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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
23/196

【023】四号生:冒険者模試と夏の修行

春の遠足は、島に到着できないというまさかの結末で幕を閉じた。

転覆した獣車の代わりに黄錬邪が海竜を操ってくれたことで、なんとか事なきを得たが…さすがに遠足の続行は難しい判断されたのだ。


だが正直、今回はこれで良かったのかもしれない。

認めたくはないが明らかに力不足だった。

ペットである海竜に苦戦しているようでは、あのまま進んでいたら『筋肉兄弟』には負けていたかもしれない。

再戦となる秋の遠足に向け、さらに血の滲むような修行を積む必要がある。


などと考えていると、先公が意外な話を持ってきた。


「みなさんももう四号生ですし…どうでしょう、『冒険者模試』でも受けてみますか?」


先公の話によると、冒険者模試とは冒険者を目指す学生を対象として、全国的に行われている模試なのだという。

いくら全国規模といえど、俺達よりも過酷な環境で学んでいる児童はそうはいないはず…。

確かにここらで一度、その辺を確認しておくのも悪くはないか。


「ほぉ、面白そうじゃないか先公。で?実施はいつなんだ?」

「え、今日ですが?」

「お前、よくそんな“もちろん今日ですが何か?”みたいな顔できるな。」



やれやれ、まぁ聞く前からそんな気はしてたが…やはりその模試とやらは今日実施するらしい。

急に思いついたのか嫌がらせなのか、どちらかだとしたら後者としか思えんが、まぁ面白そうなので乗ってやろうじゃないか。


ウチの学校は座学より実技が多いため筆記試験でどこまでやれるかはわからんが、知らん問題は親父が好きなRPGで得た知識が役立つはず。

世界的に売られてるような代物だ、基本的な事柄はこの世の常識の上に成り立っていると考えて間違いない。


 Q:瀕死の重傷を負いました。あと一撃でも食らったら死にそうです。どうやって回復しますか?


フッ、のっけから常識問題か。どうやら神は俺に味方したくて仕方ないようだな。


「“宿屋で寝る”…っと。」



そして一ヶ月ほどが経過。

ついに結果発表の日がやってきた。


「みなさん、先日の模試はお疲れ様でした。これから結果を発表しますが…実はなんと、このクラスに一人だけ全国で百番以内に入った人がいるんですよ。」

「ひゃ、百番…!って…それって凄いの先生?」


 とりあえず驚いてはみたものの、母数がわからないためどれほど凄いのかわからない盗子。


「もちろん凄いですよ。百番ですよ?受験者は確か全国で何百万人とか…何百人とか?」

「振れ幅!!」


先公の情報が曖昧すぎて規模感がわからんとはいえ、それでも百番以内という順位がかなり上位なのは確か。

学内一位で全国でも上位という肩書きを持つのは当然悪い話じゃない。


「フッ、百番か…全国トップじゃないってのはイマイチだが、まぁ抜き打ちだったことを考えれば許せる範囲か。お前はどうだった賢二?」

「僕?ん~、感触は良かったとは思うけど…やっぱちょっと難しかったよね。」


 教室内を見渡すと、賢二同様自信の無い者も多いようではあるが、中には勇者のように自信ありげな者も散見できた。

 そして教室内のざわつきがピークに達した頃、教師はようやく口を開いた。


「それでは、発表しちゃいましょうか。今回の冒険者模試…」


 全員が思わず息を呑んだ。


「この学年の一位は………ゆう」

「うぉおおおおお!よっしゃーーー!!俺かっ!!」


 勇者は食い気味に勝ち名乗りを上げた。



「優勝は、賢二君でーーす。」



 だが早とちりだった。

 これは恥ずかしい。


「なっ…なん…だと…?」


 想定外の事態に声を失う勇者。ただ敗れただけでなく、盛大に勘違いしたこともあり恥ずかしさは最高潮。今なら完熟トマトのモノマネで一世を風靡できそうなほど真っ赤な顔をしつつ、プルプルと震えている。

 そんな勇者とは対照的に、尋常じゃなく真っ青な顔をしているのは学年一位の栄冠に輝いた賢二。これから自分がどんな目に遭わされるのかを想像すると、勇者以上に震えが止まらなかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ勇者君!話し合おう!話せばわかるよ!」


 別に何も悪いことをしていないにも関わらず、なぜか言い訳から入る賢二。

 だが周りのみんなもそれが正解だと思っていた。


「…何を言ってるんだ?」


 しかし、当の勇者にとってはそうではなかったらしい。

 なんとそれは“謝罪しても許さない”という意味ではなく、“謝る必要が無い”という意味でだ。

 どういうわけか勇者は、先ほどまでとは一転…とても落ち着いた表情を浮かべている。


「へ…?だ、だって怒るんじゃ…?」

「ふぅ、やれやれ俺も見くびられたもんだぜ。俺にとってお前は一番古い仲間…その幸せ、祝わんわけがなかろう?」

「ゆ、勇者君…!」


 勇者の予想外の一言に動揺を隠せないながらも、それ以上に感激してしまった賢二。他のクラスメートも同じだったようで少しざわついたが、落ち着くや否やお祝いモードへと切り替わった。


「さぁ野郎ども、今から打ち上げといこうぜ!今日だけは賢二が主役だ!」

「オォーーー!!」

「勇者君…みんな…ありがとう!!」


 賢二は打ち上げられた(宇宙へ)。




そして時が過ぎ、いつしか夏になった。

今日から学校も夏休みに入る。


今年は大した宿題が無いため、俺は山に篭って修行することに決めた。

次の秋の遠足こそは、春のような不甲斐ない結果に終わらせるわけにはいかない。


やはり鍛えるなら“剣技”だろう。

学校には様々な職の奴がいるため、当然ながら特定の武器に特化した教育は弱い。

究めたければ自ら特訓するしかないのだ。


「ふぅ~、だいぶ登ったな。ぼちぼち腹が減っ…おぉ!なんだなんだ、こんな所に魚が落ちてやがるぜ!」


 勇者は『焼き魚』を見つけた。

 明らかに落とし物ではない。


「うむ。なかなかいい塩加減だぶぼっ!!」


 舌鼓を打つ勇者の顔面に鉄拳がメリ込んだ。

 勇者は激しく回転し、地面に叩き付けられた。


 その拳の主は、音も立てず現れた謎の女。深緑の長い髪をなびかせながら怒りの眼差しで勇者を見下ろしている。

 鼻から口にかけてはワインレッドのマスクで覆われているが、その隙間から覗く瞳を見る限り、とても美しい顔立ちをしていると言っていい。

 年の頃は勇者より十ほど上…16,7歳くらいだろうか。眉間に斜めに刻まれた十字傷と全身から醸し出す威圧感から察するに、ただ者では無さそうだ。


「こ、小僧…ワシの夕食を横からかっさらうとは、いい度胸じゃないか!!」


 凄い剣幕で倒れた勇者の胸倉を掴み、片手で引き上げる謎の女。

 だが勇者に臆する気配は無い。


「フッ、まあな。度胸には多少の自信があばぶっ!!」


 二発目の鉄拳が炸裂した。


「褒めたわけじゃないわーー!!」

「くぉっ、このアマァ…!女の分際で俺に二撃も食らわすとは…!」

「立てぃクソ餓鬼!その根性、叩き直してくれる!」


フッ、まぁいい…。

修行前のいい準備運動だ。


 勇者はボコボコにされた。




目が覚めると、もう日が傾いていた。

認めたくはないが、どうやら俺はあの暴力女に伸されちまったようだ。


俺だって雑魚じゃない。二発も食らえば相手の実力はわかる。

あの技の速さ…かなりの使い手に違いない。


だが『勇者』として、誰が相手だろうが負けっぱなしで黙ってはいられんのだ。

ブッ倒す!


「フッ、待たせたな。さっきは油断したがもう容赦せん!勝負だこの糞アマぐぼぁああ!!」


 当然のように叩き込まれる三発目。

 勇者の言動が原因だとはいえ、躊躇無く七歳児にブチ込んでいい威力じゃない。


「糞アマではない。ワシには『麗華レイカ』という、実に乙女チックで麗しい名がある。」


 いかにも剣士といった風体、とりあえず拳で語る暴力的な性質…それはどう考えても“乙女”の定義からはかけ離れているが、本人は自信ありげな感じだ。

 その自信満々な様子からは勇者と近いものが感じられた。


「麗華だぁ?ケッ!いくら名が良かろうが、その一人称ワシで台無しだボケがはっ!!」


 懲りる気配の無い勇者に、容赦無く叩き込まれる四発目。

 このままだと『勇者』から『ボロ雑巾』への転職もそう遠くはない。

 もはや万事休す…かと思われたが、次に麗華の口から発せられた言葉は意外なものだった。


「ふぅ、やれやれ…やはり性根を正す必要があるな。見たところ修行中…よし、見てやるか。」

「なっ!?だ、誰が貴様なんぞに!しかも偉そうに“見てやるか”だと!?」

「そうか…ならば、“看取ってやるか”。」


 そう言い放つ麗華の…その冷徹な眼差しは、とても人間に向けていいものではなかった。


「し、師匠と呼ばせてくれ…」


 勇者に天敵が誕生した。




そんなわけで、不本意ながら謎の女『麗華』の下で修行することになった俺。

正直かなりの屈辱だ。


いつか隙を見て反撃を…とは思っているのだが、機会の無いまま三日が経った。


「よし、ではその格好であと五時間。少しでも動けば、お前は今夜の食卓に並ぶことになる。」


 剣の手入れをしながら物騒な冗談を言い放つ麗華。

 ゴップリンの魔剣を中段に構えさせられた状態の勇者が、動くことを禁止されてから既に一時間が経過しようとしていた。


「ちょ、ちょっと待て!この魔剣はただでさえ重いんだ、それをさらに五時間持てと!?」

「剣が重いのではない、お前が非力なのだ。精進しなさい。」

「だ、だが五時間は…やり過ぎ…だろう゛ぉあ!もう重い!もうキツい!!」

「フゥ…やれやれ情けない小僧だ。ならば大マケにマケてあと六時間。」

「ふ、増えてる増えてる!そん…なお約束は、よそで…ぐぉ、やってくれぃ!!」

「いいから黙って続けなさい。さすればワシが秋までに、貴様に戦う力をくれてやる。」


 あまりの辛さに投げ出す寸前だった勇者だが、その言葉でなんとか踏みとどまった。

 不甲斐ない結果に終わった春の遠足…その雪辱を期すべく修行に臨んでいる身としては、望む力を前にしてそう簡単に音を上げるわけにはいかない。


「…ケッ!わ、わかったよ…やったろうじゃねーか!!」

「ふむ。まぁ頑張れよ、あと七時間。」

「増えてる増えてるー!!」


 勇者は〔忍耐〕を覚えた。


〔忍耐〕

 勇者:LEVEL3の魔法(消費MP4)

 我慢強さが上昇する魔法。お風呂が多少熱くても水で薄めないで入れる。




そして、その後も色々あった地獄の夏は過ぎ…季節は秋になった。


麗華から盗めるものはまだある気はするが、残念ながらぼちぼち山を降りねばならん。

なぜなら今日は秋遠足の日だからだ。


「さて…世話になったな師匠、感謝する。次に会うのは貴様が死ぬ時だ!」


 大袈裟に剣を構える勇者。

 それを見て溜め息を漏らす麗華。


「感謝するのか喧嘩売るのかハッキリしろ。というか時間はいいのか?」


確かに麗華の言う通り、どうやら時間はヤバそうだ。

ギリギリまで修行したせいで集合時間には間に合いそうにないが…まぁいい。

ヒーローとは遅れて登場するのが世の常だ。


「とはいえ…全滅までに間に合わねば全てが無駄だがなぁ。」

「ん~、ならばコイツを貸してやろう。我が『契約獣』で名を『美咲ミサキ』という。」


「クェエエエ!」


 麗華が指を鳴らすと、上空から桜色の毛に覆われた巨大な怪鳥が舞い降りた。

 背に乗るなら定員は大人二人といったところか。


「ケイヤクジュウ…?なんだこの鳥みたいな魔物は?貴様のペットか?」

「いいから早く行け。急がねば大事な友が海竜の糞と化すぞ。」


 “大事な友”…そう聞いて勇者が誰を思い浮かべたのかは定かではない。姫は友人枠ではないと考えると、誰もいないのかもしれない。少なくとも盗子は絶対に違う。


「じゃあな師匠!次があるかはわからんが、生きていれば俺の名声はどこかで聞くことになるだろう。いくぞ美咲!」


 美咲の背に飛び乗り、太陽の方角を見てから南を指差す勇者。


「クエッ!」


 美咲は垂直に浮かび上がると、勇者が指し示す通り、筋肉兄弟が待つコミナ島の方向へと向きを変えた。


 麗華は飛び去っていく様子をしばらく眺めていたが、勇者の姿が見えなくなるや振り返り、誰もいないはずの茂みに向かって話しかけた。


「…で、いつまで隠れているつもりですか?凶死殿。」


 するとなんと、麗華の目線の先…闇から浮かび上がるように教師の姿が現れた。

 夜だったら大人でもチビりかねない光景だ。


「フフッ、やはり気づかれてましたか。さすがですね、えっと…麗華さん。どうでしたか彼は?」

「ふむ…確かになかなか見所のある小僧でしたよ。この短期間で、随分と力をつけた…予想以上に期待できる奴です。」


 どうやら二人は兼ねてからの知り合いであり、勇者と麗華の出会いもただの偶然では無さそうな感じだ。


「そうですかそれは良かった。まぁ彼は言動が若干邪悪なのが玉に瑕ですがね。」

「いや、それはアナタの功績なのでは…?」


 麗華は的確なツッコミを入れた。



「さて、ではワシもそろそろ行くか…。旅立ちの前に、ちょいと師匠に用がありますゆえ。」

「あ~、『秋臼アキウス』さんなら多分、今頃は六本森か北の山にいますよ。」


 麗華の師匠…つまり勇者の師匠の師匠にあたる人物もまた、この島のどこかにいるらしい。

 いつの日か勇者も出会う日が来るのかもしれない。


「北ですか…方向音痴のワシにはどっちがどっちやら。」


 麗華は南を向きながら呟いた。

 どう考えても単独では辿り着けそうに見えないため、仕方なく教師は助け舟を出すことに。


「なら途中まで案内しますよ。どうせ暇なんで。」


 遠足の引率はどうした。

この頃実施された『第一回キャラクター人気投票』の結果はこちら。

https://yusha.pupu.jp/yusha/souko/01ninnki.htm

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