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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
22/196

【022】四号生:待ってろ筋肉兄弟

荒れ狂う天候の中、目的地へと向かう途中で出会ってしまったのは、今回の標的『筋肉兄弟』のペットだという海竜。


車内でのゴタゴタをなんとか解消させた俺達だったが、意気揚々と甲板に飛び出した瞬間に盗子が美味しく頂かれた。

敵が強いのか盗子がカスなのかわかりづらいが、恐らく両方なのだろう。


「チッ、クソ盗子め…そんなソッコーで食われるとか貴様は『お通し』か何かなのか…!?」

「げんぢぐぅぅぅん!!びぇぇえええん!!」


 振り返ると、甲板の隅で暗殺美が膝を抱えて号泣しているのを発見。

 その姿を見て勇者は瞬時に状況を察した。


「け、賢二もか!?チッ…糞の役にも立たん分際でもうじき海竜の糞になるとか、実にややこしい奴め!」

「うぇっぐ、げんぢぐんが…げんぢぐんが死んぢゃったよー!」


 人目もはばからず泣きじゃくる暗殺美。するとそんな彼女の肩に優しく手を置く者が。

 そう、もちろん勇者ではない。


「いや、そんなことはない…きっと生きてるさ。だから泣くなよベイベー!」


 キザっぽい言い回しと共に登場したのは、『勝負師ギャンブラー』の『博打』。勇者達と同じ四号生だ。

 右目を覆うオーダーメイドっぽい眼帯が特徴的。紫がかった黒髪は整髪料でバッチリきまっており、耳にはダイスをかたどったイヤリングを付けている。


「フン!『勝負師』のようなヤクザな野郎が言っても何の説得力も無いな。」


 一蹴する勇者。

 賢二と盗子の亡き今、味方がいるのはありがたいはずなのだが、その職業が職業なだけにどうにも信用できなかった。

 しかしそんな反応は想定内だったのか、博打は余裕の笑みを浮かべている。


「ほぉ…。なら、賭けるかいブラザー?」

「フン、いいだろう。ならば俺は死んでる方に五百銅(約五百円)だ。」

「同じく。」

「逆に賭けろさ!!」


 まったくもって賢二を心配してない二人のやりとりに激怒する暗殺美。

 勇者はそれに応戦しようと剣を構えたが…その時、知らぬ間に自分が大きな影に覆われていることに気が付いた。そう…勇者達を見下ろすように、青黒いウロコを全身に纏った巨大な海竜が立ちはだかっていたのだ。

 “見下ろすように”とはいっても、その頭部に目のような部位は見られない。この手の敵は恐らく代わりに触覚のような器官がある可能性が高いため、逆に感覚は鋭そうだ。


「オイオイ、獣車よりデケェじゃねーか…。どうやらやはり、この俺が頑張るしかないようだな。それとも博打、貴様が行くか?」

「フッ…いいさ。今回は譲るぜブラザー。」

「そうか、ならば見ているがいい!この俺と貴様の、格の違いってやつをな!」


 そう叫ぶと、勇者は魔剣を構えて海竜に飛び掛った。


「いくぜ海竜!うぉおおおおおお!我流必殺剣、『ブッた斬り』!!」


 勇者の攻撃。

 だが強靭なウロコに阻まれた。


「くっ、硬い!やはり見た目通り、剣で貫ける強度じゃないか…!」


 想像以上の硬さ、デカさに攻めあぐねる勇者。

 するとそこに、一応は弟子である土男流が薄気味の悪い人形を抱えて現れた。


「師匠ー!ここは私と、この人形『婆Bちゃん』に任せてくれー!」


婆Bババァビー

 戦闘用に作られた、音声認識で動作可能な小型人形。

 なぜか婆さんタイプなため人形遊びには適さない。

 ほのかに線香の香りがする。




 そして十数分が経過。

 足元に転がる婆Bの残骸を踏みつけながら、勇者は困り果てていた。


「ふむ…やれやれ、まずいな…」


賢二と盗子の二人が海竜に飲まれてから結構な時間が経った。

早く助けねば溶けてしまうかもしれないが、どうにも戦力が足りない。


ちなみに婆Bは、“腰痛が”などと人形にあるまじきことを抜かしたのでブチ壊した。


「くっ、俺の斬撃は効かん…一体どうすれば…!」

「ひ、酷いぜ師匠ー!私のお人形さんを返してくれー!」


 泣き喚く土男流の声に反応してこちらへ向き直り、そして口を大きく開く海竜。

 周辺の海水が複数の帯状になって立ち昇り、渦を巻きながら海竜の口元付近に集まって球体を成した。どう見てもこれからそれをブッ放す感じだ。


「チッ、まずいな…剣で受けきれる技じゃなさそうだ…むっ、貴様は…!?」

「グゴゴ!グゴガアアアアア!!」


 海竜は『水流弾』を放った。


「ぐぎゃあああああああ!!」


 痛恨の一撃!

 だが倒れたのは勇者ではなかった。


「ふぅ、覗き見に来ててくれて助かったぜ…危ないところだった。」


 冷や汗を拭う勇者。

 その足元には、ボロ切れのようになった運転手が転がっていた。


「ハッハッハ!どうだ見たか海竜よ!これぞ秘技…『見殺しの術』!!」

「す、凄いぜ師匠ー!何が凄いって、自分で盾にしといて“見殺し”と言い張るその姿勢が!」

「フッ、褒めるなよ照れるぜ。だがまぁ、このままじゃ…まずいわなぁ。」


ふむ…運転手の尊い犠牲により初弾はなんとかかわせたものの、このまま避け続けるだけじゃジリ貧だ。


気付けば敵さんは既に二撃目の準備に入っている。

まずはこれをどうにか攻略し、その流れでそのまま攻勢に転じたい。


「グゴゴ…ガゴグゴゴゴ…!」


「し、師匠ヤバいんだ!あんなの避けようが…」

「まぁ見ているがいい土男流よ。俺の華麗な剣技をもってすればこの程度の水流なんぞ簡単に一刀両断できるはずもなくぎゃああああああああああ!!」


 痛恨の一撃!

 勇者は鮮やかに宙を舞った。


「師匠ぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 そしてそのまま甲板に叩きつけられた勇者。

 意識はなんとか保っているようだが重傷だ。


「くっ、なんてこった…予想以上に歯が立たん…!」


やれやれ参ったぜ…。だがまぁよくよく考えれば、それも無理もない話。


これまで戦ったゴップリンやスイカ割り魔人、群青錬邪…どいつもこいつも巨漢ではあったが、この海竜のサイズ感はまったくの別格。こんなちょっとした一軒家みたいなサイズの化け物と戦う術は、残念ながら習っていなのだ。


ふむ、これは…詰んだのかもしれん。


「ゴフッ…!だ、だが…尻尾を巻いて逃げる、ってわけにはいかんなぁ…『勇者』としては。」


 勝ち目が無いとは思いつつも、再び剣を構える勇者。


「し、師匠ー!危険なんだ逃げるんだー!」

「フッ、きっとなんとかなるさ次の盾…もとい土男流よ。」

「うぉー!私の方が危険っぽいんだー!」

「グガガガアアアアアア!!」


 二撃目を放って間もないにも関わらず、既に追撃の準備を整えつつある容赦の無い海竜。

 勇者は体が麻痺して動けない。


「もう撃ちやがるか…!クソッ、まだ避けられん…!」


 勇者は死を覚悟した。


 しかし、なぜか海竜の攻撃が繰り出されることは無かった。

 それどころか海竜は完全に沈黙。完成まであと一歩という状態だった水流弾は霧散し、なぜか口元からは盗子が飛び出してきたのだった。


「や、やったー!出れた!出れたよぉーーーーーー!!」

「なっ、盗子…!?そうか、“食あたり”か…!」

「失敬な!人を毒物みたいに!」



急に動かなくなったかと思ったら、なぜか盗子を吐き出した海竜。

さらに少し後には賢二まで出てきやがった。

何がどうなったのかまったくわからんが、とりあえず事態が好転したと考えて良さそうだ。


「にしても、どうしたんだコイツは…?ゼンマイでも切れたか?」


 何が起きたかわからず困惑する勇者。

 そんな勇者の疑問に、どこからか答える声が。


「彼は今、私の支配下にあります。だから大丈夫。」


 どこかで聞いた覚えのある声。

 声の方に目を向けた勇者は、海竜の口内に特徴的な姿を確認したのだった。


「き、貴様は…黄錬邪!?」


 そう、口の中からゆっくりと現れたのは、かつての五錬邪の一人である黄錬邪だった。


「お前…なぜここに!?」

「まあまあ。別にいいじゃないですか。」


 そう言いながら黄錬邪が甲板を指差すような動きを見せると、それに合わせて海竜は頭を下げた。

 その様子を見て悲鳴を上げる盗子。


「わー!出たぁーーー!!ささささっき胃の中にいた黄色い五錬邪…!」

「いや、安心しろ盗子。コイツは五錬邪だが敵じゃない。」

「ほ、ホント…?」

「アナタを殺します。」

「嘘つきーー!!」


 ジョークなんだとは思いつつも、仮面で表情が見えないためイマイチ確信が持てない盗子。


「ハッハッハ。少しは冗談がうまくなったなぁ黄錬邪。」


 すると今度は、車内から勇者父が現れた。

 本来ここにいるはずのない男の姿に、今日一の驚きを見せる勇者。


「なぁっ!?なぜここにいるんだ親父!運転はどうした!?」

「まあまあ。別にいいじゃ…」

「よくねーよ!そこだけは絶対によくねーよ!」


 一刻も早く父を運転席に戻したい勇者。少々冷静さを欠いているようだ。

 そんな様子を、甲板の端から見つめる姫の姿があった。

 なにやら少し困ったような顔をしている。


「ゆ、勇者君…」

「姫ちゃん…。大丈夫だ心配するな!俺に任せろ!」

「バナナは…」

「悪いがもうちょっと後だ!」


 海竜の件が落ち着いたおかげで、船上には穏やかな空気が流れ始めたが、なぜこうなったのかがわからず賢二は黄錬邪に尋ねた。


「あの~、ところで…なんで海竜は急に大人しくなっちゃったんですか?」

「あ~…私の職業は『操縦士』。波長が合えば、なんでも操縦できるのです。」


 『操縦士』―――

 父の関節をキメながらも、勇者はその単語を聞き逃さなかった。


「ほ、ホントか!?だったらこの獣車も…いや、やっぱいいや…もう…」



「うわぁああああああああああああああ!!」



 豪快に転覆した。

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