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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
66/196

【066】外伝

*** 外伝:賢二が行くⅢ ***


僕は賢二。

何かと不幸な目に遭いながらも、今回もまた生き延びたみたいです。


確か群青錬邪さんとの戦いの前に、洞窟で変な魔獣に食べられちゃったはず…。

でも今は明らかにそことは違う、民家のベッドの上にいます。

ここは一体どこでしょうか。みんなは一体…?


「う、うぅ…。この部屋は…誰の?なんで僕はベッドに寝て…?」


倦怠感はそれなりにあるものの、体は一応動きそうで一安心。

ここが誰の部屋かはわかりませんが、近くの窓からは外の様子が見えました。


「あ、もう夜なんだね。なんだか今日は、星がキレイだなぁ。特に…」


特に、『地球』が。


 三度目の宇宙だった。




しばらくの間、遠くに見える地球のあまりの小ささに途方に暮れていると、大きな音を立てて扉が開き、同年代の女の子が入ってきました。

この家の人に違いないです。


「わっ、起きてるー!良かったねホント良かった!」


 ショートカットに小さな帽子を乗せたその少女は、見るからに元気の良さそうな女の子。

 下手すると人間じゃない可能性も想定していたため、賢二はとりあえずホッと胸を撫で下ろした。


「アナタが助けてくれた方ですね。ホントありがとうございました。えっと…?」

「ん、名前ですか?ボクは『召喚士』の『召々(ショウショウ)』!好きに呼んで☆」

「あ、ハイわかりました召々さん。僕は賢二って言います。決して賢…」

「お母さーん!『賢者様』が来ちゃったー!!」


あぁ…また…。


 召々はせっかちだった。




今度こそはと思っていたのに、早速勘違いしてくれちゃったせっかちな召々さん。

弁解しようにも聞く耳を持ってくれず、「そんなことより村を案内するね☆」と連れ出されてしまいました。


このまま村に着いたら、また絶対にえらいことになります。

なんとか早く誤解を解かなきゃ…。


「よぉーし!じゃあ行くよ賢者様!飛ばすから舌噛まないようにね~♪」


 ゴーグルをつけ、自動二輪車に跨りエンジンをかける召々。

 サイドカーに乗せられた賢二はとりあえず流れに身を任せるしかない。


「えと、さっきも言ったんですけど僕が賢者だとか村では…」

「あ、うん!わかってるよ☆言わなくてもボクわかってるから大丈夫!」

「えっ…あ、ホントですか?いや~、良かったです。てっきりまた勘違いを…」

「すっごく照れ屋さんなんだよね賢者様☆わかるわかる!」


 勘のいい賢二は大体理解した。

 この子は話が通じない系だと。


「でもビックリしたよ~。『獣の森』のド真ん中でフツーに寝てるんだもーん。」

「やっぱり全然聞く気はないっぽいね…って、前見て前ぇーー!!」

「アハ☆平気だよ~心配性だな~。ボク、人の話はたま~に聞こえないみたいだけど視野は…」

ズゴンッ!


 婆さんが鮮やかに宙を舞った。



「わー!すすすみません!大丈夫ですか!?生きてますか!?」


 豪快に撥ねてしまった老婆に慌てて駆け寄る賢二。

 ド派手なピンク色の帽子とローブをひるがえし、激しく地面に叩き付けられたはずの婆さんだったが、打ち所が良かったのか意識はしっかりしていた。


「う、うぐっ…こ、こんな激しいアタック…何年振りぢゃろか…☆」

「こんな瀕死状態でなにトキめいてるんですか!?しかもアタック違いですし!」


 “しっかり”でもなさそうだった。


「アハハ☆面白いお婆ちゃんだね~♪もっかい撥ねてもいいかな~?」

「いや、どう考えてもダメだから召々さん!謝るどころかおかわりとか!」


 物騒なことを全く悪びれずに言い放つ召々。

 やはりどう考えてもヤバい奴だ。


「ぶー。賢者様ってばお堅いんだからー。」


 賢二のノリが悪いため、むくれる召々。

 そしてそんな彼女のせいで、賢二が恐れていた“いつもの流れ”に突入するのだった。


「む…?お前さん、『賢者』なのかぇ?」

「あっ、いや、違うんですよ!僕は『賢者』なんかじゃ…!! …あ゛。」


 つい大声を上げてしまった賢二。

 慌てて口を押さえたが、残念ながら既に手遅れだった。


「な、なにぃ!?賢者だぁ!?オメェが賢者様かぁ!?」

「オーイみんなー!賢者様が来てくれたどー!」


あぁ…また…。


 もはや古典芸能のようだった。




 気付けば村の入り口まで来ていたため、付近を歩いていた村人達のせいでまたもや『賢者』で広まってしまった賢二。

 賢二、召々、そしてなぜか被害者の老婆の三人は、村長の家へ集められたのだった。


「いや~、さすがは賢者様。利発そうでいらっしゃる。わざわざ遠くの星からお呼びした甲斐がありましたわ。」


 精一杯の料理でもてなしながら、村長だという中年の男は媚びるような目で賢二を見ている。

 聞けばちょうど別の『賢者』に助けを求めていたところらしく、そのままどんどん逃げづらい状況へと会話は進んでいった。


「んぐ、むぐっ…んで?わざわざこの『賢者』を呼んで、何ぉさす気なんよお前さんら?」


 部外者とは思えない食べっぷりを見せつつ、部外者とは思えない堂々とした態度でその場を仕切り始めたのは、部外者のはずの老婆。まるでマネージャーか何かのようだ。


「あ、はい。実は賢者様には…最近我々を悩ませている『蛮族』どもを倒してほしいのですよ。」


 賢二にとって三度目の宇宙だが、流れは今回も同じのようだ。

 『ユーザック(魔王)』、『ソボー海賊団』ときて、今度の相手は『蛮族』の集団…その名も『野蛮家族』。最近この界隈の村々を荒らし回っている荒くれ者どもらしい。


「あ~あ~、そんなの任せりゃええ。こう見えてこの子はヤル時はヤル子ぢゃよ。うん。」

「えっ、なんでアナタが引き受けちゃうんですか!?やっぱさっき撥ねた件を根に持ってます?!?」


 婆さんなりの復讐かもしれない。


「おぉ!本当ですか!そりゃ助かっ…ところでアナタはどなたですかな?」


 散々話しておいて、ようやく老婆の存在に疑問を抱いた村長。

 賢二としてはこのチャンスに全てを否定しきらないとアウトだ。


「あ、いや、この人はさっきちょっと…」

「彼女ですぢゃ。」


 とんでもない復讐だった。




なぜかお婆さんが勝手に引き受けてしまったので、仕方なく僕は『蛮族』を倒しにいくハメに。

でも一人じゃ…と言ったら、なぜか召々さんとお婆さんがついてくることになりました。


どう考えてもこれから戦いに行こうって面子じゃありません。

つまり“死ね”ってことじゃないかと。


「えっと…みなさん改めましてヨロシクです。一秒でも長く…生きましょうね…」


 生きる気があるのか無いのか。


「おぅ!ヨロシクな坊主!俺もついていくぜぃ!」

「あ、こちらこそヨロ…って、えぇっ!?なんで亀さんが喋ってるんですか!?」


 賢二の言葉に反応したのは、召々でも老婆でもなく、なんと老婆の肩に乗っている亀だった。

 亀が喋るなんて普通ではない状況だが、老婆はもちろん召々も動じていない。どうやら知らなかったのは賢二だけのようだ。、


「ワシの『契約獣』でな、『魔獣:トルタ』の『亀吉カメキチ』と言うんぢゃ。」

「け、契約獣…ですか?噂で聞いたことがあるような無いような…」

「えー、そんなことも知らないの賢者様ー?じゃあ『召喚士』のボクが教えたげるね☆」


<契約獣>

 普通の召喚獣とは違い、契約に従い滞在し続けるタイプの召喚獣。

 “武器化”、“防具化”、“魔法化”などの特殊能力を持つものが多い。

 契約に職業は問われないが、一生に一体としか契約できない。

 契約獣の側も相手を選ぶため、誰しも得られるとは限らない。


「へぇ~。そんな魔獣がいたなんて知らなかったですよ僕。」

「ま、MP消費で呼べる『召喚士』の方が便利だけどね☆えっへん!」

「いいなぁ~。僕の契約獣になってくれる子もどこかにいるのかなぁ?」


 常に危険と隣り合わせな賢二としては、自分を護ってくれる有能な魔獣に魅力を感じるのは当然だった。


「あ~、やめときな。契約獣を従えるのは…子供にゃあチョイと危険だよ。」


 賢二はとても羨ましがっているが、老婆としてはお勧めしないようだ。

 どうやら契約するための代償が小さくはないらしい。


「へ?そうなんですか?じゃあ…代償は…?」

「“生気”を食らう。」


 婆さんの方が危険だ。



 その後、雑談しながら半刻ほど進むと、『蛮族』がいるという『トリーナ村』に辿り着いた一行。

 可能な限り慎重に作戦を立て、なるべく平和的に事を進めたい賢二と、


「オ~イ!出ておいでよ蛮族たちー!賢者様がブッ倒しに来ちゃったよ~♪」


 気にも留めない召々。


「あぁ…死期が早まる…」

「見ろよ賢坊、あそこの旗…。あれが今回のターゲット、流れ蛮族『野蛮家族』のモンだぜぃ。」


 亀吉が指し示す方向には、赤子を抱いた母親をハートで囲んだカラフルな旗がはためいている。どう見ても『蛮族』の旗には見えない。


「野蛮家族…。“家族”って響きといい旗のデザインといい、実はそんなに怖くないとか…?」

「一度目ぇ付けた敵は、家族もろとも惨殺するらしいぜ!」

「よし、死のう。」


 賢二は覚悟が決まった。


ズガァン!!


「んじゃさ、この建物にみんないるのかなぁ?扉ブチ破ってもいい?」


 召々はブチ破ってから言った。


「な、なんだろこの人…心のブレーキ壊れてるのかな…?」


 最速で飛んで火に入ろうとする召々を前に、賢二があっけにとられていると…物音を聞きつけた蛮族達がわらわらと集まってきた。全員が悪人面だ。


「おぅ小僧!テメェが村の奴らが雇ったっつー助っ人か?噂にゃ聞いてるぜぇ?」

「そんな貧弱なパーティーでこの俺様達を倒そうたぁ、いい度胸じゃねーか!」


 どうやら村人達の考えは筒抜けだったようで、蛮族達は既にやる気満々といった感じ。

 違うと言ったところで通じる相手にも見えない。


「ひぃ、ふぅ、みぃ…ほぉ、百近くおるのぉ。随分とまぁ大所帯なもんぢゃ。」

「で、どうするよ賢坊?これだけの数を丁寧に相手にしてたら日が暮れるぜぃ?」


 老婆と亀吉は妙に落ち着いている。

 どうやら賢二に丸投げして高みの見物を決め込むつもりのようだ。


「ど、どうしよう…僕、攻撃魔法とかそんなに…」

「早ぅせんかい。でないとお前さん…先制の機を逃してしまうぞぃ?」


 恐怖と混乱のあまり動けずにいる賢二に対し、さらに追い込むようなことを言う老婆。

 そして残念ながら、その言葉はすぐに現実のものとなった。


「…んだよ、『賢者』って割に随分とシケたツラしてやがるじゃねぇか。」


 現れたのは、かつてババン山で会った山賊長とタメを張るほどの大柄で毛むくじゃらの男。

 取り巻きの態度や身に纏った毛皮、装飾品の豪華さから、この男が長と見て間違いない。


「テメェら下がってろ、俺がやる。」


 そう言うと男は、身に着けていた重そうな装備を脱ぎ捨てた。


「で、でもお頭!もし本物の『賢者』だったらアンタでもタダじゃ…」

「フンッ、なら俺様の契約獣を呼ぶまでよ!出てこいや『ビッグ・フッチョ』!」


<ビッグ・フッチョ>

 三メートルを超える雪男タイプの高レベル魔獣。

 その巨大な足で、あらゆる敵を踏み潰す。

 寝ぼけて仲間を踏み殺すこともある。


「さぁ行けぃ!踏み潰してやれやフッチョ!」

「フゴフゴ!フガァーー!!」


 お頭のデコピン一発で死ねる自信があるにも関わらず、さらに大きな魔獣が登場したことで、賢二の希望はもはや根こそぎ断たれていた。


ガィイイイイン!!


 だがしかし、なぜか〔鉄壁〕が攻撃を防いでいた。


「し、死にたくない…。やっぱり…死ぬのは…死にたくは…」


 なんと、無意識のうちに魔法壁を展開していた賢二。

 『魔法士』としては決してレベルは高くないものの、修行の大半を防御に充ててきたことことで〔鉄壁〕はかなりの強度となっており、蛮族長とビッグ・フッチョの同時攻撃をも見事に防ぎきっている。


「ほほぉ、若いのになかなかのもんぢゃのぉ。吐いとるセリフはともかく。」


 関心する老婆。そしてそれとは対照的に、怒りを露にする蛮族長。


「チッ、クソがぁああああっ!なら仕方ねぇ、テメェの力を貸しやがれフッチョ!来い!!」


 ビッグ・フッチョは“武器化”した。

 蛮族長はそれを両足に装備した。


「そ、装備した!?これが…これが『契約獣』の本来の使い方…!でもこれを耐えられれば」

バキィイイッ!


 蛮族長、会心の一撃!

 なんと!〔鉄壁〕にヒビが入った。


「鶴は千年…亀は万年…僕は十二年…」

「ちょ、諦めんなよ賢坊!俺と一緒に万年も生きようぜ!なっ!?」

「あ、じゃあボクが味方とか呼んじゃおうか?」

「いや、なんか“厄災”とか呼びそうなんでやめてください。悪い予感しかしないです。」


 諦めたようで意外と冷静な賢二。


「こうして魔法壁に守られてると、前回の宇宙を思い出すな…。状況はあの時より悪いけども。このままじゃもうじき…」

「じゃあパパッと魔法でやっちゃってよ賢者様☆」

「まぁやるなら炎系ぢゃね。武器化したとて元は獣…炎は苦手ぢゃろうて。」

「か、火炎魔法ですか…。苦手な分野だなぁ…」


 得意な分野はあるのか。


「オラァおめぇら行くぞゴラー!やっちまぇやー!!」

「うぉおおおおあああああ!!」


 賢二がオタオタしている間に、他の蛮族達まで一斉に襲い掛かってきた。

 先ほど入った亀裂はどんどん大きくなっており、どう見てもそろそろ限界だ。


「と、とりあえずやるしかない…!えっとえっと、火炎魔法…〔炎殺〕!!」


 賢二は〔炎殺〕を唱えた。

 だがやっぱり失敗した。


 そるとそんな状況を表すかのように、空には次第に暗雲が立ち込め始めた。

 稲光が走り、雷鳴も轟いている。


「な、なんですかね…今にも悪魔とか降臨してきそうなこの雰囲気…」

バリィイイイイイン!!


 その時、激しい音と共についに砕け散った魔法壁。

 もう逃げも隠れもできそうにない。


「ケッ、やっと出てきやがったか賢者。まさかもう一度引き篭もるってこたぁねぇよなぁオイ?」

「ざ、残念ですけど…〔鉄壁〕を維持しすぎたせいで、もうほとんどMPは無いです。」


 賢二を見下ろしながら威圧する蛮族長と、あっさり屈する賢二。


「…でも、今のこの状況だったら…もしかしたらっていう…一撃があるんです。」


 かと思いきや、なにやら秘策があるらしい。

 賢二は右手を天にかざして立ち上がった。


「あ?ハハッ!んな搾りかすみてぇなMPで撃てる魔法なんざ大した威力は…」

「落ちてぇええええ!〔雷撃〕!!」


 賢二は〔雷撃〕を唱えた。

 強烈な雷が蛮族長に直撃した。


ズゴォオオオオオオオオン!!

「ギェエエエエエエエエエエエエ!!」


 油断していたところに想像以上の一撃。

 重傷を負った蛮族長はしばらく動けそうにない。

 だが総勢百人はいようかという敵勢力にとって、リーダーが倒れたとて大勢に影響はなく、賢二達の劣勢は覆らない。


「ゼェ、ゼェ、ご、ごめんなさい、みんな…僕が…弱いばっかりに…」


 そもそも何の責任も無いわけだが、唯一の戦力なだけに責任を感じずにはいられない賢二。


「んにゃ、いい線いっとったよ?状況を鑑みて、本来必要な前提魔法をスッ飛ばして〔雷撃〕にもっていけたのは、なかなかのセンスぢゃね。」


 そんな絶望的な状況の中、なお余裕の表情を見せ続ける老婆。

 しかしその余裕は、先ほどまでの空気が読めていない感じとはまた違った感じに見えた。


「もうええわぃ。お前さんらの底はもう見えたわ。大人しく下がるがええよ。」


 賢二の陰を離れ、ゆっくりと歩きながら敵に近づく老婆。

 急に存在感を出し始めた老婆に、蛮族達は動揺しつつも激しく威嚇した。


「あ゛ん!?な、なんだテメェ偉そうに!死にてぇのか!?」

「やめときんさい小僧どもよ。もはや全然…足りんしのぉ。」

「なっ、足りねぇだぁ!?俺らの実力が足りねぇってのか婆さん!?」

「んにゃ、“尺”が。」

「尺が!?」


 巻きでお願いします。


「なんだかよくわからんが、いい度胸じゃねぇかババア!短ぇ人生をさらに短くしてぇようだなア゛ァン!?」

「ババアは大人しく死期を待ってりゃいいんだよクソが!」


 口々に野次り始める蛮族衆。

 これまで終始飄々としていた老婆だったが、彼らの野次に混じる“一つの単語”が引っ掛かったようで動揺を露にした。


「ば、ババア…!?こんな乙女を捕まえて、ババアとな…!?」

「アハ☆面白いこと言うお婆ちゃんだね♪グーで殴ってもいいかなぁ?」

「いや召々さん、もっと平和的に説いてあげてください…」


 身内からもフォローは無かった。


「ええ度胸ぢゃ…腐れ蛮族の分際で、ええ度胸ぢゃよ…。この…この…」

「バ・バ・ア!バ・バ・ア!」


 周囲に響く無慈悲な“大ババアコール”。

 なぜか召々も参加しているが悪気は無さそうだ。


 だが…賢二と亀吉を除く全員によるその大合唱は、当の老婆の怒声により掻き消されることになる。


「この永遠の美少女、『賢者:無印ムイン』に喧嘩を売ろうとはのぉ!!」


「…え゛?」


 全員の目が点になった。


「燃えぇえええええええい!!」

「えええええええええええええええぇっ!?」


ズゴォオオオオオオオオオオ!!


 〔火炎地獄〕が全てを焼き尽くした。


〔火炎地獄〕

 賢者:LEVEL50の魔法(消費MP250)

 究極の火炎魔法。燃え上がれ、燃え上がれ、燃え上がれ、ガンd(自主規制)




なんとも驚いたことに、お婆さんはタダ者ではなく、なんとあの『四勇将』の『大賢者:無印』様なのだそうです。


にわかには信じ難い話ですが、あんな魔法を見せられては疑う余地もありません。

それに、それなら村長さんが呼んだ『賢者』の件、そして終始余裕だったこと…全てに納得がいきます。


「うっわー蛮族みんな消えちゃったー!手品?手品なの?もっかいやってよお婆ちゃん!」


 蛮族達がいた場所には、今や焦げ跡しか残っていなかった。

 そんな壮絶な光景を目の当たりにしてもなお、一向に態度を変えない召々の豪胆さにドン引きしつつも賢二は尋ねた。


「無印様…。じゃあお婆…アナタが凱空さん達と共に戦った…?」

「なぬ?ほぉ、お前さん凱空を…ワシの“元彼”を知っとるのかぇ?」

「も、元彼!?(被害者は)僕だけじゃなかったんですか!?」

「大丈夫ぢゃ安心せい。今は賢坊にゾッコン・ラブぢゃで☆」


 むしろその方が安心できなかった。




その後、トリーナ村へと帰った僕達は、とっても感謝されました。

引き止められ、しばらくはご厄介になったのですが、そろそろ発とうと思います。

どこにいても戦いが待っているのなら、やっぱり友達と一緒に死にたいです。


「というわけで、僕は宇宙船を探しに旅に出ますね。みなさんサヨウナラ。」


 荷造りを追え、旅立とうとする賢二を不満そうに引き止める召々と無印。


「えー!行っちゃうの賢者様ー!?イヤだよつまんないよー!遊ぼうよー!」

「アタイ…アンタと離れたくない!死ぬまで一緒だってあの時…!」

「って、まだ恋人モードだったんですか!?それに“あの時”っていつです!?」


 あれから数日経つが、賢二は未だに召々と無印に付きまとわれていた。


「アハ☆いいじゃん賢者様♪“死ぬまで”ならもうじきだよー♪」

「いや、いくらそう思ってもそれは言っちゃいけないセリフでは…?」


 相変わらず歯に衣着せないにも程がある召々だったが、なぜか無印は怒る気配が無い。

 そして、いつになく真剣な表情を浮かべていることに賢二は気付いた。


「…うんにゃ。その嬢ちゃんの言う通りぢゃ。ワシもそう長くは無い。」

「えっ、無印様…?」

「夢の四桁は無理やもしれん。」

「今が何歳かによってだいぶ変わってきますが…」


 戸惑う賢二をよそに、今度は亀吉が無印に尋ねた。


「そういやムーちゃん、この前言ってた件はどうなったよ?賢坊は合格なんか?」

「へ…?“合格”って何の話ですか?」

「うむ、ワシぁ決めたぞぇ。この坊を最後の弟子とし、我が全てをくれてやる!」

「えっ!?だ、大賢者様の全てを!?」


 なんと!『賢者』への道が開けた。


「亀吉…“婚姻届”を。」

「えっ、全てを!?」


 尋常じゃない代償と引き換えに。

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