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~勇者が行く~  作者: 創造主
第二部
38/196

【038】目指せ港町ソノマ

俺の名は勇者。職業も『勇者』。

この春で歳も十二になり、現在思春期真っ盛り。


あの魔王との邂逅…屈辱の敗戦から二年が経ったが、血の滲む特訓を経て俺も随分と強くなった。


ちなみに今は、賢二と二人でエリン大陸(無駄に広い)を旅している最中だ。


「おーい、勇者くーん!やっと村が見え…って、どうかしたの?考え事?」

「ん?ああ、もう二年半…二年半も経つんだなと思ってな…」


 普段は基本的に自信に満ち満ちている勇者。

 しかし今はどこか思い詰めたような表情で遠くを見つめ、たそがれている。


「え、二年半?それって僕らがカクリ島を旅立ってからってこと?」

「違う!姫ちゃんと離れ離れになってからだ!」

「あぁ、だから元気ないんだね。そういえば盗子さんとも…」

「二年前、なんとかお前とは会えた。だが残る姫ちゃんは未だ見つからん。」

「そうだね。あと盗子さ…」

「俺達三人…一丸となってかからねば、今後の敵はヤバいかもしれんのに…!」

「あれっ、勇者君も含めて三人なの!?違うよ盗子さ…」

「早く三人揃いたいものだな。」

「あ、うん…(四人なんだけどなぁ…)。」


 宿敵はどうした。




二年半もの間、とにかく歩き回ったおかげで、やっとこの広大なエリン大陸にも終わりが見えかけてきた。

船が使えれば楽なのだが、今の海には大魔獣…海竜の類がウジャウジャいるため、使える航路は少ないのだという。


これまでいくつか魔王軍の支配下にあった街を解放してやった。しかし魔王や五錬邪に遭遇することは無かった。

噂を集めた限りでは、五錬邪が現在いるのはタケブ大陸という説が有力…。かかってこないというなら、こちらから出向くしかないだろう。


「もう少しだよ勇者君!多分もう少しで村に…一ヶ月ぶりにお布団で眠れるよー。僕もうクタクタだよ…」

「ふむ…目立った都市は魔王軍の息がかかってたしな…。面倒を避けて田舎道を進んだせいで、食料も路銀も尽きかけてる。少し稼がねばならんな。」


そんな話をしていた矢先、村らしきものが視界に入ってきた。

久々に屋根のある場所で一休みできそうな感じだ。


平和な村ならいいが…と思う反面、傭兵業を生業とする身としては平和すぎると金が稼げん。

なんとかうまいこと魔物でも来ないものだろうか。


「た、大変だべー!誰か助けてくれやー!」


 勇者の願いに応えてか、大声で助けを求めながら走ってきたのは、勇者達と同世代くらいの少年。

 逆立った黒い短髪で団子鼻。なんだかどこかで見たことがあるような、どこにでもいそうなありふれた顔をしている。


「え、えっと…どうかしましたか?僕らで良ければ力とか貸しちゃいますけど。」


 賢二のその言葉に、目を輝かせる少年。


「ホントかよオイ!?いや~、マジ助かるべ!オラは『奮虎フンコ』って名…」

「挨拶はいい、早く要点を話せ。」


 奮虎の焦りようから考えて、自分達に都合の良い展開になりそうだと踏んだ勇者は、早く話を進めるよう急かした。


「お、おうよ!お願ぇだ助けてくれ!オラ…オラ…!」

「チッ…!大丈夫だ安心しろ、ちゃんと助けてやるから落ち着いて話すがいい。」

「オラ…腹が痛ぇのに紙が無グボッ!?」


 勇者のボディーブローが炸裂した。

 奮虎の体は“く”の字に折れた。


「んな些細なことで大騒ぎしてんじゃねーよ!紛らわしい雑魚めが!」

「だ、ダメだよ殴っちゃ勇者君!これでも一応苦しんでるんだよ!?」

「いや…大丈夫だべ。もう…」

「“もう…”何ですか!?うわっ、なんか薄っすら茶色…そしてクサッ!」

「…ハッ!そ、そんなことより大変なんだや!」


 自分のニオイによってか、ふいに正気を取り戻した奮虎は、漏らしたことはとりあえず無かったことにして話を進めようとしている。なかなかハートの強い奴だ。


「安心しろ、今のお前も十分大変な状況だぞ。」

「聞いとくれや!村が…村が魔物に襲われとるんだべさ!」


 本題はウンコの次に出てきた。


「えっ!?だったらそれを先に言いましょうよ!優先順位間違ってません!?」

「い、いいから来とくれや!村まではオラが案内するでよぉ!」


 自身の身に起きた一大事からは目を背け、村へと急ごうとする奮虎。

 だが状況を鑑みるに、勇者には一つ引っ掛かることがあった。


「しかし貴様…ホントに助けを呼びに来たのか?こっち方面に村は無かったが…」

「う゛っ。そ、それは…」


 痛恨の一撃!

 奮虎は図星を突かれた。


「えっ、まさか逃げて来たんですか!?最低ですよそれ!!」

「つーか貴様、そっちに立つな!風にニオイが乗っ…クサッ!」


 いろんな意味で風上に置けない。




奮虎は胡散臭いことこの上ないが、こちらも背に腹はかえられん状況。

仕方なく俺達は奮虎の村へと向かうことにした。


着いたらまずは魔物退治の金額交渉からだ。少しでも多く稼がねばならん。


「さ、ここがオラの村だべ。」


 勇者達が訪れたのは、エリン大陸西部にある『ウシロシ村』。

 特にこれといった特産品などは無い平凡な村であり、村人達は主に農作業で生計を立てている。必要物資は月に何度か近隣の港町へ買い出しに行くことで賄っているらしい。


「おーい村長!旅の退治屋をスカウトしてきたべー!」

「なぬっ!?お、おぉ…神の助けだべ!まさか助っ人さ来てくれっとは…!でかしたぞ奮虎…クサッ!」

「実は逃げたかと疑ってたわい。すまんなぁ奮虎…クサッ!」


 期待していなかった奮虎の帰還に、にわかに色めき立つ村人達。

 だが勇者はその手の空気を読む気は一切無い。


「貴様が村長か?俺の名は勇者、金と引き換えに平和をもたらす男だ。」

(相変わらず惚れ惚れする程あからさまだなぁ…)


 賢二はもはや突っ込む気も起きない。


「さぁ、さっさと本題に移るがいい。面倒は早く済ませたい…村長よ、敵の情報を知る限り話すがいい。」

「あ、ハイ。当座の敵は…見た目は小さく、全く凶暴そうじゃねぇですだ。だども本性は“人食い”の…」

「ひ、人食い!?そんな危険な…」

「フン、ビビるな賢二。『魔王』を討つべく旅をする『勇者』のパーティー…そんな俺達に、逃げるなんて選択肢はないぞ?」


「人食いの魔草、『血色草』だべ。」


さて、どう逃げるか…。


 勇者はオチが読めた。



「キャー!ダーリーン!会いたかったぁ~ん☆」



 だが手遅れだった。


「チッ…やれやれ。どうしたもんか…」


 勇者が察した通り、どこからともなく現れて勇者に飛びついたのは、なんとカクリ島に置いてきたはずの血子だった。

 この状況で他人の振りをするのはかなり厳しい。


(こ、これはもう…詰んだよね…)


 ノーモーションで土下座の準備に入る賢二。

 しかし勇者になんらかの策があるらしい。


(フッ、まぁ安心しろ賢二。こういう時の誤魔化し方は、かつて本で読んだことがある。)

「な…なんだや勇者!?まさかオメェら知り合いなんだべか!?」

「ち、違うんだ奮虎!コイツは…その…い、妹なんだ!」

「駄目だよ勇者君!それは“浮気がバレた時”の…しかも間違った対処法だよ!」


 結局詰んだ。




「こりゃ…どういうこったクソガキども!?事と次第によっちゃ許さんべ!」


 村長をはじめとする、激怒した村人達に周りを囲まれてしまった勇者達。

 しかし当然、そんな連中相手にビビる勇者ではない。


「ほぉ、この俺に喧嘩を売る気か村人風情が…って、イテテッ!噛むなよ血子!」

「だってダーリン、血子を置いて行っちゃうんだもん!どんだけ寂しい思いしたかわかる!?ムキィー!」

「く、食らい付いた!やっぱり人食いって噂は本当だったんだべ…!」


 勇者に噛み付く血子の姿に、村人達は震え上がった。

 だがそれだと少し話が変わってくる。なぜなら、勇者は現時点で血子による被害者が何人か出ていてると思っていたからだ。

 しかしこの反応を見る限りそうではなさそうだ。


「…む?なんだ、貴様ら血子の“食い残し”なんじゃないのか?」

「ち、違うもん!確かに血色草にはそんな話あるけど、血子はまだだもん!これからだもん!」

「これからなんだね…」


 賢二は何歩か距離を取った。


「そう、確かにまだこの子の被害者は出てねぇべ。ただ、人探しに協力しねぇと村ごと食い滅ぼすとか言うもんでオラ達…。本当ならこげなことしてる場合じゃねぇってのによぉ…」


 奮虎の話によると、血子が敵認定されていた理由はただ邪魔だったからであり、実際には他に“真の敵”がいるとのこと。


 村民達が必要物資を買いに出る、東にある港町『ソノマ』…そこへと続く峠に最近、凶悪な魔人が出没するようになったらしく、誰も買い出しに出られず困っているとのこと。

 現れた敵の名は『首無し族』。遭遇した村人のうちただ一人だけ、瀕死の状態で逃げ帰った者がいたというが、その名を告げた直後に息絶えたためそれ以上はわからないらしい。


「ここは他の村からは孤立しとる。東に行けねば村は寂れる一方なんだべ…」


 村長はなんとかしてほしそうにチラチラ見ている。


「ふむ…まぁ俺は構わんぞ?とりあえず村長、村の財政が傾くレベルの金を用意するがいい。」

「えっ、いや、だどもこの村にはそげな余裕は…」

「よし血子、今日がお前の“これから”だ。」

「じゅるっ…」


 村人は全員漏らした。




結局、かき集めても金の集まらん貧乏村だということがわかり、仕方なく俺達はターゲットを『首無し族』の方に変更した。

人を襲う奴らだというのなら、財宝の一つや二つ持っていてもおかしくない。


それにこの二年の修行の成果を見るという意味でも、今回の件は意外と悪い話じゃないのかもしれない…と前向きに考えることにしよう。


「ふぅ~…。でもさ勇者君、一晩くらいはゆっくり休みたかったよね…」

「フン、考えが甘いな。もし村に残って敵に攻め込まれでもしたらどうする?やはり何事も先手必勝だ。」

「あ、この先を右さ曲がれば峠だべや。んだばオラは…」


 奮虎はさりげなく帰ろうとしている。


「おいコラ、どこへ行く気だ?まぁ貴様も“首無し”の一族に仲間入りしたいってんなら止めんがな。」


 勇者は奮虎の首筋に剣を添えている。

 奮虎は当然ひるんだものの、考えを改める気は無いようだ。


「お、オメェらは奴らを知らねぇからそったらことが言えんべさ!!」

「えっ…もしかしてアンタ何か知ってんの!?」


 先ほどの話では敵を知る者はいないとのことだったが、奮虎のこの反応…血子がそう思うのも無理はない。


「まぁオラも知んねぇんだけども。」

「って知んないのかよ!じゃあなんで無駄に思わせぶりなこと言ったの!?」

「とにかく、オラはまだ死にたく…んにゃ、死ぬわけにはいかねぇんだべ!」

「漏れてる漏れてる!本音漏れちゃってるから!どうせ嘘つくなら上手につく努力を!」


 あまりの往生際の悪さに血子もキレ気味だが、なおも奮虎に諦める気配は無い。

 勇者としてもブッた斬りたい気持ちでいっぱいではあるものの、目的地に到着するまでは道案内させたいところ。


「ハァ、やれやれ…。まぁ聞け、奮虎よ。」

「誰がウンコだ!」

「言ってねーよ!文句あるなら名付けた親に言いやがれ!」

「…オラに親はいねぇ。たった一人の弟とも…もう…」


 勇者の口から出た“親”という単語に、これまでとはまた違った寂しげな顔を覗かせた奮虎。


「オラを育ててくれたのは村のみんなだ。だから恩を返すまで…まだ生きてぇんだよ!」

「いや、さっき普通に逃げようとしてたじゃねぇかこのクソ野郎が!」

「誰がクソ野郎だ!」

「いろんな意味で的確だろうが!!」



その後も嫌がる奮虎の首根っこを引っ掴み、『首無し族』が出るという峠を目指した俺達。

だが一時間以上歩いても、敵が現れる気配は一向に無かった。もしや…?


「オイ奮虎よ、一体いつまで歩かせる気だ?もしや迷ったんじゃあるまいな?」

「まぁ急かすなや。もうちっと歩きゃ確か…むっ!見えたべ!!」

「お、おいコラ貴様!急にどうしたんだ…!?」


 突如として駆け出した奮虎は、崖の手前で立ち止まり、そして指を差しながら告げた。


「ホレ、見るべ勇者!あれだべよ!」

「なにっ!?おぉ、そうか!あれが…」


あれが…『港町:ソノマ』…。


 通過してどうする。

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