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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
35/196

【035】外伝

*** 外伝:魔王が行く ***


 ある日、それは遠く離れた世界で『勇者』が生まれたちょうどその日―――


 とある村で一人の少年が産声をあげた。



母さんの“誰よりも強い男に育ってほしい”という想いから、『魔王』と名付けられた。それ“職業”だよ!


いや、確かに強いだろうけども!普通は目指すなら逆方面なんじゃないの!?

『勇者』とか目指してほしいもんじゃないの!?


でもまぁ悲観しても仕方ない。

こうなったら名前負けしないよう、強く生きてみようと思う。

そして『魔王』として申し分の無い力を身に付け、いつの日か倒してやるんだ…!


『勇者』じゃなくて、母さんを。


「魔王様、『黒ミサ』の準備が整ってございます。」


 現れたのは、ウェーブがかった長い真紅の髪を持つ二十代前半と思しき女性。

 前髪は口元まで垂れており目は見えない。その代わりに目の高さの位置に一つ目の模様…『邪教』の紋章が付いた一文字の冠を被っている。服は黒いワンピースを纏っており、どう見ても不穏な見た目だった。


「いやお母さん、僕の二歳の誕生会を物騒な呼び方で呼ぶのはやめてください。あと息子に“様”を付けるほどノリノリなのも。」


 漆黒のローブを頭から纏い、口元しか見えない少年のその姿は、学園校の凶死と同じスタイル。

 二歳の誕生日という割にその体は異様に大きく、既に五歳児くらいに見えた。


「ところでお母さん、食卓に並んでるこのお肉…なぜに生肉なんですか?」

「え…『魔王』といえば血の滴る生肉を貪り食うものでは…?」

「ちょっとその参考文献持ってきてもらえません?燃やすんで。」


 どうやら魔王は、この個性の強過ぎる母親に振り回されながらも健気に生きている模様。


「というかそもそも…これ何のお肉なんですか?」

「…ウフフ。」


どうしよう…怖くて食べられない…。


 魔王は日に日にやつれていく。



「そういえば…これまで聞かないようにしてたんですけど、二歳になったことだしそろそろ聞いていいですか?」

「ええ、もちろんでございます。まずは黒山羊の臓物を…」

「いや、そんな謎の儀式については聞いてないから!知りたいのは僕のお父さんについてだから!」


 魔王の口から出てた“お父さん”という単語に、一瞬ピクリと反応した母。


「僕には…お父さんはいないんですか?見かけないってことはやっぱり…」


 それはこの二年間、魔王が聞くに聞けなかったこと。

 もし父が健在なら、もし父が正常な人間だったなら、共に協力して母を倒そうと考えていたのだ。


「…ええ、今はもう…いないのですよ。」


 だがしかし、残念ながら父はもういないらしい。


「そ、そっか…。あ、じゃあさ!お父さんってどんな人だったの?知りたいよ!」


「ウフフ。とっても素敵な人でしたよ。」


 いつもは魔王の侍女感満載の悪い笑顔しか見せない母が、珍しく母親の顔を見せたような気がした。


「ホントに?例えばどこらへんが?」


「“名前”が。」


そこに愛はありましたか?


 父の名は『嗟嘆サタン)』だった。




どうやらただの“悪そうな名前フェチ”だったらしい残念な母のもと、僕はその後もスクスクと成長。

というか、普通じゃないペースで成長しすぎて自分でも困惑している。


でもそれにはちゃんとした理由があったことが後に発覚。

どうやら僕は『バルク』とかいう戦闘民族の血を引いているそうで、戦闘に適した大人の体になるまでがメチャクチャ早いのだそう。


良かった…。あまりに早く成長するもんだから、もう犬猫とかと同じペースで死ぬんじゃないかと…。


「そうか…ホントに僕は、戦う運命を背負って生まれてきてたんだね…。でも僕は絶対にならないからね、『魔王』になんて!」


 母の歪んだ教育に嫌気が差していた魔王は、母の思惑通りの『魔王』になることに、強い抵抗を示すようになっていた。

 そして今日、その胸の内を初めて母に告げたのだった。


「えぇっ!は、反抗期!?反抗期ですか魔王様!?やったー!第一歩☆」


 だがまったく響いてなかった。


「そんな一歩は踏み出してないから!なんでそう無駄に前向きなの!?」

「さーて、無事に一歩進んだ魔王様を祝して、今日はお赤飯にいたしましょう!」

「祝わないでいいから!」

「まずはニワトリを絞って…」

「しかもそういう赤!?」


こんなに残念な親がいるなんて、絶対に僕だけだと思う。


 勇者はクシャミが出た。




 そしてしばらく経ったある日。


「たのもぉ~!!魔王様はおられますかー!?」


 呼び鈴も鳴らさずに、玄関の外から魔王を呼ぶ声が聞こえた。

 どう考えてもヤバい奴のようだが、実母がそこそこヤバい魔王はいちいちビビらない。


「…ハイ、どちら様ですか?宗教の勧誘ならウチはもう『邪教』に…」


 渋々玄関を開けると、そこには三人の大人の男女が立っていた。


「我が名は『カラス』。是非ともアナタ様の家臣にしていただきたい!」


 鴉と名乗るその青年は、魔王の衣装と同じくらい黒い鎧を全身に纏っている。

 醸し出すオーラは強者のそれだ。


「は…?えっ、なんですかいきなり??」

「私は『華緒ハナオ』。我らはアナタのお父上…嗟嘆様に救われた人間です!」


 次いで声を発したのはショートカットの茶髪の女性。

 切れ長の瞳と紫色の唇、そして眉毛が無いことから一見怖そうだが、慕う人間への忠誠心は高そうに見える。


「この『黒猫』も是非!嗟嘆様に誓った忠誠、今後はアナタ様に捧げまする!」


 そして最後は頭からフード付きのローブを被った小柄な老人。

 鴉と華緒は二十代前半くらいに見えるが、黒猫だけはだいぶ歳が上のようで、火を付けたらよく燃えそうなくらいシワシワだった。


「お、お父さんの…?そっか、お父さんは素晴らしい人だったのか。良かっ…」


 母親とは違い父親は人に慕われるような人間だったと知り、嬉しさのあまり涙が出そうになる魔王。


「我ら、『嗟嘆四天王』!!」


 しかしその隙を与えないかのように、いきなり妙な決めポーズ付きで自らを『四天王』と称した謎の三人。

 状況が特殊すぎて魔王は泣いてる場合じゃない。


「へ…?いやいや、三人しかいないじゃん!もう一人は!?」

「最初から三人ですが、心は『四天王』です!」


 胸を張って誇らしげに答える鴉。


「いや、心構えの問題じゃ無いと思うよ!?」

「そんなことは気にせずに!これから嗟嘆様に代わり、我々をお導きください!」

「で、でも僕は…」


 突然の展開、そして三人の剣幕に思わず気圧されてしまった魔王。

 しかし…それどころではない状況が、すぐそこにまで近づいていた。


「ま、魔王様大変です!上空に多数の宇宙戦艦が…!」


 奥から走ってきた母に、スケールのデカすぎる異常事態を告げられた。


 慌てて空を見上げる四人。

 すると鴉はその敵の正体に気づいた様子。


「あの旗は確か、宇宙を股にかける傭兵団…名は『義勇軍』だったかと。」

「えっ、なんで!?僕はまだ何もしてないのに…なんでなの!?」


 ただ名前が魔王というだけで、今のところは特にまだ悪事は働いていない魔王としては、なぜ自分が狙われるのか意味がわからない。

 だが、やはり母には何か心当たりがあるようだ。


「あぁ、それはワタクシめが…」

「な、何か変な情報でも流したの!?勝手なことしないでよ!」

「雇いました。」

「もっと大迷惑だよ!!」

「荒波に揉まれてこそ、真の『魔王』は育つと思いまして…つい…」

「“つい”じゃないから!育つ前に死んじゃうから!!」


「つい、“全宇宙”に求人を…」


こ、このアマァ…!!


 魔王は覚醒し始めた。




そして月日は流れ…気づけば俺は、母親のせいですっかりグレていた。

奴が送り込んでくる刺客どもを日々退治しまくることで、強制的に力もついた。


そしてそんな中で、頑なに拒んできた『魔王』という職に関しては、時を経て考え方にも変化が。


運命が俺に『魔王』を強いるというのなら、みっともなく逃げ続けるつもりはもはや無い。しかし、どうせなるのであれば“史上最強”を目指さないと気が済まん。

それだけの力を手に入れて、初めて名乗ることが許される…それが真の『魔王』というものだろう。


手始めに、まずはこの星を離れよう。

あのサイコな母親の目の届かぬ地で、自由に破壊を楽しむところから始めようと思う。


ガチャッ


 魔王が玄関を開けると、そこには一面の銀世界が広がっていた。

 前日に降った雪が深く積もっていたが、その日はとてもよく晴れており絶好の旅立ち日和と思われた。


「ま、魔王様!どこへ行かれるおつもりですか!?」


 人知れず旅立とうとした魔王だったが、四天王の鴉には気付かれてしまったようだ。

 鴉は魔王の前に立ちはだかり、先に行かせないよう両手を広げている。


「俺は旅に出る。お前らも、後は好きにしろ。」


 魔王は鴉に一言だけ残し立ち去ろうとしたが、知らぬ間に華緒と黒猫も現れて周りを囲まれてしまった。


「で、でしたら我々も…我々もご一緒させてください!」

「もはや我らは魔王様に忠誠を誓った身。離れるわけには参りませぬ。」

「お前ら…」

「お願いします!お願いします魔王様!!」


 いい歳した大人三人が少年にすがりつくその光景はかなり異様なものだったが、大体毎日こんな感じだったので魔王はすっかり慣れていた。

 そして、その慣れた日々が悪からぬものだったことに、この時改めて気付いたのだった。


「…だったらその呼び方はやめろ。俺にはまだ、そう呼ばれるだけの力は無い。」

「と、いうことは…!」

「フッ…好きにしろ、馬鹿どもめが。」


 期待に満ちた瞳で見つめてくる華緒から目を逸らし、魔王は気恥ずかしそう答えた。


「あ、あの~…ところで、“魔王様”でなければ今後はどうお呼びすれば…?」


 これまで散々そう呼んできたため、いざ変えろと言われても良い案が浮かばない鴉。他の二人も同様らしい。


「そうだなぁ、“魔の王”…意味合い的にはいいのだが、『魔王』の職との区別が欲しいところだな。」

「ふむ…でしたら、“古代語”で言い表すのはいかがでしょう?」

「古代語か…なるほどな。いいだろう!」


 黒猫の提案はすんなり通り、旅立ちの準備は整った。


「さぁ準備はできたか!?行くぞお前達!!」

「ハッ!!」


 そう叫ぶと、身に纏っていた漆黒のマントを豪快に脱ぎ捨てる魔王。

 これまで隠されてきた母譲りの真紅の髪が、雪の照り返しを受けてより一層赤く光り輝く。


「俺は『ユーザック(王)・シャガ(魔)』!“ユーシャ様”と呼ぶがいい!!」


 そして『魔王』は、『侵略者』となった。

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