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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
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【047】ナンダの塔(2)

ナンダと盗子の結婚披露宴にて、うっかり大声を上げてしまい、列席者の視線を集めてしまった俺。

そして同時に、なにやら不本意な状況になっていることに気が付いた。


とても面倒ではあるが、祝宴の席を盛り下げるような真似をするのは無粋だろう。

適当に話を合わせて乗り切るとするか。


「ま、待たせたな盗子…迎えに来たぞ!」

「えぐっ、う、嬉しいよ勇者ぁ~ん☆」

「さぁ、潔く死ぬがいいっ!」

「えっ!そっちの“お迎え”なの!?」

「は、早く逃げようよ勇者君!ボヤボヤしてるとホントにそっちのお迎えが来ちゃう!」


 賢二は逃げようとした。

 だが当然、ナンダがそれを許さない。


「おっと、逃げられるとでも思うのかね?キミ達にはここで死んでもらう!」

「ほぉ、この俺を殺すだと?やれやれ、女の趣味のみならず頭まで悪いとはな。」

「ちょっと勇者!さりげなくアタシをバカにしないでよ!」

「このブサイクめが!!」

「ごめん、さりげない方がまだいいわ…」


 勇者は勘が戻ってきた。



「衛兵、集まれー!邪魔者を排除しろー!」


 ナンダは仲間を呼んだ。

 二十人を超える衛兵が現れた。

 敵の本拠地でこの戦力差はヤバい。


「ナンダ様!何事ですか!?」

「見ればわかるだろう、結婚式荒らしだ!さっさと片付けないか!」

「ヘッヘッへ、どうやら久々に暴れられるみてぇだなぁ。」


 ナンダが声を荒げると、衛兵団の後方からガラの悪そうな一団が現れた。

 装備の違いから見るに独自に雇われた傭兵達のようだ。


「んで?これから痛い目に遭う可哀想な奴ぁ一体どんな…」

「…あ゛ぁ?」


 ガラの悪さでは負けない勇者。

 精一杯の殺意を込めて睨み返したが所詮は子供。大の大人がビビるはずはない。


「『蒼い悪魔』キタァーーー!!」


 だがなぜか全員が腰を抜かした。


「あん?誰が悪魔だって?舐めた口きいてると脳髄をすするぞオラァ!!」

「すするなよ!そういう発言が誤解を招くんだよ!?まぁアタシ的にはその相変わらずな感じは懐かしくはあるけども!」

「ひぃいいい!お、お助けぇーーー!!」


 衛兵達は逃げ出した。


「お、オイお前達!どこへ行くつもりだ!?オイッ!!」

「蒼い悪魔…一体どういう意味なんだろうね?勇者君、心当たりは?」


「フン、まったくわからん。この街には初めて来たし、恐らく誰かと勘違いしてるんだろうが…まぁ縁があるならいずれわかるさ。それより今は敵を倒すのが最優先だ。」

「ハッ…!ま、待て!待ってくれ!話せばわかる!」


 尻餅をついた状態で後ずさりをしながら、命乞いをするナンダ。

 その眼前に姫が立ちはだかった。


「じゃあ問題です。私の好きな食べ物はカキ氷です。」

「いや、すまない!やっぱりわからないかもしれない!」


 姫の精神攻撃。

 ナンダは混乱した。


 だが、勇者の狙いはナンダではないようだ。


「フッ。安心しろナンダ、貴様のような雑魚は後回しだ。」


 そう言うと勇者は、ナンダとは逆方向に向かって語りかけた。


「世の中、こんなにトントン拍子に事が運ぶわけがないことを俺は知っている。それに、これだけ大々的な式だ…そりゃあ嗅ぎ付けるだろうよ。なぁ、五錬邪?」


 勇者の口から出た予想外の名前に、追われる身である盗子に戦慄が走る。


「えっ、五錬邪!?いるの!?どこに!?じょじょ冗談だよね!?」


「…へぇ、ちっとは鼻が効くようになったじゃないかボウヤ。」


 勇者の目線の先…何も無かったはず物陰から、音も無く桃錬邪が現れた。

 盗子は腰を抜かした。


「参ったねぇ。今度は脅しじゃなく、サクッと掻っ切ってやるつもりだったんだがな…その首。」

「フン、もう六年前の俺ではない。地獄で後悔したくなければ、くれぐれも甘く見んことだ。」

「へぇ、そりゃあ面白い…どうやら少しは、楽しめそうだねぇ。」


 血生臭い余興が始まる。




盗子とナンダの結婚式に割って入ってきたのは、六年ぶりの再会となる桃錬邪。

コイツには前回命を握られた借りがある。今回は圧倒せねば気が済まん。


「久しいな桃錬邪。前の時は先公の邪魔が入ったが…安心しろ、今日の邪魔者は盗子しかいない。」

「なんで敵より先にまずアタシを傷つけるの!?」

「初代レッドの子…色々と聞いてるよ?アンタこれまで何かとウチらの邪魔してくれたみたいじゃん。ちっとばかし…おイタが過ぎるんじゃないか?」


 桃錬邪は威圧した。

 だが勇者に怯む様子は無い。


「おイタだぁ?フッ、残念だが貴様はこれからもっと痛い思いをすることになる。覚悟するがいい。」

「あ?なんだ、やけに強気じゃないか。勝算でもあるっての?」

「前に親父に聞いた。貴様の職業は『密偵』…暗殺美の『暗殺者』と同じく隠密系の職業だが、戦闘タイプの『暗殺者』と比べて情報収集寄りだって話だ。つまり攻撃力自体は雑魚並ってことだろ?」

「…フフッ。ああ、確かに攻撃力はショボいかもね。けどその代わり…」

ヒュン!


 突如、桃錬邪は目の前からいなくなった。


「なっ!消えた!?」


ザシュッ!


 桃錬邪の攻撃。

 商南に30のダメージ。


「わあっ!!」

「あ、商南!?」

「だ、大丈夫や!そない深ないわ…!」

「いや、いたんだなと思って。」

「そっちに驚いたんかい!久々の再会やろ思て気ぃ使って損したわ!」

「は、速い…!そっか、攻撃力の代わりにスピードがズバ抜けてるんだね…!だったら…!」


 賢二は防御魔法を展開した。

 勇者も剣を構えて攻撃に備えている。


「なるほど、高速移動に乗じての斬撃…こりゃ少々厄介うぉっと!!」

ガキィイイン!


 勇者は間一髪で攻撃を防いだ。


「なっ!?…チッ!」


 今の攻撃で仕留めるつもりだった桃錬邪は慌てて距離を取った。

 その隙に勇者に駆け寄る盗子。勇者の近くが一番安全と踏んだようだ。


「ねぇ勇者、アンタ今のが見えてるの!?あんな速いのが…」

「かろうじてな。だが姫ちゃんと商南を庇いながらとなると…かなりヤバい状況だと言える。」

「もっとヤバいのは庇ってもらえないアタシの状況だけどね!」


 想像以上のスピードで攻撃を繰り出してきた桃錬邪。

 そんな状況に違和感を覚えた勇者。当然盗子なんかに構っている場合じゃない。


「ふむ、やはりおかしいな…いくらなんでも機動力が想定外だ。前回は片手片足に付いてた『呪縛錠』が、今は見当たらんとはいえ…」

「なっ!?呪縛錠言うたら囚人の力を抑えるてやつやんか!なんやコイツそない厄介な奴なん!?」

「ん?ああ。『魔王』の威を借りて世界を荒らしてる悪党『五錬邪』の一員だ。」

「最悪やんか!ただのコスプレ趣味やとばかり…って、でも何がおかしいんや?そない極悪な奴らなら、強かったかて不思議は…」

「いや、そもそも親父の知る桃錬邪は雑魚だったらしいんだ。群青錬邪の奴もそうだったらしい。」

「えっ、アイツが!?あんな強かったのに!?」


 盗子は以前の死闘を思い出して驚愕した。


「仮に親父と離れてから修行したにしても、これほどの戦闘力を身に付けるのは容易じゃないはず…何かしらのカラクリがあるに違いない。」

「限界を超えた力…。もしかしたら、前に巫菜子さんが血を吐いたって件と何か関係があるのかもしれないね勇者君。」

「もしかしたら、前に巫菜子が血を吐いた件と何か関係があるのかもしれんな。」


 賢二はいなかったことにされた。


「とまぁ色々と気になることはあるが…今は!」

キィイン!

「それどころじゃ!」

チュイン!

「無さそうだがな!!」

ガキィイイン!!


 なんとか攻撃を受け止めてはいるものの、徐々に反応が遅れ始めている勇者。


「チッ、持久戦に持ち込んで体力切れを狙うつもりでいたが厳しそうだな…。それより先にこっちの集中力が切れそうだ。思ったよりキツいぞ。」

「じゃあどないすんねん!?さっきから防戦一方やん!何か攻め手は無いん!?」

「防御に集中してこのギリギリの状況だ、半端に攻めるのはかえって危険だな。攻撃時にはどうしても隙が生じる…それを見逃す敵ではあるまい。狙うなら“一撃必殺”…そして通じるとしたら恐らく、敵の虚を突く“奇策”のみ…」

「じゃあダイナマイトでドカン!だね。」


 姫は物騒なことを言った。


「アタシらごと!?そんなの奇策にも程があるから!奇抜ならいいってもんじゃないから!」

「なるほど、爆発に巻き込み動きを止めるってわけか…。このまま何もせねば確実に殺される…ならばイチかバチかに賭けるべきやもしれんな。」

「イチでもバチでも死にそうな気がするけどね…」


 賢二は明るい未来が見えない。


「はい勇者君!これを使えばいいよ!」


 姫はおもむろに何かを取り出した。


「おっ!持ってたのか姫ちゃん準備がいいな!そうそう、この古代の香りがなんとも…って『アンモナイト』じゃないか!」

「なんてベタベタな!今日びそないなボケ誰も使わへんで!?」

「でも実践したのは人類初じゃない!?まぁ命懸けでやるこっちゃないけども!」


 姫のせいで無駄に混乱する一同。

 その隙を見逃す桃錬邪ではなかった。


(死ねっ!!)


「(殺気…!)ヤバい!来るぞ!!」


 勇者は殺気に気付いたが、完全に背後を取られ防御が間に合わない。


「くそっ、避けきれ…」


 死を覚悟する勇者。

 しかしその時、勇者が見たのは走馬灯ではなく…姫の手の中にあるものだった。


「ついたよ勇者君、火。」



チュドォーーーーン!!



 ダイナマイトで合ってた。

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