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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
28/196

【028】五号生:テーマパークで一家団欒

海賊船と間違えて『海軍』の軍艦に突撃をかましてしまった俺。

手負いだったこともあって撒くのに随分と時間がかかり、なんとか港に着いた頃には既に夜だった。


危うく国を敵に回しかけたが、顔は見られてないはずなので問題は無いはず。

とりあえず今後はもう少し座学も頑張ることにしよう。


今にして思えば、何か引っ掛かっていたのは以前に教科書で見た海軍旗の写真…。

あれをちゃんと覚えてさえいれば、今回の無駄な騒動は起きなかったのだ。


ちなみに、結局のところ俺だけでなく他の奴らも海賊団は発見できずに終わったらしい春の遠足。

続きはきっと秋なんだろう。



だがその前に、夏。

宿題も片付けたのであとはのんびり過ごすだけ…と、そう簡単にいくとは俺も思ってはいない。

きっとまた何かしら厄介なのが待ち受けているのだろう。


「ふぅ~…、ただいまー。」

「ポピュッパ☆」


 勇者が家に帰ると、珍しくチョメ太郎が出迎えにきた。

 迎えがというよりまともに家にいること自体が珍しい。


「おー、よしよしチョメ太郎。出迎えは嬉しいがとりあえずそのロケットランチャーはそっと降ろせ。」

「ポプゥ~…」


 するとその時、むくれるチョメ太郎の後ろから、女性らしき声が聞こえてきた。


「あ、おっ帰り勇者ちゃ~ん☆超ひっさしぶりって感じぃ~?」


 とてもユルいノリで奥から現れたのは、トロンとした眠そうな目をした細身の女性。

 オレンジがかった髪で右目は完全に隠れており、髪留めのような金色の輪を頭部に装備している。


「む?なんだ、来てたのか“カマハハ”。今日はオカマバーは休みか?」


 実は女性じゃなかった。

 そう、前に勇者が言っていた、同居している“謎のオカマ”その人だった。

 見た目からするとそこそこ美人の女性にしか見えない。


 父が義母(便宜上そう呼ぶこととする)を“ママさん”と呼び、それに“パパちゃん”と返すため、勇者も最初は彼女が自分の母親だと思っていたのだが、あとで違うと聞かされて驚いたという過去があった。

 性別すら違うと聞いてさらに衝撃を受けたのは言うまでもない。しかも、結局のところ何者なのかは未だに知らないのだという。

 とりあえず今わかっているのは、喋り方が歳相応じゃないということくらいだ。


「今日はねぇダーリン、お義母様に料理を習ってたんだよ☆」

「つーかお前はいつまでいる気なんだ血子?」


 前回の冬に取り憑かれて以来、いつまで経っても山に帰る気配の無い血子に対して、毎日めげずに帰れと言い続けている勇者。

 だがそんな勇者とは対照的に、チョメ太郎、義母、血子、そして勇者…どう見ても個性が強過ぎる面々を眺めながら、父は幸せそうに呟いた。


「あぁ、やはり一家団欒はいいなぁ…☆」

「あん?何が一家だクソ親父!四割が魔物じゃねーか!!」

「ひ、酷いよダーリン!オカマは魔物じゃないよ!?お義母様に謝って!」

「お前が謝れよ!!」


 家族全員が自由すぎるため、ツッコミキャラの血子が機能しないと勇者が突っ込まざるを得ない。



「よーし、じゃあ家族が全員揃ったところで話がある。ママさん、よろしく。」


 皆が席についたのを見て、父は本題に移った。


「えっとね~、この夏はみんなで旅行に行こうかなってゆーかぁ~?」

「旅行!ダーリンと家族旅行!血子は大賛成ーー☆」

「ポピュパッポプ!」


 父らの提案に大喜びの血子とチョメ太郎。

 だが勇者は違うようだ。むしろ凄まじく嫌そうな顔をしている。


「俺は却下。こんな濃すぎる奴らとの旅なんて、どう考えても気が磨り減るわ。」

「でもぉ~、このメンツじゃなきゃ行けないしぃ~。値段も超安いんだけど~。」


 これまでも何度か家族で出かけるという話はあったが、大体は勇者が拒否することで実現せず、親も特に無理強いはしてこなかった。

 しかし今回は、これまでとは違い簡単には引き下がろうとしない勇者義母。


「む?このメンツってことは…つまり家族を対象にした旅ってことか?あざとい商売だな。なんてプランなんだ?」


「『一家心中』?」


「縁起でもない!!」


 帰りの交通費が要らない。




翌日。なんとか逃げ出そうとしたが周りを囲まれてしまい、俺は無理矢理に家族旅行へ連れて行かれることになった。


しかもプラン名がプラン名なだけに、無事に帰れるのかどうかも怪しい。


「あ、皆様ァ~。本日は当車をご利用いただき~誠にありがとうございまァす。」

「む…?おぉ、お前か案奈。偶然じゃないか。お前が今日のガイドなのか。」


 大獣車の出発に合わせて、早速ガイドの挨拶が始まった。

 どこかで聞いた声かと思えば、ガイドは去年卒業した『案内人』の案奈。

 前回は途中で海竜に襲われたりと散々だったため、なんとなくだが少々嫌な予感がしてきた勇者。


「ゲホッ、ゴホッ!ぞ、ぞじで私が今回の運転手で…ゲハッ!!」

「って、なんでまた運転手がこんなんなんだ…」


 “予感”じゃ済まないかもしれない。


 だがそんな勇者の心配を気にも留めず、案奈は平然と定常業務を淡々とこなしている。


「なお~、条例により~、火薬~ガソリンなどの危険物は~…」

(チッ、持ち込み禁止か!だがチョメ太郎は絶対持ってる…マズいぞ!)

「車内で~販売しておりまァす。」

「取り締まれよ!!」


「また~、悪路につき~、状況により止むを得ず~…」

「あ、急停車する場合があるんでしょ?血子知ってるよ!」

「心停止する場合が~ございまァす。」

「誰が!!?」


 さっきから運転手が動かない。




というわけで、前回に引き続き運転手に問題があったため、今回もまた親父の運転で大獣車はひた走った。


そして着いたのは『一家団ランド』という名の施設。

一見アットホームそうだが、しかし…あのプラン名からしてどうせろくな施設じゃあるまい。


「オイ案奈、ここは一体どんなスポットなんだ?嫌な予感しかしないのだが…」

「首吊り~、飛び込み~、その他各種アトラクションが~充実しておりまァす。」

「一回こっきりで人生終わりじゃん!いくつも楽しんでらんないじゃん!いや、そもそも一つも楽しそうじゃないけども!」


 全力で突っ込む血子の脇を、父子二人の親子連れが通り過ぎていった。

 子どもの方は楽しそうにしているが父親の方は完全に目が死んでいる。


「ねぇパパ、ここに来ればママに会えるってホント?」

「ああ、すぐに会えるよ…すぐに…」


「だ、騙されてる!騙されてるよボウヤ!ちゃんとプラン名確認した!?」

「感動の光景だな…。父さんちょっと泣けてきたぞ。」

「血子も泣きそうだよ違った意味で!!」

「おいクソ親父!なんでこんな不気味な場所まで連れて来たんだ!目的は!?」

「はっはっは!目的もなにも、そんなの家族で楽しむために決まっとろうが。」

「楽しめねーから言ってんだよ!」

「ワガママを言うな勇者。最後の…家族旅行…なんだから…」

「最期になりそうなのはテメェのせいじゃねーか!」

「ねぇねぇ勇者ちゃ~ん。あの『お化け屋敷』なんだけど~、超入ってみたくな~い?」


 ブチ切れる勇者を完全にスルーしつつ、義母はアトラクションの選定を始めていた。

 まだ恐怖感が拭いきれていない血子からしてみれば、言葉の響きからして『お化け屋敷』は一番避けて通りたいところ。


「えぇ~!こ、怖いよ!化け物がいるんでしょ!?」

「フン、リアル化け物が何を言うか。」

「ち、違うもん!血子はただのキュートな根っこだもん!お化け怖いー!!」

「ったく…。騒ぐな血子、こんなのは所詮子供騙し…」


 勇者は面倒臭そうに血子の方に振り返ると、ふと看板が目に入った。


『霊魅のドキドキお化け屋敷』


 もしかしたら本物かもしれない。


「ん~、じゃあアレは~?あのメリーなんとかってゆーの?」


 義母が指差す先では、馬の形をした乗り物がありえない速度で回転している。

「む?『メリーゴーラウンド』のことか?どう見ても普通な感じには見えんが…」

「ち、違うよダーリン!よく見ると『メリーゴートゥヘル』って書いてある!」

「なんでそんな一撃で死にそうなのばっかりなんだ!このフリーパスチケットの意味は!?」

「まぁそう怒るな勇者。じゃあ最初は穏やかに『観覧車』でも乗ってみようじゃないか。」


 父のその提案に、なぜかテンションが上がるチョメ太郎。


「ポピュッパー!ポピュッパップー!!」

「言っとくがチョメ太郎、勘で乱射するから『勘乱射』ってわけじゃないぞ。」

「ポ、ポピュッ!?」


 チョメ太郎は攻撃を封じられた。


「ど、どうするダーリン?きっとその観覧車にも何かあるよ?なんなら『勘乱射』の線も無いではないよ…?」

「フン、俺は行くぞ。逃げ回るのは…性分じゃないからな。」


どうにか閉園時間まで生き延びれば、それで済むんだ。


 勇者は“24時間営業”の事実を知らない。




結局、親父の提案に従い観覧車に乗ることにした俺達。

二人乗りなので俺は親父と乗った。


最初は大人げなくはしゃいでいたが、途中から次第に静かになっていく親父。

うるさいのも嫌だが、嵐の前には静けさが訪れるというし…これはこれで嫌な予感がして仕方ない。


「思えば、こうしてお前と落ち着いて話すのも久しぶりだな…勇者。」


 ゴンドラに入って少し経った頃、父は静かに語りかけてきた。


「久しぶり?俺の記憶が確かなら、恐らく人生で初の経験だと思うがな。」

「そうか…確かにそうかもしれん。」

「む…?どうした親父、いつになく神妙な顔つきだが…」

「今日はちょっと、お前に大事な話があってな。」

「大事な話…なんだプロポーズでもする気か?悪いが貴様なんぞと結婚してやる気は…」

「茶化すな勇者。父さん、シリアスモードは五分が限界なんだ。」

「な、難儀な生き様だな…」


「母さんのことだ。」


「母さ…ま、まさか俺の…ホントの母親のことか!?」


 父の口から出た思いがけぬ単語に、動揺を隠せない勇者。


「ああ。まだ言うべき時ではないと、これまで言わずにきたが…まずは結論から言おう。お前の母はもう…既に、亡くなっている。」


 窓の外をおぼろげに見つめながら、父はハッキリと告げた。

 そうだろうと思っていたとはいえ、勇者はなんとも言えない複雑な気持ちになった。


「…そうか。だがまぁ育てられた覚えもない母だ、特に感慨も無いがな。」

「そう言ってやるな。自分の死を覚悟のうえ、お前を産んだんだからな…」

「えっ…じゃあまさか、俺を産んだことが原因で死…」

「いや、まぁ無事生き延びたわけだが。」

「思わせぶるんじゃねーよ!よくある展開かと思ったじゃねーか!」


「あぁ、そういえば…お前のその勇者って名前だがな、考えたのは実は…母さんなんだよ。」

「なっ!?俺の名は、親父がRPG好きって理由で付けられたんじゃ…」

「母さんがRPG好きだったんだ。」

「同じか!そのフザけた事実は揺るがないのか!!」


 一番聞きたくない情報だった。



「とまぁそんなわけで…む?気づけばもう一周か、早いな…」


 知らぬ間にゴンドラは折り返し地点を通過し、あと少しで一周が終わりそうなところまで来ていることに気付いた父。


「おぉ、言われてみればそうだな。意外にも何事も無くてビックリだぞ。頂上で底が抜けるとかそういう演出を警戒してたんだが…」

「違うぞ勇者、こんな時はこう言うんだ。“時間が…止まればいいのに…”と。」


 なんだか父の様子がおかしい。


「お、親父…?いきなり何を言い出すんだ?」

「すると男は言う。“じゃあ魔法…かけてやろうか?”みたいな。そして見つめ合う二人!からの熱いキッス!オゥ、なんたる定番!しっかしロマンティーック!!いや、待てよ?その前に停電で止まるという展開もありがち!ありがっちー!」


そういえば…五分経ったな…。


 副作用まであるらしい。




観覧車の中で、これまで知らなかった実母の話を中途半端に聞かされた俺。

正直気にはなったが、その後回復した親父は何一つ覚えていなかったので諦めた。


まぁ死んだと聞かされた以上、我が未来には関係あるまい。

別に…いいかな…。


そして夕方。途中何度か諦めかけたものの、なんとかいい感じの時間まで生き延びることができた。

もう帰る話をしても問題無いだろう。


「ふぅ~、もういい頃合いだろ…。ぼちぼち帰らないか親父?」

「今夜は…帰したくない!」

「まだ続いてたのかよ!いい加減目を覚ましやがれ!」

「あ、皆様ァ~。出口は~館内各所に~合計五ヶ所ございまァす。」


 途中どこかに消えていたガイドの案奈が現れたことから、最後の山場が近いことがうかがえる。


「おぉ、ちゃんと出口はあったのか。一応外に帰す気はあったんだな。」

「アタリは一つで~ございまァす。」

「残りは何だ!?」


 最後まで気が抜けない。


「さぁ行け勇者達よ!ちゃんとアタリの出口を探してくるんだぞ!」

「チッ、クソ親父め偉そうに…!わかったよ、俺も帰れなきゃ困るんでな。」

「アタリが出たらもう一本だ!」

「アイスじゃあるまいし!」

「放っとけ血子、行くぞ!チョメ太郎もだ!」

「あ、うん!」

「ポピュッパー!」


 勇者達が走り去ると、父は再び真面目な顔に変わった。


「…勇者にな、母親の話をしたんだ。」


 その言葉を聞き、あきれた顔で父を責める義母。


「ハァ?マ~ジでぇ~?なにも今日する話じゃなくな~い?あったま悪ぅ~。」

「言うな、これでも反省してるんだ。折角の…そして最後の旅行だったのにな…」


 まだ帰れる保障も無いが。

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