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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
40/196

【040】ゴクロ討伐(2)

なんだかんだで二時間も掛かってしまったが、なんとか一番奥の部屋まで辿り着くことができた俺。

恐らくここにゴクロとやらがいるに違いない。


敵は切れ者と聞くが、まぁなんとかなるだろう。


「フッ…よく来たなクソガキ。一人で乗り込んでくるとは見上げた度胸だよ。」


 扉を開けると、そこには上半身裸のアンコ体型のオッサンが仁王立ちで待ち構えていた。

 身長は160cm足らずと小さく勇者とそう大差無い感じだが、とにかく横にデカい。まるで球体のようだ。

 肌の色は赤黒く、小さな角が生えているところを見ると魔人の類と見てまず間違いない。


「まぁ焦るなよクソデブ、もうじき本当に地ベタから見上げることになるんだ。貴様がゴクロか?」

「フッ…まあな。お前は勇者だろ?話は聞いてるよ。」

「ふぅ、やれやれ…名声が轟きすぎるのも考えものだな。」

「いや、轟いてるのは“悪名”だぞ。」

「ちなみに誰経由でどう聞いた?内容によってはそいつも斬らねばならん。」

「名は言えん。青でもなくて紫でもない、恐ろしい御仁なんでな。」

「群青か!その微妙さ加減は群青錬邪か!?そうか、貴様ら…単なるゴロツキじゃなく五錬邪の関係者だったんだな。ならばこの展開は必然ってわけだ。」


 勇者はゴップリンの魔剣を構えた。


「おっとぉ、剣は捨てな。でなければ…アイツらがさらに痛い目を見ることになるぞ?」


 ゴクロの指す先には、傷だらけの賢二と血子がいた。

 柱に縛り付けられぐったりとしている。


 賢二はなんとか意識があるようだが、血子は気を失っているようだ。


「うっ、うぅ…勇者…君…」

「け、賢二!血子!貴様…なんて酷いことを!!」

「いや、これでも手当てしたんだぞ…?」

「フン…余計なことを。」


 なんて酷いことを。


「チッ、冷酷と聞いてはいたが…まさか人質作戦が微塵も通じないほどとはな。」

「甘いな。俺がそんな手に掛かるとでも思ったか?『策士』が聞いて呆れる。」

「いや、僕らの方が聞いてて呆れたけどね…」


 賢二はどっちが味方かわからない。


「あ?『策士』だぁ?バカ言うな!俺は…『力士』だ!!」

「へ…?」


 ありえないレベルの聞き間違いだった。


「チッ、間違った情報掴ませやがってマジーンの奴め…!今度会ったらグシャッと潰して…いや、あれ以上はもう無理か。」


 前倒しで実施済みだった。


「では小僧よ、早速だが最初にして最後の勝負…“結びの一番”といこうか。」


 そう言うとゴクロは、部屋の中央にある土俵の真ん中でどっしりと構えた。

 どうやら本気で相撲で決着をつける気らしい。


「ひ、卑怯だよデブちん!その体重差でダーリンが勝てるわけないじゃん!」


 やっと目が覚めたらしい血子は勇者を庇おうと努めたが、自身が人質に取られているだけに相手の優位は崩せそうにない。

 それにどういうわけか、勇者としてもそれは望んでいないようだ。


「問題ない。魔王に遅れをとってからのこの二年間…とにかく俺は基礎体力の向上に努めた。ひたすらにガムシャラに剣を振るった。だがそれ以上に…とにかく相撲漫画を読みふけったと言っても過言ではない。」


 過言であってほしい話だった。


「お、面白い冗談だな。問題ない…だと…?お前、状況がわかってないのか…?」

「わかってないのは貴様の方だ。俺は文字通り、貴様の土俵で戦ってやると言っている。」

「き、危険だよ勇者君!勇者君が頑張ってきたのは知ってるけど、でも…!」

「知ってるなら黙って見てろ。ここ最近ろくな奴と戦ってないからな…自分の成長がイマイチわからん。首無し族の件は肩透かしにあってるし…。ここらで一度、自分の今いる位置を再確認しておきたいんだよ。それに…」


 勇者も土俵に入り、腰を下ろした。


「それにこの程度の奴にやられるようじゃ、魔王なんかに勝てるはずないしな。」

「…フフッ、噂通り生意気な小僧よ。いいだろう、望み通り死なせてくれる!!はっけよぉ~~い…!」


 ゴクロは腰を割り、そして両掌を下ろすと同時に、その体型に見合わぬスピードで突進した。


「のぉ~~こったぁあああああああ!!」


ズドォオオオオオン!!


 絶妙な立会いを見せたゴクロ。

 200キロはあろうかという凶悪な肉の塊が、容赦なく勇者に激突した。

 圧倒的に軽いはずの勇者はひとたまりも無い…かと思われたが、なんと勇者はその渾身の一撃を見事に受け切っていたのだ。


「なっ、馬鹿な…!この俺のパワーに…耐えるだと…!?これが重くないってのかよ…!?」


 ゴクロも決して、勇者を甘く見ていたわけでなかった。それどころか、単身でこの部屋までやってきた事実を十分に認め、正当に評価した上での一撃だったため、それをさらに上回る結果を出されたことに動揺を隠せない。


「ぬぐぅ…!こ、この程度が重い…だと…!?フン、舐めるな!こんなもんより…弓絵の方がよっぽど重かったわぁ!!」


 “重い”の意味が違った。


「お、おかしい…そんなはずは…!ふんぬぅうううううう!!」

「ぬぉおおおお!!舐めるな豚野郎がぁあああああああ!!」


 ゴクロはさらに力を込めるが、それでも勇者は押し負けていない。


「凄い…凄いよダーリン!『力士』の才能まであったなんて…!」

「り、『力士が行く』か…フッ、悪くないやもしれん。」

「いや、それだとただの“地方巡業”みたいだから…」


 賢二は冷静に諭した。


「むぐぐぐっ…!クソッ、だがやはり一筋縄にはいかんか…!生意気なデブ野郎めが…!」


 押し負けてこそいないものの、防戦一方の勇者。このままでは勝てない。


「フッ、いいだろうゴクロよ!ならばこの俺の名から取られただろう技、必殺『勇み足』を食らわせてやる!」

「なっ…!?」


「ね、ねぇ賢ちゃん“イサミアシ”って何?そんな凄い技なの…?」

「えっと、確か“勢い余って自分から外に出ちゃった時”の決まり手で…」

「駄目じゃんそれ!率先して負けにいくやつじゃん!」


 勇者は漫画を読みふけったと言う割に知識は乏しかった。

 そんな勇者の様子がゴクロとしては気に食わないようだ。


「俺が得意とするのは『寄り倒し』『突き倒し』『浴びせ倒し』『押し倒し』の四手…いずれも『基本技』と呼ばれる七手に含まれる。その名の通りどれも基本的な決まり手だが…それゆえに、ただ純粋な強さを必要とするのだ!」

「ぬぐっ!貴様、何を言っ…」

「思い知るがいい!かつてこの俺が死に物狂いで手に入れたこの力…昨日今日生まれたような小僧に、簡単に超えられるはずがないのだぁ!!」


 死ぬほど努力して力を手に入れたゴクロとしては、そんな自分に肉薄するのがまだ年端もいかぬ子供だというのが受け入れがたい様子。

 だがその言い分に、今度は勇者が強い反発を示した。


「フン、くだらん考えだな。そんなことだから貴様はこの程度なんだ。」

「なっ…?」

「いっちょまえに“努力し尽くした感”出してやがるのが、まったくもって鼻持ちならんな。」

「なん…だとぉ…!?」

「過去にどれほど努力しようが、今こうして、こんなジメジメした穴ぐらの中で“お山の大将”気取ってるクソ雑魚風情が…世界征服に向け日々研鑽を積んでいるこの俺の、上を行くわけがないだろうがぁああああああああ!!」

「な、なんだこのパワーは…!?ありえん…!」


 ゴクロは増大していく勇者のパワーに驚愕した。


「え、征服…?」


 賢二は聞き捨てならないセリフに驚愕した。


「き…貴様の重さも、弓絵の重さも、俺にとっちゃ大したものじゃない。生まれ持って背負わされしこの『勇者』の名ほど、重いものなどありはしない!!」


 そう叫ぶと勇者は、更なる力を全身に込めた。


「うぉおおおおおお!!上がれぇえええええええええ!!」


 なんと!勇者はゴクロの巨体を吊り上げた。


「なっ!?ば、馬鹿な…!」

「喜べゴクロよ!倒し技が好きな貴様に、今日からもう一つ得意技が増えることになる…!『見掛け倒し』って名のなぁ!!」

「お、おのれぇええええええ!!」


ズドォオオオオオオオオオオオオン!!


 勇者は豪快にブン投げた。

 洞窟内に轟音が鳴り響いた。




 地面に背を付いたゴクロはしばし呆然としていた。

 だが程なくして我に返り、そして自らの敗北を認めたのだった。


「…フッ、負けたよ小僧。まさかこの俺ガフッ!!」


 勇者の掌底打ちがゴクロのアゴに炸裂した。


「貴様の土俵は俺が制した。次は…俺の土俵に上がってもらおうか。」

「ちょ、ちょ待っ…普通ここから俺の語りが入る展開…ぎゃあああああああ!!」


 勇者、会心の連撃!

 ゴクロを撃破した。



とまぁこんな感じで、それなりに正攻法でゴクロを始末した俺。

結局『策士』ではなく『力士』だったってのが少々引っ掛かるが…まぁいい。

やっとまともに腕試しができ、そして今の俺がそこそこやれそうなことがわかったしな。


とりあえず、さすがにもう疲れた。

近くの村を探す体力も気力も無いし、今日のところは適当にその辺で眠ることにしよう。



 その頃―――


「ああ、間違いねぇ。さっき最後の信号が途絶えた…ああ、全滅だわ。」


 ゴクロの洞窟の目と鼻の先で、『伝話符』を片手に話す一つの影があった。


伝話符デンワフ

 赤と青の二枚で一対になっている呪符。

 二枚は魔力で繋がっており、遠隔地でも会話ができる。

 一定時間経つと燃え尽きる。


「いや~、ちょいと実力を見るつもりが、まさか逆に殲滅されるとはこっちも思ってなかったわ。参ったよ群青の旦那。」


 なんと、会話の相手は群青錬邪のようだ。


「ま、あのガキなら…って気もしてたがな…。まぁいい、今後も頼むわ。」

「やけに気にかけるじゃねぇの旦那。で、どうすんだい?脅威になる前に始末しとくか?」

「いいや、まだだ。ガキを殺せば親父が動く…それはまだ困るもんでな。」

「まぁいいがね、長引いた分だけ金は貰えるし。」

「にしてもテメェも酷ぇよなぁ。実力見るだけのために部下を見殺しにするかよ普通?」

「フフッ、まぁ死んで当然のクズばかり集めてたしな、惜しみは無ぇさ。」

「ギャハハ、そうかよ。まぁ引き続き任せるわ、うまくやれよな…『ゴクロ』。」


 その時、雲間から一筋の月光が差し込んできた。


「ああ、任せときな。」


 そこには月に照らされほくそ笑む、マジーンの姿があった。

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