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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
20/196

【020】三号生:怪盗ベビル

具体的な流れは伏せておくが、泉の精から三本の剣を頂戴した俺。

金と銀の攻撃力はイマイチわからん。まぁ使えんなら後で売り払えばいいだけのこと。


本来であれば話を元に戻し、姫ちゃんの望みを叶えるため全力でキコるべきなのかもしれないが、当の姫ちゃんが既にどうでも良さそうなので先に進もうと思う。


「というわけで、後は任せた賢二。俺はもうなんだか一仕事終えた気分なんだ。」

「いや、今の強奪が“仕事”の扱いなら『怪盗』を捕まえに行ける立場じゃないけどね?ほぼ“同業者”だからね?」


 賢二はもっともなツッコミを入れた。

 そして仕方なく、前言通りやる気の無さそうな勇者に代わり話を進めることに。


「でも、確かに気を取り直して進まなきゃだよね…僕がしっかりしなきゃ。栗子さん、敵の場所ってわかるかな?」


 急に話を振られた栗子は、当然のようにテンパりながらも例の謎仕様のコンパスを取り出し、アタフタしつつもなんとか答えた。


「は、ははははい!も、もうちょっと行った先の木陰にいたらいいですね!」

「いや、そんな願望っぽく言われても。」

「芋、食いたい。」

「ホントに願望を言われても!」


 やはり一癖ある一号生コンビ。振り回される賢二。

 そんな中、いつもなら賢二より先に突っ込むはずの盗子は、なぜか役目を果たさずただその光景をボーッと眺めていた。


「願望か…。アタシの願望を言うなら、今回の敵は…“この前”ほど強くなきゃいいなってことだね…」


 一度半殺しにされたせいか、どうやら盗子は群青錬邪との一戦がそれなりにトラウマになったらしい。

 これに関しては、盗子ほどではないにしろ苦戦を強いられた勇者もわからんではなかった。


「うむ。まぁ確かに五錬邪は強すぎたしな…。だがどうせ『怪盗』なんて腕っぷしは大したことないに違いない。片やこっちは七人もいるんだ、囲んじまえばやれるだろ?」

「そうだね…って、え?七人…?」


 一瞬納得しかけたが、何かが引っ掛かったような顔をしている盗子。

 そんな様子に勇者は若干苛立ちを覚えた。


「なに言ってんだ七人だろうが!俺、姫ちゃん、お前、賢二、芋っ子に栗っ子、そして……貴様がベビルか?」

「なぜわかった!?」


 ベビルが現れた。




知らぬ間にそばにいたのは、“犬”。いや、“犬っぽい何か”だった。


俺達と大差ないような背丈で、髪の生えた二足歩行の犬。つまり魔獣の類ということだろうか。

頭部には、中心に怪しげな眼のマークが入った謎の兜を被っており、背にはマントを羽織っているので首から下はイマイチ見えないが、やはりどう見ても犬だった。


その一見ぬいぐるみのような姿や甲高い声からして、どう考えても強そうな敵とは思えないのだが、手加減してやろうなんて気は毛頭無い。


「貴様がベビルだな?悪いが倒させてもらうぞ。恨むんならあんな悪の巣窟に忍び込んだ、愚かな自分を恨むがいい。」

「あ!なるほど、キミらはあの学校の子達だな?ベビルさんわかったぞ!わかっちゃったぞ!」


 なんだかそこはかとなくキャラがウザい。

 勇者はイライラしてきた。


「フン、貴様には返してもらわねばならん物があるんだ。大人しく返して死ぬか、盛大に中身をブチ撒けながら死ぬがいい!」

「ははーん?そうやって脅して泣かせようって作戦だな?でもベビルさん挫けないぞ!」


 ベビルは謎の構えをとった。

 だが勇者の読み通り、どう見ても強そうな感じではない。


「フッ、楽勝だな…そうだ、さっき手に入れた剣の試し斬りでも…」

「おっと、甘いよ?甘すぎぃ!この『拷問大全集』を舐めたら死んじゃうぞ!?」


<拷問大全集>

 様々な拷問器具が描かれた魔の絵本。

 本を手に名を呼べば、その器具を召喚することができる。


「うわっ!な…なんて本なんだ!」


 ベビルの右手には、漆黒の表紙に金色の文字、明らかに邪悪な雰囲気を纏った分厚い魔本が握られている。

 その姿を見て驚く勇者にベビルは気を良くした。


「ひっひっひ!ビビッた?ビビッた??」

「なんて趣味の悪いデザインなんだ!」

「そこにかよ!! …あっ!」


 なんと!盗子が本を盗んだ。


「アタシだってやれるときはやるんだよ!受け取って勇者ーー!!」

「フッ、でかした!盗子のくせに生意気な!」

「くぅ~、なんてこったい!でも…」


 魔本が奪われ一瞬狼狽したものの、肝心なことを思い出してすぐに持ち直すベビル。


「フフン!残念だったねー!その魔本は邪悪な者にしか開けな…」

「ふむ。なかなか難しそうな本だな。」

「開いとるぅーーーーー!!」


 勇者は『拷問大全集』を読んだ。

 そして使えそうな何かを見つけたようだ。


「さぁ死ねベビル!この俺が選びに選んだ、極悪の拷問を食らうがいい!」

「ま、待て!コイツがどうなってもいいの!?」

「ゆ、勇者~!ゴメンー!」


 なんと、盗子が人質に取られてしまった。

 ベビルも雑魚そうだが盗子も負けじと雑魚なのだ。


「構わん!死ねぇええええええええええ!!」

「なにぃいいいいいいい!?」

「やっぱりぃいいいいい!!」


 まさかの即答に驚くベビルと、そんな気はしていた盗子。

 対照的な二人に向かって勇者は一切のためらいもなく叫んだ。


「終わりの見えぬ絶望に溺れるがいい!現れよ、『悪夢の虜』!!」


<悪夢のエンドレス・ナイトメア

 世にも恐ろしい悪夢を見せ続けるという、枕を模した拷問器具。

 この拷問を受けた者は激しくうなされ、寝言で自白するという。

 ほのかにオッサンのニオイがする。


「おやすみベビル。」

「絶対イヤ!」

「そりゃそうだよ勇者!仮にも戦闘中だよ!?」


 本の性質上、残念ながら戦闘には向かないようだ。


「ま、考えてみりゃ拷問したいネタも無いしな。じゃあやっぱブッた斬るしか…」

「あ、あああのぉ~…!わ、わた、わわ私、思うんですが…」

「む?なんだ栗っ子、遠慮なく言ってみろ!いい度胸だ!」

「おお思わないですね…なにも…」


 栗子は何かを伝えたそうだったが勇者が心をヘシ折った。


「ったく、この子はいじめないでって言ったのに。今度やったら芋食うわよ?」

「いや、それただお前が食いたいだけだろ。さもお仕置きかのように言うなよ。」


 何を言いたいのかわからない栗子と、何を言っているのかわからない芋子。

 そんな二人にイラつく勇者と、一定の距離をとって傍観することに決めた賢二と盗子。

 そして、そんなドタバタな光景を眺めながら、邪魔していいものか悩む無駄に律儀なベビル。


「あのさぁ、そっち一段落するまでベビルさん寝ててもいいかなぁ?なんか疲れちゃった。」

「ん?あぁ、なんか悪いな。じゃあこれでも使うがいいさ。」

「あ~、ありがと。助かるよ。」


 勇者は『悪夢の虜』を手渡した。

 ベビルはうなされている。



結局そのままベビルは起きなかったため、森深くに置き去りにして帰ってきた。


どう見ても強そうな奴じゃなかったが、極秘書庫の式神が倒されていたという事実もある。

もしかしたら強い協力者がいたのかもしれん。

あの日に栗子が途中で何か言いかけていたのは、そのあたりを吐かせればいいんじゃないかという話だったらしい。


そういうことなら早く言えばいいんだ。




そしてそのまま、特に何もわからないまま月日は流れ…今日は卒業式。

そう、今年は数年ぶりに卒業生がいるらしいのだ。

しかも二人もだという。


一人は、盗子の兄である武史。

今年転校してきたばかりなので短い付き合いではあったが、それでも毎日盗子盗子とうるさい奴だった。

この手で始末できなかったのが残念ではあるが、いなくなってくれるならもうそれだけでいい。


そしてもう一人は『余一ヨイチ』とかいう奴で、なんと一号生から在籍する唯一の“オリジナル”らしい。

こんな地獄のような世界を六年も生き延びたくらいだ、きっと見るからに屈強な戦士なのだろう。


「…そう思っていたのだが、どうにも貧弱そうな奴じゃないか。」


 これから卒業式が行われる体育館で勇者が見たのは、どう見ても病人といった風体の少年。

 尋常じゃなく青ざめた顔色で眼の下には深く刻まれたクマが。何かの後遺症で頭髪が抜け落ちたような頭には包帯が巻かれ、口元からは血が滴っていた。

 パッと見、屈強どころか学校に来ていていい状態ですらない。


「どうしたキミ、何か用かな?僕は『余命一年之助ヨメイイチネンノスケ』…略して『余一』。職業は『闘癌士トウガンシ』だ。」

「よ、余命…?多分お前、両親訴えたら余裕で勝てるぞ?」


 勇者が名前を聞いただけで気圧されるという予想外の状況。

 一緒にいた盗子も何がなんだかわからなくなった。


「それにトウガンシって何さ?聞いたこと無い職業だけど…」

「主に『胃ガン』などと闘っている。」

「ただの病人じゃん!放っといても死にそうなのに卒業ってどんな奇跡!?」


 思わず大声で突っ込んでしまった盗子の声を聞きつけ、もう一人の主役である武史もやってきた。


「おぉ盗子、お兄ちゃんに会いに来てくれたのか!そうだよな、寂しいよなわかるぜ?せっかく会えたってのに俺は寮に入れられてたし、卒業したら島から出てけとか訳わかんねぇこと言われて…」


 相変わらずヤバいくらいにシスコンをこじらせている様子の武史。

 こっちもある意味病人だと言える。


「な、なんかゴメンね勇者…無視してね…」

「まぁ俺にも弓絵というストーカーがいるからわからんでもないが…血が繋がってるって時点で恐怖感のレベルが違うよな。」


 いつも冷たい勇者が、心なしか気を使った感じがするのが盗子は余計辛かった。

 そしてその状況にさらに追い討ちをかけたのは、諸悪の根源である兄だった。


「チッ…またテメェか勇者。事あるごとに盗子に付きまといやがって…ストーカーかよ?」

「オイ盗子、弁護士を手配してくれ。」

「ご、ゴメンね!なんかゴメンね勇者ほんっっとにゴメン!でもアタシはアタシで弁護士呼んだらアンタには勝てるよ多分?」



 そんな武史と余一を送り出す卒業式は、想像に反してつつがなく進行していったが、参加者の誰もが式次第に書かれているある一つの単語が気になっていた。


 その単語とは、“闘辞”。

 “答辞”の書き間違いだと思いたい反面、きっと戦闘になるんだろうなぁと誰もが感じていた。


 そしてやはり、実際そうだった。

 闘辞とは卒業生と在校生のガチンコバトルらしい。


「敵はわずか二人!しかも片方は生まれついての手負いだ!やれるぞ!」

「オォーーー!!」


 まだ三号生にも関わらず、なぜか勇者が在校生軍の指揮を執る感じに。

 それほどに今日の勇者は殺気立っていたのだ。


 だがしかし、生き残ろうという気持ちは卒業生の二人も負けてない。


「テメェらなんぞに負けられるかー!見るがいい、この俺の“武士道”を!」

「わー!マシンガン取り出したー!」

「病気なんかに負けられゲフッ!」

「うぎゃー!血ぃ吐いたー!!」



 その頃、体育館の舞台袖には校長と教師の姿が。

 普段どれだけ残虐なことでも涼しい顔を崩さない教師が、珍しく難しい顔をしていた。


「…校長、やはりベビルは単独犯だったようです。部屋から別の足跡が。」

「だろうな。例の部屋を護っていたのは、『怪盗』ごときが倒せる式神ではなかった…。恐らく同じタイミングで、“別の強者”が動いたのだろう。」

「では真の敵の目的は…」

「いずれ知れよう。我が学園校…この『カクリ島』の秘密を知る者、そう多くはない。」

「しばらくは…様子を見ます。」



結局、武史の粘りにより二人には逃げられてしまった。

俺もまだまだ甘いようだ。


もうじき春が来る。

そして俺は四号生になる。

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