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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
39/196

【039】ゴクロ討伐

 ウシロシ村の東に位置するこの港町ソノマは、近隣の村々の中継となる立地ゆえにとても栄えており、食品店や道具屋のみならず武器屋や防具屋など、冒険者にも嬉しい店舗が数多く出店している。

 ここ最近歩き通しで野宿もザラだった勇者達としては、いい加減ここらで少しのんびりしたいところ。


「ここがソノマか…確かに色々と買えそうな街だな。楽しみだぜ。」


どういうわけか、『首無し族』に襲われるはずの峠を何事も無く越えてしまった俺達。

つまりウシロシ村の問題は全く解決してないわけだが…まぁ面倒なのでもう気にしない。


「てなわけで、これから街を巡るわけだがその前に…ご苦労だったな奮虎。さっさと帰路につき、そして峠で今度こそ襲われるがいい。」

「ま、待ってくれや!ホントにそうなりそうでオラ一人じゃ帰れねぇべさ!」


 奮虎を見捨てる冷たい勇者。

 だが実際まったく役に立っていないため、その気持ちもわからんではない。


「よし、とりあえず防具屋にでも行くか。この街なら良い店もあるだろ。」

「あっ、でもお金あんま無いじゃん。どうすんのダーリン?」

「フッ、任せろ。値切ったり値切られたりは俺の得意分野だ。」

「ふ~ん。そげな交渉ごとが得意そうにゃ見えねぇがなや。」

「うっさいよ田舎モン!ダーリンは値切るってったら値切る男だもん!」

「聞き分けの無い店主は、手足とか…こう…モギュッ!っと。」

「えっ!“千切る”なの!?」

「アレは僕もう…見たくないな…」

「実際あったの!?」

「まぁとにかく防具屋へ行くぞ。今宵の魔剣は、血を欲してやがるぜ。」

「買う気はゼロなの!?」


 買う気はゼロだった。



久々に大きな街へとやって来たので、俺達はとりあえず防具屋へ行ってみることにした。

ゴップリンの魔剣もあるし武器はいいとして、心もとない防具はできれば新調しておきたいところ。


「ま~いらっしゃい。あらあら、随分と小さなお客さん達だこと。」


 出迎えたのは恰幅のいい女店主。歳は五十代くらいだろうか。


「安心しろババア、貴様の小ジワほどじゃない。」


 勇者の挨拶代わりの一撃。

 店主はハートに50のダメージ。


「ところでババア、この俺に似合うような素敵な防具は置いてないか?」

「あらら?それってば魔剣かい?こりゃまた随分と渋い趣味だわねぇ。」

「フン、趣味なわけあるか!こんな邪悪なフォルム、どう見ても俺には不相応だろうが!」

「いや、どう見てもオーダーメイドにしか…」

「剣のことはいい。何か俺に…『勇者』に似合う防具は無いかと聞いている。」

「『勇者』?う~ん…あ!そういや前にそれっぽい“盾”の噂を聞いたような…」

「ほ、ホントか!?それはこの辺にあ…」


(出たぁー!魔人が出たぞぉー!!)


 店主から興味深い話を聞いた矢先、店の外から物騒な声が聞こえてきた。

 賢二は反射的に身構えた。


「魔人!?一見平和そうだったのに…!ゆ、勇者君!」

「ああ、わかってる!!」


盾か…よし、早速探しに向かおう。


 ちっともわかってなかった。




やれやれ…やっと面白い話になってきたのに、魔人が現れ話が逸れてしまった。

とても面倒ではあるが、やはり『勇者』としては敵を目の前にして逃げるような真似はできん。


「ったく…行くぞお前ら。準備はいいか?」

「う、うん!」


 大陸に出てからも何度か修羅場をくぐってきた賢二だが、ビビリなのは相変わらずのようで緊張の表情を浮かべている。血子も同じのようだ。

 そんな二人の様子を見て勇者はいいことを思い付いた。


「よし奮虎、条件を出そう。この弱そうな敵を倒せれば村まで送っ…奮虎?」

「見事な逃げ足だったよ…。もし大会とかあったらメダル狙えるレベルで。」

「あ゛ぁ~!!もういい!クソ面倒だが俺が相手してやるよチクショウ!」


 勇者は扉を開けて外へ出た。




 そして、数分後。


「…おいコラ貴様、それでも魔人か?確かに面倒だとは言ったが、もうチョイ頑張ってもらわんと張り合いが無さすぎだろ。」

「ぐっ…うぐぅ…!」


 勇者の足元では魔人が苦しそうにのた打ち回っていた。

 緑がかった肌色で、蛇のような瞳をしたその長髪の魔人は、初見では強そうな雰囲気を醸し出していたにも関わらず、どうしようもないくらいに弱かった。


「ひぇええええ!も、もうヤメてぇえええ!鬼ぃいいいい!!」

「な、なんかダーリンの方が悪役に見えるよねこの構図…」

「誰が鬼だ!魔人が言うな魔人が!あまり怒らすと金棒振り回すぞコラ!」

「まさに鬼だよダーリン!すんごいコテコテのイメージだけども!」

「お、俺はただの使いッパで!ただ『ゴクロ』様の命令…なんでもなくて!」


 魔人は罠なんじゃないかってくらい豪快に口を滑らせた。


「五秒やる。そのまま全て話すか、二度と話せなくなるか…ゼロ。時間切れだ、死ね。」

「えぇっ!?」


 カウントの開始位置が早い。


「お、お、脅しには屈しないぜ!?魔人の誇りに懸けて口が裂けても…」

「ほぉ、口を裂いても…?」

「ゴクロ様です、ハイ。この辺りに巣食う魔人達の親玉でございます。」

「なんか勇者君の方が似合ってそうだよねそのポジション…」


 賢二の気持ちは魔人寄りに傾きつつあった。


「ハァ、やれやれ…よし決めた。その『お疲れ様』とかいう奴を倒しにいくぞ。」


 魔人があまりに手ごたえがなかったせいか、勇者のターゲットは親玉へとシフトしたようだ。


「うぇっ!?駄目だって!ヤメた方がいいってば!ゴクロ様めっちゃ強いし!色々と…あの…“ボードゲーム”とか?」

「インドア系じゃねーか!嘘でもいいからそこは腕っぷし系でこいよ!」


「ゴクロを倒しに行くって…ボウヤ本気かい?」


 勇者が振り返ると、防具屋の店主が店先に出てきていた。

 どうやらゴクロの名に覚えがあるようだ。


「あん?なんだババア、文句でもあるのか?」

「ゴクロの軍にはアタシらも参っててね。やるってんなら応援するよ!ホレッ!」


 勇者は謎のアイテムを手に入れた。


「む?なんだこの短いベルトっぽいのは…?流行りのファッションアイテムか?」

「ちょっとした防具だよ。でも気を付けな?相手は正体不明の化け物だからね。」

「フッ、俺を甘く見るな。我が家にも正体不明のペットくらいいたぞ。」

「あ、そうそう。さっき言ってた例の盾の話だけど、多分もっと北に行けばわかると思うよ。そっちも頑張んな!」


 店主はババア呼ばわりされた割に協力的だった。


「そうか。よし、そうと決まれば早速向かうぞ!案内しろ『マジーン』!」

「えぇっ!俺も行くのかよ!?って、なんか適当に名付けられてるし!」


 マジーンが仲間に加わった。




こうして俺達は、嫌がるマジーンを引き連れ、『魔人ゴクロ』の元へと向かうことになった。

俺もいい加減名を上げないと伝説になり損ねそうだしな。


なお、聞けばゴクロは悪知恵の利く奴らしく、今まで倒しに出た奴は誰一人として戻らんのだそうだ。

気を引き締めてかからねばなるまい。


「おいマジーン、お前は部下なんだろ?だったら敵の能力とか教えろよ。」

「いや~、あの人は用心深い人でさ。実は俺、会ったことすらねーんだよ。」

「部下にも正体を明かさないなんて…。ホントに用心深い人なんですね。」


 賢二は警戒を強めた。


「マジ凄いぜあの人。玄関とかピッキング対策したいらしい。」

「逸話がいちいちショボすぎるよ!てか思ってるだけかよ!」


 マジーンの話があまりにくだらなすぎて、血子はイマイチ警戒しきれない。


「あ!あと、窓の鍵とかもしっかり閉めてるって。」

「それは当然の行いだよ!」

「まぁ、とにかくすんげぇ『策士』なんだわ。この先にある数々の罠を見りゃわかると思うぜ。」

「策士…罠…なんだか先生を思い出すな…」


 賢二はトラウマが蘇った。


「ま、詳しくは俺にもわかんねぇがな。俺に今わかってることは一つだけ…。知ればアンタは怒り狂うだろうし、俺としては気が進まねぇが…聞くかい?」

「フン、見くびるな。貴様ごときに揺さぶられる俺ではない。話せ。」


「迷いました。」


 マジーンはボコボコにされた。




五時間後。

マジーンのせいで凄まじく道に迷いながらも、俺達はなんとか敵の隠れ家だという洞窟の入り口までやってきた。


マジーンいわく、ここから罠がたくさんあるというのだが…道も覚えられんような奴の話はイマイチ信用ならん。

話半分に聞いておくべきだろう。


「よし、まずは俺が道を切り開く。お前らは俺の足跡を辿ってくるがいい。」


 意気揚々と勇者が足を踏み入れたその怪しげな洞窟は、一定の間隔で壁に明かりが灯ってはいるものの、夜も更けたこともあり奥の方は薄暗くよく見えない。

 敵の得意なものが罠だと考えると、その暗さがより一層危険に感じられた。


「えっ、危ないよダーリン!自ら一番危険な道を行くだなんて…!」


「問題ない。魔王に遅れをとってからのこの二年間…とにかく俺は基礎体力の向上に努めた。ひたすらにガムシャラに剣を振るった。だがそれ以上に…罠や毒の類には、最も心血を注いだと言っても過言ではない。」


 過言であってほしい話だった。


「ふ~ん。でもよぉ、やっぱゴクロ様には勝てねぇんじゃねぇかな?恐らくもうここらは罠だらけだと思うが…まったくわかんねぇだろ?」

「ん?そんなことないぞ。例えばほら、この手の岩は…こう!な?動くんだ。恐らく何かしらの罠の起動スイッチだな。」


 勇者は謎の岩を押した。

 賢二の足元に穴が開いた。


「へ…?」


 賢二は穴の奥底へと消えていった。


「あとは足元のこの鉄線。いかにもって感じだがコイツはダミーだな。これを避けて踏み込んだ先が…こう!な?ここがスイッチになってる。」


 勇者は謎の床を踏んだ。

 血子の足元に穴が開いた。


「え、ちょ、ダー…」


 血子は穴の奥底へと消えていった。


「ちょ、ちょっと待てよアンタ、お仲間が…!」

「他には…おっ、この壁なんかもそうだな。いいか貴様ら、この程度の罠も見抜けんようならいつか命を落とすぞ?覚えておくこと、だっと。」


 勇者は謎の壁を押した。

 マジーンの頭上に巨大な岩が現れた。


「え…?だから待っ」


ズッドォオオオオオオオン!!


 マジーンはグシャッと潰れた。

 そしてその音で、やっと勇者は今の惨状に気付いたようだ。


「なっ、お前ら一体…!?くっ、なんてことだ…ゴクロ…怖ろしい奴…!」


 とんだ濡れ衣だった。




 そして二時間後―――


 勇者は、最後の扉の前に立っていた。


「ふぅ~、やれやれ…。さすがに一人でってのは少し疲れたな。」


 ではこの二時間をダイジェストでどうぞ。



コツッ、コロンコロン…


「ん?なんだコレ?」


 兵士Aは足元に転がる拳サイズの物体に気付いた。

 兵士Bはそれが何かを知っていた。


「あん?馬鹿だなぁオメェ、そりゃ手榴弾に決まっ…えぇっ!?」


ドカァアアアアアアアン!!


「むっ!ど、どうした!?一体何があった!?」


ズカァアアアアアアアン!!


「ぎゃああああああああ!!」



「な、班長!地下二階倉庫付近で9班を発見!こちらも全滅!」


「くっ!よりによって上位班がいないこんな時に…!」

「全員背後から…しかも傷口にためらいが無い!」


 兵士D、E、Fに戦慄が走る。

 だがその魔手が自分達にも忍び寄っていることを、彼らはまだ知らない。


「班長!知らぬ間にこの先…この階全域に火が…!もはや逃げられません!」

「て、敵は鬼かぁあああああああ!!」


 知った時には手遅れだった。



「ハッ!動くなお前達、ここから先は“地雷原”だ!元軍人の血がそう騒ぐ!」


 不穏な気配に気付き、身を潜める兵士H。

 元軍人という経歴は伊達ではないらしく、確かに目を凝らすと罠らしいものが目に入った。


「地雷!?そ、そういえば変な線が…。これは一体どんな地雷なんです?」

「ふむ、『シュプレングミーネ』…この線に触れると鋼鉄の弾丸が飛び散る対人地雷だ。」

「な、なんてマニアックな…!」

「だが問題ない。慎重に解除すれば…」

「うげっ!は、班長!前方より野ウサギが放たれましたぁー!!」


バシュッ!ドバァーーーン!!


「うぎぇええええええええ!!」



「ぐふっ!なんだこのニンニク臭は…!?」

「前に聞いたことがある。恐らくこれは糜乱毒…『精製マスタード』…ぐへぇ!」

「あぐっ!ぐごああああっ!」



「う、撃つな…撃たないでくれぇー!」

ズダダダダダダダダン!!

「ぶばぁああああああ!!」



「い、いやぁあああああ!」

チュドォーーーーン!!



ズバシュッ!

「うごはっ!ゲハッ!ぐわああ!!」

ドゴォオオオオオン!!

「ぎょへあああああああああああああああああああああああああ!!」



 果たして悪はどっちだ。

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