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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
58/196

【058】ガラン洞窟の決戦(4)

 巧みな幻術で敵も味方も翻弄しつつ、実力差を見せつける教師。

 それは思わず敵に同情したくなるほどの、圧倒的なものだった。


「写念獣なら髪に紛れて“触角”があり、それを握るなりして刺激を与えると元の獣の姿に戻るそうです。そうならないってことは、アナタが本体ですね?」


 群青錬邪Aの頭部に触れながら教師は尋ねた。


「…ケッ、そうだよ!だったらなんなん…」

ピカッ!


 教師は〔獄炎殺〕を唱えた。


ズゴォオオオオオオオオオン!!


 群青錬邪Bは跡形も無く消し飛んだ。

 その圧倒的な攻撃力に、初見の勇者は驚愕した。


「い、一瞬で消し去った…!この先生ってこんな強かったの姫ちゃん…!?」

「脅威のマジックだね。」

「フフフ。タネも仕掛けもありまセーン。」

「そりゃ無いよね!ホントに消してんだもんねっ!」


 完全に形勢が逆転した。


 敗色濃厚となった群青錬邪。

 しかし、なぜか絶望した様子は見られなかった。


「さすがは悪名高い『死神の凶死』…怖ろしい幻魔術だよ。だが、そんな力を無条件で乱発できるはずがねぇ。恐らく何かしらの制約があるはずだ。」

「た、確かに…。もし何の縛りも無い能力だとしたら、アタシら絶対もっと酷い目に遭ってるよね…」


 盗子は想像しただけで震え上がった。


「それによぉ、あれだけの魔法攻撃力がありながら、俺と相棒を一網打尽にしなかったのにも何か理由があるはずだ。捕縛指令でも出てたか?」

「おや、なかなか鋭い読みですねぇ。お察しの通り、本体の方はできれば牢獄に送り返したいのですよ。さっきまではどちらが写念獣か自信が無かったのでねぇ。」


 教師のあまりの強さに、群青錬邪はかえって冷静になったようだ。

 しかし、冷静になったくらいで勝てるほど敵は甘くない。


「先ほどのリミッターの件、過去に犯した罪の件…できれば聴取したいことがいくつかあるのですよ。まぁあくまで“できれば”…ですがね。」


 教師は群青錬邪に向けて手をかざした。

 その時、勇者がその前に立ちはだかった。


「ま、待ってくれ!えっと…先生!ここは僕にやらせてほしい!」

「いや、しかし今のキミには荷が勝ちすぎる相手ですよ?」

「それでも退くわけにはいかない。かつての『勇者』達が、そうだったように!」


 親父は退きまくりだが。


「というか、今回まったく無いんだ…僕の“見せ場”が!」


 うっかり本音が漏れた。


「ふむ…まぁいいでしょう。別にキミがどうなっ…頑張ってくださいね。」


 こっちもうっかり本音が漏れた。


「頑張ってね勇者君。」

「ありがとう姫ちゃん。敵は一人だ、安心していいよ。」

「あ、アタシだって応援してるよ!頑張ってね勇者!」

「ありがとうポチ。」

「うわーん!ついに“人”ですらなくなったよー!」



 そんな勇者達のドタバタ劇を黙って見ていた群青錬邪。

 それはもちろん優しさなどではなく、どうやら密かに氣を練っていたようだ。


「さーて…んじゃまぁ、そろそろ再開といこうじゃねぇの。」


 先ほどまでよりも、さらに強大なオーラを身に纏っている群青錬邪。

 強い波動がピリピリ伝わってくる。


「特別だ。テメェらには俺の最大奥義を見せてやるよ。とくと見やがれっ!!」


 群青錬邪は霞んで消えた。


「なっ、消え…!?これで“とくと見ろ”とか言われても!」

「勇者にも見えてないの!?じゃあ桃錬邪みたく高速に移動してるわけじゃないってこと!?」

「ええ、違いますよ盗子さん。殺気も完全に消えている…最初に写念獣が背後に回ってきた時と同じですね。『氣功闘士』ゆえの能力でしょう。」

「ギャハハハ!そうさ!俺は全てのオーラを操り、姿まで消せるのさ!!」

「まぁ元々オーラ無かったですけどね。」

「う、うっさいわ!ほっとけ!」


 教師は精神攻撃も得意だ。


「フフフ。まぁ姿を消せたところで、たった一人で私に挑む…ぐっ!」


 なんと!何故か教師がダメージを受けた。


「な、なぜだ!?奴の声はあっちから聞こえたのになんで先生が…!お前は何か見えたかラフレシア!?」

「ううん、何も見えてな…って盗子だから!敵より先にアタシを見てよ!」

「ふぅ、油断しましたね…。どうやら先ほどの写念獣は…狩り損ねてましたか。」


 血が滴る脇腹を押さえながらよろける教師。

 その背後には、腹部に風穴の開いた群青錬邪Bが、同じくフラつきながら立っていた。


「ぐ…グヘヘ…!や、やってやったぜ…馬鹿め…騙されやがって…!」

「えっ!写念獣の方!?じゃあさっき先生の魔法で消されたと見せかけて、自分で消えて隠れてたってこと…!?」


 生きていたとはいえどう見ても満身創痍の群青錬邪Bだが、今がチャンスと見るや死力を振り絞って戦線に復帰してきた。


「ぐふっ!さぁ、やっちまおうぜ主よ…!俺ももう少しなら…動ける…!」

「すまねぇな相棒…。よし、一斉にいくぞ!最後にとっておきのヤツをお見舞いしてやるよ!!」

「やったよ勇者君!お見舞いゲットだよ!」

「そっちのお見舞いじゃねーよ!こっちのお見舞いだぁ!必殺『群青大氣砲』!」


 群青錬邪Aの攻撃。

 教師は〔反射鏡〕を唱えた。


〔反射鏡〕

 魔法士:LEVEL40の魔法(消費MP50)

 光術系の技を跳ね返す魔法。ジジイのハゲ頭の次くらいによく照り返す。


「ぐぁああああああ!?」


 跳ね返された技が群青錬邪Bに直撃した。


「なにっ!?は、跳ね返しただとぉおお!?」

「やはりお見舞いに“お返し”は付き物ですよね。」

「いや、“仕返し”だよねそれ!?似てるようで全然違うよね!?」

「そ、その余裕っぷり…まさかテメェ、さっきの被弾もまた幻術だったとか…抜かすんじゃ…!?」

「フフフ…さぁ、どうでしょうねぇ?」


 教師のあまりの余裕っぷりに、盗子も群青錬邪達も疑心暗鬼に陥った。


「まぁなんにせよ、これでやっと片方…片付きましたかね。」

「ぐふっ、す、すまねぇな主よ…。じ、地獄で…待ってる…ぜ……」

「あ、相棒ぉ…!うぉおおおおおおおおおお!!」


 群青錬邪Bは力尽きた。

 群青錬邪Bはゴリラ的な何かに変わった。


「よし、チャンスだ姫ちゃん!ここで畳み掛けて、奴を闇へ葬ってやろう!」

「わかったよ勇者君、私が頑張っちゃうよ!むー!〔退散〕!!」


 姫は〔退散〕を唱えた。


〔退散〕

 除霊師:LEVEL20の魔法(消費MP32)

 一定確率で悪霊を退ける魔法。悪徳セールスマンとかもたまに追い返す。


ピカァアアアアアアアアア!!


 激しい光が周囲を包み込む。



「…ん?」


 群青錬邪は消えてなかった。


「あ、あれ?姫ちゃん、退散…できてなくない…?」

「ダメじゃん失敗じゃん!や、やっぱ先生がなんとかし…って、先生!?」


 教師は“悪霊”と認識された。



姫ちゃんの退魔の魔法により、敵ではなく先生の人が消え去った。

まぁ“なぜか”とは付けづらい人だったので、納得いかないとも言いづらい状況。


とりあえず、今わかってるのは…好機だったはずが一転、スパッと希望が絶たれた感じだということ。

正直かなりヤバい気がする。


「う、嘘だよね先生…?また幻術とかじゃ…ないの…?」

「ゲハハッ!そりゃあ無ぇよ小娘。俺ら『氣功闘士』でもねぇ限り、ここまで綺麗さっぱり気配を消すのは無理ってもんだ。」


 盗子の疑問に答えたのは、頼りの教師ではなく群青錬邪だった。

 もし彼の言う通りなら万事休すだ。


「ひ、姫ぇー!あああアンタ何してくれてんのさ!?おかげで大ピンチじゃん!」

「タネも悪気も無いよ。」

「ちっとも謝ってるように聞こえないよ!」

「本格的にマズいね…。姫ちゃんは何か回避アイテムとか持ってない?」

「ごめんね勇者君、『バーベキューセット』しか持ってないよ。」

「アンタ何しに来たんだよ!?てゆーかどんな原理で隠し持ててたのその量!?」


 相変わらず規格外な姫。

 しかし今回は、いい意味での誤算もあった。


「あとは…こんなのしかないよ。」

「えっ…こ、これって『魔導クジ』じゃない!?だったら可能性あるかも…!」


<魔導クジ>

 魔導符がランダムで入っているクジ。

 ハズレが多いが、ごく稀にアタリが出ることもある。

 強制的に発動するため、ハズレの度合い次第では死のリスクもある。


「そうか、一応打つ手はあるのか…。実は一か八かだけど、僕にも考えがあるんだよタコ。」

「タコ!!?…いや、えっと、その考えって何なの?アンタ剣も抜けないのに…」

「確かに今の僕には剣も抜けない。やはり必要なんだよ…“ショック療法”が!」


 勇者は相原から去り際にもらった“謎の丸薬”を取り出した。


「ちょっ、駄目だよそれは絶対ヤバいやつだって!なんなら敵に食わせた方が効果的なやつだって!」

「でももしかしたら、失われた力…“以前の僕の力”を取り戻す薬かもしれない。勝つためにはもう、賭けるしかないんだ!!」


 勇者は丸薬を飲み込んだ。


「ぐわっ、臭っ…!」

「ちょ、勇者…ヤバいって勇者!!」

「ぐ、ぐがっ!うっ…ウッキャアアアアアアアアア!!」

「わ、わぁーー!勇者ぁーーーー!!?」


 謎の光が勇者を包む。


「ウッキーー!!」


 勇者の全身は厚い毛に覆われた。

 そのどう見ても猿的な姿は、明らかに想定外。

 “以前”どころか“進化前”の力を取り戻した感じだ。


「ウッキャーー!!」

「わーん!戻りすぎだよー!やっぱあの医者ヤブだったよぉーー!」

「わかる勇者君?これが“お手”だよ。」

「コラそこ!芸を仕込むな芸を!少しは状況察してよ!」

「ウキャ!」

「アンタもやっちゃダメ!!」


 状況はさらに悪くなった。


「…ギャーギャーうるせぇガキどもだ。ま、おかげで…十分な氣が練れたがな。」


 さも万全かのように振る舞う群青錬邪だが、実はそれはハッタリだった。

 本当は教師との戦いで既に力を使い果たし、少し休んだくらいでは氣を練ることもままならない状況だった。


「う、うわぁーー!さっきから大人しいと思ってたら、またこっそり力溜めてたってこと!?ヤバいじゃん大ピンチじゃん!勇者もこんなだし…」


 盗子はまんまと敵の策略にはまった。

 しかし幸か不幸か、猿化した勇者には警戒するだけの理性すら無かった。


「ウキョッ!キャキャッ!」


 勇者は怪しげな構えで敵を威嚇している。


「なにさ勇者その構え…?まさか“猿拳”とかそんな感じ…!?」

「さ、さるけん…!?」

「えっ、なんか知ってるの姫!?」

「そういえば聞いたことがあるよ。確かオスの蚊は血を吸わないとか。」

「いや、うん、きっと誰かに聞いた話なんだろうけど今は全く関係ないよね!?アンタよくそんなそれっぽい顔して言えるね!?」

「ウキャキャ!フゥ~~!!」


 勇者は毛を抜いて噛み砕き、息を吹きかけた。

 なんと!吹き飛んだ体毛が“分身体”に変化した。


「なっ!?六…八…チッ、十以上いやがる…!」

「ウッキャーーー!!」


 群青錬邪が身構えるよりも早く、分身体は一斉に襲い掛かった。


「一難去ってまた一難…ヘッ、面白ぇじゃねぇか。運命とらやらよっぽど俺に死んで欲しいらしい…。いいぜぇ、やってやらぁ!!」


ズガァアアアン!!


「ウギャッ!!」


 群青錬邪の攻撃

 勇者分身体Aはグシャッとなった。


「強っ!拳にオーラを纏ってるから!?気をつけて勇者っ!」

「ウキャキャーーー!!」

「ちょ!待っ!勇者!違う!からっ!アタシらは!味方だからぁーー!!」


 勇者は暴走している。

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