【062】血塗られたローゲ王都
栗子の祖父『ドクター・栗尾根』を救うべく『モレンシティ』を訪れた僕達。
しかし敵であるロボットは全て、既に何者かに撃破された後だった。
魔剣を操る鉄仮面の少年…敵かも味方かもわからないけど、まぁ結果的に街は解放されたわけだし今回は良しとしよう。
「お、おおっ!あありがとう栗子!きっとお前が助けてくれるとワシは信じて…」
「わっ!くく苦しいですお爺ちゃん!あ、あと言いにくいけどお口臭いッス!」
栗子が持ってた発信機を頼りに進んだ結果、栗子の祖父は無事に保護できた。
多少衰弱しているようだが元気そうでなによりだ。
今回もまた僕は何もできてないが…まぁいい。次に期待しよう。
「じゃ、僕らはもう行くよ栗子。戦士の世界に“安息”の文字は無いんでね。」
「だね…って、どこへなんだいさっき記憶喪失とかその辺は盗子ベイベーから聞いたけど、そもそもの旅の目的は知らないんだが。」
「あ~、そうか。すまないけどビッチ、説明を頼めるか?」
「ホントにすまないって思うなら名前覚えてよ!ムキィー!」
盗子は渋々状況を説明した。
「ふぇ~。な、なんか凄まじく壮大なお話になっちゃりますねぇ~。」
「…ふ~ん。で?何か有力な手掛かりとかあったのかい盗子ベイベー?」
「あ~。一応重要っぽい鍵はここにあるんだけど、肝心の神がどこに封印されてるかわかんなくてさ…。だから今はとりあえず五錬邪を追ってるんだよ。その方が早いかもだし。」
盗子の話を聞き終えると、少し考えるように黙った博打は、勇者にある提案をしてきた。
それは思わぬ朗報だった。
「だったらさブラザー…『ローゲ王都』に行ってみないか?前に面白い話を聞いたんだ。」
「じゃあ私がツッコミを担当するよ。頑張って引き立てるよ!」
「いや、そういう面白さを語る気は無いんだ姫ちゃんベイベー…」
“面白い話”というのは単純に面白いだけでは済まないことも多いため、盗子は警戒しつつ尋ねた。
「面白い話…どういう話なの?おっかない話じゃないよね…?」
「胡散臭い話だからその時は聞き流したんだけど、キミらの話を聞いてもしやって思ってね。聞いたのは、『邪神:バキ』封印の地…その謎がどうとか…」
「じゃ、邪神!?マズいよ勇者!もし先に五錬邪が見つけちゃったら…!」
真偽のほどはわからないが、否定する情報も無い以上、とりあえずは最悪の事態を想定して動くしかない状況。
「わかった急ごう。絶対に奴らよりも先に…むっ!?誰かいる!!」
勇者は柱の影に気配を感じた。
「…そこかっ!!」
博打はトランプを投げた。
盗子の額に命中した。
「うっぎゃー!!痛い!痛いよ!アタシが何したってんだよー!」
「す、すまない盗子ベイベー!柱の陰に誰かいたから俺は…!」
「柱って逆方向じゃん!なんで180度投げ損ねられるのかを知りたいよ!」
博打のミスでバタバタしている間に、謎の気配は消えてしまっていた。
残念ながら逃げられたようだ。
「もういない…逃げられたね。五錬邪一派の可能性もある、今すぐ向かおう!」
「ま、マジでかよブラザー?かなり遠いぜ?何十日…いや、歩きじゃ何ヶ月かかるか…」
その時、黙って話を聞いていたドクター・栗尾根が急に話に参加してきた。
「イヒヒ!ななならばワシが力を授けたり授けなかったりたりらりらり!」
「えっ、何か名案があるの栗子のお爺ちゃん!?教えて!アタシら困ってんの!」
「し、し知りたいか?なら言うぞ?言っちゃうぞ?ズバリ!!…ズバれば…ズバる時…?」
「ズバれよ!!変にもったいぶらないでよ!いいからさっさと言って!」
「なならばアレに乗ってい行くがいい。わ我が自信作、『音速車』だい!」
<音速車>
ドクター栗尾根が完全機械制御化に成功した、超高性能小型車。
対障害物センサー搭載で、安全な走行が可能となっている。
最高速度は確かに速いが、“音速”と呼ぶのは調子に乗りすぎだ。
「い、いいよ悪いけど遠慮するよ!アタシら乗り物には悪い思い出しか無いし!」
「だ、だ大丈夫ですよ盗子先輩!わ私がご一緒しまうまっすから!整備ししますから!」
ロボの反乱を招いた栗尾根の技術を不安視した盗子はソッコーで断ったが、祖父の代わりに栗子が食い下がった。
「なっ!?な何言ってるんだ栗子!そそんな危険な場所行くとか馬鹿だけだぞ!」
爺さんはウッカリ本音が漏れた。
「わ私は平気だから!お願いだから行かせちゃってよお爺ちゃん!お願い!」
その後、小一時間ほどかけて爺さんを説得し、なんとか同行を許された栗子。
僕らとしても整備士がいるのは助かる。
「さぁみんな、早速出発するよ。準備はいいか?栗子もいけそうな感じ?」
「えっ!?は、ははハイ!じ人生は冒険だと思いますよっ!!」
「それってどういう意味!?“逝けそう”なの!?もしかして“逝けそうな感じ”なの!?」
「ま、まぁ諦めようぜ盗子ベイベー。急ぐためには他に手は無さそうだし。」
「博打の言う通りだよボンゴレ、もっと落ち着いて。ホラ、姫ちゃんを見なよ。」
「このネジは…いいよね?」
「わー!どどどれも抜いちゃダメですよー!」
勇者は逝けそうな感じがしてきた。
その頃、五錬邪のアジトでは―――
「赤錬邪様!勇者一行を見張らせていた諜報員から、電報が入りました!」
「む?あのガキどもがどうかしたのか?よし、五・七・五で伝えろ!」
「えぇっ!?は、ハイ!その…ローゲ国・神の手掛かり・あるのかも!」
「わかりづらい。」
「そ、そんなっ!」
「ローゲか…桃錬邪が近いな。すぐに伝えろ、奴らより先に入手しろとな!」
「…は、ハッ!」
その晩兵士は悔しくて泣いた。
三日後。僕達がモレンシティを発ってしばらく経つが、今のところ意外にも快調に進んでいる。
ロボ博士の計算が確かなら、もうじき『ローゲ王都』に着くはずなんだけど…。
「だいぶ走ったな…。見たところ順調そうだけど、調子はどうなの栗子?」
「じゅ、順調ですよ!とととてもブレーキが壊れてから二時間とは思えませぬ!」
「えぇっ!?全然順調じゃないじゃん!ここまで来れたのが奇跡なんじゃん!」
「と、盗子ちゃん大変だよ…!」
「えっ、どーしたの姫!?他にも何か問題が…!?」
「お茶菓子が…切れそうだよ…!」
「今はそれどころじゃないから!茶菓子の前にアタシがキレるよ!?」
そして結局、ブレーキが壊れたまま…さらに走ること一時間。
ついに王都っぽい大都市が見えてきた。
このギマイ大陸は一国統治。
だから一応、僕らはローゲ国内にはずっといたことになるわけだけど、やはり“王都”となると何かが違う。
醸し出す雰囲気がなんか雄大というかなんというか―――
―――というのが、僕の最後の記憶。
気付けば僕らは、見知らぬ病院のベッドの上だった。
ブレーキが壊れたため仕方なく自動制御機能を破壊したところ、制御を失った音速車は見事壁に激突。
幸いにも近くにあったこの病院に担ぎ込まれたらしい。
医師の話では事故から三日も経つとのこと。
僕を含めて姫ちゃん以外は重傷を負ったみたいだけど、これ以上モタモタしてはいられない。
一応みんな動けるようなので、なるべく早く出発したいところ。
しかし、ここで一つ大きな問題が。
『ローゲ王都』という荒い目的地設定でここまで来たため、ここからどこに向かっていいかわからないのだ。
「…というわけで、とりあえず『王の間』の前まで来てみたわけだけども。」
「って、説明省略し過ぎじゃない!?いや、誰に対しての説明かはわかんないけども!」
勇者達が今いるのは、ローゲ城最上階の『王の間』前。もちろん不法侵入だ。
一つの大陸を治めるほどの王国…その王城に忍び込んだとなれば、本来なら声を殺しての隠密行動を取るべきだが、盗子は気にせず突っ込んだ。
なぜなら、気にする必要がないほど…城内は騒然としていたからである。
「ただ騒がしい方へと進んだら、まさかこんな場所まで来ちゃうとはな…。途中には兵士の屍の山…敵は相当ヤバそうだ。このままじゃもしかして…」
勇者の危惧する通り、王城は今まさに攻め落とされようとしているようだが、最後に残った者達が交戦しているのか、王の間からは戦闘によるものと思われる音がまだ聞こえていた。
「ぐっ…あぅ…!」
その時、扉の前に転がっていた、屍のようだった兵士が息を吹き返した。
「ご、五錬邪…おのれ…ゴフッ!は…早く…王を……頼む………」
兵士は再び動かなくなった。
「五錬邪…やはりそうか。王城を攻め落とそうなんて連中、そうはいないと思ってたけど…」
「どうするブラザー?一旦退くってのもアリだぜ?」
「…行くしかないだろう。きっと僕らはこのために、ここへ導かれたのだから。」
勇者が覚悟を決めたちょうどその時、扉の向こう側から叫び声が聞こえてきた。
(うわぁーー!嫌だぁーー!!)
「逃げ惑う声…やはり王国側が劣勢なのか!?急がねば…!」
(や、ヤメろ!ヤメてくれ!も…桃錬邪様ぁああああ!!)
(ギャアアアアアアアアアアッ!!)
「えっ、“桃錬邪様”…!?どーゆーこと勇者!?仲間割れか何かってこと!?」
「どうするブラザー?同士討ち希望なら待つのもアリだぜ?」
「い、行くに決まってる!誰であれ、無駄な血は流させちゃいけないんだ!!」
勇者は扉を開けた。
そこには、血に染まった桃錬邪の姿があった。
しかし、それはどうやら返り血などではなく彼女自身の血のようで、既に死にかけているように見えた。
「ど、どうしたんだ桃錬邪…だよな!?オイしっかりしろ!」
「待って勇者君、今度こそ…赤錬邪の線もあるよ!」
「無いから!!姫は黙っててよややこしくなるから!」
「はわわわ!へ、兵士さんもみなさん血祭りワッショイショイな感じで…!」
もちろん栗子が言うような楽しそうな状況ではなく、ちょっとした地獄絵図と化している王の間。
しかし、一方的な虐殺かと思いきや、倒れている者の半数は城の兵士らしからぬ格好をしていることから、五錬邪の手の者と思われる。
意外にも接戦だったのかもしれない。
「う゛…はっ…!…初代…いや、凱空の子…か。なんだよ…来ちゃったのか…」
ほぼ意識が無かった桃錬邪だったが、なんとか持ち直したようだ。
しかしなんだか、これまでとは様子が違った。
「…逃げな。お前らじゃ…勝てない…」
「か、勝てないって誰に!?というか逃げろって…お前は敵なんだよね!?」
敵だと聞いていた相手から出た想定外の言葉に、記憶の無い勇者は混乱した。
「フッ…死に際ぐらい…正気に戻るさ…。だから早く…“奴”が来る前に…!」
桃錬邪はフラグを立てた。
「なんでぇ…随分と客の多い王室だなぁオイ。おちおち便所にも行けねぇ。」
そしてソッコーで回収された。
現れたのは大柄の男。髪は短髪。顔の右半分は機械化されたような感じになっており、右目の位置で輝く赤い光がとても不気味だ。もう一方の目つきはすこぶる悪く、どう見ても悪人としか思えない。
男は全身に返り血を浴びており、状況的にこの惨劇を引き起こした張本人と見てまず間違いないと思われた。
「だ、誰だお前は!?お前なのかこんなことしたのは!?」
明らかに強者であるその男の迫力に圧され、勇者は後ずさりしながら尋ねた。
「あん?誰だよテメェ…?口の利き方も知らねぇのかぁ?」
「…さ、下がってな…凱空の子。アイツは突然、空から降ってきて…瞬く間にウチらと衛兵、双方を蹴散らした…化け物だよ。」
「そ、そんな…!これだけの人数を一蹴とか、どんだけヤバい奴なわけ…!?」
桃錬邪から聞かされた真相に震える盗子。
博打も同様だったが、恐怖を押し殺してなんとか交渉しようと試みた。
「ゆ、ユーの目的は何だい?できれば揉め事は避けたいんだが…」
「ククッ、目的は話すと長ぇ。だが俺様の趣味が“皆殺し”ってことだけは教えといてやるよ。」
「わーん!先生とわかり合えそうな人が出てきたよー!悪魔が来たよー!」
さらに震え上がる盗子。
だが勇者は立場上、退くわけにはいかない。
「そうか…ならば仕方ない。この『勇者』が、正義の名のもとに貴様を倒す!!」
「勇…者?ギャハハハ!こりゃ傑作だ、この星にゃまだそんなのがいたたぁな!」
「こ、この星…?お前は一体何者なんだ!?」
「俺様か?俺様は『ソボー』。悪ぃが『宇宙海賊』の正義は、この俺様自身だ。」
元の勇者と同じニオイが。