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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
59/196

【059】ガラン洞窟の決戦(5)

 相原医師の謎の薬により、猿のような姿と化した勇者と、群青錬邪の戦闘は熾烈を極めた。

 ニ十分ほどが経ち、勇者の最後の分身体が倒された頃には、群青錬邪もまたかなりぐったりとしていた。


「ゼェ、ゼェ、やっと…駆除できたか…ゼェ…畜生め……」


 致命傷こそ受けてはいないものの、防御と攻撃で全力を使い果たした様子の群青錬邪。

 マントにも広範囲に血が滲んでいる。


「チャンスじゃん!これって絶好のチャンスなんじゃない!?ねぇ姫!?」

「でもそんなに怪我はしてないよ?私にはわかるよ。」

「へ…?それってどーゆー…」

「…チッ!そういや『療法士』だったか…抜かったぜ…!やっぱ死神の野郎みてぇにゃ、いかねぇもんだなぁ!」


 なんと、満身創痍な感じはフェイクだった。

 群青錬邪は防御に神経を注ぎつつ、密かに力を蓄えていたらしい。


「一発ブン殴って気付いたぜ。さっきの分身体…原理は恐らく体毛を媒介にして大気中の氣を集約し、具現化する類のやつだ。それが意味するところ…テメェにも記憶力ってもんがあるなら、わかるんじゃねぇか小娘?」


 群青錬邪の言葉の意味する所に、盗子は心当たりがあった。


「じゃ、じゃあ前に…巫菜子の『大地の精霊』の攻撃を吸い取ったみたく…!?」

「そういうこった。打撃はだいぶ食らったしダメージはあるが、それ以上に得るもんがあったぜぇ!まぁ安心しろ、すぐに返してやらぁああああああああ!!」


 群青錬邪は攻撃態勢に入った。


「う、うわぁーーん!もう終わりだよぉーーー!!」

「えっとね盗子ちゃん、引いてみたよさっきの『魔導クジ』。これ何かなぁ?」

「えっ!?こ、この魔法は…!?姫!勇者!こっちへ…」

「死ねぇええええええっ!!」


チュドォオオオオオン!!


 群青錬邪、必殺の攻撃。

 辺り一帯が消し飛んだ。



「…ふふ、フハハハハ!やった!やってやったぜ雑魚どもがぁ!これで…」


 確かな手応えを感じ、勝ち誇る群青錬邪。

 だがこの手の展開でその反応は…早合点であるのが世の常だった。


「ふぅ~、危なかったよ。もうちょっとでアウトだったね~。」


「なっ!?な、なんだテメェは!?何モンだ!?」


 爆煙の中から現れたのは、盗子のようで盗子でなく、姫のようで姫ではない謎の少女。

 ちょうど二人を足して二で割ったような容姿に見えた。


「アタシ…?アタシは『姫子』。魔法〔三位一体〕によって降臨した、『盗賊』と『療法士』の力を併せ持つ…美少女戦士だよ。」


〔三位一体〕

 賢者:LEVEL48の魔法(消費MP220)

 人間・魔人・魔獣等、三体を融合させる超高等魔法。

 成功例が少ないため、何が起こるかは謎に包まれている。


「テメェ…さっきの小娘どもに似てやがるな。変身でもしやがったのか…!?」

「〔三位一体〕を使ったの。合体ロボに変形したんだよって誰がロボだよ!」


 姫子の中で盗子と姫が戦っている。


「さ、三位一体…だと…!?にしては小僧の面影は全然なくねーか…?」

「ノー!そんなことはないッキー!」

「いや、それ一時的なキャラじゃねーか!そんな適当な仕様なのか!?」

「そんなことより、いいの?さっき攻撃外しちゃったよね。もうお陀仏さんじゃない?」


 余裕の笑みを浮かべる姫子。

 だがそれは群青錬邪も同じだった。


「…フッ、甘ぇな!一度放ったら技は終わりと思ったか!?」

「えっ…?」


 なんと!放ったオーラがブーメランのように戻ってきた。

 そして幾重にも枝分かれして姫子に向かって降り注いだ。


ズドッ!ズドドッ!ズドドドォオオオオオン!!



 激しい攻撃の後、轟音と土埃が晴れると、そこには…傷だらけになってはいるものの、なんとか生きた状態の姫子がかろうじて立っていた。


「う…ぐっ…ちょっと…痛かったかも…」

「ほぉ、今ので砕け散らねぇとは随分と頑丈じゃねぇか。まぁ生きてりゃいいってもんでもねぇがなぁ!ブハハハハ!」


「…でも、もうコツがわかったよ。次はキュウ~ってしてキュピーーンってなってキュパァアアってなるよって意味わかんないよ!!」


 傍から見るとただの情緒不安定な人だった。


「コツだぁ?強がるじゃねぇか小娘。次はもう食らわねぇとでも?それとも、もう次の攻撃は無ぇとか思ってんじゃねぇだろなぁ…?」

「やめといた方がいいよ。それ以上は死んじゃうよ?」

「…ケッ、それ以上もクソも無ぇさ。どのみちもう、後戻りのできねぇ所まで…来ちまってるんでなぁ!!」


 群青錬邪から再び強大なオーラがほとばしった。

 まるで命を燃やしているかのようだ。


「ギャハハハ!今度こそ、終わりだぁあああああ!!死ねぇえええええええ!!」


 群青錬邪の攻撃。

 だが姫子は避けようとすらしない。


「なぁっ!?テメェ、なんで…」

「終わり…そう、終わりだね。アンタがね!!」


 なんと!姫子は攻撃を受け止めた。

 そしてなぜか逆に回復した。


「うぇっ!?う、受け止め…つーか逆に回復してんのは何故だっ!?」

「アタシは『盗賊』と『療法士』…相手のパワーを盗んで回復できるよ。諦めて死ねばいいと思う。」

「くっ…がはっ!オイオイ、なんだよ反則じゃねぇか…そんなの…ぐはぁっ!!」


 群青錬邪は崩れ落ちた。




 数分後。〔三位一体〕の変身が解けると同時に、猿化していた勇者もまた人の姿に戻っていた。


「…どう?今後心を入れ替えると言うなら…治療してあげてもいいが?」


 力なく横たわる群青錬邪に向かって、勇者は意外な言葉をかけた。


「ちょ、なに言ってんのさ勇者!?そんなことしたらまた襲いかかって…」

「殺すのは簡単だけど、できれば人は殺したくない。それじゃ悲しみの連鎖は断たれないと思うんだ。」

「ゆ、勇者…今さらだけどホントに勇者だよね…?」

「…フン、小娘の言う通りだ…放っとけ。どうせ俺の体は限界だ…げふっ!もう、助からねぇよ。」


 消え入りそうな声で群青錬邪は言った。

 確かにその言葉通り、治療できるレベルはとうに超えているように見えた。


「じゃあせめて、これ以上苦しまないように僕が介錯を…」


 勇者が情けをかけようとした、その時―――


「ハハッ、舐めんなガキが!誰がテメェなんかの手にかかって死ぬかぁー!!」

「なっ…!?」


 なんと!群青錬邪は自分の胸を貫いた。


「そ、そんな…!群青錬邪!しっかり!しっかりするんだ!」


 勇者は慌てて駆け寄ったが、それがもう助からない傷だというのは一目でわかった。


「ぐふっ!ぶはぁ…!そ…そうか…やっとか…やっと…俺は……」


 苦しそうに血を吐きながらも、なぜか安堵したような声を漏らす群青錬邪。


「や、やっと…?“やっと”ってどういう意味なんだ!?一体何を…」

「…ブハハハ!テメェ、俺を誰だと思ってやがる…“悪党”だぜぇ?教えてやるかよ!んなこたぁ自分で…考えな…」

「し、死ぬな!死ぬんじゃない群青錬邪!これじゃあ…これじゃあ結局…」


 勇者は激しく揺さぶったが、もはやその声は届いていないようだった。


「ふ…ふふ…。できるなら…そうだなぁ、次は…もうチョイ華やかな…色に……」


 群青錬邪は息絶えた。


「くそっ!ちくしょう…!」


 悔しがる勇者に、盗子はどう声をかけていいかわからない。


「ゆ、勇者…」

「結局僕は…何の活躍もしてないじゃないか…!」

「ゆ、勇者…!?」


 あくまでも自分の都合だった。




激戦の末、なんとか倒せた群青錬邪。

でもよく考えると結局は自滅だった気がしないでもない。

僕らの前の黄錬邪戦で消耗してたのかとも考えたけど、いま思うと最初から限界だったようにも思えた。


その後僕達は、倒れた黄錬邪と群青錬邪を弔うことにした。

こうなってはもう敵も味方も関係ない。


「燃やしてやろう。せめて最後くらい、赤い炎を身に纏うがいいさ。」

「アタシらがもっと早く着いてれば、もしかしたら黄錬邪は…。グスン。」


 勇者は火を放った。

 二人の遺体は炎に包まれた。


「勇者君…」

「姫ちゃん…いや、悪いけどさすがにこの状況で芋を持ってこられても…」

「アンタ不謹慎だよ!てゆーか人と一緒に焼いたような芋が食えるかー!」

「死んじゃってもね、お腹はすくと思うの。だから…」

「えっ…な、なんかゴメン…。いや、アンタの日頃の行いのせいなんだけども。」



 こうして二人を弔い、ガラン洞窟から脱出した三人は、早速次の街を目指して旅立つことにした。

 今の五錬邪の本拠地があるという『タケブ大陸』を目指すには、とにかく北上するしかない。


「じゃあ、そろそろ行こうか。先を急ごう。二人とも、忘れ物は無い?」

「うん!」


 賢二のことは忘れた。

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