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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
21/196

【021】四号生:行くぞ筋肉兄弟

春。七歳になった俺は、今日から四号生として学校に通うことになる。


そして例の如く、早くも始業式から物騒な空気で始まったわけだが、今年は勢い余って生徒間の争いにまで発展。校庭で大乱闘が勃発した。


日頃から悪目立ちしているせいか、どさくさに紛れて俺に襲い掛かってくる奴らも相当数いやがったが、全員返り討ちにしてやった。

もちろん必要以上にやった。


というわけで、新学期開始早々にも関わらず記録的に生徒が減った今年度。

そのため今年は例外的に、全校生徒を学年ごちゃ混ぜで各30名の4クラス(A~D)に再編成されることになったのだ。


ちなみに俺のクラスはA組。四号生でいうと盗子、賢二、姫ちゃん、あと暗殺美も同じのようだ。

そしてこのメンバーで、恒例の行事『春の遠足』を迎えることになる。


「今回の遠足の舞台は、南の小島『コミナ島』になります。」


先公が口にしたその島の名には聞き覚えがあった。

噂では最近、通称『筋肉兄弟』とかいう双子が支配しているはずだ。


「確か名前は『化院カイン』と『斜院シャイン』…それが今回の敵か?」


 その勇者の問いに、教師はいつも通りの悪い笑顔で答えた。


「そうです。“奴らを追い出せガキども!”が、今回島民より受けた依頼です。」

「…まずは島民を先にシメる必要がありそうさ。」

「オイ先公、『拷問大全集』を貸してくれ。」


 真っ先に敵意の矛先が島民に向いた暗殺美と勇者。

 賢二と盗子もそう思う気持ちはわからんでもなかったが、絶対にやりすぎる予感がしたので止めに入った。


「だ、ダメだよ二人とも!仮にも僕ら正義の味方側なんだし!」

「そうだよ!先生からも何か言ってやってよ!」

「『列島破壊書』も要りますか?」

「煽るなよ仮にも教師が!!」


 正義の味方が少ない。



とまぁそんなわけで…今年の春の遠足、我らA組は『コミナ島』へと赴くことになった。

だが、30人の大所帯では目立つ上に戦闘効率も悪い。

そのため俺達は放課後教室に残り、各7~8人ずつの四組に分けることにしたのである。


「賢二、盗子、姫ちゃん、暗殺美…とりあえずお前らは俺の組だ。いいな?」

「覚えるのが面倒なんだね。」


 賢二は的確に見抜いた。


「あと、残りは…そうだなぁ、面倒だから名簿の上から適当に二人か三人…」


 その他のメンバーを勇者が選んでいると、なにやら暑苦しそうな子どもが寄ってきた。

 男か女かは見た目からはよくわからない。


「わ、私は一号生…『人形師』の『土男流ドオル』!お願いだ、弟子にしてくれ勇者先輩ぃーー!」


 耳が隠れる程度の赤毛のボサボサ髪に、捻り鉢巻を巻いたその小さい子どもは、生やしっぱなしの太い眉毛からすると少年にも見えるが、声からすると少女のようにも思えた。


「その声に職業…女か?悪いが俺にママゴトの趣味は無い。人形遊びなら他でやるがいい。」

「そんなことは言わないでくれ!頼む!私はアンタの男気に惚れたんだー!」


 威圧する勇者になんとか食い下がる土男流。

 しつこくされるのは面倒臭くはあるものの、熱狂的に慕われるのは勇者としても悪い気はしない。


「だがお前…一号生なんだろ?まだ入学して間もないのに俺の何を知ってる?」

「あ、うん!あれは忘れもしない入学式の日…校庭で起きた暴動にうっかり巻き込まれちゃった私を、アンタが助けてくれたんだ!アンタがいたから、いま私は生きているんだー!」


ふむ…やれやれ困ったものだ。

どうやら土男流は、始業式に起きた騒ぎに巻き込まれたところを俺に救われた…と思っているようだ。


まったくもって記憶に無いので確実に偶然なわけだが、絶対的な信頼が凝縮されたようなキラキラした瞳で見つめられると、なんだかそれも言いづらい。

そもそも状況から考えると、“俺がいたから生きている”ではなく、“俺がいたから死にかけた”の方が的確なんだが。


「残念だが土男流よ、俺は弟子はとらんぞ面倒だし。それに、傍に置くのは…心に決めた女だけと決めてい」

ガラガラガラッ!


 勇者が姫をチラ見しながらカッコつけている途中で、勢いよく扉が開き、隣のクラスにいるはずの弓絵が現れた。


「呼ばれたので来ちゃいましたー!弓絵、おそばに参りましたぁーー!!」


 どう考えても盗聴しているとしか思えないタイミング…というより、盗聴しているにしてもありえないタイミングで現れた弓絵。

 完全に場の空気を持っていかれそうになり、慌てて土男流は割って入った。


「ちょ、ちょっと待つんだ弓矢の先輩!勇者先輩は今、私と大事な話をしてるところなんだー!」

「え、将来の夢ですかぁー?もちろん勇者先輩のお嫁さんでーす☆」

「こ、困ったんだ!この人全然話が通じないんだー!」



その後、結局どっちを選ぶんだという話になり、仕方なく消去法で土男流を弟子にする流れになってしまった。

『人形師』が『勇者』から何を学ぶ気なのか甚だ疑問ではあるが、まぁ適当にコキ使ってそれを修行だと言い張ることにしよう。


そして翌日。俺達は『獣車ジュウシャ』でコミナ島へと向かうこととなった。


結局残りのメンバーは適当に選抜。

どうにも非戦闘員が多い構成になってしまったが、まぁ俺がいれば十分だろう。

前回の五錬邪の時のようなこともあるし…油断はできんがな。


そんな俺達を乗せた獣車は、気づけば陸地を離れ海上をひた走っていた。

獣車といえば陸の上を走るのが一般的だが、今回のやつは水陸両用。

客室を引く獣達の姿が船内からは見えないため、中型船にでも乗っているような気分だ。


本当なら甲板で風でも浴びたいところだが、まずガイドから色々と説明があるらしく船内に集められた。

まぁ生憎の悪天候で大荒れなので、そもそも風を浴びるどころじゃないんだがな。


「あ、皆様ァ~。本日は当車をご利用いただき~誠にありがとうございまァす。ワタクシはァ~『案内人』の『案奈アンナ』と~申しまァす。」


 全員が集まるのを待って話し始めたのは、ガイドらしい格好をした糸目の少女。常に笑顔で感情が読めず逆に怖い。

 勇者達よりはまだ大きいとはいえ、それでもどう見てもまだ少女であり、その点に違和感を覚えた盗子はあることに気付いた。


「あれぇ?もしかしてそのバッヂ…ウチの六号生のじゃない?」

「あ、ハイ~。本日はァ~学校サボッてバイト~でございまァす。」


 あの学校を堂々とサボれるあたり、その度胸は大したもの。さすがは新六号生といったところか。

 しかし、そんな案奈の向こう見ずな性格と“バイト”という単語に、盗子は一抹の不安を覚えた。


「ガイドがバイトってのもどうかと思うけど…別にいいのかな?あくまでガイドだし。」

「ま、やれるんなら問題ないんじゃないか?“資格が無い=できない”って考えるのは早計だろ。」


 意外にも寛容な勇者。

 その言葉を聞いて安心したように運転手が口を開いた。


「いやぁ~、そう言ってもらえると助かりますよ。私も無免なんで…」


 そうなると話は別だった。


「き、貴様…無免の分際で運転手を気取るとはいい度胸だ!ブッた斬る!!」

「ちょっ、駄目だよ勇者!確かに放ってはおけない状況だけど、いま斬っちゃったらもっと危険だから!」


 騒然とする車内。

 今にも胸倉を掴まんとばかりの勇者をなんとか抑えつける盗子に対し、運転手は必死に言い訳した。


「だ、大丈夫ですよ!できますって!お箸を持つ方が右ですよね!」

「そんなの運転以前の常識だから!」

「ま、まぁ運転なんて簡単ですよ。この獣車は右利き用なんでちょっと難儀しますけどね。」

「じゃあお箸は左じゃん!!」


 運転どうこうの前に人としてヤバい感じの運転手。こんな奴よりはまだ自分が運転した方がマシだと暴れる勇者と、それはそれで危険なので必死で止める賢二と盗子…。

 車内はもはや収集のつかない事態になりつつあった。


「あ、皆様ァ~。右手に見えますのがァ~…」

「ちょっと黙ってて!今は観光どころじゃないから!」


 この状況をも意に介さない肝の据わった案奈は、何事も無かったかのように案内を開始。

 しかしそれどころではないと制止する盗子。


「あ、じゃあ右手の『凶悪海竜』はァ無視する方向でェ~いっちゃいまァす。」

「わー!いっちゃわないでー!!」


 残念ながら無視していい存在じゃなかった。


「えっ、海竜が!?…あれ?右手のどこです…?」

「オイ運転手!テメェまで脇見してんじゃ…って、だからそっちは左だっつってんだろうが!」

「えェ~、この海竜はァ~筋肉兄弟のペットとしてこの海域周辺を~…」

「だからって冷静に説明しないでー!!」


 大混乱の車内。

 いくら無免許だろうが嵐だろうが、船が転覆するなんて普通はないはず…なのだが、この運転手はどう考えても普通じゃないので勇者は目を離せなかった。

 それを察した賢二は仕方なく、恐怖心をなんとか押し殺して海竜の相手を買って出ることに。


「と、とりあえず僕が先に行って、魔法でなんとか時間を稼いでくるよ!でもすぐ助けに来てよね!ねっ!?」

「な、な、なら私も行くさっ!雑魚一匹じゃ心もとないさ!(訳:賢二きゅんが心配だし)」

「そっか…なんかごめんね暗殺美さん…」

(はうわーー!!)


 賢二と暗殺美は甲板へと躍り出た。


 賢二は一瞬で食べられた。




「ど、どうする勇者!?賢二と暗殺美じゃそんなにもたないよ!?」

「わかってる!だがこの悪天候にこんな奴の運転じゃ、戦ってる間に転覆しかねんし…!」


 賢二の末路を知らない勇者達は、未だ船内でどうすべきか悩んでいた。


「ゆ、勇者君…」

「姫ちゃん…。大丈夫だ心配するな!俺に任せろ!」

「バナナはオヤツに入るのかなぁ?」

「悪いがその話は後だ!」


 姫のせいでさらに混乱が増す中、なにやら勇者の背後に謎の影が。


「ハッハッハ!案ずるな少年、運転はこの私に任せて行きたまえ!」


 勇者が振り返ると、そこにはどう見ても父にしか見えない、見覚えのある仮面の男が立っていた。


「おぉ、それは心強い…って、またついて来たのかよクソ親父!」

「なっ!?な、何を言う!私は謎のお助け仮面『父さん』だ!一瞬で見破るな!」


二年前にゴップリンの洞窟に現れた時と同じで、バレバレなくせに頑として正体は明かさないクソ親父。

しかし、親父は確か小型獣車の免許なら持っていたはず…。

このサイズの運転は初めてかもしれんが、要領は同じなはずなので少なくとも大事故は無いと考えてもいいだろう。


「よし、じゃあ行くぞ盗子!ついて来い!」

「う、うん!」


 勇者と盗子は甲板へと躍り出た。


 盗子は一瞬で食べられた。

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