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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
33/196

【033】六号生:知らされた真実の歴史

カルロスを賢二に、女医を盗子に任せ、結局一人になってしまった俺。


だがまぁ仕方ない、そう易々といかないだろうことは最初からわかっていた。

たった一人であんな悪の巣窟に乗り込むのは無茶にも程があるが、今さらそんなことを言い出しても仕方ない。後のことはその時に考える。


「さてと、あともう一息…しかしこういう時にこそミスを犯すのが人間だ。やはりここは追っ手を撒くためにも山道を経由し…むっ!?き、貴様は…!」

「む?なんだ勇者、父さんの後を追ってきたのか?」


 なんと、山道の方から父が現れた。


「そうかそうか、そんなに父のオッパイが恋し…」

「貴様は学校じゃなかったんだな親父…いや、『元勇者:凱空』よ。」


 父の冗談に被せるように、平静を装った口調で勇者は話しかけた。

「なぬ!?やれやれ、カルロスもとんだウッカリ者だな…父さんマイッチング!」


 大袈裟にリアクションする父。

 いつも通りのノリではあるが、状況が状況なだけに無理しておどけているようにしか見えない。


「フンッ、狸が。バレるとわかっていたから…わざわざここで張ってたんだろ?無駄な抵抗はやめろ。」

「…そうか、ならば話は早い。早速本題に入ろうか。」


 親父はシリアスモードに入った。


「勇者よ、『歴史全書』はどこまで読んだ?」

「む?確か…『魔王』とか『マオ』とやらを頑張って封じたとか、その辺りだったかな。」

「そうか…ならばその続きから話してやろう。」

「できるだけ早く話せよな。また途中で壊れられちゃたまらん。」


 勇者が念を押すと、父は一呼吸おいた後、前に遊園地で実母の話をした時と同じようなトーンで語り始めた。

 やはり今回も違和感が半端無いが慣れるしかない。


「歴史全書にあったあの日の戦いで、マオの半身を己に封じてから約十年後…妃后は一人の子を生んだのだ。」

「ひこ…確か魔を滅するという『退魔導士』の女か。それがどうかしたのか?」

「予想外の事態が発生してな。その日を境に、それまで妃后の内にあったマオの邪気が完全に消えたのだよ。この意味がわかるか?」

「んー…話の流れから考えると、子供の方に受け継がれたとかそんなところか?」

「察しがいいな。そう、なんとも困ったことに…マオは彼女の子に乗り移ってしまったのだ。」


 父の口ぶりからすると大問題かのように聞こえるが、なぜそこまで問題視するのか勇者にはイマイチわからなかった。


「だがそれは十年も前の話なんだろ?なのに今なお何も起こってないってんなら、もう大丈夫なんじゃないのか?」

「いいや。いくら妃后の血を継ぐ子とはいえ、子供の身で耐え切れる程マオは甘くない。十年の時をかけ…マオは少しずつその子の精神を侵食していったのだ。」

「侵食…ってことはまさか、そいつはもうじきマオに乗っ取られるってことか!?かつて『魔王』に力を授けた霊獣が、新たな体を手に入れ復活すると…!?」


 ようやく父の言いたいことを理解した勇者。

 もしこれが本当なら確かに大問題だと言える。


「ああ、我々はそれを懸念している。だからそうなる前に、その子もろともマオを封印する。それが…」

「それこそが、これから学校で行われる何かの正体…ってわけか。」


 確かに勇者は、ここ最近大陸の歴史に惹かれていた。また、急に休みになった学園校に関してもとても気になっていた。

 だがそんな二つが強く結び付いているとは考えてもいなかったため、勇者はまだ頭の整理が追いつかない。


「勇者よ。私がなぜ今、お前にこの話をしたかわかるか?」


 勇者の目を見据え、静かに問いかける父。

 話の流れから察するに…霊獣マオを受け継いだというその子供が、勇者に深く関係していることは明らかだった。


「ま、まさか…まさかその子供ってのは、俺…」


「姫だ。」

「じゃなかった!!」


 勇者は読み違えた。



「バッ、バカな!あんな天使みたいな姫ちゃんの中に…そんな邪悪な霊獣なんぞいるわけないだろうが!」

「だが確実に、あの子は蝕まれている。お前は彼女の変調に気づかんのか?」

「変調?そんなものは無い!姫ちゃんは昔から何も変わっちゃ…いや、確かに元から変わっちゃいたが。」


 そういう意味じゃなかった。


「恐らくだが、言動に何かしらの異常をきたしているはずだ。何か心当たりがあるんじゃないか?」

「そ、そんなことは無い!話が通じない時がチョイチョイあるのはあくまで彼女が天然だからだし、たまに回復系魔法と間違えて絶命系魔法とか唱えるのも天然だからで…」

「いや、目を覚ませ勇者。“天然”ってそんな万能な言葉じゃないぞ。」

「だが、しかし…!」

「精神に異常をきたしている証拠だと…そういう結論に至ったのだ。回復の兆しが見えん以上、もはや打つ手は他に無い。」

「そんなはずはない!貴様らの考えが足りんだけの話だろうが!きっと何か…」

「考えたさ…可能な限りな。もしマオの魔力に耐えられるのなら、そのままこの島で穏やかに生きてほしかった。有事に備えて人材や環境も整えた。マオに打ち勝つ力を養ってもらうべく、時には辛い試練も与えた。全てはお前達を…強き者へと育てるためにな。」

「いや、だったらもっと手加減しろよ!危うく死ぬところだった場面は数え切れんぞ!?死んだら世界的に困る相手を何度も死地へと追いやってんじゃねーよ!」

「フッ。その程度で死ぬほど運が無いのなら、どのみち遠からず死んでいたさ。それに、いつも陰から見守ってはいたしな。」


 勇者は父が何度か学校行事中に現れたことを思い出した。

 基本的に“陰から”ではなかったが面倒なので突っ込むのはやめた。


「チッ…なるほどな。じゃあもう一つ教えろ、逆に…なぜ今まで待った?どうせ封印するってんなら、生後間もない頃に封じた方が、うっかり死なれるリスクも無くて安全だっただろ?」

「封じることしかできなかったのは私達の業だ、子供達に重荷を背負わせるつもりは無かった。それに問題を先送りするだけだからな…」


 そう言うと父は、煙草を深く吸い込んでから続けた。


「結局いつか復活し、世界を再び闇に染めるだろうことを考えると、単に封印し直すだけでは根本的な解決にはならん。ゆえに、我々が探していたのは第一に“マオを滅する方法”、次に“マオだけを封じる方法”…。今回の“器ごと封じる方法”は最終的な妥協案なのだ。だから今のこの状況は、私としても無念でならん。」

「だったら…だったら簡単に諦めてんじゃねーよ!まだ何か手があるかもしれんだろ!?マオなんつー化け物と姫ちゃんを一緒に封印だなんて、フザけんなよ!!」


「おフザけ大好きぃーー!!」

「くそっ、時間切れか!こんなタイミングで時間切れかっ!」


 シリアスモードは五分が限界だった。


「いま学校では封印の準備が行われている。お前を行かせはしない。私はお前を…一生離さない!」

「プロポーズかよ!!どけ!その術は俺が命に代えても阻止してやる!」

「ここは通さん!私は父さん!…プッ☆」

「ブッ殺す!!」

「行かせんぞ!どうしても行くと言うのなら、この偉大な父の屍を越えブホッ!」


 勇者の渾身のアッパーが炸裂した。

 父は鮮やかに宙を舞った。


「さぁ親父、命が惜しくば黙って俺を通しやがれコラ!」

「私に…父に手を上げるとは…!後悔してやる!!」

「お前がすんのかよ!させるんじゃねーのかよ!!」

「フッ、息子に後悔なんぞ絶対にさせない…それが親の使命だ。」

「いや、貴様の子に生まれた時から俺の後悔は始まったぞ!?」

「まぁ、アレだ。とにかくここは通さんし、私は父さん!…プッ☆」

「ほんとブッ殺す!!」

「行かせんぞ!どうしても行くと言うのなら、この偉大な父の屍を越えブホッ!」


 しばらくこれを繰り返した。



親父により隔離計画の全貌が明かされ、姫ちゃんが危ないとわかった今、じっとしてなんかいられない。

さっさとこのクソ親父を血祭りに上げ、颯爽と姫君を助けに向かってこそ『勇者』といえるだろう。


しかし、この親父…さすがかつて『勇者』として活躍しただけあって、まともに攻撃が当たらない。

いや、それどころか…コイツ…!


「おいクソ親父!貴様…手加減してるな!?本気で来いよ舐めんじゃねーよ!」


 父が加えていた手心に気付きブチ切れる勇者。

 負けるわけにはいかない状況だとはいえ、決闘において手を抜かれる屈辱には耐えられない。


「ハァ、本気か…いいだろう。だがまず先にこちらの問いに答えてもらおうか。」


 仕方ないといった感じで溜め息をつきつつ、父は勇者に問いかけた。


「勇者よ。仮にここを抜けられたとして、お前は一体どうする気なのだ?」

「何を?決まってんじゃねーか!姫ちゃんの封印を阻止するんだよ!」

「だがそうしたところで、いずれ彼女はマオのモノになるのだぞ?」

「馬鹿を言うな!姫ちゃんは俺とくっつくんだ!」

「いや、そういう意味じゃなくてだな。」


 父はなるべく説得でなんとかしたい様子。

 だが勇者に聞き入れる気は無い。


「まぁ大丈夫だろ、こういう時は結構なんとかなるのが世の常だ。」

「だがもしならなかったら、マオが復活して世界はおっかなビックリだぞ?」

「フン、問題無い。そんな時に無理矢理なんとかするのが『勇者』の役目だろ?任せやがれ!」

「…そうか、やはり話し合いでは解決せんようだな。」


 そう言うと父は戦闘体勢を解除し、おもむろに勇者の方へと歩み寄ってきた。

 一見あまりに無防備で逆に警戒する勇者。しかし、その警戒が遅かったことに気付いたのは片膝を付いてからだった。


「なっ、なんだこの香りは…!まさか、“痺れ薬”か…!?」

「勇者よ、いいことを教えてやろう。戦場では安易に風下には立たんことだ。」


 父の右手には小さな革袋が握られている。


「安心しろ、効力は強いが命に別状は無い。しばらく大人しくしているんだ。」

「ぐっ、卑怯な…!プライドは無いのか貴様…!?」


 勇者から“お前が言うなよ”なセリフが。


「すべてはお前のためなのだ。それに戦闘中に、油断したお前も悪い。」


 足元にうずくまる勇者を見下ろしながら諭す父。

 それを聞く勇者はさぞかし悔しそうな顔をしているかと思いきや、なぜか…笑みを浮かべていた。


「ああ、同感だな。」


「ぐぁはああっ!!?」


 息子の急所攻撃。

 親父は股間に痛恨の一撃を受けた。


「ぬぐおぉ…息子がムスコを…!うぐっ、ば、馬鹿な…動けるはずが…!」


 完全に油断していたところに絶妙な攻撃が炸裂し、苦しみ悶える父。


「やれやれ…まさかあんなに無駄と思えた経験に救われるとはな…。世の中わからんものだ。」


 勇者はピンピンしている。


「なぜだ…象でもしばらく動けんほどの劇薬だぞ…?」

「知らぬ間に、この手の毒に耐性がついてたようだ。二度に渡り俺を苦しめたあの『オナラ魔人』…奴の放つ屁の毒性に比べれば、こんな痺れ薬なんぞ屁みたいなもんだぜ。いや、まぁあっちの方が屁なわけだが。」


 ある意味毎回邪魔した父の功績とも言える。


「あぅ…う゛がぁ…」

「まぁ悪く思うなよ親父、恨むなら自分の教育方針を恨んでくれ。」

「ま゛、待で…勇者…」

「ここから学校まではすぐ…急げば間に合うやもしれん。よし、猛ダッシュだ!」

「ぐ゛っ……がふっ。」


 勇者は父の屍を乗り越えた。




 走り去る勇者をただ這いつくばりながら見つめるしかなかった父。

 するとそこに、背後から剣次の声がした。


「オイオイ…人にあんだけ釘刺しといて、結局アンタの答えはそれかよ?」

「む゛っ…お゛、おぉカルロスか。油断したらこのザマ…情けない話だ。お前こそ今まで何していたんだ?」

「俺か?俺は賢者殿と戦い始めたところで…一瞬の隙に逃げられちまってな。慌てて学校目指して追ったけど全然見当たんなくてさぁ。やっぱり大した人だよ。」


 賢二は逆方向に逃げてた。


「でもアンタは違うだろ凱空さん?本気出しゃガキなんて一捻りだろうに。」

「…まぁ、息子に後悔なんぞ絶対にさせないのが…親の使命だからな。」

「それで世界が滅びようともか?フッ、随分と無責任な『勇者』だなアンタも。」

「息子の天命に賭けてみたくなった。最後には…親のエゴが勝ってしまったよ。」


 親父はカッコ良く締めようとした。


「立てるか?」

「ダメかも…」


 だが失敗した。

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