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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
29/196

【029】五号生:再会

“一家団欒”を掲げた地獄のようなテーマパークからなんとか逃げ延び、そのまま夏は過ぎ去り…秋。

明日のは遠足は恐らく、春に引き続き“海賊狩り”になるのだろう。


「春は残念な結果に終わりましたが、気づけば秋遠足の時期になりましたね。」


 教師はそう言うが、春は誰も海賊団を発見できなかっただけに犠牲者も無し。

 つまり本当に残念な結果になるのはむしろこれからだった。


「なぁ先公。海賊は本当にいるんだよな?俺らが…あと学院塾の奴らまで捜してたってのに、それでも見つからんとかおかしくないか?」


 春に誤って海軍を襲撃してしまった勇者は、同じ轍を踏まないよう今回は少し慎重に構えていた。


「あ~、実は春遠足の少し前くらいから海軍の監視が強化されたらしくて…近海には寄り付かなくなったそうなんですよ。とても残念なことです。」


 完全に“狩る側”の目線だ。


「そうか、じゃあもう海賊はいないわけだな…なんだか拍子抜けだな。」

「フフフ。そんな勇者君に朗報です。実は先日、彗星の如く現れた新参の海賊の噂を耳にしたのです。」

「新参の海賊…?」

「その名も『蒼茫ソウボウ海賊団』。名前以外は一切が謎に包まれているそうですが…なんとその船、飛んだり消えたりするらしいのですよ。」


 教師のその言葉に、教室は一瞬静まり返った。


「なっ!?バカな!今の技術で船ごと飛ぶとか消えるとかありえんだろ!?」


 勇者が驚くのも無理は無い。

 勇者達が暮らすこの小さな島では、乗り物といえば未だ獣車などが主流であるため、海賊船サイズの船が飛ぶ、ましてや消えるなど想像の余地すら無いのである。


「しかしですねぇ。なんと彼らは、そんな船を持ちながら…ほとんど港や街を襲わないそうなのですよ。おかしいと思いませんか盗子さん?」

「ふ~ん、確かに変だね。でも“ほとんど”ってことは少しは襲ってんでしょ?」

「ハイ、“食い逃げ”とか。」

「ショボッ!それが『海賊』のやること!?ただの小悪党じゃん!」

「ですが彼らの技術力は未知数…。脅威となる前に潰すのが、得策なのです。」


 “疑わしくば滅せよ”…基本的にそんな思想がまかり通っている学園なのが恐ろしいところ。

 だが五号生の秋にもなると生徒達も慣れたもので、特に抵抗する者も無く皆が静かに覚悟を決めていた。平穏無事を祈ったところで、どうせ裏切られるに決まっているからだ。


「ん~、とまぁ大体こんな感じですかね。みなさん、わかりましたか?」

「ハーイ!」

「というわけで、明日は“芋掘り”に行きます。」

「どういうわけで!?」


 結局裏切られた。




そんなわけで、今年の秋の遠足は三年振りの芋掘りらしい。ったく、あの思わせぶりな会話は何だったんだ。

てっきりまた海賊探しだと思って心の準備をしてたってのに…まったくやれやれだぜ。


それに俺は、芋園には少なからぬトラウマがあるのだ。

ゴップリンや群青錬邪のように腕力を武器に襲い掛かってくる敵ではなかったが、ある意味破壊力は抜群だった前回の敵『オナラ魔人』。

おかげで俺は生死の境を彷徨った。


あの時は最終的に、「面倒だから畑ごと焼こうよ」という姫ちゃんの奇抜なアイディアもあり豪快に焼き払ったわけだが、俺の精神に刻まれた傷は未だ消えてはいない。


「えー、今回は五号生同士の親睦を深める芋掘りです。みなさん仲良くしてくださいね。」


 大獣車に乗ったところで教師から、改めて今回の趣旨が告げられた。

 今日はクラスの垣根を越えて五号生全体での行動になるらしい。

 クジで決めた席順通りに一同は席についており、面倒臭そうな表情を浮かべた勇者の隣には、似たような顔をした暗殺美が座っていた。


「チッ、まぁ不本意ではあるが仕方ない…今日のところは一時休戦といくか。」

「フン、不本意なのはこっちの方さ。馴れ馴れしくすんなや。」


 そんなギスギスした二人の空気をなんとかしようと、頑張って勇者に話しかける盗子。


「と、ところでさ勇者!今日はどこ行くのかなぁ?オナラ魔人の芋園は燃えちゃったよね?」


 今回の座席は勇者、暗殺美、通路を挟んで姫、盗子の順になっているため、盗子の相手をするのはすこぶる面倒ではあったが、姫の方を見る口実を簡単に逃す勇者ではない。


「そうだな、激しく燃えたよな…。なぁ姫ちゃん?」

「バケツリレーの甲斐も無くね。」

「でも撒いてたのは灯油じゃん!」


 そう、畑ごと焼こうなどと物騒なことを言い放ったのは確かに姫なのだが、その後のバケツリレーで誰よりも頑張っていたのも姫。

 しかし盗子の言う通り、撒いていたのは灯油だったためそれはもう豪快に燃えた燃えた。

 つまり、バケツの中に灯油を仕込んだ犯人と、最終的に火を放った悪魔がいたわけなのだが…盗子は深く考えるのはやめた。というか考えなくても大体わかっていた。


「あ~、ちなみにみなさん、行くのは今回も三年前と同じ畑ですよ。やっと営業再開したそうなんでまた燃や…ご挨拶に、ね。」


 疑惑は確信に変わった。



「そうか…やれやれ、つまり今回も…奴の脅威にさらされるわけだな…」


 いつもは好戦的な勇者が、教師の話を聞いてから急に弱気な顔に。

 それが前回の芋掘りに起因することを盗子は知っている。


「そ、そういえば前回は勇者…死にかけたんだもんね…」

「ああ、そうだな…。『ガスマスク』を用意したつもりがなぜか『覆面レスラー』になってたからな…」


 それは前回乗り込んだ三年前のこと。

 オナラ魔人の攻撃が死ぬほど臭い可能性も視野に入れ、念のためガスマスクを準備していた用意のいい勇者。しかし例の如く父がリュックが余計な気を使ったようで、まったく別のマスクに差し替えられていたのである。

 おかげで勇者はオナラ魔人の殺人級の臭さに嗅覚をやられ…その後数日間、鼻が爆発する夢にうなされ続けたという。


 そんな悪夢が再び脳裏をよぎる中、走ること小一時間。勇者達は目的地へと到着ようとしていた。

 まだ若干の距離を残しているにも関わらず、既にそこはかとなく臭い。そのため一斉にガスマスクを装着し臨戦態勢を整える生徒一同。

 獣車内は殺伐とした空気…もとい、とにかく臭い空気に包まれていた。


 そしてついに、オナラ魔人が経営する芋園に到着。

 出迎えたのは恰幅のいいオッサン魔人。全身の肌色がさつまいも色なのは、食べ過ぎなのか元々なのか。

 一見温和そうな顔に見えるものの、鼻だけを防具で完全に密封し防御しているあたりが、その臭さの“諸刃の剣”感を醸し出していて何より怖ろしい。


「フッ…ひ、久しぶりだなオナラ魔人。今回は前回の雪辱を果たしに来たぜ!」


 決め台詞と共に颯爽と登場した勇者。だがしかし、その姿は―――


「だ、誰だ貴様(プ~)!?私に『銀行強盗』の知人はいないぞ(プ~)!」

「う、うるさい!この『目出し帽』は親父の差し金…グハッ!やっぱ臭ェ!!」


 その光景は、三年前の再現VTRと言っても概ね差し支えなかった。

 今回もまたガスマスクが無く苦しむ勇者もそうだが、要所要所で屁をこくオナラ魔人のハタ迷惑なスタイルも健在だ。


「が、頑張って勇者!見た目が滑稽すぎて同情しきれないけども!」


 そう…つまり、またもや父の余計な気遣い(という名の嫌がらせ?)により、勇者は窮地に追い込まれているのだ。

 被っているマスクの種類が若干異なるだけで状況はほぼ同じ。盗子は精一杯励まそうと試みるも、怒り狂う勇者の耳にはもはや届いていない様子だ。


「おのれ、親父…!帰ったら今度こそブッた斬ってやる…!」

「ま、前向きに考えようよ勇者!あの親父はあの親父で、きっと気を使ったつもりなんだよ!良かれと思っての行動なんだよ!」

「いや、仮に悪気は無かったにせよ遠足に目出し帽を持たせてプラスに働く展開ってどんなさ?」


 暗殺美の的確なツッコミが炸裂した。


「くっ、気を失いそうな状況にも関わらず、あまりの刺激臭に無駄に意識がハッキリと…!」

「というかアンタなんで文句言いながらも素直に被ってんのさ?それ普通に鼻が露出してるから防御力ゼロさ。」


 それは三年前からみんなが思っていた。


 だがしかし、動揺しているのは生徒達だけではなかった。

 むしろ他の誰よりも、オナラ魔人の方が怯えているように見える。


「ところで、キミらは何しに来たんだね?私は入園を許した覚えは…」

「おやおや、今日はいい感じに乾燥してますね~。」


 教師は遠回しに威嚇した。

 もうなんというか、誰が『魔人』なんだかわからない。


「や、やめてくれ!もう燃やさないでくれ!!」


 土下座しながら懇願するオナラ魔人。どうやら戦意は無いようだ。

 もしかしたら彼は、ただ臭いというだけで魔人認定されているのかもしれない。


「もしまた畑を奪われたら、この先…私は一体どうやって…どうやって屁をこけばいいんだ…!」

「いや、仮にも『オナラ魔人』を名乗るなら自力でこけよ!って、違うチョット待て、やっぱりこくな…臭ぇ!もはや痛ぇ!!」


 悶絶する勇者を横目に、教師は困った顔をしている。

 実際はみんなを困らせてる側なのにも関わらずだ。


「んー、参りましたね~。この辺りじゃ、ここの芋が一番評判いいんですが…」

「前回焼くだけ焼いて食べずに帰ったくせにそれ言う!?」


 盗子をはじめ、生徒達はもうオナラ魔人を応援したい気持ちになっていた。

 共通の敵を前に、なぜか謎の一体感が生まれつつある…そんな感じだろうか。


 とはいえ、どう足掻いても勝てる相手ではない。

 今回もまた凄惨な結末を迎えるのだろうと誰もが思ったその時…教師の口から出たのは意外な言葉だった。


「やれやれ、仕方ないですね…。まぁいいです、どうやらもっと面白いことに…なりそうですしねぇ。」

「え…?」



ブロロロロロ…



 どこからか聞こえてきたエンジン音…それが上空からだと最初に気付いたのは暗殺美だった。

 『暗殺者』という職業柄か、そのあたりの感覚は冴えているようだ。


「な、何さこの音は!?空の上からさ…!」


 その言葉を合図に、一同は一斉に空を仰いだ。

 そして勇者は上空に、ありえないものを発見したのである。


「なっ!?そ、空飛ぶ…船…!?じゃあまさかアレが、『蒼茫海賊団』!?」



 その頃、船内では―――


「腹減ったニャー!もう耐えられニャいのニャー!死ぬぅうううう!」


 語尾に“ニャ”を付けるという痛々しいキャラの少女が、床を転げ回りながら駄々をこねている。

 歳は勇者達と同じくらい。猫のような瞳、首元には鈴、猫耳の付いた被ったフード被っているように見えるが、良く見るとフードには穴が開いており、そこから覗いている猫耳はまるで本物のようだ。


「ライ殿、お願いだから我慢して欲しいッス!街はもう少し先なんスから!」

「あっ!芋園!芋園があるニャ!ここを襲うのニャ『下端カタン』!」


 暴れる猫耳の少女をなんとか嗜めようとする『下端』と呼ばれる少年。ペンギンの姿を模した兜を被った熱血漢であり、こちらも歳は勇者らと近そうだ。

 一方、物騒なことをサラリと言い始めた猫耳少女の名は『ライ』というらしい。


「駄目ッスよライ殿!『船長』は犯罪事は嫌いなんスから!」

「うーるーさーいー!海賊団ニャんだし悪事の一つ二つは仕方ニャいのニャ!」


 言いたいことはわかるが悪事のレベルが低過ぎて同意しづらい下端。

 もうお手上げだった。


「せ、船長~。もう自分には止められないッス~。」


 暴れて手が付けられないライに困り果てた下端は、奥の船室に助けを求めた。

 海賊船の『船長』…つまりこの船で最も偉い人間…にも関わらず、現れたのはとてもそうとは思えない貧相な影。

 そしてそれを囲む二つの影が続く。


 まず先に口を開いたのは、真ん中の影ほどではないにしろ線の細い右側の男。


「んー、芋園ねぇ~。でもわざわざ収穫する手間が面倒じゃん?」


 そして次に、反対側の男がそれに応えた。

 こちらは逆にかなり強そうな体格に見える。


「いやいや太郎、やっぱ鮮度は大事だろ?なぁ船長…いや、賢者殿?」


 そう、つまり彼らは―――



「でも剣次さん、ここは臭いから…」



 なんと!賢二は生きていた。

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