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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
44/196

【044】黄緑色の刺客

 『勇者の盾』を目指して向かった洞窟で勇者達を待ち受けていたのは、死んだはずのスイカ割り魔人。

 しかし、謎の少女の声に合わせて大地が裂けた結果、またもやスイカは谷底へと姿を消したのだった。


「へ…?えっ、なんであんな堂々と落ちて…」

「気にするな賢二、二度目だ!そんなことより気を付けろ!」

「あ、うん!扉の向こうだよね!?」

「いや、姫ちゃんの挙動に。」

「それは無理かな…結構前からいないし…」

「ゴチャゴチャ言うとる場合か!来るでっ!!」


ドガッ!!


扉を蹴破って現れたのは、黄緑衣装の敵。初めて見る奴だが見るからに五錬邪の一派だろう。

だが確か五錬邪の色は赤・黒・黄・桃・群青色だったはず…。


それに気になる点はもう一点あるが…まぁいい、倒せばわかることだ。


「おいコラ貴様!その趣味の悪い衣装…五錬邪予備軍か?」

「あ?予備じゃねーよ。過去に二人脱退してて縁起悪ぃ黄色は欠番になってなぁ。私が『黄緑錬邪キミドレンジャ』になったんだ。文句あんのか?」

「いや、文句以前に“興味”が無い。」

「持てよテメェ!どう考えても色々と気になる状況だろうが!!」

「フッ、安心しろ。今からウチの賢二が驚くほどのツッコミをブチかますぞ。」

「えっ、僕!?じゃ、じゃあ…き、黄緑て!緑でも立ち位置微妙なのに黄緑て!」

「ブッ殺す!!」

「普通に状況悪化したけどどうすればいいの!?」

「ほら驚いた。」

「“僕が”って意味だったの!?」


 そんなドタバタな状況に、黄緑錬邪は苛立ちを隠せない様子だったが、なぜだか無理矢理に平静を装おうとしていた。


「…もういい。相変わらず気に食わねぇ奴らだ…死ね。」

「フン、甘いな雑魚めが。これ以上大地を裂いたらお前も死ぬぞ?」

「ざけんな!私の攻撃はアレだけだと思うなよ!?集いやがれ『炎の精霊』!」


 黄緑錬邪は『炎の精霊』を呼び出した。

 炎の鎧を身に纏った戦士姿の精霊が現れた。


「なにっ、炎だと!?うおっ!熱ぃ!!」

「せ、精霊…女性の声…。ハッ!まさかあの人の正体って…!」

「ああ。奴はさっき“相変わらず”と言った…つまりそういうことだろう。なぁ、『巫菜子』?」

「なっ…!?ち、違っ…」


 勇者の呼びかけに、あからさまに動揺する黄緑錬邪。


「無駄な抵抗はやめろ。精霊を自在に操る職業…『巫女』ってのはそう多くないと聞く。しかも俺らを知る奴って言ったら、もはやお前くらいしかいない。」

「でも勇者君、口調とかだいぶ違うけど…」

「フン、根っからあんなに優等生な奴がいるわけないだろ?むしろそういう奴ほど腹黒いもんだ。」


 そう言うと、黄緑錬邪の方に向き直る勇者。


「ったく、なんでまた五錬邪なんかに…と聞きたいところではあるが、まぁいい。俺の前に立ちはだかると言うのなら、たとえ親でも容赦はせん!」

「むしろ親の時の方が容赦してないけどね、勇者君は。」

「チッ…!」


 黄緑錬邪は押し黙り、拳を握る手にさらに力を込めた。


「ま、言わんのならどうでもいいけどな。さて、じゃあ最後に何か…言いたいことがあるなら聞いてやる。」

「…やっぱ予定変更だ。やり合う前にコイツと話がある、他の奴らは消えろ。」


 なぜだか心変わりしたらしい黄緑錬邪。

 本来ならばここでわざわざ戦力を減らすのは得策ではないはずだが、自信家の勇者はそんなことは気にしない。


「まぁそういうわけだ、お前らちょっと席外せ。パンでも買って来いよ商南。」

「はぁ?なんでウチが…って、こない山奥にパン屋なんてあるか!」

「パンが無ければケーキを食べればいいんだよ。」

「どこの女王様やねん!まぁアンタは“姫”やし近いっちゃ近いけども…っちゅーか今までどこにおってん!?」

「ま、まあまあ商南さん。なんだか訳アリみたいだし、ここは勇者君に任せて僕らは…ね?」

「…フン、別にええけどな。行くで姫。」


 三人はその場を離れた。



「さぁ人払いはできた。確かにこれまで五錬邪の拠点はいくつか潰してきたが…それが理由ではあるまい?何の話かは知らんが、とっとと言ってそして死ね。」


 例の如く不遜な態度で迫る勇者。

 だが黄緑錬邪はそこに過剰に反応することなく、静かに語り始めた。


「…私が五錬邪に入ったのは、力を得るため…テメェを殺すためだ。」

「殺す?悪いがお前にそこまで言われる覚えは無いぞ。特に何もしてないし。」

「あ゛?してねぇだと!?フザけんな!“あの日”の恨み…私は忘れねぇぞ!!」


 黄緑錬邪は激高した。


(はて、どの日のことだろう…?)


 勇者は心当たりが多すぎた。


「すまん巫菜子、悪いがどの件だか絞り込めん。率直に言ってくれ。」

「そうかよ、あくまでもシラをきる気かよ…上等だ。殺す!」

「あ!もしかして…給食パンに無差別に毒を仕込んだイタズラの被害者か?」

「へ…?」

「違ったか…。じゃあアレか?下駄箱にラブレター型の爆弾を入れた時の?」

「あ…アレはテメェの仕業だったのかよ!危うく死にかけたんだぞテメェ!」

「違う!?…あぁ!誰かが乗ったら落ちるようにベランダを細工した時の…!」

「アレもか!なんでテメェのイタズラは人命を左右するほど大掛かりなんだ!」

「そうか!校長室を荒らし、窓ガラスに“ミナコ参上!”と書き残した件か!」

「んなことしやがったのかよ!一歩間違えりゃ殺されてたかもしんねーぞ!?」

「安心しろ、犠牲になったのは別の組のミナコだ。」

「ホントに一歩違いだったんじゃねーか!」

「ったく、じゃあ何だってんだよ?あと思い当たることなんて十も無いぞ?」

「まだそんなにあんのかよ!それだけで十分に殺す動機になんぞコラ!」


 心当たりどころじゃなかった。



バレてなかった悪事まで散々暴露した俺だったが、結局巫菜子の求める答えは出なかったようだ。


すると巫菜子は、いい加減痺れを切らしたのか自分から語り始めた。


「時間が無ぇから率直に聞く。なんで…なんで私の両親と弟を殺したぁ!?」

「む?両親と弟…?なるほど、さっき“親”って単語に微妙に反応したのはそのせいか…。だが悪いがホントに身に覚えが無いぞ。人違いじゃないか?」

「ざけてんじゃねーよ!テメェだっつーネタは挙がってんだよ!!」

「なにっ!?馬鹿な、この俺が証拠を残しただと!?」


 論点はそこなのか。


「死体の血で書かれてたんだよ!窓ガラスに…“勇者参上!”となぁ!!」

「俺のイタズラと同レベルじゃねーか!そんなの信じるなよ!」

「黙れクソが!テメェならやりそうだろうが!」

「フッ、照れるぜオイ。」

「どんだけポジティブならそう返せんだよ!?照れるな恥じろ!!」

「とにかく俺は知らんぞ。信じる信じないは貴様の勝手だがな。」

「…ケッ、なら話はここまでだ!出やがれ『風の精霊』、コイツを切り刻めぇええええ!!」


 巫菜子は『風の精霊』を呼び出した。

 尾に鎌をもった魔獣の攻撃により、真空の刃がほとばしる。


「カマイタチ!?よ、よし!ならば今こそ出番だ『勇者の盾』…って、どわぁああああ!?」


 なんと!盾は攻撃を避けた。


「ハァ!?あははっ!装備に見放されるたぁ愚かな奴だぜ!こりゃ終わったな!次は決めやがれ風の精霊!!」

「くっ…なんのっ!」


 咄嗟に避けたことで初撃は回避できたものの、大きく体勢を崩した勇者。

 このままでは次は避けられない。


「な、何か他に防具は…ハッ!そういや前に防具屋のババアから貰った…」

「んだよそれ?んな珍妙なベルトで何が守れるってんだよ!バカかテメェ!?」

「フッ、甘いな!こういうアイテムこそ実は凄いもんなんだよ!さてと説明は…」


<暗闇ガーター>

 太モモに装備するベルト型防具。

 装着部周辺に謎の闇を発し、あらゆる盗撮からパンツを守る。


「って何を守らせる気なんだあのクソババア…!!」

「死ねぇええええええええ!!」


ブバッ!!


 激しく鮮血が舞い散った。




薄暗い洞窟の壁面に、鮮血がほとばしった。だがそれは俺のものではなかった。

二発目が放たれる前に風の奴は消え去り、なぜか巫菜子が血を吐いたのだ。


一体何があったのかは…まぁ別にどうでもいいや。


「ゲハッ!ぐほっ…ブハッ!」

「み、巫菜子…お前まさか…!」

「チッ、マズったぜ…」

「俺の…子か?」

「って、どう見たら“つわり”に見えんだよ!」

「まぁ心当たりも無いしな。」

「ぐっ!じょ、冗談言ってる間があったら…心配でもしたらどうだよコラ…!?」

「悲しいことだな…まさか旧友を手にかける日が来ようとは。」

「ホント容赦無ぇなテメェ!つーかもっと他に言うこととか無ぇのかよ!?」

「じゃあ…最後に一つだけ聞いてくれ。実は俺、ずっと前からお前のこと…」

「えっ…!ななな何言い出すんだよいきなり!?オイちょっヤメ…!」

「忘れてたんだ。」

「ぶっ殺す!!」

「フッ、死にそうなのはお前じゃないのか?」


 勇者は余裕の笑みで黄緑錬邪を見下ろしている。

 黄緑錬邪は片膝をついた体勢で、悔しそうに勇者を睨み返した。


「…次に会ったら殺す!覚えてやがれ!」

「おっと、そんな体でこの俺から逃げ切れるとでも?」


 どっちが悪役かわかりづらい。


「ケッ、舐めんじゃねぇよ…。これでも五錬邪に選ばれるくらいだ、逃げるだけならワケねぇさ…」


 風の精霊が現れた。

 そして砂煙を巻き起こした。


「なっ!?くそっ、前が見えん…!」

「次はブチ殺す…覚悟してやがれ、勇者…!」


 黄緑錬邪は去っていった。

 追うこともできたが、勇者はそれをしなかった。


「巫菜子か…。アイツが五錬邪に…世の中わからんもんだな。それに…」


 勇者は黄緑錬邪の残した血痕を眺めながら呟いた。


「だが、ようやくか…。カクリ島で群青錬邪らと直接やり合ったのはもう五…六年前か。今回のが久々の接触だ。やはり奴らの根城があるという『タケブ大陸』に近づけば近づくほど、再戦の機会は増えるのだろう。楽しみだぜ。」


逃しはしたが…まぁいい。一歩前進といったところか。


 勇者は盾の件から目を背けた。

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