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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
64/196

【064】隠されていたこと

桃錬邪の命懸けの協力により、スイカ頭とソボーの対決はスイカの方が勝利した。


結局今回も僕はなにもしていない。

つまり父さんに似てきたということだろうか。


「お…覚えてろテメェらぁ…!いつか、必ず、ブッ殺…グフッ!」


 攻撃が直撃したにも関わらず、ソボーはまだ息がある様子。

 しかしさすがに気を失ったようだ。


「ソボー…なんて奴だ。あれだけの技を食らってまだ息があるなんて…」

「フッ、峰打ちだ。」

「嘘じゃん!これでもかってくらい斬ってたじゃん!」


 勇者達が倒れたソボーを拘束している脇で、桃錬邪は姫が見守る中…ひっそりとその生涯を閉じようとしていた。


「ぶふっ…!ハァ、ハァ…。ヘッ、やって…やったぜチクショウが…」

「喋っちゃダメだよ桃ちゃん。苦しくなっちゃうよ。」


 ただでさえ重傷だった桃錬邪は、スイカ割り魔人の攻撃がダメ押しとなり、もはや命は風前の灯。

 既に『療法士』の力でどうにかなる状況ではなかった。



「凱空に…伝えておくれ…“奴”に気をつけろ…て…さ……」



 桃錬邪は、なにやら大事そうなことを言い残して旅立った。


「そうか、桃錬邪は駄目だったか…。せっかく正気に戻ったみたいだったのに…」


 勇者も桃錬邪の死に気付いたようだ。

 姫は珍しく神妙な面持ちで、彼女が遺した言葉を思い返していた。


「とっても悲しいよ。だから…桃ちゃんの遺志は私が届けるよ。」

「姫ちゃん、彼女は最期に何て?」


「勇者君…今日のオヤツは、要らないよ。」


 その“ヤツ”じゃない。




「まぁ色々あったけど、とりあえず…終わったね…。さぁ、本来の目的は王だ。早く捜して話を聞こうよ。」


 勇者は終わったつもりだが、盗子にはまだ気掛かりな点があった。

 そう、流れ的に肩は持ったものの、スイカ割り魔人は別に味方というわけではないからだ。


「ま、まだ油断しちゃ駄目だよ勇者!このスイカ、いつも喧嘩売ってくるし…!」

「…フン、安心しろ。ワシが求めるは強きスイカのみ…今のヌシに興味は無い。」

「なっ!?どういう意味だ!この僕が雑魚だとでも…!?」


バンッ!


 大きな音を立てて入り口の扉が開いた。

 そして増援の兵士達が押し寄せてきた。


「貴様らぁ!このローゲ城を襲って生きて帰れるとでも…なっ、なんだこの血の海は!?」

「オイ見ろ!あそこに国王様が倒れてるぞ!早く救護班を!」


 現れた無傷の兵士達を見て脅威は去ったと判断したスイカ割り魔人は、そのまま後を任せて去ろうとした。


「おぉ、兵士どもか。ちょうど良い、このスイ海賊の始末は任せるぞ。」

「う、動くな!この見るからに怪しい奴め!」

「ぬ?」

「まぁコレが、人として当たり前のリアクションだよね。」


 盗子は兵士達の気持ちがよくわかった。


「やれやれ、これだからスイカの多い街は好かん。帰るとするかな。」

「ま、待てスイカ頭!さっきの言葉を撤回するんだ!僕が強くないとか…」

「焦るな弱きスイカよ。いずれヌシも全てを知ることとなろう。ガッハッハー!」


 スイカは窓の外に消えていった。


「くっ、逃げられた!おのれ…!」

「ま、まぁいいじゃん勇者。変に絡まれても面倒だし…ね?」

「でで、でもどうしましょ?国王様は重体みたいな感じですし…ほ、他に『邪神』さんのこと知ってる人とか、盗子先輩の持ってる鍵について知ってる人とか…」


 するとその時、栗子が漏らした“邪神”と“鍵”というキーワードに反応する者がいた。


「邪神じゃとぉ?お前さんらまさか、鍵を持つ者達なのかね?」

「わっ、なんだよお爺ちゃん!急に出て来て普通に参加しないでよ!誰!?」


 突然現れた謎の老人に驚く盗子。

 頭に乗せた王冠が本物なのだとしたら、どう考えても王族の誰かだった。


「こう見えても私ぁ『国王』じゃ。頭が高いとか高くないとか。」

「えっ!?で、でも国王ってさっきそこで血塗れで倒れてた人だよね!?それになんか…ねぇ?」


 盗子が怪しむのも無理は無い。

 それほどに爺さんのキャラには威厳が無かった。


「ん~?ありゃ『影武者』じゃ。で?ホントに鍵を持っとるのかな?力になれるやもしれんぞ。」

「ど、どど、どうしちゃいましょ勇者先輩…?」

「ん~…うん、話そう。今はワラにも縋りたい状況だしね。」


 勇者は爺さんに事情を話した。



「ふむ…そうかい。“三本の鍵”のうち一本をねぇ…」

「なっ、三本!?鍵ってそんなに何本も…!?でもまぁ人類を滅ぼしかけたような奴を封じてるんだから…と考えれば確かに…」


 王から聞かされた事実に一度は驚いたものの、すんなりと腑に落ちた勇者。


「これまで誰に聞いても“神”の“か”の字も出なかったのに…さすがは王族って感じだ。その調子で色々教えてくれると助かる。」

「鍵はかつて、当時力のあった三つの王家に託されたのじゃよ。お前さんらの持つ鍵というのも、元はどこかの国から持ち出されたもんじゃろう。」

「なるほど、王家の者だけに代々伝わってたって話なら、世間では知られてなかったって話にも得心がいく…って、じゃあもしやこの国にも鍵が…!?」


 期待に満ちた目で王を見る勇者。

 しかし王から出た言葉はその期待を裏切るものだった。


「その通り。この城にも一本あったんじゃが…残念ながら今回の騒動で奪われてしもうたよ。」

「そ、そうか…。でもまぁ問題ない、追って奪えば済むことさ。向こうの持つ鍵が何本かはわからないけど、こっちに一本ある限り…」

「あぁーーーーーっ!!えっ、えっ!?無い!無いぃいいいいい!?」


 突如、盗子が奇声を上げた。

 話の流れからして最悪の状況っぽい。


「お、お前…無いってまさか…」

「ち、違うの!違わないけど、でも…!」

「盗子ちゃん…そんなにお腹すいてたの?」

「食べてないから!えー!なんでー!?この前までは確かにあったのにぃーー!」


 慌てふためく盗子を冷めた目で見つめる勇者とは違い、栗子はなぜか辺りを見渡していた。


「そ、そういえばさっきから博打先輩が見えないような気が…しないでもなく…」


 姿が見えないだけ…ただそれだけだが、ソボーにやられて重傷だったはずの博打が音も無く消え去ったという事実は、嫌な予感をさせるには十分だった。


「ま、まさか…アイツが…!?」



 その頃、ローゲ王都から猛スピードで遠ざかる馬車の中に、博打はいた。


「フッ、相変わらず甘いベイベー達だ。予定外のゲストのせいで深手は負ったが…なんとかミッション・コンプリートだぜ。」


 博打の手の中で、盗子が持っていた鍵が輝いている。


「さすがです博打様。そして先日はありがとうございました。」


 馬車の中には、博打の他にもう一人、闇に紛れるような黒装束を身に纏った女がいた。

 口ぶりから博打の手下か何かのようだ。


「ん…?あ~、モレンシティで柱の陰に隠れてたのはキミだったか。気を付けてくれなきゃ困るなぁ~なんとか誤魔化せたが。」

「大変申し訳ございません。あのような失態は二度と…」

「まぁいいさベイベー、まずは上に報告しなよ。そして行こう…“マスター”の元へ。」


 博打は裏切り者だった。



 さらにその頃、五錬邪のアジトでは―――


「赤錬邪様!勇者一行を見張らせていた諜報員から、電報が入りました!」

「む?あのガキどもがどうかしたのか?よし、Hip Hop調で伝えろ!」

「えぇっ!?は、ハイ!その…Hey Yo!鍵にアクセス!結果はサクセス!」

「わかりづらい。」

「そ、そんなっ!」


「そうか、やっと鍵が…。よし、皆を集めろ!最終段階に入るぞ!」

「…は、ハッ!」


 その晩兵士は辞表を書いた。




 博打が裏切ったかどうかは定かではないにしろ、鍵が無くなってしまったのは事実であるため、勇者一行は重い空気に包まれていた。


「ご、ごめんね勇者…。アタシがもっとちゃんと管理してれば…」

「…ん?誰だっけお前?悪いけど名前が思い出せないんだ。」

「それは非難を込めた嫌がらせなの!?それとも前から続いてる嫌がらせなのどっち!?」


 どっちにしろ陰湿だった。


「と、とりあえず今は…敵さんが元々鍵を持ってなかったのを、いい祈るしか無いですよね…。もし今回ので全部…復活に必要な三つ全部が揃っちゃってたら…」


 不安に押し潰されそうになる栗子。

 しかし勇者には、まだ微かに残る希望が見えていた。


「…いいや、“四つ”だ。邪神の復活のために必要なピースは四つ…“三本の鍵”と、“封印の地の情報”だ。」

「そ、そっか!たとえ鍵が全部あっても、肝心の神の居場所がわかんなければ…」


 盗子の瞳にも再び希望の光が宿った。


「いやはや、それは厳しいかもしれんのぉ。」


 だがローゲ王がソッコーで打ち消した。


「なんでそんなこと言うのさお爺ちゃん!少しくらい期待させてくれてもいいじゃんか!」

「ふむ…これはあくまで私の考えじゃが、五錬邪らにとって邪神は大事な…守るべき存在だとは思わんか?なにしろ自分らの命運を握る存在なわけじゃし。」

「ん?まぁ復活したら邪神の方が守る側になるんだろうけど、目覚める前なら確かにそうなのかもね…。でもそれが何か?」


 急に違う話をし始めた王に対し、勇者は不快感を露にした。

 しかし王は王で察しの悪い勇者に苛立ちを見せた。


「少しは自分で考えてみぃ。守りたいものがある時に、人は何をするのか。」

「守りたい時に…何をするか…?」


 話の意図がわからない勇者に、王はさらに続けた。


「…もしくは、何をしないのかを…な。」


 そう言って勇者を見据えるローゲ王。

 勇者が王の真意に気付くのに、そう時間はかからなかった。


「何を…しないか…してないか…ハッ!そうか…!」

「えっ、なんかわかったの勇者!?」

「奴らは…“移動”してない!最初は『魔王』とメジ大陸の城にいたはずが、途中でタケブ大陸に拠点を移し…それからは大きな動きは見せていないと聞く。」

「そ、それってまさか…その城の近くに邪神がいるから、だから動くわけにはいかなかったってこと…!?でもでも、それってば特に根拠の無い想像なんじゃ…」


 盗子の言う通り、確かにそれだけでは根拠として弱い。

 そこでローゲ王はもう一つ追加の情報を出してきた。


「実はのぉ…邪神を封印した当時、強い力を持っていた三国は、中立の存在…平和の象徴として一つの国を興したと聞いた。そして近年、その国が…五錬邪どもに襲撃されたという話ものぉ。」

「つまり、三つの国には“鍵”が、そして残りの一つの国には“封印の地の情報”が託された…そう言いたいのか?」


 勇者の問いに無言でうなずいたローゲ王。

 そして王は勇者達に背を向け、北の方角を指差して高らかに叫んだ。


「さぁ旅立つがいい若人達よ!タケブ大陸の入口…侵略者に自由を奪われし国…邪神が眠る地、『シジャン王国』へ!!」

「ちょっ…名前!!」


 命名者は隠す気ないのか。


「ふむ…結局目指すはタケブ大陸か。偶然だけど読みは間違ってなかったってわけだ。逆方向とかじゃなくて良かったよ。」

「んでさぁお爺ちゃん、タケブ大陸ってどう行けばいいのさ?さっき指差した方角ってことで合ってる?」

「うむ。北へ向かうがよい。『終末の丘』…その先にタケブに繋がる港がある。」


 王が口にしたその地名…それは以前聞いたことのある場所のはずなのだが、やはり今の勇者はまともに覚えてはいなかった。


「終末の…丘?気のせいか、前にどこかで聞いたような…」



 その頃、噂の『終末の丘』の…海を見渡す高台の上には、墓前に花を手向ける勇者父の姿があった。


「母さん…随分と久しぶりになってしまったな。悪かったと思っている。」

「大丈夫、俺は気にしてない。」


 なぜか黒錬邪が答えた。


「いや冬樹、今のはお前にじゃなくて墓に向かってだなぁ…」


 ガラン洞窟で再会を果たした二人は、あれからしばらく経った今もなお行動を共にしているようだ。


「そういえば凱空よ、息子にこの地のことは話したのか?噂じゃ今はローゲ国にいるようだが…」

「カクリ島を旅立つ際に軽く、な。まぁ記憶が戻れば来るだろう。ローゲからなら多分、夏前には…」


「そうか、アイツが来るのは夏か。」


 父の言葉に被せるよう、背後から聞こえてきたその声に、父は思わず動揺した。


「なっ、その声は…!なぜお前が…!?」


 そこには、モレンシティでロボット兵団を殲滅した鉄仮面の少年…覇者の姿があった。



「フッ。久しぶりだな、“親父”。」



 父には隠し子がいたのか。

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