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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
63/196

【063】血塗られたローゲ王都(2)

 ローゲ城の兵士と五錬邪軍を単身で殲滅した男の名は、『宇宙海賊:ソボー』。

 今の勇者は知らないが、盗子は賢二から聞いたことがあった。賢二が成り行きで宇宙船を奪ってしまった相手…それが『ソボー海賊団』だったはずだ。


「ど、どうしよう勇者!前に賢二が言ってたよ、超有名な極悪人だって!」

「でも海賊が…単身で?しかも街を襲った様子が無かったけど…」

「たまにはのんびり、一人旅もいいもんだ。まぁ街は見飽きたら消すがなぁ。」


 ソボーはひと暴れしてスッキりしたせいか、奥から持ってきた酒を飲んでいるせいか、とにかく上機嫌のようで、物騒なことを言う割に質問にはちゃんと答えてくれた。その隙を博打は好機と睨んだ。


「強者ゆえの余裕か…だがそんなのは、この俺が許さないぜキャプテン?」

「…あ゛?」

「ぐっ!ま、まさかこんな時に持病の“深爪”が…!」


 だが睨み返されて心が折れた。


「肝心な時には昔のまんまかよ!ちょっと期待したアタシが馬鹿だったよ!」

「ち、違う!違うぜ盗子ベイベー!俺は昔の俺じゃない…いくぜ『ロシ銃・ルーレット』!!」


<ロシガン・ルーレット>

 具現化した銃で、自分と相手を交互に撃つ。

 弾を何発込めるかによってその威力は変わってくる。

 リスクを背負った技であるため、与えるダメージはそれなりに大きい。


「な、なんかヤバそうな技じゃない!?大丈夫なのアンタ!?」

「言ったろベイベー?思った逆に賭ければ、俺の読みは100%当たると!」


ズガガァン!!


 博打はパタリと倒れた。


「って、やっぱ駄目じゃん!100%当たるってのは自分にってこと!?」

「ぐっ…はっ…!!」

「だ、大丈夫か博打!?しっかりして!どうなの姫ちゃん、助かりそう!?」

「…午前中です。」

「そ、それを言うなら“ご臨終”…って、まだ生きてるから…回復を…あと…もう午後だし…」


 博打は朦朧としている。

 そんな博打を見下ろしながら、ソボーは銃を片手にニヤついていた。


「ロシ銃か…なかなか面白ぇ技だなぁコレぁ。ありがたく頂いとくぜぇ。」

「えぇっ!?ななんで海賊さんが博打先輩と同じ銃を持っちゃってはりますか!?それってば具現化したやつなんじゃ…!?」

「それに“頂く”って…つまり博打は自爆したわけじゃなく、お前がそれで撃ったってことなのか!?」

「ハッ!もしかして宿敵と同じ『好敵手』ってやつ!?アンタ『海賊』じゃなかったの!?」

「あ?ったく、どいつもこいつもうるせぇなぁクソジャリども…。『宇宙海賊』ってなぁただの肩書きだ。俺様の真の職は、『技盗士』よぉ。」


技盗士ギトウシ

 対峙する相手の技を盗み、自分の物にすることができる上級職。

 『好敵手』が“反射”なら、『技盗士』は“記憶”の職である。


「さて…とぉ。ちっとばかし喋り過ぎたなぁ。そろそろ全員…消すとしようか。」


 ソボーの右目が鋭く光った。

 全員足がすくんでしまった。


「くっ、なんて威圧感だ…!だ、だが大丈夫!この僕が本気を出せば、どんな敵だっておっちょこちょいだ!」

「“ちょちょいのちょい”だよね!?てゆーかアンタ確か剣も抜けないんじゃ…」

「フッ、抜かりは無いよ。前の街で新しい武器を買っ…って宿に忘れてきた!」


 勇者はおっちょこちょいだった。


「わわ、私がななんとかしちゃいますよ!出ればいいのさ『機関土偶』!!」


 栗子は機関土偶を呼び出した。


機関土偶カラクリドグウ

 その場の土などからカラクリ人形を作り出す。

 図工の成績が悪いと恥をかくレベルのものが出てくる。


「ポポ…ポポパポポプパポ…」


 城の大理石から生成された土偶がソボーを取り囲んだ。

 そして同時に、部屋の入り口からローゲ軍の増援が入ってきた。


「よぉーーーし!者ども、かかれぇええええええ!!」

「うぉおおおおおおおおお!!」


 三十人はいようかという増援の兵士は、立ち込める邪悪なオーラからひと目でソボーをターゲットと認識し、全員で突撃した。


「ったく、またかよ面倒だなぁオイ…。あぁそうだ、こんな時に…ちょうどいいのが、ここにいやがるじゃねぇかぁ。」


 なんと!ソボーは機関土偶を呼び出した。

 しかも栗子が呼んだものより数段強そうだ。


「ギョガー!ギギャゴゴグガー!」

「えぇっ!?なななんで私の子達より強そうな感じで…!?」

「フン、猿真似の『好敵手』なんぞと一緒にするんじゃねぇよ。『技盗士』は“コピー”じゃねぇ、俺様が使えば…技の程度もそれなりに上がる。」


 そして周囲は、再び地獄絵図と化した。




 わずか数分後。その場に立つのは、再びソボーと勇者達だけとなっていた。


「や、ヤバいよ勇者!コイツなんでもアリだよ!」

「くっ、群青錬邪も強敵だったけど、コイツは次元が違う…!」


 増援の兵は倒れ、博打は重傷で動けず、栗子も技が盗まれるとなるともはや戦力外といった状況。

 ちなみに盗子と姫は最初から戦力外だ。


「やはり僕がやるしか無さそうだね。今回も短剣しかないけど…まぁ仕方ない。」

「だ、ダメだよ戦っちゃ!下手したら使った技盗まれちゃうんだよ!?」

「フッ、安心しろアポカリプス。僕は記憶喪失…技なんてそもそも覚えてない!」

「もっと不安なことを自慢げに言わないでよ!」

「それに大丈夫。こういう時は、頼もしい味方が現れるのが世の常だ。」

「んな他力本願な『勇者』なんて聞いたことないよ!そんな都合良く…」


 盗子がそう言いかけた時、ソボーから予想外のセリフが飛び出した。


「…いいや、そうでもないみたいだぜぇ?誰だよ、そこにいやがるのはぁ?」

「えっ…?」


 ソボーの目線の方へ振り返った盗子は、その来訪者の姿に思わず硬直してしまった。

 シルエットからして既に特徴のあるその男は、部屋の入り口からゆっくりと歩いて近づいてくる。


「…ほぉ、まさか気付かれておったとはなぁ。油断したわ。」

「わー!?あ、あ、アンタは…!」

「名乗れよ変人。覚える気ぁサラサラ無ぇが、聞くだけ聞いといてやらぁ。」


「フンッ、弱者に名乗るスイカは無いな。」


 喜んでいいのか悪いのか。




絶体絶命…そんな時に現れたのは、なんと頭がスイカの変な人。

どうやらまたもやバーバラの知り合いらしい。


前の先生の人は強かったけど、この人は当てにはならなそう。

というかむしろ敵っぽい。


「み、見るからに怪しい人め!お前は敵なのか!?というか…何がどうなったらそうなるんだ!?」


 勇者は当然の疑問を口にした。


「我はスイカを砕きし者。荒ぶるスイカ魂に導かれ、この地へと降り立った。」


 ちっとも答えになってなかった。


「面白ぇじゃねぇか。この俺様に気づかれず、こんな近くまで来るたぁテメェ…なかなかヤルなぁ?」

「フッ、割られぬために気配を殺す…それがスイカの本能よ。」

「結局アンタ“割る側”なの“割られる側”なのどっちなの!?」


 ソボーとスイカ割り魔人は静かに牽制しあっている。

 その隙を突いて突っ込める盗子はなかなかいい度胸をしていると言っていい。


「ブハハハ!いいねぇ、ターゲット変更だわスイカ野郎!テメェの技はうまそうだぜぇ!」

「残念だけどまだ時期的に旬じゃないよ。」

「違うから姫!そういう意味じゃないから!まぁ気持ちはわかるけども!」

「己が力に溺れし者よ。その邪なるスイカ、我が棍棒がサビにしてくれよう。」


 スイカ割り魔人は攻撃態勢に入った。

 だが初動はソボーの方が早かった。


「ケッ、偉そうだなぁテメェ!焼きスイカにしてやるぁ!火炎魔法〔炎殺〕!!」


〔炎殺〕

 魔法士:LEVEL35の魔法(消費MP33)

 敵一体を取り巻き焼き殺す炎の魔法。焼きが足りないと客からクレームがくる。


「甘いわぁ!スイカ流棒術、『猛烈バックドロップ』!!」


ガキィイン!!


 効果音がおかしい。




「うぉおおおおおおああああああっ!!」


キィン!ガガガッ、ガッキィイイイイン!!


見た目に反してスイカの人もまた強く、二人の強さは拮抗していた。

しばらく撃ち合っている様をただ黙って見てたけど、どちらが勝つか全く展開が見えない状況。

とりあえず今わかってるのは、きっと今回も僕の出番が無いってことくらいだ。


「あのスイカの変人…敵だったんだよね?前からあんなに強かったのか?」


「う、ううん。よくわかんないんだよ勇者。毎回早々に谷底ダイブだったから…。でもとりあえずインパクトは無駄に強かったよ。」

「あっ、なななんか様子が変わりやがりましたよ!どどうしたでしょか!?」


 栗子の言う通り、いつの間にか二人の動きが止まっていた。


「…なぁオイ、ぼちぼち遊びはヤメにしねぇか?カタぁつけようやぁ。」

「いいだろう、望み通り本気で参ろう。でなくばヌシのスイカは砕けまい。」


 なんと、あれだけの激戦を繰り広げていたにも関わらず、二人はまだ実力を出し切ってはいなかったらしい。


「ったく、この俺様に技ぁ盗む隙を与えねぇたぁ…厄介な変態野郎だぜぇ。」

「フッ、コチラこそ先程の非礼を詫びよう。久しく見ぬ強きスイカよ。」

「おっと、ならいい加減名乗りやがれよ変態。俺様はソボーだ。」

「…剣を棒に封じて、幾星霜…。今一度思い出すか…」


 スイカ割り魔人は、手にしていた棒を捻ってカチッと音が鳴るまで回した。

 そしてそのまま引き抜くと、鮮やかに光る刀身が姿を現した。


「『剣豪:秋臼アキウス』…そう呼ばれたあの頃をな。」


 歴史上の偉人は変態だった。



「ええっ!?あ、秋臼って確か『四勇将』の…前の『魔王』を倒したパーティーにいた人ってこと!?なんだよガッカリだよ!勇者親父といい、なんで伝説の戦士は変人ばっかなんだよ!」

「すまない栗子、弁護士を手配してくれ。」

「冷静に怒んないでよ勇者!なんか切なくなるよ!」

「そそそんなことより盗子先輩、助太刀した方が良かったりしませんですか…?」

「あっ、そだよね!いま五分五分なんだから手助けすれば絶対勝ちだよね!」

「じゃあ私がなんとかするよ。勇者君、目隠しある?」

「どっちの味方する気だよ!?アンタ思っきし割る気じゃん!」


 双方まだ本気ではなかったとはいえ、実力が拮抗していることに変わりはない。

 ゆえに、ここで一方に加勢すれば確かに状況は変わるとは思われるが、あくまでそれは、“加勢が可能ならば”という話だった。


「でも手助けとは言っても、あのスピードについていける人間なんているのか?僕でさえ目で追うのが精一杯で…」


 さすがの勇者も今回ばかりは自信の無い様子。

 そんな中、存在を忘れ去れていたある者が、満を持して名乗りを上げた。


「こ…ここにいる…じゃないか。アタシに、任せな。」

「も、桃錬邪!?でもお前は…!」

「フッ…、せめてもの罪滅ぼしさ。凱空にも…悪かったって伝えといてよ。」

「ダメだよ桃ちゃん。いま動くと死んじゃうよ。」


 桃錬邪の怪我はあまりに深刻な状況だったため、さすがの姫も普通に止めた。

 そして勇者、栗子、盗子もそれに続く。


「行っちゃダメだ桃錬邪!正気に戻ったんなら、生きて罪を償えばいいさ!」

「そそそうですよ!ホントに悪いのは、ど、どこかにいる黒幕の人とかなんですよね…!?」

「死んじゃったら終わりなんだよ!?今は無理はしちゃダメだよ!」

「アタシは、本気なんだ。」

「桃錬邪!!」


「…でも、そこまで言うなら…」


(あ、あれれっ!?)


 桃錬邪は暗黙の期待を裏切った。




止めても行くのかと思ったら、結構あっさりと思い留まっちゃった桃錬邪。

行くなと言った手前、やっぱり行けとは言い辛い状況。


「こうなったら、スイカの人に期待しよう。彼が本当に『刀神』と呼ばれたほどの人なら…僕の流派の源流にいる人だっていうんなら、きっと…!」

「ちょ、チョイとお待ちあれ!ま、まままたお二人が止まりやがったですよっ!」


ヒュゥゥウウウウ…


 再び動きを止め、睨みあっている両者。

 二人の間を冷たい風が通り抜けた。


「わっ!なんかシリアスモードだよ!状況と絵が合ってないよ!」

「シッ!この勝負…次に動いた瞬間に決まる。空気を乱しちゃダメだみんな。」

「そうだよ盗子ちゃん。ちょっとのキッカケでへっくち!」


「ぬぉおおおおおおおおおお!!」

「ハァアアアアアアアアアア!!」


 姫がGOサインを出した。


「食らうがいいスイカよ!『刀神流操剣術』…」

「死にやがれぇぇ!『蛇頭剣技』…」


「『百刀霧散剣ヒャクトウムサンケン』!!」

「『毒蛇背面剣ドクジャハイメンケン』!!」


ズバシュッ!!


 痛恨の一撃!

 ソボーの攻撃が一瞬早く炸裂した。


「やややヤバいッスよ!スイカさんが斬られちゃりましたですわ!ズバッと!」

「やっぱり鮮度の問題だね。」

「いや、そんなんじゃないから!仮にスイカ部分が影響してるとしたら“視界”とかだから!」


「ぐっ、不覚…!やはり歳には勝てぬか…!」


 姫もあながち間違いではなかった。


「ギャハハ!これで終わりだぁーー!!…って、なっ!?何しやがる放しやがれテメェ!」


 なんと、知らぬ間に桃錬邪がソボーの足を掴んでいる。


「こう見えて…ぐふっ!アタシ寂しがりでね。悪いけど…一緒に死んでくれる?」


 一騎打ちからのこの流れ…本来であれば邪道扱いされるのだろうが、意外にもスイカ割り魔人は受け入れるつもりのようだ。


「やれやれ情けないことだ。剣士としてこのような勝ち方は屈辱だが…こやつは放っておけばいずれ大きな障害となろう。恥を忍んででも、今ここで始末せねばならんのだ。」

「お、オイ待ちやがれテメェ!そういう外道はこっちの領分だろうがぁ!!」


 ソボーは激怒しながら全力で暴れるも、死力を尽くしてしがみつく桃錬邪は振りほどけない。

 そんな二人を前に、スイカ割り魔人は上段に構えた。


「悪く思うなよ女、ワシとて桃を割るのは趣味ではないが…好機は逃せん。」

「フッ…いいさ。餞だ…どうせなら…派手に頼むよ…」

「くっ、離し…ち、チクショウがぁあああああああっ!!」


ズババババシュッ!!


 スイカ割り魔人、会心の一撃。

 桃錬邪ごとソボーを切り裂いた。

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