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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
50/196

【050】知った秘密と代償

パンシティを離れ、封印された神を探すこと数ヶ月…。

季節は冬になっていた。


だが、これまでは大した成果は無し。

知っていそうな老人どもに片っ端から話を聞いたが、“神”と聞いて反応する者は特にいなかった。


もしかしたらアプローチが違うのかもしれん。

五錬邪らも神を追っているというのなら、奴らをとっ捕まえて吐かせる方が簡単なのかもしれない。


「ふぅ~。やれやれ、この村でも大した成果は無しか…」


 勇者達が今いるのは、パンシティから北へ進んだ『カミヨ村』。多くの露店が集う『露店市』で有名な街だ。

 ギマイ大陸は南北に長い大陸であるため、タケブ大陸を目指す一行は基本的に北上しながら進んでいた。


「にしても腹が減ったな…。そういや賢二はどうした?」


 溜め息をつきながら、勇者は盗子に尋ねた。

 パンシティからは四人で旅立ったはずが、今は色々あって姫はいないようだ。


「あ、なんかお昼買ってくるってさ。適当に待っててって。」

「そうか。じゃあ俺達は武器屋でも狩ってくるか。」

「狩らないから!“弁当屋で買ってくるか”みたいなノリで物騒なこと言わないでよ!たまにはちゃんとお金出して買おうよ!」

「オイオイ、無茶を言うな。俺達のどこにそんな金が…」

(金が無ぇだとぉーー!?)


 勇者の声に被せるように、露店市の方から男の怒号が聞こえてきた。

 そしてその後に、騒動の相手と思われる女の声が続いた。


(まぁそう声を荒げるな店主。確かに今は手持ちが無いが、後でちゃんと弟子が払いに来る。)

(誰が信じるか糞アマぁ!食った分いますぐ払いやがれってんだ!)


 悪びれる様子の無い女の態度に、店主と思しき男の怒声はさらに勢いを増した。


「なんか荒れてるっぽいね、あの露店。あれ助けたらお金になんないかな?」


 盗子が言ったのは、普段なら勇者が先に言いそうなこと。

 だがなぜか今回の勇者にはその気は無さそうだった。むしろ関わりたくなさそうに目を背けている。


「…いや、関わるな。弟子が払うとかどうとか聞こえた。」

「ふ~ん。ま、そだね。当人同士の問題だよねやっぱ。」


(金が無ぇなら洗え!皿を洗っていきやがれ!そしてその心も洗ってけぃ!)


「あの店主、いいこと言いやがるぜ…。俺は、払う気はない。」

「へ?勇者、今なんて…」


 勇者は逃げ出した。

 だが謎の影に背後を取られてしまった。


「なっ!?馬鹿な、あの距離を一瞬で詰める…だと…!?」

「えっ!えっ!?な、なにこの女の人…誰なの!?」

「勇者よ、なぜ逃げる?まさか忘れたわけではあるまいな…?自分の“師”を。」


 さすらいの剣士『麗華』が現れた。

 四号生の夏以来となる、実に五年半ぶりの再会だった。


「くっ…!は、放せ!とりあえず鼻はやめろ!もげるっ!」

「心配をかけたな店主。コイツが今しがた話していた我が愛弟子だ。」


 勇者は為す術無く店主のもとへと引きずられていった。


「なんだとこの野郎!テメェか!?テメェが悪の落とし子か!?」

「ふ、フザけるな!誰がこんな性悪の…!俺の母は『元魔王』だ!」

「いや、そっちの方が悪っぽいよ勇者!むしろ究極だよ!?」


 現在進行形で圧倒されているだけに勝ち目が薄いのは肌で感じつつも、だからといって大人しく従う勇者ではなかった。


「とにかく!俺はビタ一文払わんぞ!たとえどんなに脅されようともな!」

「おぉ、奇遇だな。ワシも脅すのは面倒だと思っていたんだ。」


 麗華は抜刀しながら遠回しに脅した。


「ぐっ、おのれ…!この俺が…この俺が…!」

「ちょっ、アンタ!勇者をイジめないでくれる!?ななな何様のつもり!?」


 震えながらも勇者を庇おうとする盗子。


「ワシか?ワシは麗華。“麗しい華”と書く、乙女チックな『乙女剣士』だ。世話になった恩師の窮地に遭遇したんだ、受けた恩を弟子が返すのは当然だろう?」

「えっ、恩師…なの…?」

「くっ…!お、覚えてろよ!いつかこの上下関係を覆してやる…!」

「フフッ、舐めるでない。このワシには死角なんぞ皆無…」


 麗華が勝ち誇るように笑った、その時―――


「オーイ、ただいまみんなー!お待たせ…って、あれ?このおネェさんは??」


 買い出しに出ていた賢二が戻ってきた。


「に、逃げろ賢二!たった今、新たな『魔王』が降臨し…」

「お、おおおおお姉さぁあああんっ!?」


 なぜか麗華は激しく取り乱した。


「ん?どうした貴様?メチャメチャ動揺してるようだが…」

「い、いや、なんでもない。少々乙女のツボを突いたセリフだったものでな…」

「おねえさん。」

「さぁ勇者、素敵な墓石を選びに行こうか。」


 聞いた話と違った。


「なぜだ!この扱いの違いはなんなんだ!?」

「え?え?い、一体何がどうなって…?僕にはちょっと…」


 状況がわからず混乱する賢二。


「う、ううん。なんでもないのよ♪うふふ☆」


こ、コイツまさか…!


 勇者は麗華の弱みを握った。




賢二に対する麗華の態度を見て、俺は気づいた。

間違いない、コイツは賢二の姉…『賢一』だ。

確かに良く見ると顔つきや髪色など、よく似ている気がする。


となると、奴が多用する“乙女”という言葉…あれは男のような名を持つことへの反発心の表れと考えると辻褄が合う。


まぁなにはともあれ、これは大チャンスだ。

このネタで奴を脅せば、立場は一瞬にして逆転できることだろう。


だが、奴もそう簡単には認めまい。なんとかうまい具合に言質を取らねばならん。


「と、ところでだ師匠…こんな所で何してるんだ貴様?」

「じゃあホントに勇者のお師匠さんなんだー!なんだよ前に聞いた話と全然違うじゃん!美人さんじゃん!」

「やれやれ…。その様子じゃ、とんでもないブサイクとでも聞かされていたようだな。」

「いや、髪の毛が“蛇”とか…」

「化け物じゃないか!ブサイクどころか見ただけで石じゃないか!」

「ちょ、ちょっとしたジョークだ気にするな。ところで質問の答えは?」


 勇者は強引に誤魔化して話を元に戻した。


「…ふぅ~。“神”を追っている。どうやらこの辺りにいるようなのでな。」

「あっ、おネェさんも神を探してるんですか!?」

「お、お姉さぁーんっ!!」


 賢二の“おネェさん”に麗華は再び取り乱した。

 賢二は驚きのあまり硬直した。


「気にするな賢二、ただの発作だ。コイツは末期の『おネェさんビックリ症候群』なんだ。」

「へ?あ…そ、そうなんだ。そう言われると相手を抱きしめてしまうの、だっ☆」


 なぜか庇うようなことを言った勇者に、本来なら誰しも警戒するところだが、欲望が暴走した麗華はそれどころではなかった。


「うぐぅ。く、苦しいですよ~。」

「おネェさんビックリ症候群?聞いたこと無いけど…そんなんホントにあるの?」


 賢二にだけ過剰に反応する麗華に対し、盗子は不信感を抱いたようだ。


「何を言う?お前の兄は末期の『ラブリー妹病』じゃないか。」

「痛い、痛いよ勇者…。現実って痛いよ…」


 盗子は信じざるを得なかった。


(あぁ…幸せだなぁ…)


 麗華は天にも昇る気持ちだった。


(ぐ、ぐるじぃ…)


 賢二も違った意味で昇りそうだ。




 そのまま宴に突入した一同は、露店を何軒か空にする勢いで豪快に飲み食いし、そして逃げた(金が無いため)。


 隣の村に逃げ延びた後、同じ宿屋に泊まった勇者達だったが、その深夜…こっそりと逃げるように旅立とうとする麗華の姿があった。


 名残惜しそうにボーっと宿屋を見つめる麗華。

 そのため死角から近づく者の気配にギリギリまで気付かなかった。


「…おっと、ワシとしたことが背後を取られるとは酷い有り様だ。もう待ち合わせの時間か、待たせたなエン…」

「なんだよ麗華、目的は同じなのに別行動なのか?つれない奴だなオイ。」


 勇者が現れた。


「ッ!?…お前か。若いうちから夜更かししとると背が伸びんぞ?早く寝ろ。」


 待ち人ではなく勇者が現れたことで一瞬硬直した麗華だったが、その後は努めて冷静に振る舞った。そのままやり過ごすつもりのようだ。

 そんな彼女に対し、勇者は思いつめたような表情で何かを言おうとしている。


「なぁ師匠…いや、何でもない。気にしないでくれ。」

「ん?どうした勇者、言いたいことがあるならハッキリ言うがいい。」

「実はな師匠…いや、やっぱ何でもない。」


 勇者のらしくない態度に、麗華は苛立ちを覚えた。

 露骨に不機嫌そうに背を向け、その場を去ろうとしている。


「…ワシは煮えきらん男は嫌いだ。もう行くぞ?サラバだ。」

「あ、そうだ賢一!」

「だからなん…ハッ!!」


よっしゃ勝った!俺は勝ったぜー!!


 勇者のトラップが鮮やかに決まっ…


ドガッ!バキッ!バコバコッ!メキャッ!ドスッ!グゴバキッ!グキッ!ドスドスッ!ババババシッ!ズゴッ!ドバシッ!ズババン!ドゴッ!ゴンッ!ガコンッ!バシッ!ズガンッ!ズガガガガン!ズガガガガガガガンッ!ザシュッ!ドバシュッ!ザンッ!


ぼ、僕は…一体…?


 勇者は記憶を失った。

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