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~勇者が行く~  作者: 創造主
第一部
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【002】入学

親父がRPG好きだっつーだけの理由で、『勇者』と名付けられた。

それ“職業”だよ!


だがまぁ悲観しても仕方ない。

こうなったら名前負けしないよう、強く生きてやることにする。

そして『勇者』として申し分の無い力を身に付け、いつの日か…『魔王』を倒してやるんだ。


なぜなら俺は、きっとそのために生まれてきたのだから…!


「そうか、もう時間か…」


 身支度を整えている息子を横目に、窓際で静かに煙草をふかすのは勇者の父。蒼い短髪に無精ヒゲ、額の右端から頬にかけて走る大きな傷が特徴的。

 そんな父が見つめる先には、額に入った写真があった。


「あれから四年も経つのか…。早いもので勇者ももう四歳、今日から学校だよ…母さん。」


 古びた写真の中では、どこか気の強そうな美しい女性が、にこやかに微笑んでいる。


「“真っ直ぐな子に育てたい”…それがお前の望みだったな。」


 困ったような表情で写真に語りかける父。

 するとその時、廊下から覗き込むように勇者が声をかけてきた。


「おい親父!入学式は九時からだが、わかってるな?もし来たら…ブッ殺す!!」


 勇者は真っ直ぐに育った(間違った方に)。



「あぁそうだ勇者、待ちなさい。そういえばお前に言っておくことがあるんだ。」


 靴を履き終え、まさに出発しようとしていた勇者を引き留め、父は神妙な面持ちで語り始めた。


「勇者よ。これからお前は外の世界に触れ、これまでとは違い多くの人々と関わる中で、これまで知らなかった多くの事を知ることになるだろう。だからその前に…他の誰でもなく、この父の口からお前に伝えておくべきことがある。」


 普段はほとんど真面目な話をしない父が見せた、珍しく真剣な表情。

 いつもなら当然のように無視する勇者だが、今回だけは仕方なく聞いてやることにした。


 しかし実は、何の話かは勇者にはもうわかっていたのだ。

 それは恐らく…“母親”のことであろうと。


 命名のインパクトのせいで生まれた瞬間の記憶こそあるものの、以降の記憶はさすがに曖昧な勇者。

 これまでは母について聞いても適当にはぐらかされてきたのだが、父の様子と先ほどの写真のくだりから考えると、その線が濃厚だと思われた。


「フン、皆まで言うなわかってる。もう…いないんだろ?」


 勇者がそう言うと父は一瞬目を見開き、苦笑いを浮かべた。


「…そうか、知ってたのか。そう…実はいないんだ、『魔王』。」


えっ、いないの!?


 勇者は自分の存在意義を見失った。




 朝っぱらから衝撃の事実を聞かされた勇者。

 しかし初日から遅刻するわけにもいかないので、なんとか気を取り直して家を飛び出し、通学路を急いだ。


 鉢金ハチガネのような兜で父譲りの蒼い髪を逆立て、鋭い目つきで風を切るその姿は、どう見ても『勇者』ではなく『ヒットマン』寄りの何か。

 見渡せば辺りには、勇者と同じような年頃の、新入生と思しき子ども達が目に入った。期待に胸を膨らませた笑顔ではしゃいでいる。


 だが、勇者の表情はそれとはまた違っていた。


「チッ、やれやれ面倒だな…」


そう…まったく面倒なことだが、俺は今日から学校に通うことになる。

その名も『学園校』…“学園”なのか“学校”なのかハッキリしない。


未来の優秀な戦士を育てるための専門的な学校らしいが、かなり厳しい教育方針らしく、良くない噂も絶えない。

それゆえ一抹の不安はあるものの…今のところは期待感の方が大きい。


『魔王』こそいないにしても、魔物の類は一応いると聞く。

それらを倒すべくいずれは大陸へと旅立つ俺としては、できればその学校で有能な仲間を何人か見つけたいのだ。


そして力を付け、こんな運命を適当な理由で背負わせた親父を…まず真っ先にブッた斬ってやる。


「む?見えたな、ここがそうか…」


この学校が…今日から俺が、“支配”する場所か。


 勇者は発想が『魔王』だ。




 学校に着き程なくして、そろそろ入学式が始まろうという頃。勇者はたまたま隣の席にいた少年と冒険談義に花を咲かせていた。


「…つーわけで、だ。『勇者』な俺は共に旅立つ仲間を探しにきたってわけさ。」

「へぇ、そうなんだー。じゃあその時は僕も…ダメかなぁ?」


 下がり眉毛で気弱そうな垂れ目の少年は、やや遠慮がちに尋ねた。


「む?ん~、それはお前の職業次第だな。」

「あっ、えっとね、僕は『賢者』になるのが夢なんだ!」


 少年の言う『賢者』とは、攻撃魔法を操る『魔法士』と回復魔法を操る『療法士リョウホウシ』の二つを究めた、言わば魔法のスペシャリストだ。

 正直、彼のひ弱そうな見た目からあまり期待はできないものの、『賢者』という単語に思わず勇者は昂った。


「おぉ賢者!是非とも欲しい面子だよ!あ、そういやお前…名前は?」


「『賢二』。」


 残念ながら“ゃ”が足りない。




 そして式は始まり…勇者達は、まず最初の洗礼を受けることとなる。


「では次は、校長先生のお話です。」


 司会のアナウンスを受けて登壇する校長。

 その姿を眺めつつ、賢二は小声で勇者に話しかけた。


「ねぇ勇者君、この学校ってどんな学校か知ってる?」

「ん?まぁ色々と噂は聞いてはいるが、とりあえず言えるのは…あの校長に逆らうのだけはやめとくか。」

「まぁ…間違いないね…」


 六本の角が生えた漆黒の兜を被り、同じく漆黒のマントから覗く高齢とは思えない筋骨隆々としたその肉体は、どう見ても『校長』ではなく『狂戦士バーサーカー』のそれだった。


「一体なんなんだあの無駄に滲み出てる邪悪なオーラは?並みの魔物なら逃げる、もしくは永久に忠誠を誓うぞ。」

「い、いや、でも人を見かけだけで判断するのは良くないよ。ちょっと見た目が怖いだけで、中身は普通かもしれないよ?」


 賢二は真面目な子だった。

 また、普段から見た目で弱者扱いされて悔しい思いをしてきた彼としては、見た目で安易に決め付けることに抵抗があったのだ。


「入学おめでとう。早速みなさんには…殺し合いをしてもらいます。」


 賢二は庇って損した。




入学式が終わり、少しの休み時間を経て教室に集まった俺達。

入り口には“一号A組”と書かれていた。この“一号生”というのが俺達の学年を指すらしい。


そして教卓の前には、怪しげな藍色のローブのフードを目深に被り、中性的な雰囲気を纏った長い銀髪の男が立っている。

恐らくコイツが担任なのだろう。


「みなさんはじめまして。私が担任の先生ですよ。名前は『凶死キョウシ』…字で書くと、こうですね。」


ふむ…親の神経を疑うあんまりな名前だが、その点に関しては俺も言えた義理じゃないので黙っておこう。

とりあえず、もしも“名は体をあらわす”という言葉が真実なら、この男はかなりヤバそう…というか、醸し出すオーラ的なものが校長と似てるので多分アウト。

フードのせいで目元がまったく見えないから余計に不気味だ。


「えー、みなさんはこれからの六年間、この『冒険科』で…」

「先生ー!冒険科って何ですかーー?」


 教師の言葉を遮って誰かが声をあげた。


「そうですねー、この学校には全部で三つの科がありまして、まぁ簡単に書くと…こんな感じなんですよ。」


 そう言いながら、黒板に説明を書き始める教師。


・村人科 ⇒ 「ここが○○村だよ」 ⇒ 看板レベルの人生

・駐屯科 ⇒ 末は兵士か役人 ⇒ パッとしない人生

・冒険科 ⇒戦って死ぬ


 夢も希望も無かった。



まぁ担任の言わんとすることもわからんでもない。

戦士として魔物どもと過酷な戦いを繰り広げるんだ、その最中に命を落とす者もいるだろう。


とはいえ、入学初日に…というか四歳児に突きつけるべき現実ではない。

入学式での校長の一言も影響してか、同級生どもはこの先の学校生活に不安を抱いてしまった様子。

さっきまではしゃいでいた奴らも一転、俯いて黙ってしまった。


だがしかし俺は違う。

なぜなら俺は、生れ落ちた時から『勇者』として生きていくことを宿命づけられた男だからだ。


先公はその後も“ではみなさん殺し合いを”とか校長みたくフザけたことをほざいてやがったが、そんなブラックジョークにまんまとビビってやるほど俺はヤワじゃない。

そんな物騒な学校があるわけ無いだろうが。


 そういえば賢二を見かけない。

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