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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
46/196

【046】ナンダの塔

 ギマイ大陸―――五大陸の中で最も近代的な文化を持つその大陸の中でも、五本の指に入る大都市『パンシティ』。

 そんな近代都市の中心に建つ『ナンダの塔』…その地下牢獄に、盗子はいた。


「入れ。」


 看守は牢獄内に盗子を蹴り込んだ。


「ちょっ、仮にもアタシは花嫁さんでしょ!?なんでまた牢屋に入れるのさ!」

「逃亡でもされたらナンダ様に殺されるんでな。殺しはしない、安心しろ。」


 看守は鉄格子を閉じ鍵を閉めた。


「ムッキィー!絶対いつか逃げ出してやるかんねーだ!」

「だ、大丈夫だ盗子先輩!きっとトーコちゃんが助けを呼んで来てくれるんだ!」


 怒りが治まらない盗子を落ち着かせようとしているのは、学園校の後輩であり勇者の弟子でもある土男流。

 メカ盗子が勇者に助けを求めたのは、どうやら『人形師』である彼女の指示だったようだ。


「でもさー、アタシらが捕まってから結構経つよ?ホント大丈夫なのアイツ?」

「問題無いさ!だってトーコちゃん、人工知能をアップグレードしたし!」

「あ、そういえば言葉がちょっと流暢に…。じゃあ他には何がどうなったの?」

「よりお兄ちゃんが大好きに!」

「一番いらない能力じゃん!むしろ無くなってほしい部分だよ!」

「信じようぜ盗子先輩!あとはトーコちゃんを…そして師匠を信じて待つしかないんだー!」

「そう、そこなんだよね…。仮にアイツが勇者と会えたからといって…ねぇ?」


 盗子は希望が持てない。


「きっと大丈夫!師匠なら…」

「来るわけないじゃん!あの勇者が、アタシを助けになんて…!」

「来るさ!だって盗子先輩…酷い目に合いそうだし!」


「じゃ…じゃあ見に来そう!!」


 どのみち希望は持てない。



盗子に呪われたナンダという男を救うため、俺達はギマイ大陸を目指し海を渡ることにした。


よし、まずは船を探そう。この際だから金に糸目はつけず、豪華な船を借りよう。

この辺りからギマイ大陸への航路が安全なのはわかっている。

だが、船や船長が駄目なら全ては台無しなのだ。

今まで乗り物絡みで散々苦労した。同じ過ちを何度も繰り返すわけにはいかない。


というわけで俺達は、良い船を探して歩いた。

ひたすら歩いた。

ただただ歩いた。


そして、ギマイ大陸に着いた。


 陸続きだった。




夏。エリン大陸を発ってから、早くも季節が一つ変わろうとしていた。


ギマイ大陸に着いた俺達は今、『パンシティ』という街にいる。

ナンダが仕切る街らしいが、思っていたよりデカい街で少しワクワクする。


「ふむ、あそこに見えるのが『ナンダの塔』か…。よし、乗り込むぞお前達!」

「盗子さん…無事ならいいけど…」

「フン、くだらん心配するな賢二。そんなことよりロボよ、そういや盗子は桃錬邪に喧嘩売ったとか言ってたが、具体的に何をしたんだ?」

「盗子、神ノ封印ヲ解ク鍵 盗ンデ隠シタ。トテモ重要ナ…ロボチガウ!」

「ハァ?“神”だぁ?なんだなんだ、五錬邪はそんな胡散臭いものを探してるってのかよ?フッ、笑わせるぜ。」

「せやで。神なんておるわけないのになぁ。」

「そんなことないよ商南ちゃん。私は会ったことあるよ、小料理屋で。」

「姫ちゃん、残念なお知らせがある。多分それは“女将オカミさん”だ。」


 メカ盗子の口から出た“神”という単語に、勇者や商南は懐疑的だが、賢二には少しばかり聞き覚えがあるようだ。


「そういえば僕、聞いたことあるかも…。確かに過去、“神”と呼ばれる人達は実在したとか…」

「フン、ありえんな。神なんて所詮は伝説上の存在だ、いるはずが無い。」


というか、伝説でなきゃ困る。


 勇者は『破壊神の盾』を装備している。




 勇者達がナンダの塔に到着したちょうどその日。

 塔の最上階では、ナンダと盗子の挙式兼披露宴が執り行われようとしていた。


「それでは新郎新婦の入場です。みなさま、盛大な拍手でお迎えください。」


 扉の向こうから聞こえてくる司会の声。


「さぁ、行こう花嫁さん。お義父さんはいないから、入口から二人で歩こう。」

「イヤッ!いぃーやぁーだーってばー!!放せロリコン!死ねっ!!」

「おや?よく知ってたね。僕の両眼が『ロリータ・コンタクト』だって。」

「一体どんな世界が見えるんだよそれ!?」


 ナンダは決して屈強な肉体というわけではなかったが、それでも大人の男。

 盗子は抵抗虚しくバージンロードを引きずられながら現れた。


「新郎ナンダ。アナタは健やかなる時も病める時も…」

「な、なに勝手に大詰めに入ろうとしてんのさ!?まだ入場途中だってのに!」

ピポーン!

「誓います!」

「って早押しクイズかよ!そんなテンポで進めるべき式じゃないよ!?」

「いいや、そんなことはない。光陰矢の如し…急がねば人はすぐ老いてしまう。」


 ロリコンは老いに敏感だった。


「では新婦盗子。アナタは健やかなる時も病める時も夫ナンダを愛すと誓え。」

「フンだ!もちろん誓わな…なぜに命令形!?」

「それではとっとと、誓いのキックを。」

「キックなの!?」



 その頃、勇者達は―――


(って早押しクイズかよ!そんなテンポで進めるべき式じゃないよ!?)


 無言でパンを食べる賢二。


(フンだ!もちろん誓わな…なぜに命令形!?)


 無言でスープを飲む商南。


(キックなの!?)


「おいウェイター、肉とか無いのか?」


 メインディッシュを要求する勇者。


「あ、ハイ、ただいま。」

「おかえり。」


 やっぱり噛み合ってない姫。



 つまり、普通に出席してた。




「ふむ…盗子は相変わらず見るに耐えんが、料理はなかなかどうして…」


盗子とナンダの式は、時間短縮のためか挙式と披露宴が一体化したものらしく、参列者は挙式を眺めながら飯を食うという変わったスタイルだった。


さすが街の支配者なだけあって、式の料理はなかなかなのもの。

特にこの何の肉だかわからない肉料理が絶品だ。

まさかこの世にこんなにうまい料理があったとは。


「うむ、コイツはうまい。おかわりが無いってのが悔しいったらないな。」

「おっと、そない言うんやったらウチも一つ貰うでー。」


(さぁ花嫁さん、蹴っておくれ!そして激しく罵っておくれ!)


「フッ、バカを言うな。コレは俺の好物に認定した。だから俺が全て食う。」


(えっ!ロリコンなだけじゃなくそんな趣味まで!?絶対イヤだよ!)


「いくら好物言うたかて一つくらいええやんか。ウチにも食べさせーや。」


(フフッ、相変わらず照れ屋さんだ。でもキミはもう僕のモノなんだから…)



「フザけるな!貴様なんぞにくれてやる気は無いわぁーーー!!」



 勇者は盛大にやらかした。


「えっ…?い、今の声は…まさか…ゆ、勇者!?」

「な、なんだねキミは!?まさか僕らの結婚に異議でもあるのかね!?」


「コイツは俺のだ!絶対誰にも渡さんぞ!!」


(わー…)


 未だ気付かず空回りを続ける勇者に、賢二はどう声をかけていいかわからない。


「そうか、僕の花嫁さんを奪いに来た…というわけかね。」

「勇者…☆助けに来るどころか、奪いに来てくれるだなんて…☆」


 盗子は目がハートだ。


(な、なんや妙な展開になってきよったなぁタレ目?)

(うん…不憫でならないなぁ…)


 肉は姫が食べた。

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