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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
34/196

【034】六号生:最強の敵

油断した隙を突いてなんとか強敵の親父を倒し、俺は姫ちゃんを救うため全速力で学校を目指した。間も無く到着だ。


途中、それぞれの敵を振り切ってきた賢二、盗子とも合流。

親父から聞いた事の顛末も軽く説明した。


ちなみに二人とも一度は逃げようとしたらしいが、俺を敵に回す方が後々厄介だと気付いて戻ってきたらしい。

フッ、意外と賢明な奴らめ。


「というわけで、恐らく先公が最大の敵となるだろう。覚悟はいいか?」

「し、死ぬのは嫌だけど…そういう事情ならしょうがないよね!姫がかわいそうだもんね!」

「あっ!学校が見えてきたよ勇者君!校庭に誰かいる!!」


 儀式の影響なのか、校庭は怪しい霧に包まれていた。

 そして賢二が指差す先には、儀式の首謀者と思しき教師の姿が見て取れた。


「その儀式、待ったぁーーー!!」

「えっ、勇者君!?なぜキミがここに…!?」


 勇者達の登場が予想外だったのか、珍しく少し動揺する教師。


「姫ちゃんを守るため、貴様を倒しにやって来た!大人しく死にやがれ!!」

「…やれやれ、凱空さんも困った人だ。やはり彼も人の親でしたか。」

「ゆ、勇者く…えぐっ。」


 霧の合間から、教師の脇に立つ姫の姿が見えた。だが表情まではわからない。


「姫ちゃん、まさか泣いて…泣いてるのか!?先公ぉ、貴様ぁあああああ!!」


 勇者は教師に斬りかかった。


ガキィイイイン!!


 勇者が教師の注意を引いている隙に、姫のもとに駆け寄る賢二と盗子。


「うぐっ、えぅっ…」

「えっと、えっと、あの、僕…どどどどうすればいいのかなぁ…!?」

「も、もう大丈夫だよ姫!だから泣かないで!ね?」

「しゃっくりが止まらないよ。」

「紛らわしいよ!!」


 勇者は死に急いだ。




数分後。姫ちゃんを救うべく颯爽と現れた俺だったが、不覚にも先公にボコボコにされていた。

やはりコイツは人間じゃない。まさかこの俺が、こんなにあっさりやられるとは思わなんだ。


「うぐっ…!そ、そんな杖ごとき…に…!」

「フフッ、甘いですねぇ勇者君。接近戦なら勝てるとでも…思ってたんですか?」


 勇者を軽くあしらい、息も切らせず余裕の笑みを浮かべる教師。

 その様子に驚愕しつつも、盗子と賢二はこっそり小声で作戦を立てる。


(あ、あの勇者が赤子扱い…。やっぱヤバいよ賢二!絶対勝てっこないよ!)

(だったら、先に術式を行う『術士』を狙った方がいいかもね!)

「ほほぉ~、私を狙うとはいい度胸ですねぇ。」

「なんで聞こえてんのさこの地獄耳ーー!!って、先生が術士なの!?」

「えっ!?でも先生は『魔法士』じゃな」

ヒュゴォオオオオオ!!


 〔獄炎殺〕が賢二の頬をかすめた。


〔獄炎殺〕

 魔法士:LEVEL50の魔法(消費MP50)

 地獄の業火で敵一体を焼き殺す高等魔法。どんなお肉もたちまちウェルダンだ。


「ひ、ひぃいいいいいい!」

「おかしなことを言いますねぇ賢二君。魔法の一つや二つ使えなくて、先生ができるわけないでしょう?」

「そんなレベルの魔法じゃないですけど!?」

(この隙にアタシが杖を奪えば…!よし、『盗賊の腕輪』を付け…アレッ!?)

「コレをお探しで?」

「ええぇっ!?いつの間に奪われ…!?」

「フフッ。万能無敵のこの私に勝つなんて不可能ですよ。諦めてくださいな。」


 あまりの実力差に、確かに諦める以外の道が見えない。


「ど、どうしよ勇者…もう…ダメなのかな…?」

「…だったら!だったらなんとかできないのか!?“万能”なんだろ貴様!?」

「あ゛…」


 教師は痛いところを突かれた。


「何か他の方法は無いんですか!?ホントにそれしか無いんですか先生!?」


 動揺した今がチャンスとばかりに、畳み掛ける賢二。

 このタイミングで好転できなければ、恐らく次の機会は無い。


 すると教師は、懐から怪しげな液体の入った小瓶を取り出した。

 毒薬の可能性が高いため周囲に緊張が走る。


「マオだけを封印できる術さえ解読済みだったら、コレを使えたんですがね。」

「な、なにその怪しげな液体!?アタシらを毒殺するためのじゃなくて!?」

「私が長年かけて作った『魔法薬』です。これなら強制的にマオを追い出せる。」

「それが前に貴様が言ってた、血子の髪を使った魔法薬か…?じゃ、じゃあ頼む!それを姫ちゃんに…」


 プライドの塊である勇者が、恥も外聞もかなぐり捨てて懇願するというこれまでに無い光景。

 しかしそれでも、教師が首を縦に振ることは無かった。


「駄目です。マオを再び世に放つわけにはいきません。」

「そんなっ…!」


 勇者は膝から崩れ落ちた。


「結構苦いね。」


 姫はいい飲みっぷりを見せた。


「そんなっ…!!」


 教師も膝から崩れ落ちた。




死角は皆無かと思われたが、姫ちゃんにあっさりと意表を突かれた先公。

さすがは俺が惚れた女…姫ちゃん、タダ者じゃないぜ。


すると数秒後、彼女の中から黒い霧のような何かがこんにちは。恐らくコレが…!


「あうぅ~…」


 怪しい霧が全て出ていったと同時に、姫はパタリと倒れた。

 それに気付いて慌てて抱きとめる勇者。


「ひ、姫ちゃん!?大丈夫か!平気か!?お元気か!!?」

「大丈夫だよ勇者、気を失ってるだけ…って、スヤスヤ寝てるよ!神経太っ!」


 その時、どこからか聞き慣れない声が聞こえた。


「ふぅ~、やっと出られたよ~。」


 それが宙に漂う黒い霧状のものからだと気付くと、一斉にその方向へと目を向ける一同。

 すると霧はなにやら邪悪な獣のような姿へと形を変え、そこはかとなくラスボス感をかもし出してきた。


「…貴様がマオか?」

「うん、そうだよ。」


 『霊獣:マオ』が現れた。

 姫の影響が少し残っている。


「くっ、私としたことが…こんな失態を…!」


 悔しそうに唇を噛む教師。


「困っちゃったね。」

「アンタは別に困んないよね!?」


 姫の影響が色濃く残っている。



「うわぉ!ふ、復活しとるぅーー!!」


 その驚きの声の主は、遅れて駆けつけた勇者父。

 予想外に早い展開に、ある程度は覚悟を決めていた父も驚きを隠せない様子。


「お、生きてたのか親父。意外とタフだな。」

「あ~、久しぶりだね『勇者』の人。相変わらずウザい感じだね。」

「む?ああ久しいな。お前は何か…雰囲気が変わったな。」

「正直、自分でも戸惑ってるよ。」


 やっぱり不本意のようだ。


「あっ、そうだ!復活しちゃってもさ、体が無ければ悪さはできないんじゃ…?」


 確かに、一般に『霊獣』とは実体を持たない魔獣を指すため、盗子の言う通りその可能性も考えられる。

 しかし残念ながら、そう甘くは無いらしい。


「問題無いよ。もう新しい器…その資格持つ者の、邪悪な波動は感じてる。」

「!!!」


 みんな一斉に勇者を見た。


「オイ!なにこっち見てんだよテメェら!?ブッた斬るぞ!!」

「いや、僕達は…別に…」

「も、もしも強い強ぉい勇者が乗っ取られたら大変だなぁ~って、ね?」


 賢二と盗子はシラを切った。


「いや、その点は安心していいぞ勇者。父さんは知っているんだ、マオは合意無き者に憑依することはできん。」

「じゃあなんでお前までこっち見たんだよ!?」


 確かにそうだが無理もなかった。



「さてと…これ以上時間潰すのもアレがアレな感じだし、そろそろ行くね?」


 そう言い残し、その場を去ろうとするマオ。

 どうやら次の憑依先の候補は本当に勇者じゃないらしい。


「ま、待ちなさい!アナタをこの島から出すわけには…!!」

「それができれば苦労は無い…。そうだよね、先生?」

「くっ…!」


 もはや打つ手の無い様子の教師。

 だがしかし、そんな教師に軽く捻られたはずの勇者は、なぜかとても偉そうに上から目線で見送る気満々だ。


「まぁいいさ。俺に倒されるまでの僅かの命…せいぜい楽しむがいい。」

「じゃあ毎日お祭りするよ。」

「そりゃ楽しみすぎだよ姫…じゃなくてマオ!まぁ世界滅亡を目論むよりはマシだけども!」

「毎日が“後の祭り”だよ。」

「ねぇそれ主語はどっち!?人間!?もしかしてアンタ!?」

「なんかキャラに威圧感が無さ過ぎて、僕らも恐怖におののきづらいよね…」


 微妙な空気が漂う中、マオは段々と上空に舞い上がっていく。


「んじゃ、もう行くよ。でもサヨナラは言わないよ。」

「ああ。きっとまた会える。」

「いやいやおかしいから勇者!それは友情とか愛情を伴う場合の別れ方だよ!?最終回とかでよくある感じの!」


「サラバだよ脆弱なる者ども!まったねー☆」


 マオはとても軽いノリで去っていった。




「行っちゃったね…“緊迫感”の”き”の字も残さずに…」


 遠くに消えていくマオを眺めながら賢二は呟いた。


 すべては終わった…そんな空気が流れつつあったが、まだこれで終わりではないことを、勇者達は知っていた。


「気を抜いてる余裕は無いぞお前ら。俺達が今すべきこと…わかってるだろ?」

「…大丈夫、僕はわかってるよ。」

「アタシもわかってる。」


 三人が絶対に振り返らないようにしているその背後では、絶対に怒っているだろう教師がただ呆然と立ち尽くしている。

 目深に被ったフードのせいでいつも通り目元は見えず、口元は笑っているようにさえ見えるが、どう考えても怒っているのは確かだった。


「逃げるぞ。」

「うん。」


 三人は翌朝、海岸に打ち上げられた。

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