【036】勇者が行く
マオの半身が姫ちゃんから解放されて半年…。
世界は再び闇に沈みつつあった。
奴と結託した者の名は、『魔王:ユーザック・シャガ』。
とんでもない化け物だと聞く。
現在そいつは最果ての地『メジ大陸』を拠点とし、残りの四大陸にも勢力を広げようとしているのだという。
「…行くのか、勇者よ。」
「ああ。見送りはここまででいいぞ。」
港から少し離れた場所に、勇者と父、そして教師の姿があった。
勇者はこれから長旅に出るような格好をしている。
そう、マオの復活を機に…大陸への旅立ちを決めたのだ。
「じゃあな親父。帰ってきたら貴様を殺す…忘れるなよ?」
「ハッハッハ!お前ごときがこの私を倒せるかな?せいぜい腕を磨くがいいさ。」
「さぁ勇者君、そろそろ行かないと夜が明けてしまいますよ。」
外界から隔離された島ゆえ、大陸へと繋がる定期船は夜も明けきらぬ早朝にひっそりと運航していたのだ。
「それにしても、貴様らが止めんとは驚きだな。絶対止めると思ったんだが。」
「もはやマオは解き放たれた…こうなった以上、誰かが止めねばなりません。」
“誰かが”の時点で、教師にとってはもはや他人事らしいことがわかる。
「お前らも相当強いんだろ?自分が行こうとは思わないのか?」
「面倒です。」
「言い切るなよ…」
完全に他人事だった。
「過保護が過ぎると強い子は育たんからな。これからはお前達若い世代の時代…自分の世界は自分で守るものだ。」
「“マオの半身”たるキミを死地へ向かわせるのは、やはり心配ですが…ね。」
「フン…まぁ安心しろよ先公、俺はマオに乗っ取られる程ヤワじゃない。舐めんなコラ。」
「お前の場合なぜか妙に同調している。何か面白い結果が出るやもしれんな。」
「そうですね。そこに賭けているからこそ、キミを行かせるようなものですよ。」
「フッ、ホントは他にも何か企みがありそうだが…まぁいい。時間も無いしな。」
マオが解き放たれたあの日の後…親父から聞かされた話によると、なんと俺は親父と『前魔王』である『終』との間にできた子なのだという。
そう、選ばれし子供は姫ちゃんだけではなかったのだ。
俺の中にもまた、母親から受け継がれたマオの半身が宿っていらしい。
ちなみに両親の馴れ初めはというと、氷の中に封じられた終の姿に次第に惹かれた親父が、毎日熱視線を送っていたら氷が溶けたとか違うとか。
そんな馬鹿な話があるとは思えんが、あの親父だからな…真相は今のところ藪の中だ。まぁ細かいことは気にしても仕方ない。
「勇者よ、『ギマイ大陸』へ行くことがあったら…『終末の丘』に寄れ。母さんの墓がある。」
「…わかった。チョメ太郎や血子の世話は頼んだぞ。」
「うむ。行ってこい。」
勇者は振り返ることなく、父のもとを後にした。
「…凱空さん、本当にいいんですか?もし彼が倒れるようなことがあれば、いずれ『魔王』の中でマオが完全体に…」
「フッ、問題ない。アイツならなんとかするさ。一度はマオを封じた私が言うのだから間違いない。我々には我々の、できることをしようじゃないか。」
「ふぅ…まぁ仕方ないですね。なるようになることを祈りましょう。」
二人のこのやりとりは、初めてのことではなかった。
マオの半身が解き放たれて以降、多くの島民達が凱空のもとを訪れ、勇者ごと封印するべきだと説いた。
しかし凱空は子供を信じるの一点張りで聞く耳を持たず、全員を追い払っていたのだ。
結局、曲がりなりにもかつて世界を救った『勇者』である凱空が、もしもの時には全ての責任を負うことを条件に、勇者の旅立ちは認められたのだった。
「さぁ、行ってこい勇者!そして…世界を変えてこい!」
もう見えなくなりつつある息子の背を遠くに見つめながら、父は拳を天に突き上げた。
「大陸…か。」
あのマオとの邂逅から半年…。
旅立つことが決まってからは、これまで秘密にされていた大陸の話も少しは聞くことができた。
しかし基本的には自分で知っていくべきだとか言われて、結局のところ大部分が未だ謎のままだ。
だがまぁいい。謎?上等じゃないか。
たとえ一寸先が闇だろうとも、どれほどの困難が待ち受けていようとも、俺は行くんだ。
なぜなら俺は―――
「ゆ~うしゃ!こんな明け方にどこ行く気~?」
「とっ…盗子!?なぜお前がここに!?」
背後から声をかけてきたのは、呼んでもないのに湧いて出た盗子だった。
「水臭いよ勇者君、サヨナラも言わずに行こうとするなんて。」
「おはよう勇者君。」
「賢二…それに姫ちゃんまで…!」
どうやら三人はどこからか勇者の旅立ちの情報を聞きつけ、駆けつけたようだ。
普段は自由に陽気なだけの姫も、気のせいか今日はなんだかしおらしく見える。
「ごめんね勇者君、あのとき私が先生の薬を…」
「フッ…いいんだ姫ちゃん、あれで良かったのさ。」
「苦いとか言っちゃったから…」
「いや、問題は“飲んじゃった行為”なんだが…。まぁ言うだけ無粋だな。」
「マオが抜けても、やっぱ基本は天然なんだなぁ姫さんて…」
賢二の言うように、マオが抜ける前と後とで特に違いが見られない姫。
長年マオを封じていたことで精神が既に限界を迎えており、修復不能な状態…とかそういうわけではないらしい。
女医の診断によると特に問題は無く、つまり素がこんな感じなのだという。
「すまんなお前達、こんな時間にわざわざ見送りに…」
いつもなら息をするように悪態をつく勇者が、今日はいつになく素直だった。勇者なりにこの別れを惜しんでいるようだ。
しかし、その時…勇者は賢二らの持ち物に違和感を覚えた。
「…って、何だその荷物は?まさかお前ら…」
その言葉に、ニヤリと笑う三人。
「んとね、勇者君が行くなら私も行くよ。そのための『療法士』だよ。」
「旅にはお金も要るよね~。だったら『盗賊』は必要じゃないかな~?」
「きっと中には剣を通さない敵もいるよね。『魔法士』は重宝すると思うよ。」
「お、おまえら…」
予想外の流れに、思わず言葉を詰まらせる勇者。
「断る!!」
「えぇっ!?」
「…だが、どうしてもって言うなら連れてってやる!」
「あっ…う、うん!!どうしてもだよっ!ね、賢二!姫!?」
「なんだか僕ら、うまいこと立場を逆転されちゃったね…アハハ。」
「修学旅行だね。」
「あ、それいいね姫!」
「よーし野郎ども、家に帰るまでが修学旅行だ!死んでも帰るぞー!!」
「オォーーー!!」
―――なぜなら“俺達”は、『勇者』だからだ。
こうして勇者達は旅立った。
行く先に何があるのか、それはわからない。
行く先で何が起こるのか、それはわからない。
だがそれでも、勇者は行く。
未開の荒野を、勇者が行く。
まだ見ぬ明日を、勇者が行く。
邪魔する者はブッた斬り、勇者が行く。
勇者が行くのだ。
〔キャスト〕
勇者
賢二
盗子
姫
宿敵
霊魅
弓絵
暗殺美
巫菜子
武史
芋子
余命一年之助
法足
栗子
土男流
案奈
博打
メカ盗子
ユーザック・シャガ(魔王)
魔王母
鴉
華緒
黒猫
麗華
美咲
戦仕
教師(凶死)
校長
ペルペロス
女医
ゴップリン
オナラ魔人
スイカ割り魔人
ベビル
海竜
筋肉兄弟(化院、斜院)
黄錬邪
群青錬邪
桃錬邪
太郎(ビブ)
剣次(カルロス)
下端
ライ・ユーザック
義勇軍総大将
チョメ太郎
血子
勇者義母
勇者父(凱空)
その他の適当な人々
〔ナレーション〕
オチの人
〔キャラクターデザイン〕
画家
〔キャラクター提供〕
(登場順・敬称略)
ゴリガン(暗殺美)
妖狐(巫菜子)
柳瀬あき(武史)
匿名希望(芋子)
ささ(余命一年之助)
SHINTA(栗子)
ワフ(土男流)
minami(案奈)
ムラサメ(博打)
小倉優子(メカ盗子)
〔スペシャルサンクス〕
てん
Clown
匿名希望
こよまま
せもし
ほっけ
ゴウ
「ゆ、勇者ぁー!出たー!何か変な怪獣が出たぁーー!!」
「チッ…!舵取りは任せたぞ賢二、コイツは俺が仕留める!」
「はわわわ!え、えっと!面舵イッパイイッパイ!!」
「大丈夫だよ、傷は私が治すよ!むー、〔転覆〕!!」
「うわぁあああああああああああああああああああ!!」
〔制作・著作〕
創造主
~勇者が行く~
第一部:『勇者誕生編』
完