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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
51/196

【051】失った記憶

朝。目が覚めると、なんだか体中が痛かった。

でもなぜか全く心当たりが無い。


一体、僕の身に何が起こったんだろう。

というかそもそも…僕は誰なんだろう?


「おっはよー勇者!って、ギャー!!なんて顔してるのさ!まるでオバケじゃん!えっ、勇者だよね!?」


 朝一で部屋に乗り込んできた盗子は、あまりにも腫れ上がった勇者の顔面に、一瞬誰だけわからなかった。

 盗子のそんな様子を見て、逆に勇者は静かに問い返した。


「…ゆうしゃ?なるほど、僕の名は勇者というのか…」

「ど、どうしちゃったの勇者君?なんかいつもと雰囲気まで…」


 盗子の絶叫を聞いて駆けつけた賢二は、見た目以外の変化にも気付いたようだ。


「ふむ…どうやら僕は、鈍器か何かで殴打され、記憶喪失になったらしい。」

「き、記憶喪失!?って、そんな自覚ある記憶喪失ってあるの!?」

「だから悪いけどお前達、僕に…僕のことを知ってる限り教えてほしい。頼む。」


 しおらしく懇願する勇者。普段ならあり得ない光景だ。


「えっ…ホントに覚えてない…の?ホラ、僕は賢二だよ?親友だよね僕ら?」

「けんじ…ゴメン、わからない。そうか親友なのか…。ホントすまないな。」

「勇者君…そんな…」


 どう考えてもいつもとは違う勇者の反応に、ショックを隠せない賢二。

 だが盗子は逆に、この状況を好機と見たようだ。


「あ、アタシは“彼女”!そう、アンタの彼女の盗」

「それは無い。」


 勇者は食い気味に否定した。


「あっさり否定されたー!!」

「本能的な何かが、そう囁いた。勘弁してほしい。」

「謝られたー!!なんかその方がかえって傷つくよー!うわーん!」

「いや、この機に乗じて彼女と言い張った盗子さんも結構酷いよ…?」

「まぁ記憶は無くても僕は僕だ。悪いけどいつか思い出すまで、これまで通り頼むよ。」

「ホントに全部忘れちゃったんだね…勇者君…」


ところで姫ちゃんはどこかな?


 全部じゃなかった。




三日後。顔の腫れもなんとか引いたので、僕らは旅立つことにした。


記憶を失った僕だけど、賢二と盗なんとかって奴と、そのまま旅を続けることに。

そうすることが、記憶を取り戻す近道になると思うからだ。


なんでも今は、“神”とかいう連中を追っているんだとか。

見つかるかは知らないけど頑張ろうと思う。


「さて、朝食も済んだしそろそろ行こうか。日が暮れるまでに次の村に着きたいしな。」

「でもさ、平気なの勇者?記憶も無いのに旅するだなんて…」


 盗子は心配そうに勇者を見ている。


「いや、安心してくれ。教えてもらったことは全て記憶したよ、ジェニファー。」

「『盗子』だから!一文字も合ってないじゃん!根本から忘れてるじゃん!」

「だ、大丈夫!大事なことは覚えてるから!」

「フォローになってないどころか逆に傷つくよそれ!」


 盗子に厳しいという意味では今まで通りだった。


「でも勇者君、ホントに大丈夫?生活に不都合とかは無いの?」

「うん問題ない。生活習慣や時代背景的なものは、なぜか都合よく覚えてる。」


 記憶喪失設定にありがちな話だった。



「じゃあみんな、そろそろ行く?とりあえずおネェさん…麗華さんが教えてくれた場所にでも。」


 今は勇者が大人しいため、珍しく先導を買って出た賢二。

 実は前日の宴の際に、麗華からいくつか情報を得ていたのだ。


「でも候補は二つあったよね?どっちに行こっか?西?北?」


 麗華は麗華で“神”の痕跡を辿っているらしく、有力と思われる候補が二つあるということを、勇者達は昨晩聞かされていた。


「…なら西だ。なんとなく…北は嫌な予感がするんだ、ナンシー。」


「えっ、なにそれ勇者…ってだから『盗子』だっての!せめて語感くらい合わせてくんない!?」

「僕も西がいいと思うな。おネェさんは北に行くって言ってたし、被らない方が無駄が無くていいよね。」


なるほど…嫌な予感はそれでか。


 完全にトラウマ化していた。




数日後。記憶を失った村…今の僕にとっては始まりの地である『カヨミ村』から西に向かった僕達は、『ニシシ村』という寂れた田舎町に辿り着いた。


いや、“寂れた”と一言で片付けられるレベルじゃない。

もうなんというか、“崩壊”してる…。


「なんか…神探しどうこうって状況じゃないね。人っ子一人いなそうじゃない?」

「ごめんモニカ、こっちじゃなかったようだね…」

「ま、まぁしょうがないよ。二分の一だもん、外れたって気にすることないよ。謝るのは名前の件だけでいいよ盗子としては!」



 選択を誤った気はしつつも、既にだいぶ歩いたため簡単には引き返せない状況。

 仕方なく一同は、翌日仕切り直すこととし、今日のところは宿と食事を探すことにしたのだった。


「お腹すいたね。もう冬だし野宿ってわけにもいかないし…。でもこの崩壊具合だと期待できそうにないよね…?」

「あ!そうでもなさそうだよ賢二!なんかあの家だけ明かりついてない!?人がいるかも!」


 盗子の言う通り、夕暮れ間近の村の一角に明かりの灯った家が一軒だけ見えた。

 これで宿や食事の問題も解決するかもしれない上に、場合によっては諦めていた神の情報も手に入るかもしれない。


「ホラホラみんな早くー!なんか人がいる気配もするよ大正解だよー!ちゃんと表札も…えっ!?」


 盗子は表札に目を奪われた。

 堂々と“神様”と書かれている。


「な、なにこれ…?罠なのか馬鹿なのかどっちかだよね…?」

「どっちにしろ関わりたくはないけど、今は状況が状況…仕方ない。とりあえず話を聞こうか。」


 勇者は戸惑いながらも玄関を開けた。


「たのもー!ちょっと聞きたいことがあるんだけどー!」

「はぁ~い!どちら様ですかぁ~?」


 勇者が尋ねると、家の奥から少女の声が返ってきた。


「フッ、僕?僕はさすらいの記憶喪失…名前は思い出せない。」

「『勇者』だから!なんで今になってそこ忘れちゃうの!?」

ガシャーーン!!


 盗子のツッコミの直後、奥から皿か何かの割れる音と、驚きと歓喜の絶叫が響いた。


「えっ…?キャ、キャァーー!!ゆゆゆ勇者先輩!?勇者先輩だぁー☆」

「うげっ!あ、アンタはっ…!!」


「あ~ん☆会いたかったですぅマイダーリ~ン☆」


 なんと!なぜか弓絵が現れた。

 弓絵は当然のように勇者に飛びついた。


「なっ!?そ、そうだったのか…僕にはマイハニーがいたのか…!」

「違っ、騙されちゃダメだよ勇者!ってかアタシん時と扱いが違くない!?」

「…あれ?なんか様子が変ですぅ~。どうかしちゃったですかぁ~?」

「あー…それがね、勇者君ちょっと記憶を無くしちゃってて…」


 傍若無人さに欠ける勇者の態度に、さすがに違和感を覚えた弓絵。

 賢二はかいつまんで事情を説明した。


「ご、ごめん弓絵とやら。残念だけど記憶の片隅に塵ひとつの大きさも残ってないんだ。」

「いや勇者君、仮にそうでもそこまでハッキリと告げなくても…」

「そんなぁ~!それじゃあ弓絵と『弓者キュウシャ』ちゃんの将来はどうなるんですかぁー!?」

「コラそこー!勝手に愛の結晶を創るなー!しかも命名まですなー!!」

「そうか…僕達にはそんなラブリーな存在まで…!」

「だから騙されるなってば!勇者にはアタシっていう妻が」

「ありえない。」

「うわーん!!」


 人ん家の玄関で繰り広げられるドタバタ劇。

 そんな光景を奥の扉の隙間から、困惑しながら覗いている瞳があった。


「あ、あの…弓絵ちゃん、どないしたん…?」


 そして意を決して現れたのは、みすぼらしい格好をした老人。

 紫色のシワくちゃな肌に尖った耳、後頭部はカブトムシの幼虫のような形状をしており、どう見ても人間の形状ではない。


「あ、神クンちょうどいいところに!紹介します弓絵の伴侶ですぅ~!」

「いや、だから違うから…って、“神クン”!?じゃあホントにこの爺さんが神だってゆーの!?」

「本当なのか?本当にお前は、旧星暦の伝説の…」


 盗子の後に、勇者も改めて尋ねた。

 これまでなかなか痕跡を掴めなかった神が、こんなに堂々と表札まで付けて暮らしていたのだから疑われても仕方がない。


「あ~、いかにもそうやで。なんや、ワシに何かアレかいな?」

「な、なんかキャラ…軽くない?全然神っぽくないんだけど…」

「盗子先輩に何がわかるんですかぁ~?神クンを悪く言わないでくださーい!」

「ええこと言うた。いま弓絵ちゃん、ええこと言うたで。」

「悪いが僕も神らしくないと思う。」

「ですよねぇ~☆」

「ガーン。」


 場に緊張感が足りない。


「あ、あの…。実は違うとか?世界を滅ぼしかけたのは他の神様とか…?」


 賢二は失礼なことを聞いた。


「いやいや。ワシもこう見えて、いくつもの国を滅ぼしとったアレやで?」

「嘘だー!絶対嘘だよそんなの!全然強そうに見えないもん!」

「じゃあ聞くけど、一体どうやって…?」


 勇者は老人に詰め寄った。


「あ~…まぁ、“財政難”で?」


ま、まさかコイツ…!


 『貧乏神』が現れた。




“神”というくらいだからもっと偉大なものを想像していたのに、いざ現れたのは『貧乏神』。なんだかガッカリ感が半端ない。


でもさすが古い神だというだけあって、昔のことは色々と知ってるっぽい感じ。もしかしたら何か有力な情報が得られるかもしれない。


「お前がもし本物だというのなら、ぜひ詳しく教えてほしい。『人神大戦』とやらのことを。」

「ほぉ、人神大戦か…またえらい懐かしいアレやな。お前さんらはどこまで知っとるん?」

「えっとですね…これまで聞いてきた話を要約すると、旧星暦1024年…今から五百年以上前に起きた三体の神と全人類による大戦争のことで、なんとか人類が勝ったってことしか…」


 賢二はこれまで集めてきた情報を貧乏神に伝えた。

 しかしその話には一点、引っ掛かるところがあったようだ。


「三体…?なんや少し間違うて伝わっとるね。正しいアレは…“十二”くらいおったで?」

「えぇっ!?増えてんじゃん!実に四倍じゃん!」

「聞いた話では、三体の神がそれぞれ空・海・大地に封印されたと…」

「最終的なアレがやろ?他は途中で死んだり色々よ。まぁ封印された三体の強さが他とは一線を画しとったっちゅー意味では、あながち間違うたアレでもないのかもしれんがね。結局は倒しきれんで封印するしかなかったってアレやし。」


 貧乏神から告げられた想定外の事実。

 正しいかどうかの判断はつかないが、とりあえず今は信じて聞くしか無い。


「十二の神ですか…なんか神話っぽい感じが凄いですよね。でもそれだったら人間側に勝てる目は無いんじゃ…」


 賢二の言う通り、確かにそれだけの神々が天変地異でも巻き起こしたら、人類どころか地球レベルでひとたまりもなさそうだ。


「あ~…ちゃうちゃう。この“神”ってのはな、宗教家らが言うようなアレとはちゃうんよ。」

「へ?どういうことですか?よくある偶像崇拝的なものではないと?」

「まぁアレよ、“地球人の力を超越した存在”…平たく言やぁ“異星人”のことなんよ。せやから『人神大戦』や言うてもあくまで人と人とのアレやったわけやね。まぁそれでもアレらの力は尋常やなかったけど、地球人側にもなかなかに化け物じみたアレはおったしなぁ。いい勝負やったで?」

「なるほど。それなら一応筋は通ってるように聞こえるけど…」


 キャラが胡散臭すぎることもあり、勇者は未だ貧乏神を信じきれずにいた。


「じゃあいよいよ本題だけど、封じられた三体の神…その封印の地はどこにあるんだ?」

「それはまぁ…アレよ。ワシ逃げ惑っとったでな…実はよう知らんのよ。」


 肝心のところで使えなかった。


「ふむ…。無償で協力してもらってるだけに、肝心なところで使えないなとは言いづらい状況だね。」

「普通に言っちゃってるけどね勇者君…。でもさ、ためになる話も聞けたし…良かったよね?」

「んー、まぁそうだな。足りない情報は、また道中で集めればいいさ。」

「そう言うてもらえると助かるわ。すまんね。」

「じゃあとりあえず今日はもう寝ようか。そして明日は早めに出よう。」


 勇者は許可も取らずに泊まる気マンマンだ。

 そんな勇者を、なにやら物欲しげな表情で見つめる貧乏神。


「…なぁ坊よ。もう一人くらい仲間、増えよっても…平気かなぁ?」

「ん?うん。仲間は多いに越したことは無いけど、それが?」


 勇者が問い返すと、貧乏神は茶をすすって一呼吸入れてから続けた。


「ワシも無駄に長く生き過ぎたが、もうそう長くもないやろと思う。せやから…どうせ死ぬんやったら、最後くらいは誰かの役に…」

「貧乏神、お前…」


 貧乏神が仲間になりたそうにコチラを見ている。

 仲間にしてあげますか?


   はい

 ⇒ いいえ




翌朝。申し訳ないけど、貧乏神は置き去りにして旅立つことにした。

やっぱり貧乏旅はゴメンだよ。


「みんな準備はできた?次の村は遠いんらしいし、別れを済ませたら向かうよ。」

「弓絵ちゃんも行ってまうんか…なんや寂しくなるわな…」


 偶然再会した弓絵だったが、ここでみすみす勇者を見逃すわけがなかった。

 当然のように荷造りを済ませ、ついて行こうとしている。


「そうですかぁ~?弓絵は勇者先輩といられれば幸せでぇーす☆」

「いや、そこはこう…もっと名残りのアレを…」


 貧乏神のハートに100のダメージ。


「じゃあそろそろ行こうか。貧乏神…微妙にだけど世話になったね。じゃ。」


 貧乏がうつると困るので、勇者は早々に立ち去ろうとしている。


「あ~チョイ待ちぃや。最後に坊よ、その盾のことなんやけどな…」

「ん?僕の盾に何か?」

「その盾、その模様…そりゃアレよ。『破壊神』の…アレやね?」

「なっ!?」

「勇者君は記憶無いだろうけど、確かにそうらしいんだよ。でもなんでそれを貧乏神さんが…?」

「ちょうどアレが盾に“練成”されるっちゅーとき、たまたま近くにおってな。こっそり見とったんよ。その見た目は確かにあの時のアレやわ。けど…魔力は一切感じんのが気にはなるがね。」

「んー、それは今の勇者君が“浄化”されちゃってることと関係があるのかも…」


 賢二はサラッと失礼なことを言った。


「てことはさ、もしかして他にも似たようなアイテムあったりすんの?他の神の力とか持った…」

「ええ勘しとるね盗賊の嬢ちゃん。神々の骨やら牙やらから『錬金術師』が練成したっちゅーアレが、あるやら無いやらやね。ワシも全部は知らんが…まぁ探して損は無いやろな。」

「わかった、ありがとう貧乏神。今後は呪われてないヤツを探してみることにするよ。」

「まだですか~センパァ~イ?こんなお爺ちゃん放っといて急ぎましょうよ~。」

「ガーン。」


 弓絵は振り返りもしなかった。

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