし!」

「じゃあ“冥途”の?」

「なおさら要らないよ死ねってか!」


相変わらずな感じでおちょくられる盗子。

俺としても先公の舐めたノリはムカつくが、その余裕っぷりはわからんでもない。

というのも、街は一見してとても平和そうだからだ。


もしかしたらゴップリンなんて実は存在しなくて、昨年度の犠牲者は先公の仕業だったんじゃないだろうか。そう思えるほどに漂う観光地感。


「チッ、やれやれ武器屋が見当たらん…。それどころか『ゴップリン饅頭』に『ゴプ大福』…意外と商魂たくましいな島民どもめ。ふざけるな!こんな饅頭が…美味い!買いだ!」


 勇者は『ゴップリン饅頭』を手に入れた。

 すばやさが3下がった。

 帰りに買うべきだった。



「でも確かになんかおかしいよね。実はなにげに平和だったり…?」


 盗子は敵が出てきそうなフラグを立てた。


「オイ止まりなガキども!」


 そしてソッコーで回収された。

 いかつい魔人が盗子をクッソ睨んでいる。


「そんなに甘くなかったぁーーーーー!!」


 恐怖のあまり腰を抜かす盗子。

 敵の背丈は2メートルを軽く超えており、誰がどう見ても雑魚な盗子が対抗できる相手ではなかった。

 ちなみについ先ほどまで近くにいたはずの教師は、なぜか姿が見えない。


「ケッ、また来やがったのかクソガキどもめ!大人しく有り金全部置いてくんだな死にたくなぎゃああああああああ!!」


 勇者の剣が魔人の眉間に突き刺さった。

 倒れた魔人と、それを踏みつけにし見下ろす勇者の姿は、もはや“仲間割れ”にしか見えない。


「身内の方が甘くなかったぁーーーーー!!」


 盗子は助かったはずが恐怖心が消えない。


「な、なんで魔人より躊躇ないのアンタ!?」

「フッ、やめろよ照れるぜ。」

「全然褒めてないんだけど!?」



 この一連の流れを少し離れて眺めていたのは、誰よりも早く危険を察知し隠れていた賢二。


「ま、まさか魔人に同情する日がくるなんて…」


 そんな彼が木陰から出てくるのと合わせたように、島人達がわらわらと集まってきた。


「はわわ…なんということだ…!奴らに攻撃してしまうなんて…」

「終わりじゃ、もうこの島は終わりじゃ…!」


騒ぎ始めた島人どもの話を総合すると、どうやらコイツらはゴップリンをはじめとする魔人達に完全服従することで、かりそめの平和を得ていたようだ。

そのとばっちりが俺たちに回ってきてるのかと思うと苛立って仕方が無い。


「フン!終わりだぁ?あんなのに支配されてる時点で、もう終わってんだよ!」


まったくなんて浅はかなんだろう雑魚どもめ。

人としての尊厳を失ってまで無駄に生き残り、なんになるというのか。


「立ち上がれ愚民ども!悪夢は起きなきゃ終わらねぇよ!」

「いや、だがしかし…ぶへっ!!」


 口答えしたオッサンは鮮やかに宙を舞った。


「ギャーギャーわめくな雑魚どもめ!よく聞けぇ!」


 そう叫ぶとともに、勇者は拳を天に突き上げた。



「逆らう者は、皆殺しだ!!」



 新たな支配者が降臨した。

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