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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
27/196

【027】五号生:海の財宝を探せ

春。八歳になった俺は、今日から五号生として学校に通うことになる。


去年の始業式は俺が率先して大暴れしたせいで記録的な犠牲者を出してしまった。

だから今年は、もしも戦闘になったなら俺がみんなを守ってやるべきなのかもしれない。

それが去年地獄を見せた奴らへの、当然の報いだと思うのだ。


…などと考えながら、いま急いで学校へ向かっている。


 勇者は豪快に寝過ごした。



そんなわけで、華麗に寝過ごしたことにより俺は始業式に参加できなかった。

ただ去年の惨劇を考えると、その方がなにかと平和だったのかもしれない。


色々あって去年もかなり生徒数は減ったわけだが、例の如く大量の転入生を迎え、今年もなんとか定員に達した我らが冒険科。

おかげでクラスメイトも、盗子、姫ちゃん、巫菜子、博打以外は誰が誰だかさっぱりわからん。

まぁ早速訪れる春の遠足で、そのうちのかなりの人数は消えるんだろうがな。


「今回の遠足は、宝探しをしてもらいます。」


 朝のホームルームで、おもむろにそう告げる教師。

 宝探しと聞いて、勇者は武史らと武具玉を探した二年前の遠足を思い出した。


「やれやれ、宝探しか…確か一昨年もやったな。なんだネタ切れなのか?」

「いえいえ、少し違うんですよ。今年やるのは前回のようなゲーム形式ではないんです。」

「ん~、ゲームじゃないってことは…実際にどこかにある何かを探せってことですか?」


 その巫菜子の読みはどうやら正しかったようで、教師はニヤリと嫌な笑みを浮かべている。


「ハイ。最近噂の『海賊』の財宝を…」

「えー、沈没船かぁ~。結構大変そうだねー。」


 盗子の言う通り、もし沈没船の捜索という話ならかなり大変…というか、普通に考えて素人が一日でどうこうできることじゃない。

 そしてそれは、さすがに教師もわかっているようだった。


「奪ってきてください。」

「現役から!?」


 もっと無茶振りだった。




どうやら今回の春遠足の目的は、なんと『海賊』から宝を奪うことだという。

そういや最近海上の治安が悪く、海賊どもがうろついてるとは聞くが…いくら悪党とはいえ、それから宝を奪う行為は悪じゃないのかと問い詰めたい。


なお、例の如く先公からの情報は乏しく、敵の情報はわずかな噂に頼るしかない状況。

聞いたところでは港付近で目撃情報があったらしいが真偽は不明だ。


「だがまぁ…考えて何が変わるって話でもないしな。諦めて向かうとするか。」


 面倒臭そうに愚痴を漏らしながら、一人港町を歩く勇者。いつもなら何人か仲間を募って出発するところを、今回は珍しく単独行動をとろうとしていた。

 将来的な冒険も視野に入れてこれまでグループ行動を基本としてきた勇者だが、麗華による地獄の修行を経験したこともあり、五号生という上級生になったこともあり、個の力を試してみたくなったのだ。


「だから、今日だけは違うんだ。いつも迷惑だが今日だけは特に違うんだよ。わかるよな…弓絵?」

「つまり…デートってことですかぁ?」


 勝手についてきた弓絵を冷静に諭すも、まったくもって通じない。

 こんなやりとりがもう小一時間ほど続いていた。


「ったく…これだけ長年邪険にしてきたのに、まだめげないのかお前は?」


 確かに、出会って三年…あまりに邪魔なためことごとく編集でカットされているだけで、弓絵からのアタックはほぼ毎日といっていいほど続いており、そしてそれをあらゆる方法で回避してきた勇者。

 そのあまりにも自然なスルーっぷりに、霊と勘違いした霊能者が何度か弓絵を祓いに来たとか違うとか。

 そんな仕打ちを受けながら、なおも勇者につきまとえるそのハートの強さは確かに異常だと言える。


「勇者先輩…恋って、盲目なんですよぉ?」

「いや、お前の場合もう少し見る努力をしろよ。要らんのならその眼球えぐり出すぞオイ。」


 姫とはまた違った意味で話が通じない弓絵と、なんとかコミュニケーションを図ろうと試みるも全く通じず、もはや心が折れそうな勇者。


「ハァ、やれやれ…こんなことなら誰か使える奴をちゃんと誘うんだったぜ。」

「でももう先輩は、学校には敵無しじゃないですかぁー?誰か強い人いますぅ?」

「ん…?フッ、確かにな…。まぁ同世代って範囲で言うなら、ただ一人…“奴”ならばあるいは…」

「え?弓絵ですかぁー?そんなぁ~照れちゃいますぅー☆」

「お前、聞く気も無いなら鼓膜もブチ破るぞオイ。」



 その頃―――


「リーダー、どうしたんスか?」

「…ん?いや、なんでもねぇわ。ところで聞き込みの結果はどうぜよ?」


 リーダーと呼ばれたその少年は、かつて勇者を苦しめた学院塾の少年『戦仕』。

 その彼を取り囲むように数名の少年達が集まってきた。

 どうやら学院塾の生徒も、勇者らと同じく海賊団の財宝を狙っているようだ。


「えっとですねリーダー、なんでもこの辺りの沖にゴツい戦艦みたいなのを見たとか見てないとか…」


 見たところこちらも学校側から特に情報が無いらしく、かなり曖昧な聞き込みに頼らざるを得ない状況らしい。


「沖か…。仕方ねぇ、金は無ぇし定期の遊覧船にでも賭けるしかねぇぜよ。」



「…そうか、遊覧船…その手があったか。」


 そんな戦仕達のやりとりを、勇者達は少し離れた物陰から覗いていた。


「それにしても、噂をすれば影…面倒なのがいやがるじゃないか。奴め…」

「だったら弓絵がお掃除しますねー!えーいっ☆」


 弓絵は何のためらいもなく矢を放った。


「…むっ!?危ねぇ避けるぜよ!!」


 戦仕は少年Aを突き飛ばした。


「え…うわっ!?」

ザクッ!


 少年Aが元いた場所に矢が突き刺さった。


「なっ、狙撃…!『弓撃士』かよ!?」


 戦仕は慌てて辺りを見渡した。


 もう少し陰から情報を集めるつもりだった勇者だが、弓絵の宣戦布告のせいでそうも言っていられない状況に。

 仕方なく勇者は、いかにも悪役といった感じの悪い笑みを浮かべながら、学院塾の一団へと近づいていったのだった。


「よぉ戦仕。遠目で見てもしやと思ったが…やはり貴様だったか。今回も動いていたとはなぁ学院塾よ。」

「て、テメェ勇者…!そうか、学園校もかよ…!」


 勇者のセリフから戦仕も状況を察した模様。

 他のメンバー達にも緊張が走る。


「ったく…弓絵がさっきのを当ててればもっと楽だったのになぁ。」


 学院塾側は戦仕を含めて七人。

 二対七…人数だけ見れば圧倒的に学園校側の分が悪い。


「勇者先輩のハートなら一撃で撃ち抜きますぅー☆」

「いや、この流れでそう言われたら“殺害予告”にしか聞こえんからな?」


 実は一対八かもしれない。


「ところで勇者よぉ…今日は盗子サンはいるのかよ?」

「まったく要らん。」

「いや、そういう意味じゃなしに。」


あぁ、そういやコイツは盗子が好みだっつー奇特な生き物だったっけ。

こんなことなら連れて来とけばまた盾くらいにはなったのに…残念だ。


「残念だが盗子は来てないぞ。だから今日は思う存分、プライドだけを懸けて戦おうじゃないかプライドだけを。」

「…チッ、そうかよ。まぁいいぜ、オイラとしても前回の雪辱を…」

「フッ、“二の舞”の間違いだろう?」


ジャキィィイイイン!!


 勇者は戦仕の仲間を狙った。

 だが戦仕が攻撃を防いだ。


「クソッ、やっぱりそうくるかよ!けど二度も同じ手は食わんぜよ!」

「ほぉ、我が剣を手甲で受けるか…!やはり貴様は侮れん奴だ!」

「勇者…オメェは一回、痛ぇ目見るべきぜよ。『武神流格闘術』、壱の秘拳…『一武装』!」



 そしてしばらくの間、勇者と戦仕の一進一退の攻防が続いた。

 見守る他の学院塾の面々は、自分達とのレベルの違いに息を呑むばかり。

 辺りには弓絵の黄色い声援だけがこだましていた。


 剣を拳で払いのける戦仕もさすがだが、拳と同じ速さで大剣を振り回す勇者もまた常人の域を超えている。


「ゼェ、ゼェ、や、やるじゃないか戦仕…!あの地獄の修行を越えた俺と、ご、互角にやり合えるとはなぁ…!」

「ヘッ、オメェも…ゼェ、ゼェ、予想以上ぜよ…!」


 どちらも激しく呼吸が乱れているが、剣が重たいせいか勇者の方が苦しそうにも見える。

 しかしこんな時でも勇者の偉そうな振る舞いは変わらない。


「だがまぁ俺は、まだ実力の半分も出してないがな。」


 そしてそんな勇者の安い挑発に、簡単に乗ってしまう素直な戦仕。


「だったら、力の差ぁ、見せてやるわ…!参の秘拳、『三武人サンブジン』!!」

 戦仕は力を込めた。

 拳を中心として膨大なオーラがほとばしる。


「チッ、最初は“一”、次に“二”ときて今度は“三”…先ほどから力が格段に増したのは明らかだ。なるほど、段階を踏んで強くなる系の秘技か?」

「へぇ~…思ったより察しのいい奴ぜよ。けど今さら気付いても遅ぇわ!ブッ倒されな!!」


 そう言い放つと、一瞬で距離を詰める戦仕。

 だが勇者は驚く様子を見せない。


「甘いな、秘技を持つのが自分だけと思ったら…大間違いだ!食らえぃ!!」


 勇者、渾身の一撃!


「なっ!?早っ…」


 戦仕は咄嗟に手甲で防ごうとした。

 だが刃がすんなり手甲を通り抜けようとする感覚に気付き、慌てて背後に飛び退いた。


 戦仕が元いた場所に転がるのは、真っ二つに両断された手甲。

 判断がもう少し遅ければ、戦仕の腕ごとそうなっていたのは間違いない。


「オイオイ…コイツぁそこそこの業物なんだぜ?それをこんな…ハハッ、おっかねぇ奴ぜよ。」

「『刀神流操剣術』壱の秘剣…『一刀両断剣』。わかるか戦仕?これが“必殺技”ってやつだ。」

「そうか、今のがオメェの…!単に全力で振り抜いただけじゃねぇってわけか!」

「いや、そうとも言うが。」


 種も仕掛けも無かった。


「まぁそんなことはどうでもいい。さぁ戦仕よ…出すがいい貴様の“とっておき”を。そろそろ決着といこうぜ。」


 そう言って、見透かしたような目で戦仕を睨み付ける勇者。

 素直は戦仕は動揺を隠せない。


「なっ、オメェ…何を…?」

「フッ、隠しても無駄だ。貴様…まだ何か力を隠しているだろう?恐らくなんらかの、リスクを伴う大技を…な。」


 勇者のその言葉に、戦仕のみならず他の学院塾生徒達もざわめき始めた。

 やはり勇者の読み通り、戦仕にはまだ制限付きの大技が残されているようだ。


「図星っぽいですぅー!凄いですぅー勇者センパ~イ!」

「フッ、当てずっぽうとは言いづらい雰囲気だぜ。」


 だが本当に勇者の言った通りだったようで、戦仕は悔しそうに口を開いた。


「…ったく、やっぱ目ざとい奴ぜよ。そうかバレてたんだな…躊躇してたのが。」

「そしてそのためらいが貴様の敗因だ。覚えておけ戦仕、傷つくことを恐れては…人は前には進めない。」

「わっかりましたぁー!弓絵は恐れず進みまぁーす☆」

「いや、お前は少しは恐れろよ。そして少しは傷つけよ。」


 場の空気は完全に学園校側に持っていかれた状況。

 ここを打開するためには、もはや戦仕は覚悟を決めるしか無い。


「ヘッ、オイラとしたことが情けねぇぜよ。気持ちで負けてて勝負に勝てるわけねぇわ。」


 そんな覚悟を決めた様子の戦仕を、すかさず止めに入る仲間達。

 どうやら実際に痛い目を見た過去があるようだ。


「だ、駄目ッスよリーダー!まだそれ以上は体に負担が…!」

「今やらねぇでいつやるぜよ!?男には退くに退けねぇ時ってのがあるんだわ!」


 そう叫ぶと、戦仕は全身に力を込めた。


「さぁ見るがいいぜよ勇者!海をも引き裂く必殺の剛拳を…!肆の秘拳、『四武軍シブグン』!!」


 戦仕の全身から、先ほどまでとは段違いのオーラが噴き出した。

 力強く歯を食いしばった口元からは血が滴っているが、戦仕に躊躇する様子は無い。完全にフッ切れたようだ。


「ぐぉおおおおあああ!食らうがいいぜよ、オイラの全力をぉおおおおおお!!」

「フン、甘いわ!そんなヤバそうな技、この俺が馬鹿正直に受けるわけ…」


 散々煽っておきながら、まともに受ける気は無いっぽい勇者。

 しかしその直後、向かいの商店の窓ガラスに映る何かに気付いて即座に考えを変えた。


「…フッ、いいだろう撃って来い戦仕!その一撃が貴様を敗北へと導くだろう!」

「うぉおおおおおりゃぁああああああああああ!!」


 戦仕、必殺の攻撃!

 振り抜いた拳の威力は凄まじく、激しく渦巻く衝撃波が勇者を襲う。


 勇者は両腕を顔の前で交差させ、腰を落として全力で防御した。

 だがあっけなく後方に吹き飛ばされた。


「ぐふっ…!ぐはぁああああ!!」

「へヘッ!見たかよ勇者、これでオイラの…」


「…悪いな戦仕!この勝負、俺の勝ちだ!」


 強烈な一撃を受け苦しそうな顔にも関わらず、なぜか勝ち名乗りを上げる勇者。

 強がりにしてはどうにも苦しい。


「なっ…?オメェ何を笑っ…ハッ!!」


 戦仕の目線の先…勇者が飛ばされていく先には、なんと派手に武装した戦艦の姿が見えた。


「あ、あの船は…!まさかオメェ…待つぜよ勇者!オイ…!!」




 風に乗った勇者は船へ向かって一直線に進み、そのまま水面に激突するかと思いきや、水切りの要領で器用に水面を跳ねることでさらに飛距離を伸ばした。

 そしてその後は浮かんでいる材木などを足場に跳躍を続け、ついに戦艦の甲板へと辿り着いたのだった。


「ふぅ…行き当たりばったりだった割にうまくいって良かったぜ。もう少し遠かったらアウトだったな。」


 当然のように弓絵の心配はしない。


「それにしても…むぐっ!?カハッ!!」


 勇者は口から血を噴き、跪いた。

 自分で思っているよりも被害は甚大のようだ。


「ふぅ…やれやれ、全力で後方に飛んだってのにこのダメージか…。野郎、次に会った時は泣かしてやるぜ。さて…」


戦仕の攻撃を利用し、なんとか辿り着いたのは、いかつい装甲が施された謎の船。

話の流れから考えてこれが噂の海賊船と見て間違いは無いだろう。

どうやら俺は図らずも勝ってしまったらしい。


これほどゴツい船ともなると、きっと大層な宝を持っているに違いない。

よし、とりあえず隠れて様子をうかがうとしよう。


ただ一点、さっきから何かが…何かが引っ掛かっているのだが…パッと思い付かんので今は気にするのはやめよう。どうせ大したことじゃあるまい。


「今はとりあえず、無事船内に潜入することを考えねばならん。着地時に随分と派手な音がしたし…チッ、やはり誰か来やがった。」


 案の定、見張りと思われる男が現れた。


「誰もいない…?おかしいな、確かに大きな物音がしたと思っ…むぐっ!?」

「騒ぐな。騒げば貴様はこれからサメの餌になる。」


 首元にナイフを当てつつも、顔を見られぬよう細心の注意を払う勇者。

 男は騒ぎこそしないものの、大人しく従う様子も見せない。


「き、貴様…その声はまだ子どもだな?こんなことをして、タダで済むと思っているのか…?」

「フン、ほざくな!海賊風情が偉そうに!」


「か、海賊!?フザけるな!我らは…『海軍』だ!!」


「お…?」


 勇者は国家権力を敵に回した。

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