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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
45/196

【045】いろいろ違う

スイカ割り魔人、破壊神の盾、そして黄緑錬邪…。

なにかとバタバタしたが、とりあえず一段落はついた。

課題は山積みといった感もあるが今は忘れることにしよう。


「おぉ勇者~。用は済んだんか~?」


 黄緑錬邪が立ち去ってしばらくすると、外していた商南達が帰ってきた。


「商南か。ちゃんとパン買ってきたか?」

「ホンマに頼んどったんかい!こない山奥じゃ買えん言うたやろが!」

「な、なにっ!?姫ちゃんが一緒でも不可能だったってのか!?」

「ごめんね勇者君。“パンダ”しか買えなかったよ。」

「ほら見ろ!もっと凄いことが起きたじゃねーか!」

「い、いつの間に買うて来てん!?」

「ピギャー!!」

「それホンマにパンダなん!?」


 模様も若干違う。


「で、どないすんねんコイツ?サーカスにでも売り飛ばしたろか?」

「いや、晩飯の線が有力だろう。」

「ピギョッ!?」


 勇者が発する物騒なオーラに恐怖するパンダ的な何か。

 だが珍しく姫が立ちはだかった。


「ダメだよ勇者君!『丸焼き』ちゃんが可哀想だよ!」

「その割にえげつない名前付けてへん!?」


 『丸焼き』が仲間に加わった。




その後ババン山を降りた俺達は、エリン大陸の最北端『サブロ岬』へと向かうことにした。

聞いた話では、その岬には大魔獣が出ない安全な航路をとれる港があるらしい。


「あっ!なんか見えたよ勇者君!あれじゃない?」


歩くこと二時間。俺達はサブロ岬を望む港町『タッグ町』へと到着。

寂れた田舎町の割になぜか少し騒がしい…例の如く魔人でも出たのかもしれない。


「キャーー!た、助けてぇー!!」


 勇者の読み通り、何かに襲われているらしく、町の方から助けを求める女が走ってきた。

 相変わらず旅の資金に余裕の無い勇者は、恩を売るべく女を呼び止めた。


「フッ、困ってるようだな町人。助けてほしくば金をよこせ!!」

「わーん!挟まれたー!追い剥ぎまで来たー!」

「いや、そういう意味じゃねーよ!報酬を弾むんなら助けてやるぞって意味だ!」

「ホントですか!?じゃあ探しものを手伝ってください!急がないと町が…あの魔獣を鎮めるには、絶対“子供の力”が必要なんです!」


 どうやら女は魔獣のせいで困っており、人手が必要なようだ。


「子供の力…?僕らにしか探せない何かってことですか?」

「いえ、そういう意味ではなくて…!」

「まぁええわ、金さえ貰えりゃ何でも探すで。何を探せ言うてんの?」


「あ、ハイ!“子パンダ”です!」


 なぜか全員押し黙った。



「ふぅ…やれやれ、まさかあのパンダに親パンダがいたとはな…いや、まぁそりゃいるだろうが。」


 勇者は困った顔をしている。

 その他のメンバーも目を伏せている。


「親パ…親パンダ子パンダ黄パジャミャ!」

「いや姫さん、最後の黄パジャマの意味がわからないよ?しかも言えてないし。」

「まぁ言えたからどうやねん、って話やけどな。」


 どう見ても心当たりがありそうな勇者達の態度に、町の女はとても嫌な予感がした。


「あ、あの~、もしかしてみなさん、子パンダの居所をご存知…とか?」

「ん?ああ。まぁ強いて言うなら…“みんなの心の中に”って感じか。」

「その割に手がお腹に当たってるのはなぜです…?」

「いま僕らに言えるのは、もう“ごめんなさい”くらいしか…」

「いや、“ごちそうさま”の方がええんちゃう?」

「まさ…まさか食べ…?あーん!もう町は終わりですー!」


 町の女は泣き崩れた。

 だが、絶望するのはまだ早かったようだ。


「いやいや、なんとかなったぞ。安心しなさい。」

「ちょ、町長!?無事だったんですね!」


 号泣する女に声をかけてきたのは、この町の長らしき男。

 女とは違い、緊迫感の欠片も無い笑顔でこちらを見ている。


「む?どういう意味だ町長とやら?敵はもう退治できたとでも言うのか?」

「あ、ハイ。それが…先ほど颯爽と現れた女の子が倒してくれたんですわ。」

「女だと?この俺の見せ場を…!一体どんな奴なんだ?」

「あ~、頭に緑のバンダナ巻いた女の子で…たぶん『盗賊』じゃないかなぁ?」

「なっ!?」


 勇者の背筋を悪寒が走った。

 賢二も展開が読めたようだ。


「ゆ、勇者君…それってもしかして…!」

「すぐどっか行ってしまってあまり見てないのですが、結構可愛い子でしたわ。」

「ふぅ、人違いか…」

「あのさ勇者君、いつか刺されると思うよ…?」


「勇者ーーッ!!」


 するとその時、背後から聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。

 その姿を見て指を差す町長。


「あぁ、あの子ですわ!あの子が今話した…」

「チッ、今のムカつく声は…や、やっぱり…!」


「ロボ盗子!!」

「ロボチガウ!!」


 メカ盗子が現れた。




町長の話を詳しく聞くと、どうやらロボ盗子の活躍によって親パンダの一件は片付いたらしい。

だがしかし…なんだか嫌な予感がする。なんとなくコイツは、何かしらの災いを持ってきた気がしてならんのだ。


にしても、このロボ盗子…あれは確か四号生の頃だったか。

筋肉兄弟のペットだった海竜との戦闘中、置き去りにして以来だが…そうか無事だったのか。チッ。


いや、だがよく見れば質感や喋り方がより人間っぽくなった気がする。

もしかしたら一度ぶっ壊れた後、修理のついでにアップグレードされたのかもしれん。


「おい貴様、こんな所に一人…一体で何しに来たんだ?土男流はどうした?」

「緊急ジタイ発生!アタシ アンタ呼ビニ来タ!盗子タイヘン!死ヌカモ!」

「チッ、やはりか…!」

「死ヌホド オ兄チャン好キカモ!」

「くっ…!紛らわしいんだよこの糞ロボットめが!話が進まんだろうが!」

「ロボチガウ!」

「な、なんか妙なデータがインプットされてるみたいだけど…なんなのこの子?この見た目ってどう見ても盗子さん…」

「あぁ、貴様は初対面か賢二。まぁ気にするな時間の無駄だ、ほっといて先を急ぐぞお前達。」

「チョト待ツ!違ッタ意味デモ死ニソウ!桃錬邪アラワル!」


 盗子がどうなろうが見捨てる気満々といった感じの勇者だったが、桃錬邪の名が出たとなると話が変わってくる。


「なっ、桃錬邪が!?ホントなのかロボ!?」

「ホン…ロボチガウ!」

「そこだけは律儀に突っ込むんだね。」


 賢二は仕様がわかってきた。


「…言え、盗子は今どこにいるんだ?」


 しばらく悩み、そして苦虫を噛み潰したような表情で勇者が尋ねると、メカ盗子は北の方角を指差した。


「ギマイ大陸、『ナンダの塔』…ソコニ盗子 イル!」

「ギマイか…。助ける気はサラサラ無いが…ちょうど行こうとしてた大陸だしな、一応聞いておいてやる。盗子の身に何があったんだ?」


「盗子 桃錬邪ニ喧嘩売ッテ逃ゲタ。ソシタラ別ノ ピンチ到来…!オ願イ勇者、盗子タスケル!デナイト盗子、『ナンダ』ニ…“オ嫁”ニ貰ワレル!」


「ぬぁっ、ぬぁあああああにぃいいいいいいいっ!!?」




 その頃、エリン大陸から見て北西部にあるギマイ大陸…その一角にそびえる『ナンダの塔』では―――


「フハハハ!見たまえ盗子君、この景色を。素晴らしいとは思わんかね?」

「ほ、ほーどーけー!!気取ってないで早く縄をほどいてってばー!」


 両手足を縛られ、椅子に固定された盗子をニヤニヤしながら見つめているのは、四十代前半くらいに見える痩せ型の男。

 髪は肩にかかる程度の長さはあるものの、デコは広め。今後が心配な感じだ。


「フッ、すぐにほどくさ。キミが素直になってくれさえすれば…ね。」

「だから素直に嫌だって言ってんじゃん!誰がアンタと結婚なんて…!」

「アッハッハ!まったく照れ屋さんだなぁ~。三ヶ月後の式が楽しみだよ。」

「黙れよポジティブおやじ!このロリコン!少女の敵!死ねっ!!」

「おや?よく知ってたね。僕の職業が『ロリータ・コンサルタント』だって。」

「どんな職業だよ!?絶対食ってけないよそんなの!」

「僕はこの職業で今の財を築いたんだ。」

「うわーん!世の中間違ってるよー!」


 カレンダーに付いた○を撫でながら、泣き喚く盗子に流し目を送るナンダ。


「来るべき日…僕の四十の誕生日。楽しみにしてるよ、花嫁さん?」

「いやーん!助けて勇者ぁーー!!」



「…行くぞお前達。目的地は『ナンダの塔』だ!」

「えっ!助けに行く気なの勇者君!?意外にもすんなりと!」

「盗子ってアンタが嫌い嫌い言うてる子ちゃうん?それなのに助けに行くん?」

「ああ。この俺が…絶対に助けてやる!!」

「勇者君…!」


早まるなナンダ、女は選べ。


 助ける相手が違った。

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